第九十三話 メロ&ヤックカフェ
ラーメン屋の昼営業は大盛況。
なんと七十人ものお客が訪れることになった。
十席しかないのにこの人数は凄いことだと思う。
最後のほうに並んでた人は時間がないと判断し食堂に行ってしまったことは申し訳なかったが、店としては大成功だった。
昼営業が終わってホッとしたのか、モモが泣き出すというハプニングはあったものの、それ以外は無事に夜を迎えることができそうだ。
モモには夜の分と明日以降の分の仕込みの仕事があるからこの時間もまだ頑張ってもらわないといけない。
ミーノにはカレーの仕込みとモモのラーメン作りの補助もお願いしてるからこちらも大忙しだ。
次はいよいよ昼カフェの時間を迎えることになる。
いつもはガランとしてるこの時間帯の小屋も今日は食券販売魔道具前に二十人ほどの列ができている。
今はこの魔道具も含めて食堂の前はシャッターが下ろされている状態だ。
どうやら並んでいるのは女性が多いように見える。
あっ、ティアリスさんがいるということは……やっぱり他の三人もいた。
きっとむりやり付き合わされたんだな。
「ドリンク、なにが一番売れるでしょうか」
「起きてきたのか。少しは寝れたのか?」
「……はい、でもやっぱり気になってしまって」
「まぁ仕方ないか。今日はもう魔力使うの禁止ね。じゃないと俺がララに怒られる。ほら、ソファでゆっくり見よう。なにか飲むか?」
「……わかりました。じゃあカフェラテを」
「俺もカフェラテを飲もうと思ってたところだ。ホットでいいよな? ついでにパンケーキも食べるか」
オープン間際にも関わらずドリンクとパンケーキを注文してみた。
ウチの中からはカフェ用転送魔道具の注文したい商品ボタンを押すだけですぐに注文ができる。
もちろんカトレア作の魔道具だ。
ドリンクもパンケーキも少し待てばカフェから転送されてくるだろう。
昼カフェ以外の時間でもウサギが転送してきてくれる。
パンケーキは昼カフェ中しか食べれないが。
昼カフェ中は明日の朝カフェのためのドリンクも食堂で作ってるから出来立てをすぐに提供することにしている。
メロさんがコーヒーをカップに注ぐ様子が映っている。
パンケーキはヤックが食堂の焼き場の位置で作っている。
いつもは焼き場だが昼カフェの時間帯は炭と網ではなく、どこにでもある調理魔道具とフライパンが置かれている。
よく見ると食堂とはまるで違う配置の数々に気付くことであろう。
実はこの空間全体をカフェ用にしてあるのだ。
元々あった食堂の空間は現在厨房エリアに存在している。
つまり時間帯によって転送魔道具によりそっくりそのまま入れ替えているのだ。
この丸ごと入れ替えが行われるのは十三時半と十六時半の二回。
朝カフェの八時~九時の間は食券販売魔道具の場所だけが朝カフェ専用の販売スペースになる。
朝カフェの時間はこのカフェ用空間は厨房エリアにあり、ウサギたちがドリンクを注ぎ軽食といっしょに転送魔道具へ置いたりするわけだ。
おっと、まだパンケーキの盛り付けの途中だがここで十五時になったようだ。
一瞬でシャッターが上がり、中が丸見えの状態になって従業員も並んでた冒険者もみんなビックリしている。
「見てあれがパンケーキじゃない? ホイップ? が凄いね! イチゴとバナナもあんなに乗ってる!」
「一人じゃ無理そうだから二人であれ食べよ! 私カフェラテにするー」
パンケーキとハンバーガーはそれぞれ30G、ドリンクは全て10Gだ。
ドリンクだけ買いに来る人もいるだろう。
ここでさっき注文したパンケーキとカフェラテが届いた。
「……これがパンケーキですか」
「あれ? まだ食べてなかったっけ? てっきり試食したかと思ってたよ」
「……忙しかったもので」
「……すまん。パンケーキの上に全てを乗せて食べてみてくれ」
「……はい…………ん、美味しい! パンだからあまり期待してませんでしたけど! バターと蜂蜜もかかってるんですね! これなら毎日食べてもいいかも」
