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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第九十八話 プレオープン

 武器防具屋オープンを明日に控えた日曜日の午後、たくさんの人が小屋の中に集まっていた。


 つい三日ほど前のことだが、オープン前に従業員だけで店でゆっくり買い物がしたいと誰かが言い出したのだ。

 俺はもうあまり日がないから無理だと言ったんだが、いつの間にか日曜日にプレオープンすることに決まっていた。

 なんだかみんな盛り上がっていたので俺はなにも言えなくなり、結局日曜十三時~十四時に店を開けることになった。


 そしてなぜかせっかくなら関係者にも見てもらおうということになり、町の鍛冶屋、武器屋、防具屋、道具屋、肉屋、八百屋、宿屋、小料理屋などから従業員の家族たちを呼ぶことになったんだ。


 決して俺が主導してるわけじゃないからな?

 俺がこんな面倒なことやるわけがない。

 新しい店を見るだけかと思いきや、その前に小屋の中で食事会をすることもいつの間にか決定してたんだ。


 そんなわけで今小屋の中には従業員だけじゃなくその関係者もいる。

 全部で四十人くらいいるんじゃないか?

 半分は見覚えがある顔だがもう半分は全く知らない顔だ。

 さっきから小さい子供が小屋の中を走り回ってる。


 昨日の時点で参加人数は見当がついていたので、馬車を一台増やしてメタリンとウェルダンにそれぞれ二往復してもらうことになった。


 テーブルには食堂、カフェ、ラーメン屋のメニューが次々並べられている。

 だが提供が追いつかないくらいの勢いでなくなっていっている。

 今日の料理提供は全てララとユウナとカトレアの三人で行っているから追いつかなくても仕方がない。

 みんなが手伝うと言っても従業員は休みだからとララが断固拒否した。

 今日は普段からよく働いてくれてる従業員たちへの感謝の日だからと言われ誰もなにも言えなくなったのだ。


 一方、俺はずっと挨拶攻めにあっている。

 社交辞令とはいえ親たちも大変だな。

 俺みたいな生意気な子供に気を遣わないといけないんだから。


 リョウカとハナの親に会うのは初めてだった。

 普段宿屋や小料理屋に行くことはないから当然かもしれないが。

 マルセールには宿屋も飲食店も多いからこういう機会でもない限りまず知り合うことはないだろうな。


 意外だったのは従業員全員が参加してるということだ。

 ハナやエルルなんかは参加しないんだろうなと思ってたけど、昨日二人は楽しそうに今日のことを話していたのだ。

 ここで働きだして一か月と少し経つが馴染んでくれてるようなので良かった。

 アンはああいう性格だから誰のところにでもお構いなしでいくからな。


「もう少しブラックオークのドロップ率上げてくれないか? それとブルブル牛もどうにかならないかな?」


「バナナとイチゴも採集できるようにしてくれよ! 頼むよ! アンが持って帰ってきたものを食べたがあれは美味すぎるぞ!」


「ポーションやエーテルを直接卸してくれないか? 無理か? それなら新しく別の薬草を作るとかはどうだ?」


「……」


 ミーノ、モモ、メロさん、ヤックが申し訳なさそうに遠巻きに俺を見ている。

 きっと普段から言われ続けてるんだろうな。


「なぁ、ミスリルもっと貰ってもいいか? いいよな? 今から鉱山行っていいか?」


「あのインゴットに加工する魔道具いいよね! カトレアちゃんに頼んでくれないかな?」


「このカレーうめぇぇ!」


 この二人は相変わらずだがお兄さんこんな人だったっけ?

