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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第九十七話 オープン間近

 十一月下旬、周辺の森は紅葉が見られることもなく緑に染まっている。

 一日の来場客数が百八十人を超える日も増えてきて、従業員は朝から夜まで大忙しだ。

 そんな中、俺は武器防具屋のバックヤードの休憩スペースでソファに座り、ホットカフェラテを飲んでいる。


「タグのテストは完了と見ていいんだな?」


「……はい、フランちゃんとホルンちゃんが付け間違えをしない限りなにも問題はありません」


「うむ、ご苦労」


「……これで全部終わりましたね」


 向かいのソファにはカトレアが座っており、テーブルの上にはタグ発行魔道具が置かれている。


 この魔道具で発行するタグは販売タグ、販売商品タグ、試着タグ、試着商品タグの四種類だ。

 その四種類の中でさらにサイズごとに数種類存在している。

 販売タグを発行すると同時に販売商品タグも発行され、試着タグを発行すると同時に試着商品タグが発行される仕組みだ。


 店に並べられる防具はそれぞれ見本用の一品のみで、その防具の脇には販売タグと試着タグがサイズごとに置かれている。

 

 販売タグをレジカウンターに持っていき、販売魔道具の上に置くと、販売タグと紐付けられた販売商品タグが付いている商品が転送されてくる。

 試着タグは試着室へ持っていき、試着魔道具の上に置けば、試着タグと紐付けられた試着商品タグが付いている商品が転送されてくる。


 販売商品タグは包装の上に取り付けられており、販売魔道具での支払いが完了するとタグが外れるようになっている。

 試着商品タグは防具に直接取り付けられており、試着が終わり再度試着魔道具の上に置くと今度は最初に置いた試着タグが転送されてくる仕組みだ。


 これらの全てのタグ情報はダンジョンコアの持つ情報一覧にて管理されている。

 だが今までのように水晶玉からしか見れないのではなく、新たにカトレアが作り出した商品管理魔道具からも見ることができる。

 しかもこの商品管理魔道具、販売魔道具やタグ発行魔道具と連動しているだけじゃなく、この魔道具からタグ発行魔道具を操作することができるのだ。


 商品管理魔道具で商品名やサイズの入力をしてからタグ発行を選ぶことで、タグ発行魔道具からはその情報が印字されたタグが発行される。

 タグを見ただけでどの商品のタグかわかりやすくなるし、商品管理魔道具上でもタグ情報の一括管理ができて二度手間にならない。


 これはダンジョンコアの管理下だからこそできることで、魔道具があるだけじゃとても実現できないみたいなことをカトレアはよく言ってる。

 俺にはその内容は理解できても実現する仕組みについてはさっぱり理解できない。

 だから深く考えるのはとっくにやめている。


「しばらくはゆっくり休んでくれ。四月までは魔力を溜めたいから新しくなにかすることもないと思う」


「……はい、私はその間に勉強します」


「勉強? なんの?」


「……」


 まだ勉強をするだなんてカトレアの向上心は本当に凄いな。

 俺なんか自分はなにもしないで全部カトレア任せだっていうのに。


「できたぁぁぁぁぁー!」


「「!?」」


 近くのテーブルで作業してたフランが突然大きな声を出した。


「なにができたんだ?」


「なにって防具に決まってるでしょ! 目標にしてた数がようやく完成したの!」


「おお!? ということは開店できるのか?」


「商品は揃ったわ! あとは大樹のマーク入れと包装とタグ管理と店の商品配置をどうするかね!」


「そうか! 思ったより早かったな!」


「途中ママに手伝ってもらったからね……。でも仕上げは全部私だからね!? ママは私の注文通りに準備してくれただけだからね!?」


「あぁわかってるよ。全部フランの作品だ」


 あれは確か十月の終わり、フランといっしょにフランのお母さんがやってきた。

 フランがお願いしたわけじゃなく、最初はおばさんが自分の作った防具もダンジョンで売ってほしいとフランにお願いしたみたいだ。

 フランは拒否したそうだが、じゃあせめて少しでも作業に関わらせてと言われたらしく渋々連れてくることになったそうだ。

 俺からすればそのまま従業員になってくれても構わなかったんだが、フランがどうしても嫌がったので、二週間だけのお手伝いということで朝から夜までフランの補佐としてダンジョンで働いてもらったのだ。


