16、【昔話】無自覚な鬼才
「おう、ジオルグ!! 貴様を今日という今日こそ地面に這いつくばらせてやるぜ!?」
そう言い、近所の不良を束ねる今年十三歳のガキ大将が仲間十五人くらい引き連れ、外のお気に入りの場所でコソコソ静かに読書に勤しむオレに絡んできた。
……うんっ、こっちは荒っぽいことなんて全く好きでも何でもないのに、なんでこう毎度絡んでくるんだろう? いい加減にしてほしいんだけど?
「あー、オレ、今日中にこれ読んじゃいたいから、また今度にしようよ? ね?」
一応提案してみる。しかし……。
「ああ? ふざけんな! ……それで逃げられると思ってんのか!!?」
はは……くそー、やっぱダメかー。
帰ったら弟の面倒を見なきゃならないのに……この本読むの、今日はこの時間くらいしかチャンス無いのに!
「おぅ、ゴチャゴチャ言うのはこれくらいにして、じゃあ、そろそろ……行くぜ!?」
そう言い、卑怯にも一気に全員でオレに飛びかかってくるんだよな。
うーん、改めてそれってどうなんだよ?
仮にも自分より年下の丸腰の子にすることではないような……。
「うあああああああああああああああっっっ!!」
オレは大切な本を絶対に汚したくないから、とっさに真上に向かって高く高くほうり投げた。あとさ…………。
「ああああああああああああああああっっっ!!!」
なんでいつもそんな、止まってるみたいに動きが遅いんだよ?
こんなに動きが遅かったら、大人数でいっきに襲い掛かってくる意味がないと思うんだよな〜。
まず最初に一人目をゆっくり倒しても、次の一人の手すら届いてないから、ソイツもじっくりと相手をすることが出来るし、三人、四人目とかになると、いっそ面倒くさくて手と足を使って一度になぎ倒す。
で、その後も次々来るのは解っているわけだから、今度は先にこっちから行っとく。だってさっき投げた本が落ちてきちゃうからな?
相手の出す腕や脚はぱっと見れば解るから、その攻撃が無効化するように軸足や殴ってくる方の肩を先にサササッと攻撃。バランスを崩したところを一気に効率よくやっとく。
そうすると新大陸のコーン菓子みたいにぽぽーんと相手は弾けて何処かに飛んでいった。
なんか無抵抗とほぼ一緒で何の張り合いもないんだよ……。
こんなのきっと五歳児だって余裕で倒せるぞ??
あ、よしよしよし、空中に飛ばした本が丁度、俺の手元に戻ってきた! 落ちて来る辺りでオレは手のひらをぱっと開くと、ポスッときれいに本は手の中に収まる。
そして、さっきオレに絡んでいたやつは突っ伏してヒクヒクと痙攣を起こしているのが、毎度お決まりのパターン。
本当、何でこれほど弱いのに喧嘩なんかするんだ?
絶対に損しかしないだろ、こんなの!?
「あーあ、なんで絡んでくるのは喧嘩が好きな野郎ばっかりなんだよぉ……!」
一度でいいから、この人数の女の子を相手にきゃーきゃー言われてみたい。キャーすてき~〜! みたいなさ……やっぱり本ばっか読んでる奴はモテないのか?
あれか、スポーツでもやればモテる!?
……うーん、いやいや、アホくさっ!
なんでわざわざ汗かかなきゃなんないんだ?
そもそも体を動かすのそんなに好きじゃないんだよなぁ……オレ。
どっちかというと、脳みそを働かせる方が向いているんだと思うよ?
勉強好きだし、苦じゃないし……もうすぐ自分が入れられる修道院ってとこなら、不良もほとんどいないだろうし、毎日好きなだけ勉強できるかな??
よし、そうしたらその知識を生かして、魔力が無くても十分に稼げる仕事に将来、就こう!!
で、いずれはかわいいお嫁さんをもらって、子どもは三人くらいで、小さな家で静かな余生を過ごすんだ!
うん……我ながらなんて枯れた子供なのかと思うよ。
けど希望は小さい方が叶いやすいって、オレはすでに知っているんだ。
さすがにこれくらいの夢は叶うんじゃないだろうか??
って、ああ、やべっ、そろそろ家に帰んなきゃ! 名ばかりの貴族は十分な使用人なんていないんだから、手伝いをしなきゃいけないんだよ!!
本当、弟が可愛いのだけが唯一の救いだよ……! 弟よオレは一生、お前の味方だからな!!
オレは本を脇に抱えて上り坂をゆっくりと歩く。
それで、この周辺の故郷の姿を毎日この目に焼き付けた。
……さようならと思いながら……九歳の今のオレの記憶が大人になっても残っていることを願いながら……。
そう、ちょっと感傷的になる。
そして、オレはあと数日は家と呼んでいいあの場所へと、まっすぐ脇目も振らずに帰るのであった。
弟よ……。