 声聞いたの初めてかも。

 鍛冶屋からは他にも何人か職人さんが来てるようだ。

 一応ライバルが店を出すわけだから偵察にでも来たのかもしれないな。

 それともアイリスとエルルの仕事ぶりが気になって見に来たのか。


「ウチの嫁さんまでお世話になってて申し訳ないな。あいつらは迷惑かけてないか? 最近ウチでもずっとなにか作ってるしさ。で、商品は大丈夫そうなのか? 数が足りてないんだったらこっそりウチから回すかい?」


「これがパンケーキか。ハンバーガーってやつも美味いな」


 防具屋のおじさんは心配で仕方がないだろうな。

 ここの防具が売れるかは自分の身内二人にかかってるんだからな。

 それにしてもフランにもお兄さんがいたのか。


「小僧、品揃えはどうなんだ? 杖はないんだろ? ホルンやフランはちゃんとやれてるのか? ゲルマンのやつ最近ミスリルがどうたらこうたら言ってたがまさかここでミスリルの武器を売るつもりなのか? それよりもう腹いっぱいだから早く店に案内しろ!」


「父さん、静かにして。ほら、兄さんが睨んでるよ」


「ラーメンてこんなに美味いのか。今度からここに食べにこようかな」


 そうだ、武器屋と防具屋は親戚なんだった。

 防具屋のおじさんがお兄さんなのか。

 というかホルンにもお兄さんがいたのか?

 なんだかフランのお兄さんと似てる。


 とにかくみんな楽しんでくれてるようでなにより。

 というか日曜に自分の店を閉めてていいのか?

 冒険者たちが買い物できないじゃないか……。

 

 うるさいからそろそろ店に入ってもらうか。

 今日は特別に指輪なしでも入れるようにしてある。


「みなさんお待たせしました。武器と防具を販売する店舗へご案内します。この会場は開けておきますのでまた後でご利用いただいても結構です。店内は飲食禁止ですのでご了承ください。ではこちらへ」


 俺は小屋の外へ出て店がある地下へ繋がる階段を下りていく。

 後ろにはずらーっと人が続いている。

 俺のすぐ横ではゲルマンさんと武器屋の親父さんが先頭を競ってるようだ……。


「こちらが入り口です。店内で走ったり武器を振り回すのはご遠慮ください。いつもなら安全なように配慮してますが、今日はプレオープンなのでなにも制限をつけていませんので。では順番にゆっくりどうぞ」


「「「「おお!」」」」


 店のドアが開くとこれだけ注意したにも関わらず急いで中へ入っていく人ばかりだ。

 慌てなくても誰にもなにも取られないのに。

 ここは武器防具屋なんだからきっとみなさんが必要とするものは置いてないですよ?

 冒険者向けの店なんだからな。

 というかここはダンジョンなんだからな。


「うぉっ! 広い!」


「町の武器屋や防具屋とは大違いだな!」


「うるせぇ!」


「ねぇあのコート凄い良さそうじゃない!?」


「おい!? あれはミスリルじゃねーのか!? あの剣絶対ミスリルだ!」


「防具って聞いてたけど普段使いの服としても全然大丈夫そうね!」


「おい、爪なんてのがあるぞ? ウチではそんなの作ってないよな?」


「ねぇあの奥なに? 女性専用って書いてあるけど……」


「試着室もこんなにあるのか。……うぉっ! あそこにウサギがいるぞ!」


「女性専用ってこういうことなのね! これなら若い女の子たちも嬉しいんじゃないかしら?」

 

