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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第九十五話 緊急会議

 朝カフェメニューの売り切れを受け、この日の昼カフェ中にはララとユウナも手伝って明日の分の軽食を作ることになった。

 普段の食堂メニューに比べたら一食当たりの調理時間はそこまでかからないので、二時間の間に難なく500食を作ることができたようだ。


 だが問題が解決したわけではない。

 昼カフェの営業が終わり休憩した後、夜営業が始まるまでの三十分の間に従業員会議を開くことにした。

 全員参加なので十二名が集まっている。

 場所は防具作業場の隅にある休憩スペースの横に新たに設けた会議スペースだ。


「では従業員会議を始めるが、今回の議題は大きく一つ、その中で三つの項目がある。議題は言わずもがな従業員増員の件についてだ。まず朝カフェ要員の話からいこうか」


 ……凄い緊迫感だ。

 みんな頷くだけで誰もなにも話そうとしないぞ……。

 相槌を打ってくれてもいいんだよ?

 売れてないから問題なんじゃなくて、売れすぎて人手が足りないのが問題なんだから喜んでいいことだよ?


「この間話した通り、来年四月に中級者向け階層を設置する方針に変わりはない」


「「「「「「「中級者向け階層!?」」」」」」」


「えっ!?」


 なんで今さらそこに驚くんだ?

 この間のラーメン屋と武器屋防具屋をオープンするって話をしたときに一度聞いてるだろ?


 ……あれ?


 よく考えるとあのとき従業員がララから聞いてたのはラーメン屋の件だけで、武器屋防具屋の話すら知らなかったか。

 その後は店長になりたいだとかカフェの話とかになったから新階層の件は言ってなかったかもしれない……。

 現にララ、ユウナ、カトレア、アイリスの四人以外が驚いてる様子だ。

 隣に座るララを見ると、首を横に振ってきた。

 私はなにも言ってないし、みんなもおそらく知らないということだろう。


「そうか言ってなかったか、すまん」


「なんだよそれ! めちゃくちゃ面白そうじゃねぇか!」


「そんなことしたら世界中から私の料理を食べに来ちゃうじゃない!」


「小屋をもっと拡げないとダメですね! でもこれ以上薬草の買取が増えてもいいのかな……」


「私のラーメン屋も席数増やさないとダメなんじゃないですか!?」


「ちょっと待ってよロイス君!? 防具の生産が追いつかないよ……」


「なるほど、来る人が増えるのはいいことですね。品質も生産量も落とさないようにしなければ」


「……」


 リョウカ以外の六人が俺に向かって口々に話している。

 みんなの声が混ざってなにを言ってるのかはさっぱり聞き取れない。

 なので無視することにした。


「というわけで四月からは中級者はもちろん、今まで来たことがない初級者もたくさん来ることになると思う。本当かどうかはわからないがこの世界の冒険者で一番多い層は初級者らしい。ここで中級者にまでなれると知れ渡ったら本当に世界中から人が集まることになるかもしれない」


 今度はみんなが息を呑んだかのように静まり返った。

 世界中から人が集まるという言葉に反応したんだろう。

 

「少なくとも今より来場客が増えるのは確実だ。今いる人たちはそのまま中級者向け階層に行くことになるんだからな。当然食堂やラーメン屋、カフェの利用者は増える。今日のようにララとユウナに手伝ってもらうことはできれば避けたい。二人には冒険者としての角度から見てもらうことを期待してるんだ。だから今も午後はできるだけダンジョンへ入って経験を積むようにしてもらってる。そこはみんなも理解してくれ」


 全員が頷く。

 言わなくてもわかってるといった感じだな。


「前置きはこのくらいにして、今後のためにもまずはカフェ要員を二人増員したい。誰か知り合いで良さそうな人材はいないか? 今回は年齢は問わないが、あまり年上だとみんながやりにくくなることも考えられるからな」


 みんなはひそひそと話し合いはじめた。

 町で誰かいないか考えてくれているのであろう。

 親からも知り合いを紹介してくれって頼まれてるらしいからな。


 ララとユウナとカトレアはドリンクを飲みながらその光景を見ている。

 三人ともカフェラテを飲んでるようだ。

 そういう俺の目の前にもカフェラテが置かれている。

 カフェでの売れ行きもカフェラテが一番らしい。

 コーヒーは五番だ、つまり最下位。

 まだコーヒーの味がわからない年齢なのだろう。


「ねぇロイス君、前にも聞いたけど本当に私たちの紹介でいいの?」


「あぁ、俺は町のことはよくわからないしな。大々的に募集をして万が一希望者が多くても面倒だしな。だから町の中のことはミーノ達に任せる。自分たちが悪く言われないように配慮してくれればそれでいいよ」


「うん、わかった。リョウカちゃんは宿屋の娘だったから今度は小料理屋の娘にしようかと思うの。年齢は十四歳だから私たちの一つ下ね。一度会ってもらえる?」


「この際だから年齢はまぁいいだろう。モモやヤックと同い年ってことは二人は知り合いか?」


「いえ、僕は面識がありませんね」


「私も知りません。……友達少ないから」


 マルセールでは同年代はお互い知っていて当然だと思っていたんだがそうではないらしい。

 学校がないから集まる機会もないのかもな。


 マルセールの町の人口は千人ほどだ。

 この人口は町と呼ばれる中では少ないほうらしい。

 村だともっと少ないみたいだ。

 この大陸の王都は人口五十万人らしいからマルセールがどれだけ小さい町なのかがわかる。


 でも王都には人口が五十万人もいるのに、なんでこのダンジョンには百六十人しか客が来ないんだろう……。

 冒険者の数はそんなに少ないのか?

