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悪役令嬢の逆行転生(悪役令嬢の悪足掻きの続編)

作者: 下菊みこと

悪役令嬢の逆行転生

はっと目が覚める。目の前には実家の私の部屋のベッドの天蓋。…どうして私、自分の部屋にいるのかしら。私、確か…塔から、身を投げて…。ああ、私の身体から魔力が抜け切っている。私、魔力を使って生き延びたのかしら。なんて醜い生存本能かしら。もう、クリスがいないのだから生きていても仕方がないのに。…いや、でも。だとしてもどうして実家にいるの。離縁でもされて家に突き返された?でも、それならもっと早く捨てられているはずよね?


「お嬢様、おはようございます。あら、顔色が悪いわ、どうしました?何か悪い夢でも見ましたか?」


…死んだばあやがいる。ここは、もしかして天国?じゃあ、もしかしてクリスがいるかもしれない!


「ばあや!ばあや!ずっと会いたかったわ!ねぇばあや、ここは天国?私の可愛いクリスは!?クリスもここにいるの!?」


「あらまあ、お嬢様。悪い夢をみたのですね。そんなに取り乱さなくても大丈夫ですよ。ここは天国ではなく、ブローニュ家です。クリス様という方は、私は存じませんねぇ」


…夢?今までのは全部、悪い夢?私はウィリアム殿下にも捨てられていなくて、クリスは元からいなかったの?


ーいいえ。いいえ、それはないわ。あんなに長くて恐ろしい、リアルな夢があってたまるものですか。


では、今の状況は?魔力が枯渇していることを考えれば、あの夢は予知夢。あるいは。


…私の時間が、巻き戻ったか。


普通、あり得ないことだけど。魅了魔法なんて御伽噺の中の魔法があったのだもの。何かの力が働いて、時間が巻き戻ることもあるかもしれない。そう、例えば。クリスの無念、とか。


「…そうね、悪い夢を見ていたみたい。落ち着いたわ。ありがとう、ばあや」


「それはようございました。ですがまだ顔色が悪いですねぇ。もしかして、魔力を使い過ぎてしまわれましたか?」


「ええ、そうみたい。しばらくは魔力欠乏症になってしまうでしょうから、お医者様を呼んでくれる?」


「まあまあ、よほど恐ろしい夢だったのですねぇ。お可哀想なお嬢様。すぐにお医者様をお呼びしますからね」


ばあやを体良く追い出すと、考えに耽る。この後起きる不幸は絶対に回避しなければならない。ばあやの見た目を見るに、おそらく私は十六歳頃。もうウィリアム殿下と恋仲であり、婚約者になっている頃。では、一番手っ取り早い方法は?…ウィリアム殿下との婚約破棄。でも、それはだめ。それではいけない。だって、それでは私の愛しいクリスを取り戻せない。クリスを取り戻すには、あの日あの時、ウィリアム殿下と契りを交わす他ない。ではこのまま何もせず同じ人生を繰り返す?それもだめ。遅かれ早かれクリスを奪われるのは目に見えている。ではどうしましょう。…あの泉の乙女の忌々しい魅了魔法を、なんとかするしかない。幸い、私にはこの記憶がある。まだ泉の乙女が現れるまで二年あるし、私の魔力も一年で全回復する。うん。間に合う。間に合わせてみせるわ。


それから私は、王太子妃教育を辞めた。もちろんただで辞められるわけはないので、王太子妃としての教養があるかテストしてもらった。結果は完璧だった。それはそうだ。前の人生では本来王妃がやるべき仕事を泉の乙女に押し付けられていたのだから。


そして、ウィリアム殿下との接触も最低限まで控えた。ウィリアム殿下に使う時間が惜しかったのもある。でも、一番の理由は…私が、ウィリアム殿下を愛していたから。愛していたからこそ、ウィリアム殿下の仕打ちが許せなかった。愛していたからこそ、ウィリアム殿下の心変わりが許せなかった。愛していたからこそ、ウィリアム殿下が憎くて憎くて仕方がなかった。愛していたからこそ、ウィリアム殿下との時間が…苦痛だった。


そして、時間を作った私がしたこと。それは、泉の乙女と魅了魔法について調べることだった。


ー…


一年かけて調べた結果、成果はまずまずだった。まずは民間伝承である泉の乙女と魅了魔法。これは、泉の乙女はこの国に祝福を与え、内乱や戦争を未然に防ぐというもの。魅了魔法は、その名の通り人々を魅了する古代魔法。どちらも失われた奇跡と呼ばれている。では実態はどうか。泉の乙女は、魅了魔法を使って国内外のたくさんの人々を魅了する。そして、人々の心を操り、あたかも祝福を与えているように見せかけるのだ。内乱や戦争が起きないのも、この魅了魔法のおかげ。泉の乙女のいる国には、魅了された人間は誰も攻め込んで来ないのだ。そして、調べてきた中での一番の成果。それは、魅了魔法封じの結界と、魅了魔法封じの腕輪の作り方。なんて便利なものが出てきてくれたのだろう。


