32、小さな兵隊とフェチと呼び方
マリアが気を使ってくれたおかげで俺はタバコを一本吸ってから、声をかけたウェイターに外線通信のチップを払い、連絡をする。
とはいえ、連絡したところでいきなりアニエスに繋がるわけじゃないよな? 最初は屋敷の使用人が出るのだろうと高をくくる。
「もしもし……?」
『もしもし? 師匠ですか? 無事にサルーンに着いたんですね!』
ところが以外にも、最初に出たのはアニエスだった。つーか、意識してなかったけど、こいつってこんなにも声に華があるんだな?
第一声ですぐに誰かわかったぞ!? 聞けばアニエスの部屋に別で回線を直に契約しているらしい。お、お金持ちい……。
「ああ、今めしを食ったところだよ」
『そうなんですね。疲れてはいませんか?』
「ああ、ちょっと寝不足だが大丈夫……そんなことよりも、あれはどういうことだ!?」
『えっ』
「アニエスから貰ったSS級アーティファクト。あれから訳のわからないちっこいのが大量発生して大変だったんだぞ!?」
『あ、ああ……開いちゃったんですね。あれ……』
「ああ……勝手にな!?」
『……師匠、申し訳ございません。あれは師匠に渡すつもりだったSS級アーティファクトではないのです。実はまだこちらで調査中のアーティファクトでして……』
「えっ、そうなの!?」
『はい、外見が似ていてうっかり間違えました。ちゃんと魔力を見て判別すればよかった……』
「それなら、あれは何なんだ?」
『あれは子供のおもちゃです』
「はっ?」
『それでもってペットです』
「はっ?」
『そして育て方次第で兵隊……自分を絶対的君主にした軍隊が作れる、やり方次第では最恐SSS級アーティファクトになるポテンシャルのあるものになります!!』
「はっ、はああああああああああああああああああああああっっつ!?」
俺は、レストランということも忘れ絶叫した! おかげで、ウェイターに「お客様!」と窘められてしまった。す、すみません!! って今日、何度、謝ってんだ俺!!
「いやいやいやいやいや!? どういうこと!?」
『ほら、私たちもほぼ知らない超古代には神が生きていたとかいう謎多き時代があるじゃないですか? 実際その子孫の一部にエルフとか竜とかがいるわけで……どうやらその時代、子供の情操教育の一環として、子供にペットを育てる感覚で軍隊を育てるのが流行った時代があるようでして……』
「いったいどういう時代なんだよ!? ……いや、っていうか魔力を読めるとは言っていたが、いくらなんでもどうしてアニエスがそんなことまでわかるんだ??」
『実はそのSS級アーティファクト。珍しく製品の説明書が一部欠損はあるものの付随していたんです。そこでアレクサンダーの竜の『ネコさん』に頼んでその内容を読んで頂きました』
ああ、竜か!! なるほどね。竜はそんな使い方もできるのか。えっ、ベンリー。
「……で、読んでもらったらそんなトンチキなことが書いてあったていうのか?」
『はい。しかもシリーズは大好評につき、師匠が持つそちらは最もパワーアップしたシリーズ第四弾だったみたいです。製品名は『ねずみの兵隊さんシリーズ☆第四弾 誕生ミニパニぃーのたまご!!』です!』
「いやいやいやいや……とか何とか言って、軍隊とか……どうせおもちゃの兵隊を宣伝のために、それらしく誇張して言ってるだけだろう? いくらなんでも……」
『師匠あのアーティファクトはどう少なく見積もっても一万年はたっています』
「えっ」
『それなのに、正に『生きている生物アーティファクト』なんですよ?』
思わず背筋がゾクッとする。えっと……つまりあいつら一万歳を超えてるの?
『卵を開けた瞬間から誕生しているなら一万歳ではないと思いますが……それにしたってそれを誕生させる細胞については一万年の間。損壊もせず保存されていたということになります』
「でもそんな好戦的……な感じ……ではなかったと……」
いや、仲間同士で平和にケンカはしてたけど……。
『あくまで上手く育てればのお話です。もし上手く育てられなければ、かわりに泥棒、強盗、海賊、詐欺師、悪魔、ニート、花嫁、おじさん、羊、犬、お店屋さんになるみたいです!』
「ねえ、ごめん……ごめん。マジ一つも意味がわかんないんだけどソレ??」
『あ、すみません!! うっかり失念していました。シークレット版も存在するみたいですね……?』
「パターンの話じゃなくて……! いや……それもあるのか!? その、アニエスの見立ては結局どっちなんだ……?」
『……』
き、急に黙るの止めて……!! お前の無言は心臓に悪いぃ!!!
『可能性が『兵器』と『おもちゃ』を指すのなら……両方』
……マジかよ。
『というか、未知数? あまりに魔脈が複雑に絡みすぎて私の目視があまり意味をなさないんです。……修業不足でお役に立てずに申し訳ありません』
いや、まずそんなことできるのこの世でお前だけだしね!? 修業ってそもそもどうするの!?
