誰も泣かない世界をつくるよ
待ち合わせの小さな公園に卓也は少し遅れてやってきた。
「ごめん、待たせた?」
「待ってはいないけど、なんで唇の中心が黒いの?」
「コーヒー牛乳飲みながらタバコを吸ってたんだよ。で、資料の送付書をマジックで書いていて」
「もうオチは理解したわ」
「ごめん…」
「こんな大切な日に…」
「…シンナーで洗えば落ちるかも」
「どこで買うつもり?」
「ヤクザからかな…」
「パパはわたしがバカと結婚すると思うわね」
「でも!」
「でも?」
「キミを幸せにできるのは僕だけだよ」
「わかってる。さ、バス停に行くよ」
卓也に向かって手を差し出す智絵里。
智絵里の手をしっかりと握る卓也。
歩きだした智絵里がとびっきりの笑顔で振り返って訊いた。
「で、くわえようとしたのはどっちなの?」
(おわり)