 おばさんの作業を見たが、裁縫の腕はフランよりも上だと思う。

 ちゃっかり自分の作品を俺に見せてきたが、防具のデザインなどのアイデアや色使いに関しては俺はフランのほうが好きだったな。

 お手伝い最終日にはここの素材を少し持って帰ったから今頃家で自分の作品を作ってることだろう。

 自分の店で売りたいのかもしれないが、それは固く禁じてるのでおそらくまた売込みに来るんだろうなぁとは思ってる。


「ロイス君、あのね、オープンの日が決まったらすぐに教えてってママが言ってたの。たぶんまた手伝いに来る気だよ……」


「いいじゃないか。また一週間くらい来てもらおう」


「ええ!? 来てもらったとしても一日だけにしようよ!」


「しばらくは裾直しとかで忙しいかもしれないだろ? なんでそんなに嫌がるんだよ?」


「だってぇ~……恥ずかしいよ。ここは従業員もお客さんも若い人ばかりだし。そんなところにママがいたら目立つし、声も大きいしね」


「そんなこと思うか? 冒険者たちからしたらおばさんみたいな人がいると気分的に落ち着くと思うけどな。なぁカトレア?」


「……はい、いてくれたほうがみなさん安心感があると思います。私もロイス君もお母さんがいないからそう感じるだけかもしれませんが」


「……そうだよね。こんなこと言ってたら罰当たるよね。ごめんね二人とも。うん、じゃあママに頼んでみるけどいいんだよね? 給料とか大丈夫?」


「あぁ、俺がしつこくお願いしてくるからと言って頼んでくれ。給料はよくわからないけど今度もフランと同じでいいか? 経験からいったらフランより高くしないといけないんだろうが短期だからな。食べ放題飲み放題に少し素材も持っていっていいからと言っておいてくれ」


「給料だけでも十分すぎるよ! 特にあの素材は絶対外で売ったらダメだからね!? 目立っちゃうよ?」


「確かにそれは俺が一番避けたいことだ。気をつけよう」


 でももうすぐその素材で作った商品が出回るんだから同じことだと思うが。

 あまり安くしすぎて防具が売れすぎるのも困るから価格は町の防具屋の似た商品より少し高めに設定することが決まっている。

 価格の差は少しだが素材の質は天と地ほどの差があるらしい。

 多少目利きができる人ならば迷わずこちらを選ぶんだってさ。

 それともフランは自分の腕によほどの自信があるのかもしれない。


「ホルンのほうはどうだ?」


「今エルルと鎧作ってるはずだよ。ロイス君が以前言ってた薄くて軽いやつね」


「ホルンも意外に器用だよな」


「手先は器用ね。性格は不器用なんだけど」


「「……」」


 カトレアも同じことを思ったに違いない。


「それにしてもエルルが鎧も作れて本当助かったな」


「あの子はきっと私が作ってるような防具も作れるようになるよ。覚えが早いの。それに皮や木の扱い方はアイリスよりも上手いんじゃないかな? 今作ってる鉄の鎧だって皮の鎧の上に薄い鉄を取り付けてるんだけど、あの皮の鎧だけ見ても町の防具屋の商品より格段にいい仕上がりだよ? 皮の鎧も売ったほうがいいんじゃない? まぁ素材がいいっていうのもあるけど」


「皮の鎧は初期装備で着てる人が多いだろ? ここに初めて来るときに装備なしで来る人はあんまりいないし、多少なりとも丈夫なんだからそんなに頻繁に買い替えるものでもないかと思ってさ。それなら次に買いたいのは鉄の鎧だろう。当然重くなるが、慣れればそこまで気になるほどの重さではないしな。皮の鎧に需要がありそうならまた考えるよ」


「まぁ売れる商品がわかってるのは私よりロイス君だからね。私は戦ってる冒険者たちの姿をついこの間まで見たことなかったんだもん」


「俺は商品を売るために店を始めるわけじゃないからな。ダンジョンに来てもらうために店を始めるわけだから少し考え方が違って当然だ。まぁ自分のところで作った商品が売れるのを見てるのが楽しいってのもあるが。買い物をしてるときの冒険者の顔は最高にいい顔してるんだろうな」


「「……」」


 でもあまりウチでお金を使いすぎて宿代がなくなるっていうのも困るな。

 冒険者たちはそこらへんがルーズそうだ。

 俺なら最低でも一週間分の宿代と食事代を残してなければきっと買い物する気にはならないだろう。

 ……俺もこの半年ちょいですっかり変わってしまったのかもしれない。


「てわけでオープンは来週の月曜日にする」


 いよいよ武器防具屋のオープンだ。

 そうだ、名前はどうしようか。


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