『それから、『ミニパニぃー』は最初に見た人物の本質的性質とそれと同時に、その人物の望む『理想』が反映され、受け継がれるみたいですね?』
「うん? じゃああいつらは誰を……」
『おそらく私……かなあ?……じーっとのぞき見されていたので、うっかり一度開けてしまいました』
「というか内側から開け閉め自由なの??」
『その前に私が卵本体に、ありとあらゆる実験を施したので、たぶんそれで弛んだのではないかなと?』
一万年耐え抜いた殻を弛ませるって君はいったい何をやったんだい??
「じゃあこんな特級の危険物は、帰ったらさっそくお前に返すよ」
『承知致しました。本当の引っ越し祝いもその時にお渡ししますね? あ、それからもうひとつ。師匠まさかその子たちに餌付けなんてしていませんよね?』
「………………………………え、なんで??」
『餌付けをした瞬間からその子たちの『マスター』になると説明書にはあったんです。だから、私は何も与えずにすぐに卵に戻しました!』
「は、ははははははははっ!」
『…………………………』
だからお前の無言は怖いんだってば!!!!
「……すみません。大量発生して捕まえるために、食べ物あたえちゃいましたごめんなさい」
『…………う、ううーーーーーんっ』
あ、あのアニエスが頭を抱えているだと……っ!?
『……それなら、もうマスターはお師匠様ですね……。覚悟を決めて育てるしか道はありません……』
「ええええええええっ!!?」
『だって、そのまま放置したらどうなるかわからない特級危険物ですよ!』
た、確かに!!
『……もともとは私に非があるので、もちろんどんなサポートも惜しみません。ですが、メインで育てるのはお師匠様にしていただくほかないです。なぜなら、あの子たちはマスターがくれたものしか食べないそうなので……』
「そ、そうなの!?」
『もともと子供が育てられるように食事の回数はそれほど必要ないみたいですが……、訴えてくるようなら何か与えてください。あと、時々遊んであげるように心掛けてください』
「うっわ、わかった……」
こ、これはまたえらいことになったのでは……?
「はあっ、じゃあ電話も長くなったし、俺はそろそろ……」
その時、俺の肩をトントンと叩く者がいた。
「……ジオルグお兄ちゃん、まだかかりそう?」
「いや、もう大体済んだけど……」
「そう? じゃあ先にお姉ちゃんと外で待ってるね? ジオルグお兄ちゃん!」
「ああっ」
『…………ジオルグお兄ちゃん?』
ぎっく、や、やばい……!!
『……師匠いま女の子と一緒で、しかも『お兄ちゃん』って呼ばれてるんですね?』
「い、いや、これには訳が……」
『……先生?』
は!? お前ふだんそんな風に俺を呼ばないだろう!? どうしたいきなり!!
『ジオルグ先生は『お兄ちゃん』と『先生』どっちが呼ばれてうれしいですか?』
あのな!! ………………どちらにもそれぞれ魅力と趣があり甲乙つけ難いな……ってそうじゃない!!
『何を想像しているの? 先生のエッチ!』
おい止めろ!! 『先生』と『エッチ』をセットにすると錬金術が発生し破壊力が増すだろっ!?
…………ちなみに個人的意見だが『お兄ちゃん』の場合『ばかあ!』がセットになると破壊力が増さないか?
「おい、誰がエッチだ!?」
『先生、人の耳を舐めて噛むんだもん……すごくえっち』
…………ああっ、なるほど、ここでそのネタが生きるのか。……うわあ勉強になるなぁ。
急に『エッチ(えっち)』という言葉の解像度が一気にアップしたぞ? ……天才なのかお前??
『それじゃあ先生、帰ってきたら……いっぱい、いいこと……しようね?』
「……はっ!!?」
『それじゃあ気を付けてね! バイバーイ!』
回線がぷつんと切れツーツーツーという音だけ残す。
ぐっ遊ばれている……こんないい大人が……でも、でも全然いやじゃない!!
むしろ正直テンションが上がっています!! くそっ、くそっ……!!
……こうして俺はいじられていると解りながら、チョロくも帰るのが今から楽しみになっているのであった。
【おまけ話】
「お嬢様お茶が入りました。お話は無事に済みましたか?」
コーラがアニエスの執務室に入ると、アニエスはマホガニー製のタイヤ付きひじ掛け椅子の上で三角座りをしてうつむいて凹んでいた。
「お嬢様??」
「…………」
「どうして膨れているんですか? 喧嘩でもしましたか?」
「ううん、してない……」
「じゃあどうしてそんなご機嫌斜めなんです??」
「……コーラ。妹と弟子ならどっちが可愛い?」
「はっ?」
「妹と弟子ならどっちが可愛い?」
「はっ?」
「やっぱり……妹みたいな人は最強かなあ……」
コーラはアニエスがするその質問に困惑を見せたが、ここは落ち込む主人のため、何としても実のある返事をすべきだろう。
幸いにも、コーラにもそれなりの人生経験がある。
コーラは優しく聖母の微笑みで、アニエスの肩に手をそっと置いて答えた。
「…………お嬢様。殿方というのはぶっちゃけ若ければどっちでもいいと思っているものでございますよ?」
「………………」
だが、コーラはちょっと人生経験を積みすぎている感があったのだった。 完。