まず、魅了魔法封じの結界。その名の通り魅了魔法を封じる結界を、ある一定の範囲内に張るというもの。ただこれは、正直私の力だけではどうしようもなさそうだ。泉の乙女の魅了魔法は国内外に届くほどの力。例え一瞬だとしても、私の魔力だけでは抑えきれないだろう。


では魅了魔法封じの腕輪はどうか。これはその名の通り、腕輪をはめた相手の魅了魔法を封じるもので、腕輪なら何を使っても作れる。例えば、絶対外れない呪いの腕輪を使えば、二度と外れない魅了魔法封じの腕輪の完成だ。これは全回復した私の魔力だけでも作れる。


とりあえず作戦を立てる。まずは泉の乙女が現れる前になんらかの方法で超強力な魅了魔法封じの結界を張る。多分これは、僅かな時間稼ぎにしかならない。そして、僅かな時間を稼いだら素早く泉の乙女の動きを抑え、魅了魔法封じの腕輪をはめる。うん、これしかない。


で、問題になるのは、魅了魔法封じの結界を張る方法と、泉の乙女の動きを抑える方法。うーん、うーん、と唸っていると、隣にいたウィリアム殿下が声をかけてきた。


「アビー、どうした?」


「ウィリアム殿下…いえ、なんでもありませんわ」


「無理をするな、何かあったんだろう?少しは余を頼れ。お前は最近、なんだかとても危なっかしいのだ。何があった。何でも言ってみよ。余が何でも解決してやるから…」


「ふざけないで!」


気がついたら、叫んでいた。危なっかしい?そりゃあ貴方のせいで危ない橋を渡っているのだもの!何があった?絶望する未来を見てきたのよ!余がなんでも解決してやる?貴方のせいで私は、私は!


「…アビー」


殿下は私を優しく抱きしめ包み込む。


「余がなにかしてしまったのはわかった。どうか、余に話してくれ。包み隠さず、全部。お前は少し、一人で抱え込み過ぎたのだ。大丈夫、余がいる。大丈夫だから」


いつになく優しい、私に寄り添うような声。


「殿下…私…」


「よい。話せ」


私は結局、ウィリアム殿下に全てを話しました。殿下は途中から顔色が悪くなり、最終的には可哀想なくらい顔面蒼白になっていました。そしてふるふると震え、余が、余が、アビーとその子にそのような振る舞いを…と、可哀想なくらい…なんというのでしょう。後悔とは違いますし…怯えて?いました。別に、そこまで思い詰めなくても、今のウィリアム殿下がした事ではないのに、と思った瞬間、はっとしました。


ーいけない。赦してはいけない。この人が、クリスを私から奪ったのだから。


「アビー」


「はい」


「すまなかった」


「…」


「赦せとは言わぬ。言えぬ。だが、どうか今だけ懺悔させてくれ、すまぬ、すまなかった、すまぬ…」


「…」


その後殿下の懺悔は二時間に渡り続きました。ですが懺悔されればされるほどに、心のどこかが冷えて、冷えて、冷えていくのがわかりました。そして、懺悔を終えた殿下は。


「ああ、愛しいアビー。余は喜んで協力しよう。その泉の乙女を封じ、捕らえ、断罪するのも。お前を王太子妃として迎え、クリスを取り戻すのも。ああ、だからどうか、許してはくれぬか。赦せとは言わぬ。受け入れてくれとも言わぬ。ただ、一緒に居て欲しい。そして時折でいい。以前のような笑顔を見せて欲しいのだ。過ぎた願いだろうか…」


ええ、そうですわね。


「…いいえ、ウィリアム殿下がそう望むのでしたらいくらでも」


「アビー…」


ウィリアム殿下は、何か言いたそうな表情でしたがそれ以上は何も言いませんでした。そして、一時間後、ようやく言葉を発せられました。


「…それで、泉の乙女断罪作戦だが」


「はい」


「魅了魔法封じの結界は余の近衛魔術師団全員にかけさせ、泉の乙女の捕獲は余の近衛騎士団の中でも指折りの者達に行わせよう。魅了魔法封じの腕輪はお前が嵌めてやると良い」


「はい、有り難き幸せですわ」


「魅了魔法封じの腕輪は腕輪なら何を使ってもいいのだろう?お前の望みの腕輪を用意しよう。魔力はお前が注げばいい」


「ではー」


ー…


あれからまた一年が経った。今日、泉の乙女が現れる。魅了魔法封じの結界は張った。魅了魔法封じの腕輪も用意した。あとは、捕らえるだけ。お願い、上手くいって!


