13、引っ越しと新しい生活② エロスと買い物
野郎三人で引っ越しのお買い物。
普通そこは彼女と乳繰り合いながら、キャッキャッうふふと行きたいところだが、現在さみしい独り身。誰かが買い物に付き合ってくれるだけでありがたく。贅沢は言えないだろう。
だが、この二人といる限り女っ気とは無縁になる……ことはまず無いらしいことが判明した。
「わあ、ねえ、見て見てーーーー!!」
「きゃあ!! すっごいいいいい」
道を行けば、もれなく全女子が振り返り、いやむしろ男でさえ一部振り返るのだから……さらにもれなく熱視線を送ってくる。
「あ、あの、こちら新製品の試供品となります! サービスしておきますね?」
「あ、あのこれ売れ残りなので良ければ持って行ってください!!」
「い、今からこちらはんが……いえ七割引きになります!!」
あの、皆さんそれ商売として大丈夫? 後で上司に怒られない? 一応こっちも一度お断りを入れるが、いいから、いいから! とぐいぐいと押し切ってくる。
「なんかすごい荷物になっちゃったな」
「一度、置いてきますか……」
なので、大して金も使ってないのに三人の両腕はすでに抱えきれない荷物でいっぱいだ。
「え、いっつもこんななの君たち……?」
「え、さすがに値段の決まった百貨店とかデパートではないよな?」
「あとは、通販や……、学校や屋敷に外商が来る感じですからね。個人店には普段あまり出向きません」
はい、ムカつく答えしか返ってきませんでした……!! お金持ち御用達の百貨店と外商でしか普段こいつら買い物しないんですってよ奥さん!? むきーっ!!
つーわけで、一度荷物を置いて、また、出てくることになった。
「あとは、ノートとかカレンダー。インクでしたっけ師匠?」
「そうだけど……つーか今更だけどさ、おまえらこんなに自由に出歩けるもんなの?」
「いや、まあ今日は学校休みだし……」
「そうじゃなくてさ……」
「ああ、ちょっと待ってね……『どっか遠くに行っちゃおうかなあ』」
エースがそうボソリとつぶやくといきなりエースの影がゆらりと波打ちバババッと腕のようなものが伸びてきてガシガシッとエースの身体自体をがんじがらめにした。
「うわあ!? なんだそれ!!」
「いわゆる呪いってやつ? うちの学校の教授が今日俺たちが寮出る前に掛けたんだけど、これがあるから早々逃げ出せないようになってるんだ……。エールロードの教授陣ヤバい人ばっかだし」
「まあ、この術ももって二日みたいですけどね……」
「ちなみに、言ったことが冗談でも十五分は動けないからねこれ?」
「大変だな……おい」
「まあ、人に監視されるよりはだいぶ気安いけどね」
「それに、顔でも隠していない限り、僕たちの足取りなんて簡単に追えると思いますよ?」
た、確かに……どこでも超、注目の的だからなこいつら……。
「なんかめちゃくちゃ息が詰まりそうだな……」
俺は思わずつぶやいた。
「本当だよ。たまに普通の人間に生まれてればって思うよ」
それにエースもどこか遠い目でぼそりと言う。
こいつら……そうだよな。良いことだけじゃなく悪いことも注目を浴びやすいから、言動一つ細心の注意を払わないといけない。
いつも見られるというのは、いつも監視されるのと同じことじゃないか?
「……結果。俺は責任放棄したあんまりいい師匠じゃなかったが、何か俺に出来ることがあればすぐに言えよ。俺が何とかしてやる!!」
なら、そんなこいつらの悪いところ、生意気なところを引き受ける大人が必要なんじゃないだろうか?
それに、エースはふっと笑った。
「師匠なら、そう言うかな……って思ったよ。というわけでさっそくなんだけどさ?」
ん?
