21、【過去】三人の修業と取り巻く環境は…… ※挿絵あり
ぴょーんぴょーん。
「お嬢様、本当にお師匠に話さなくてよろしいのですか?」
ぴょーんびよーん。
「うん、二人も話しちゃ絶対にダメだからね!」
ぴょーんぴょーん。
「俺たちは話さなくても別にいいけど……アニエス、これをうまく説明できるの?」
ぴょーんぴょーんびょーんぴょーん。
「それは……そうだけど……」
ただ今、九歳のアニエスの頭には百花繚乱。言葉の通りありとあらゆる花が四方八方に咲き乱れていた……。
「ううう、帽子被っちゃダメですか……?」
「お医者様が日に当てないと治らないとおっしゃってましたしね」
「それにしても、……エルフって本当にいろんなあらゆる奇病にかかるんだね?」
アニエスはため息をついた。
「魔力が無いんじゃエルフの血が流れててもちっともいいことない!」
「けど、エルフは『廃ダンジョン』だけじゃなくて、ちゃんと今も生きてる『ダンジョン』にも入れるんでしょう? 『ダンジョン』だったらそれこそアーティファクトを始めいろんなお宝が沢山あるし、強い魔物にも会えるじゃん! アニエスがクォーター・エルフだと知ったら、師匠が俺たちをダンジョンにも連れて行ってくれるんじゃない?」
「『ダンジョン』にクォーター・エルフが入れるって保証はないよ。混ぜ物だって弾き飛ばされるかも……」
「らしくもなく、ずいぶん弱気なんだねアニエス?」
「看板ばっかりがすごく立派で、それなのに実質が全く伴ってなくてがっかりされる事には、いい加減うんざりなんだもん! とにかく師匠に私にエルフの血が入っている事は内緒にしててね!?」
エースは肩をすくめ、アレクサンダーはただ頷いた。
アニエスはため息をついて自分に生えた花を頭から手繰り寄せた。……花壇に生えれば自慢にもなるが頭に生えたその姿は……。
「……わ、我ながら間抜けすぎる!!」
ぶちっ。
「あ、取れた」
「!」
ぶちちっ。
「あ、本当ですね」
「!?」
頭の花を二人に抜かれ、あわわっとアニエスは慌てる。
「ま、まって待って!! もしかすると毛根……いや、脳に直接、影響があるかもしれないから!? まだ引っこ抜かないで!!」
「……もう、新しいのが生えてるのに?」
「へっ……!?」
アニエスはガクッとうな垂れた。
「佳人、麗人、美人、並上、並、並下、醜女、人七化三、人三化七、夕日の下の鬼瓦(※照り返しで目がつぶれる)……と、残酷にも古人は容貌をランク付けしたそうだけど……。エルフはその中でも最上位の『佳人』と言われているのに、どう贔屓目に見ても、今の私は人七化三、人三化七ではないでしょうか?? やはり伝説は美化されて然るべきということか……」
「今日はまた本当に落ちてるね。ネガティブはよくないよ? よしよし。病気は脳にまで来るなあ」
「はっ? お嬢様は病気でなくても脳に来てますよ? 何を言っているんですかエース??」
「ひどすぎる!!」
三人はがそうやって雑談し、とぼとぼ歩き向かう先には、三人を見つけて手を振る人がいた。
「おう! 時間五分前だな。ちゃんとこの間言ったことを覚えてたんだな。偉いぞお前ら!!」
いたのは今から数年前の若き日のジオルグ。髪は伸びているが、無精ひげは整え、割かし小ぎれいにしている。
アニエスはその姿を見てささっと二人の後ろに隠れた。
「「おはようございます。師匠!!」」
「おはようさん。 って、アニエス、挨拶はどうした!? 基本だろう!!」
アニエスはそう言われ、おずおずと前に出てくる。
「お、おはようございます。師匠」
「………」
やはりというか、もちろんジオルグはアニエスの頭を凝視している。
「あ、し、師匠。これはふざけてるんじゃなくて最近ちょっと子供に流行っている症状でさ……」
「領地の幼年学校でも気をつけましょうって、お便りが配られているんですよ? 師匠は大人だから知らないのかもしれませんが……」
「あの、でも、その、この二人には抗体があるのでうつらないそうで……私も体が元気なので今日は来ました。……だ、だめでしょうか?」
三人は言っていてかなり無理があるよな……と思いつつ、唾を飲み込み師匠の反応を待った。
「そうか、大変なんだなー子どもって……」
(((……信じた!!)))
「じゃあアニエスは体が無理そうだったら遠慮なく言うんだぞ?」
「はい!」
ジオルグが細かい(?)ことを詮索する性格でなくてよかったと、三人は胸をなでおろした。
今日も本格的な武術の修業を三人がつけてもらう中。
ジオルグはアニエスに言った。
「アニエス笑えるか?」
アニエスは訳がわからなかったが、言われた通りにかっと笑って見せる。
いったい何なのだろうか? と思いながら。
けれど、その後とくにジオルグからは反応もなくその場はしーんとしている。
(一体何なの!?)