予定通り、宮殿の中庭の小さな泉が突然光だし、魔法みたいに夢みたいな光景が広がりました。そう、ヒロイン、泉の乙女リュシエンヌの登場でした。ですが結界は軋んだものの、魅了魔法は抑え込めました。そしてウィリアム殿下の近衛騎士団の皆様が騒ぐリュシエンヌを捕らえ、私が魅了魔法封じの腕輪をその腕にはめました。


「…こうしてみるとあっけないものですわね」


「そうだな…」


「ちょっと!離しなさいよ!私は泉の乙女、リュシエンヌ・ルテルよ!この国に祝福を与え、内乱や戦争を未然に防ぐ!聖女なのよ!」


「ふん。忌々しい偽者の聖女め。よく聞け、貴様の魅了魔法はもう封じられた」


「え!?」


「今、余の最も愛する者が貴様の腕に嵌めたのは魅了魔法封じの腕輪。貴様はもう魅了魔法は使えない」


「なっ…」


「おまけに、その腕輪は絶対外れない呪いの腕輪。そして、それを嵌めた者は徐々に衰弱していく」


「そんな!?」


「貴様は余を誑かし、国内外の平和と秩序を乱そうとした罪で牢獄行きとする!城内の地下牢の中でしっかりと反省し、後悔しながら死んでいくといい」


「ちょっと待ってよ!そんなっ…話と違うじゃない!この世界でなら私っ…幸せになれるって…!だから、私は…っ!」


「どうでもいいのですけれど」


私は一歩一歩前に出て、泉の乙女、リュシエンヌの前に出る。


「ーざまぁみろ、ですわ」


あぁああああああ!と聞き苦しい叫びを背に、私はその場を後にしました。


その後、リュシエンヌは呪いの言葉を吐きながら醜く死んでいったそうですわ。


そして私と殿下は、前回と同じ日取りに結婚しました。披露宴はそれはもう賑わいましたわ。優しい清らかな、聖女のようなお方と民衆は私を讃えましたわ。…今更何を、と思ってしまうのは、どうかお許しくださいませ。


そして初夜。随分と優しく、壊れ物を扱うような調子で抱かれましたわ。


そして、私はその一回で身籠りましたわ。国王陛下も王妃陛下も喜んでくださいましたわ。ウィリアム殿下はどうしてだか泣いていました。そして私は。


「戻ってきてくれたのね、クリス…っ!」


私も、涙が止まらなくて、泣いて、泣いて、泣きじゃくりましたわ。


そして、前回ではもう既に亡くなっていたはずのばあやに大切に守られながら、殿下にお一人で公務をこなしていただき、大事に大事に子を育み、出産しましたわ。


子供は天使の双子でしたわ。天使の双子というのは、王家に双子が生まれた場合与えられる称号。天から遣わされた国家安寧の使者という意味ですわ。私は天使の双子に、男の子にはクリスティアン、女の子にはクリスティーヌと名付けましたわ。


「ああ、愛しいクリス…っ!愛していますわ!」


「アビー…」


「ウィリアム殿下…」


「クリス達を、抱いてもいいだろうか…?」


「…ええ、この子達のお父様ですもの。どうぞ」


壊れ物を扱うように、優しく優しく双子を抱きしめる殿下。


「すまぬ、すまなかった…っ!愛している、愛しているぞ、余の愛し子よ!」


きらきらと。綺麗な涙を流すウィリアム殿下。そして、その腕の中で笑う我が子達。その光景を見て、ようやく。ようやく、心の氷が溶けて消えるのを感じました。


「ウィリアム殿下」


「っ。…ああ」


「赦しますわ」


「…え」


「貴方様を赦せない、ウィリアム殿下…リアム様自身を許しますわ」


「…っ!なら、なら、余も赦そう。お前自身を赦せない、アビー…いや、そうだな。イル自身を赦そう」


「リアム様…」


「イル…」


「あぶー」


「きゃっきゃっ」


私、今初めて、本当の意味でリアムを愛せた気がしますわ。


「愛しています」


「余も、愛している」


こうして私は、幸せになりましたわ。


ー…


そして今は、三男五女の母ですの。みんな仲良くて、幸せな家族ですわ。政治も概ね安定していて、いい統治が出来ていると思いますの。


リアム、ありがとう。貴方があの時、私を信じてくれたから、今があるんですのよ。


愛する人に囲まれて、穏やかに暮らす。これ以上の幸福は、ありませんわ。

そうしてみんな、幸せになりました


リクエストありがとうございました!どうしても一直線に素直なハッピーエンドにするのが難しいと思いましたが、逆行転生という素敵なアイディアのおかげでどうにか幸せにしてあげられました!本当にありがとうございました!

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