「じつは師匠に、あの店で……買い物してきてほしんだよね?」
「!! あ、あの店は!?」
「ほら、俺たちだとあんまりにも目立つから……」
「お前な……どこの世界に師匠にエロ本買いにパシらせるやつがいるんだよ!?」
「なんだよ! ついさっき俺に出来ることなら何とかするって言ったじゃん!!」
「いや、確かに……」
「……因みに、学校の先輩から聞いた裏情報なんだけど、魔法で声と動きが付いたものもあるらしい……」
「なん……だと……!?」
「しかも、声は好みに……なんなら、知り合いの声とかにも変換できるらしい」
何……だと……!!?
「……わかった。因みに好みの傾向は?」
「僕はそうですねぇ……」
「お前もかーい!!」
「あ! それなんだけどさ……」
そう言い、エースがごそごそとポケットから、丸い目玉そっくりのおもちゃのようなものを取り出した。
「これ、俺が作ったオーバーテクノロジーの産物アーティファクトの『模造品』……なんだけど、この目玉が見たものは俺たちが持ってるもう一つの目玉に映像を送ってくれるから、これで色々と商品を映してよ。因みに音声も届くからさ!」
うん、お前が本日最初から俺をパシリにするつもりだったのがよくわかった!!
「おい!!」
「まあまあ、師匠の分もこっちで全部お金出すからさ?」
「……しょうがねーなー! 今回だけだからな!?」
我ながら現金すぎるぞ自分! しかし、やっぱエロには勝てん!!
……俺は言われた通り店内へと入り、中を物色することとなった。
女優、歌手、ダンサー、吸血鬼もの、人魚、看護婦、タイプライター、メイド、冒険者、若奥さん、熟女、少女、シスター、カウガール、ビキニアーマー、コルセット、獣人、奴隷、古典、拷問。……さすがは風俗街。恐ろしい品揃えだ……。
『やっぱ基本は制服系か?』
『シスターとかがいい』
「なんか、チョイスがこなれてるぞお前ら……?」
『あ、師匠その栗色の髪の子、可愛いほしい!』
『待てエース! ……その子ちょっと可愛すぎて怪しくないか? 中身は別人の可能性も……』
『確かに言われてみれば……!』
コイツらうるせー!! 因みに中は確認できないようしっかり紐でくくっているので、全て表紙で判断しないといけないスタイルになっている……。
「えーと……これとあれと……あーもー、……で」
「……お客さん」
「で……うん、え、こっち……ああ」
「お客さん」
「ほう……で、うーん」
「お客さん!!」
「うわ! はい!」
「さっきから、一人でブツブツ何やってんの? まさか薬をしているとかじゃないだろうね……?」
「ち、ち、ち、違いますよ!?」
エースとアレクサンダーがうるさいせいでまさかのジャンキー扱いだ!? 俺は何とか弁明し、どうにか無罪放免になった。というか、ここで捕まったら末代まで笑われてしまうわ!!
「いや~~~~~~~~!! こんなに買ってくれるとは、さっきはすみませんでしたね!」
「いえ……あ、あともう一つ欲しいものがあるんですが……」
「ん?」
……かくして、俺は弟子二人にパシられた……が、その件に関しては二人を不問に処すことにする。……これが大人の余裕ってやつだよ。ん? なんか文句あるか??
「あああ、疲れた! ったく、あそこの店の親父。魔法かかった本について言ったら、すごい熱量で説明してきたぞ!? 最新版とか紹介してくるし……でも、まあ、うん、……良い店だった」
「師匠が今日ばかりは馬鹿力で良かったと思うよ」
「つうか、この量。どこにしまうんだよ!? ちゃんと持ち帰れよ」
「いきなり全部持ち帰るのは難しいから、少し置かせてよ。あ、さっき言ったやつには手を出さないでね!?」
「く……! あれは俺が見つけた秘蔵本なのに!!」
「いや、お金出したのこっちだから?」
そんな風に両手袋いっぱいに本を持ち、どかどかと二階の自分の部屋へとあがる。そして、鍵を開けようとする……が……。
「あれ? 開いてる……」
「さっき、かけ忘れたんじゃないんですか? 不用心な!」
「いや、そんなはず……」
そう言い、中に入った瞬間。鍵が開いていた理由がわかった。
ベッドにいる、おそらくそいつが鍵が開いていた原因。
ベッドに居たのは、眠れる森の……アニエスだった。
そこは、まるで切り取られた聖域のように空気が澄んでいる。
身体を丸くし、すーすーっと小さな薄桃色の唇から寝息を立てて……可愛いく細く白い両手をきゅっと握り、まぶたの端に並んだ日差し色の長い睫毛に、男どもは惚れ惚れと思わず見とれていた。
「どうしてこんなところで寝ているんですか? お嬢様、起きてください!」
だが、アレクサンダーはそんな侵しがたい聖域にも怯まず、アニエスを起こしにかかる。
するとアニエスはうーんと抵抗しながらも、それに反応した。少しもぞもぞと動き、やがてゆっくりと身を起こす。
「んーーーーーーーーーーっ!」
まるで無垢なる天使の目覚め、ただ伸びをするだけで恐ろしく尊いって、いったいどうなってるんだ!? 周りにキラキラと光が集まっているぞ!!