 新しい店ってだけでテンションが上がってるようだな。

 それにしても早速ミスリルに目をつけたか。

 近くにいかなくてもわかるなんてさすが鍛冶師だな。


 それと女性専用コーナーのことは俺も最近知ったばかりなんだ。

 女性用の試着室のことかと思ってたら、どうやらその女性用の試着室の奥側に女性用のインナーを販売するコーナーができていたのだ。

 防具の下に着るインナー各種ね。

 このコーナーは女性陣みんなで話し合って作ったらしい。

 男性が試着室より一ミリでもこっちに来ようものならウサギに撃退されるって言ってた。


「ふむ、武器も防具もなかなかの品揃えだな」


「ミスリルをあんなに置くとは……ここは初級者向けのダンジョンじゃなかったのか?」


「ふん、アイリスとエルルが作ってるんだからミスリルくらい置いて当然だ」


「なんだと!? ならウチの店にもミスリル製の武器を卸さんか!?」


「うるさい! ワシだってミスリルを打ちたいに決まってるだろ!」


「なにっ!? なら小僧に頼まんか!」


「バカ野郎! ここの鉱石はそんな簡単に持ち出していいようなものじゃないのはお前もわかってるだろ!?」


「ぐぬっ……それはわかってるが……ワシも武器屋として店にミスリル置きたいんだよ。売れなくても置くだけでいいんだ」


「……まぁ気持ちはわかる。展示用としてなら打ってやらんこともない」


「本当か!? 絶対だぞ!?」


「ワシは嘘はつかん! でも絶対に売るなよ!?」


「あぁ! そんな簡単には売らん!」


「ダメです」


「「なっ!?」」


 お爺さん二人の争いが目に余ったので一言釘をさすことにした。


「ゲルマンさん、いくら売り物にはしないといえど武器屋に置くとなると約束が違うんじゃないですか?」


「そうだが……でも……置かせてやるのもダメか?」


「みなさんの修行のためのミスリルじゃなかったんですか?」


「そう……だけど、あの……もう少し貰ったらダメか?」

 

 そもそもミスリルはこのダンジョンだけで使うようにしたほうがいいって言ったのはゲルマンさんなのに。

 でも鍛冶師や武器屋としては目の前にいい素材があるのに使いたくならないわけがないよな。

 今だってミスリルの剣の前には町の鍛冶師が三~四人いてなにか話し合っている。

 アイリスもいるようだな。


「なぁロイス、ウチでも作りたいんだが……」


「小僧、ウチにも置きたいんだ……」


 全く、困ったお爺さんたちだな。

 息子たちもさすがにちょっと引いてるぞ?


「ロイス君、量は制限するからどうかな?」


「ロイス君、どうか頼むよ……」


 引いてたんじゃなくてあなたたちもそっち側でしたか。

 そこまで言われたらさすがに断れないだろ……


「ちょっと! さっきから聞いてればみんな自分のことばっかり! 少しはロイスさんを見習いなさいよ! ロイスさんはねー、冒険者たちのためにミスリルを置くことにしたんだからね! ミスリル製の武器や防具を買うことが冒険者たちの目標の一つになればいいと思ってるんだからね! みんなみたいにただ自分が打ちたいだけや利益や店の格のためなんかじゃないんだからね! わかってるの!?」


「「「「……」」」」


 みんなビックリしてるな。


「わかったのね!? なら許してあげる! 私からロイスさんに頼んで少しだけ譲ってもらえるようにするからそれで我慢して! ロイスさん! 少しだけ譲ってあげてもいいですか?」


「あぁ、もちろんだ」


「ありがとうございます! ロイスさんが優しくて良かったねみんな!」


「「「「……」」」」


 うん?

 やはり子供に言われるとへこむものなのか?


 エルルは満足気な様子で、隣にいたハナといっしょに防具売り場のほうへ行った。


「……ロイス君、エルルが元気だ」


「……あぁ、あんなに楽しそうな表情は見たことないな」


 普段は黙々と仕事をしているから一見おとなしそうに見えるけど、ハナやアンと話してるときはあんな感じだからな。

 アイリスが言うには家でも基本静かな感じだが、アイリスと二人でいるときはさっきのように元気に話すらしい。

 だからこそ家族が来る今日のプレオープンには面倒がって来ないかと思ったんだからな。

 きっとウチで働くことを決めた日にもさっきのようにおじさんに強く言ったんだろうな……。


「えぇ、仕事の休憩中などはいつもあのようにみんなと仲良くやってますよ」


「……そうか。ならここへやって正解だったのかもしれんな。ところでミスリルの件だが……」


 結局ミスリルかよ……。


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