 王都だと冒険者にならなくても職はいっぱいあるからなのか?

 そのために十歳から学校にも行って、さらに十六歳からは専門学校に行く人も多いらしいからな。

 八歳のころから周りにダンジョンと森しかない俺とは根本的に考え方が違うんだろう。


 なんかそう考えたら今来てくれてる冒険者たちをありがたく思ってしまうな。


「お兄」


「……ん? あぁ、じゃあミーノ、いつでもいいから連れてきてくれ。できれば早いほうが助かる」


「わかった、今日帰ったら家に行ってみるね。勤務時間は私たちと同じでいいの?」


「それでもいいが、昼から夜とか、朝から夕方までとかでもいいぞ」


「了解です。それともう一人なんだけど……」


「オーナー、前も言ったけど俺の妹でもいいか? この間は十三歳だからってダメになったけど……どうしても行きたいって聞かないんだよ」


「いいけど、なんでそんなにダンジョンへ来たがるんだ?」


「いいのか!? それがどうも妹……アンっていうんだけどよ、アンは果物に目がなくてさ。ここのリンゴやミカンが大好きなんだよ……」


「……なるほど」


 つまりここに来ればリンゴやミカンが食べ放題と思ってるってことか?

 まぁ間違いではないし、別に悪いことでもないな。


「でもそれで仕事は大丈夫なのか? ミーノから見てどう思う? 隣なんだから知ってるだろ?」


「う~ん、遊んじゃわないかどうかが少し心配ね。アンはモモやヤックに比べるとまだ少し子供っぽいの」


「そうなんだよなぁ~。俺がこんなに立派に働いてるっていうのになぁ。ったく誰に似たんだよ」


「……」


 おそらくみんなが同じことを思っただろうが誰も口には出さない。

 八百屋のおじさんもメロさんのことを散々心配してたっけか。

 ミーノもフランもメロさんのことをそんなによく言ってなかったしな。

 でも妹が来たいと言ってくれてるんなら一度受け入れてみるか。

 合わなかったらすぐやめるだろうからそれはそれで構わない。


「じゃあ妹さんも一度連れてきて。あとは本人に任せてみよう。自分の居場所は自分で作るもんだ。でも念のため果物食べ放題以上に仕事はキツイって脅しといて」


「わかったぜ! ありがとうなオーナー!」


「私もしっかり見ておくからね」


 これで朝カフェ要員として必要だった二人は目途が立った。

 勤務時間は昼さえ働いてくれればあとは好きに決めてくれてもいい。


「じゃあ次、鍛冶師を一人募集したいんだが、アイリスの知り合いにいないかな? 前も聞いたと思うけど」


「ん、お爺ちゃんも私一人でやってること心配してたし、今なら誰か引っ張ってこれるかも」


「そうなのか? ならもし来てもいいって言う人がいたら誘ってみてくれないか?」


「ん、わかった。でもみんなお爺ちゃんやお父さんに弟子入りしてるから来にくいかも」


「そうだよなー。ならやっぱり期待は薄いか……。そうなるとまだしばらくは一人で続けてもらわないといけなくなるけど」


「ん、だからお弟子さんたちには声かけずに身内に声かけようと思う」


「身内? お兄さんってこと? それこそマズイんじゃないか?」


「ん、違う、お兄ちゃんは無理。だから妹のエルルを連れてくる」


「妹? 妹がいたの? 初耳だな……」


「ん、いつも鍜治場にはいないから知らないかも」


「……鍜治場にいないってことは鍛冶師じゃないってことでは?」


「ん、あの子は暑苦しいのが嫌いなの。暑いのが嫌いってわけじゃなくて、人がいっぱいいて汗まみれの空間が嫌いって言うのかな。しかも男性ばかりだからそれも余計に嫌みたい。だからいつもは裏で剣の鞘や鍔や柄を作ったり、剣に取り付けたりしてる。鍜治場にはみんながいないときに私といっしょに入ってたし、鍛冶師として経験は浅いけど十分やっていけると思う」


 一人で静かに作業したいってタイプなのか?

 それとも男性がいっぱいいるのが暑苦しいってことなのか?

 どっちにしても工房にはアイリスとウサギ二匹しかいないから問題はなさそうだ。

 バックヤードも普段はフランとホルンだけだしな。

 メロさんとヤックも今の話を聞いてるから本人の前では少しは遠慮してくれるだろう。


 そういや剣には鞘や鍔や柄も必要なんだったな。

 槍や斧はどんな作りになってたっけ?

 刀身がメインだと思ってしまってるからついそっちばかりに目がいって他が蔑ろになる。

 やはり専門的な知識がないと厳しいな。

 でもアイリスのサポートとしてもそういったものを作れる人材はありがたい。


「わかった。アイリスに任せるから頼んでみてくれるか? もしおじさんやゲルマンさんが渋るようであれば俺も行って説得してみるから」


「ん、ウチは基本自由だからなにも言わないと思うけど。今日夜帰って明日の朝八時までにいっしょに来るね」


「あぁ、ウェルダンに迎えに行くように言っておくよ」


 これで鍛冶師も一人確保できるかもしれない。

 それにしてもなんで女性ばかりなんだろう……。


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