……身じろぎするその姿と、虚ろな眼差し、後れ毛がやたらと色っぽいな、おい。
「アニエスいつの間に来たの? というか、こんな危険な地区を一人で歩かせたくないんだけど……!」
「お嬢様、おっしゃてくださればお迎えに上がりましたのに」
「……だって、仕事がいつ区切りがつくかわからなかったから……みんな遅かったね? どこまで買い物に出ていたの?」
アニエスが寝ぼけながら聞いてくる。いや、……どこってそれはその……。
「えーと、それはだな……」
「……ん? ああーーーっっ!!」
やば気付かれた!? 俺が反射的に隠そうとするより先に、アニエスがガバッと一冊をかすめ取る。そして、パラパラと中身を確認しだした。あわわ……ヤバい!!
「……これは何なんです? いけませんね……」
「いや、ちが、これはその、あの、アレで……!?」
俺はめちゃめちゃ焦った! ……そして、アニエスがゆっくりと本を下へと下げた。
「……没収です!!」
ごめんなさいいいいいい!!
ってあれ? めっちゃ笑顔だし……何というか……つやつやワクワクしている様な……。
「ふむふむ、まったく、けしからんですな……うんうん!」
「いや、そう言いながら、めっちゃ食い入るように見てるよ貴方!?」
「……あ! どなたかハサミを持っていませんか??」
袋綴じだけは勘弁してください。アニエスさん!!
かくして、俺の新居に元愛弟子三人全員が揃うこととなったのであった……。
【おまけ話】
アニエスが手合わせから、ハイ・ライフポーションを取りに一旦竜の亜空間よりジオルグの部屋に戻っていた。
目的のアイテムを手に取り、さあ、戻ろうとしたその時。アニエスは先程の本の山からふと、一部気になるものを発見する。
(? なんだろう。本に変なスイッチみたいなものがある)
アニエスは思わずそれをカチカチと押してみるが、別に特にこれといって何の反応もない。
「何なんだろうコレ? 何か意味があるのかな?? 本のベルトの留め具……ではないみたいだし、うーん、えい、えい、えい!! ……やっぱりわかんないや……」
その時だ、謎の寒気が背筋に走る。
(……あと、気のせいかしら? なんだか……さっきから誰かにジーッと見られているような……?)
その時である。スイッチの上の位置に魔法の文字が浮かび上がった。
「え、何これ? 『登録完了イタシマシタ。存分二オ楽シミクダサイ!』 え、なになに何!? こ、怖い怖い! 私、なんか変なことしちゃったの!?」
アニエスはビクビクしながら、そろりとその本を手に取り、胸に抱いてキョロキョロと辺りを見渡す。
「……とりあえず、ココに隠しておいて……それで見つかった時に怒られよう。……ごめんなさい師匠」
その場でぺこりと頭を下げたアニエスは家具の奥にその本を隠して、その本が誰にも見つからないようにしてしまった。
「……これで、しばらくは持つかな?」
アニエスは本がパッと見、全然わかりそうに無いのを確認し、こくこくと頷く。
「よし、早く戻らないと!」
そして、それが後にとんでも無い時限爆弾となり、ひと騒動を巻き起こすということを……アニエスはこの時はまだ知る由もなかったのであった……。