アニエスはますます意味がわからない。
武術が終わり、三人はジオルグから、算数数学、国語、地理、宗教哲学、天文学、気象学、地学、力学、電磁気学、量子力学、統計力学、熱力学、古代語などを学ぶ。
実のところ、ジオルグは幼年から高等までの学校教諭の資格を有しており……アニエスたちを弟子にしてアニエスの母ディアナから、それ相応以上の過分な授業料を受け取っている。
アニエスたちを弟子にするとき、錬金術師の多くが万年金欠であるという弱点をアニエスに鋭く突かれ、金銭に関しても言いくるめられる形で、結局、三人を弟子にしてしまったのだが…………とはいえ、ジオルグは自分が親ならこんな得体の知れない錬金術師……しかも野蛮なことや、危険なこともかなりさせている相手に、お金を出そうなどとは絶対に思わない。
けれど、ディアナは毎月毎月、きちっと三人分の基本授業料と修業や鍛錬の月謝。
プラスして超過時間分……出かけた際にはその宿泊経費、食費生活費全般、備品教材費、病院代をジオルグの分まで全額余剰有りで支払ってくれる。
この好待遇には、もともと真面目な性格のジオルグは青くなり適当には出来ないと、ディアナに授業の予定や行先、連絡先を小まめに報せることにした。
変更がある際にはそのつど手紙を送り、どんなことを今回は教えて三人がどういうことを学んで出来るようになったのかの様子を、丁寧な図画解説つきで連絡帳で報告する。
武術だけでなく、こういった座学や演習をするのも長期間勉強もせずに、武術やサバイバルばかりさせることに、ジオルグ自身がものすごく後ろめたさを感じたからだ。
しかし、これがかなり良かったりする……。
もともと研究職のジオルグに教師役というのは肌に合っていて、ジオルグ本人のいい気分転換にもなったし、アニエスの母ディアナのますますの信頼を獲得することになり、授業料がさらに跳ね上がったうえ、臨時ボーナスまで頂くようになったのだ。
こうしてディアナのジオルグへの信頼は相当ぶ厚いヘビー級なものになっていた。
「それにしてもアニエスは本当に理数系得意だな。解答が速いうえに満点だ」
「ふふーんっんっ?」
鼻息荒くドヤ顔するアニエス。
「……調子乗んなよお前?」
「師匠、俺もできてるよ?」
「僕もできてます!」
「おう、全員、ゆうしゅう。大変優秀!!」
「師匠の教え方もお話もすっごく面白いんだもん! 師匠は仕事に困ったらコメディアンになれば、かなりイケると思いますよ?」
「………最初の弟子にする課題の際に、バーのステージ上で大受けに受けて大の大人に腹抱えさせてスッ転ばせた奴にだけは言われたくない……」
「うん、ですから自信もっていいんですよ? ジオルグ君!」
「調子乗んなよお前? (二度目)」
それにしても……とジオルグは思う。
(……やっぱりこいつ。この間と歯の生えてるところと抜けてるところが、全然、違っている……)
しかも、この間なかったところに生えたと思ったら、また抜けて再度、歯が生えているのだ。
ジオルグがアニエスに最初に笑えと言ったのもそれを確認するためである。
(親の態度といい、『魔力無し』以外にもいろいろ事情がありそうなんだよな…………? 魔力の高い人物は総じて年を取りにくいが、この間チラッと会ったこいつの母親の若さときたら……あれは度を越して異常過ぎる。……あと滅茶苦茶ハイパーミラクル美しかった!! やべーよっ!! なんだあれ!? …………って今はそれは置いといてっと!)
ジオルグはアニエスの顔を見て、花の生えた頭を見て、再度、視線を顔に戻す。
(……修道院でも改造された人間やマッチョな獣人たちと暮らして、いろいろと苦労と事情があるのを見てきたし、言いたくないこともあるからな? こいつが自分から言うまでは黙っとくか……)
そう思い。ジオルグはそれ以上の詮索は控えた。やはり細かいこと(?)を詮索しないのは彼の性格らしい。
「師匠! 早く手合わせしましょう。早く早く!!」
「わかったから、早くその課題やっちゃえ」
「あ、じゃあ僕は終わったんで最初です」
「じゃあ、次は俺だね師匠!」
「はッ!?」
余裕で二人に先を越され、アニエスは慌ててせかせかと課題を解いていく。
こうして今日も平和に、修業の時間は過ぎていくのであった。
アニエス12~13歳頃
~こぼれ話1 ロナ家の教育~
アニエスの母ディアナは絶滅危惧種エルフを嫁にするような大冒険家で侯爵の父に、かなり荒っぽい冒険にも連れていかれた子供時代を歩んでいるため、三人の修業に関しても『まあ、でも子どもってそう育てるのが一般的だものね?』とひどく勘違いしていることも大きい。
また三人の教育方針については過去のやらかし(※姑と一緒に息子を勝手にさる帝国の次期皇帝として養子に出す。なおそれまでに子供八人幼くして死亡し、その後に生まれた超溺愛していた息子)からアニエス父はディアナに一任しているため、ディアナに教育の発言・決定権がある。
~こぼれ話2 エルフ歯科~
エルフの歯は幼いころの短い期間に歯が何度も生え変わり、それを繰り返すことで最終的に雪のように白い陶器のように滑らかで綺麗な歯が完璧な大きさと配列で生え揃う。
歯は丈夫でどんな酸にも負けない強さをもつ。唾液も通常の人間とは違い菌の繁殖を相当抑えてくれる。
また、抜けたとしてもまた生えてくるし歯ぐきはキレイな桜色だ。
一生、 歯列矯正&インプラント知らずである。