カトレアが饒舌だ。
そうか、パンだからあまり食べたくなかったのか。
それと毎日はやめとけ、太るぞ。
昼カフェのシステムは食堂とほとんど同じだ。
食券販売魔道具で食券を買い、まずドリンクだけカウンターで受け取る。
パンケーキとハンバーガーはできあがり次第食券番号で呼ぶシステムだ。
「ねぇパンケーキ二つもいらないんじゃない? ハンバーガーも二つ頼むんでしょ? 多いってば」
「いや大丈夫だ!」
「いける!」
「……食べきれなかったらそのまま持っていきましょう」
ティアリスさんよりも双子のお兄さん二人がすっかり食べる気満々になってるようだ。
いや、もしかしたら初めからあの二人が行きたがったのかもしれないな。
「ねぇあそこ見てよ! 朝カフェも始まるんだって! なになに……朝八時~九時……サンドイッチ、ホットドッグ、おにぎり二個のいずれかとドリンク一杯のセットで20G! ドリンク単品10G、軽食はセットでのみ注文が可能です。なお、おにぎり二個の具は日替わりとなりますだって!」
「いいじゃん! 明日から朝もここで食べよ! 遅くても九時までに来ないとね!」
「そうなると最大四食ここで食べることになるよ!? ダンジョンに来てるとは思えないわね」
「その分いっぱい動くからいいの! それに野菜も取ってるんだから大丈夫だよ! たぶん……」
朝カフェの看板にも食いついてくれてるな。
「あのハンバーガー大きくない?」
「中はなにが入ってる? ……トマトにハンバーグにレタスにチーズかしら? あのケチャップみたいなソースも美味しそう……明日は絶対あれ食べるからね!」
ハンバーガーはリョウカが作っているようだ。
宿屋でも料理を作ったりしていたらしく凄く手際がいい。
ハンバーガーも好評のようだが、ほとんどのお客はまずパンケーキを注文している。
美味しそうに食べているのを見るとこっちまで嬉しくなってくるな。
そろそろ俺もパンケーキを食べ……
「…………カトレア?」
「……はい? ……はっ……私としたことが、いつのまにか全部食べてしまいました。すみません……お昼食べてなかったもので……」
「いや、いいんだ。お気に召してくれたようでなによりだよ」
「……ごめんなさい」
まぁこういうこともあるよな。
それだけ美味しかったんだろう。
いつの間にかバナナジュースも飲んでるし。
ところで朝カフェの準備は進めることができてるのか?
……さすがに今はまだ無理か。
もう少ししたら空いてくるだろうし焦ることはないな。
「そういやフランのほうはどうだった?」
「……カイッコの養蚕も上手くいってるようですし、アルパッカの毛も無事採取することができたそうです。既に魔道具はできてますからあとはフランちゃんが作るだけですね。ただ一つ問題が……問題というかいいことではあるんですけど」
「なんだ? マズいことか?」
「……それが、綿を栽培するって言ってたじゃないですか?」
「育たないのか?」
「……いえ、ダンジョンですから普通よりも何十倍も早く育ちます。そこはなにも問題がないのですが」
「なんだよ? いいから早く言ってくれよ?」
「……質が良すぎるんです」
「は?」
「……だから、綿の質が良すぎるんです。おそらく大樹の水の関係じゃないかと……なのでこのまま使っていいか悩んでるそうなんです」
「質がいい? そんなにいいのか? でもただの綿だろ? 気にすることなく使えばいいんじゃないのか?」
「……私にはよくわかりませんが。フランちゃんが言うには、こんな綿見たことないから市場価格でいくらになるか想像もつかないの! って感じだそうです」
「なるほど。素人が見てもわからないんだろうな。でも市場にも出回らないんであれば使っても問題ないだろ。誰も知らないんだからさ」
「……それもそうですね。ではそのようにお伝えしてきます」
「悪いな。魔力使うことは禁止だからな」
カトレアは立ち上がるとお皿とカップを持って部屋を出ていった。
それにしても今日は楽しかったなー。
っとまだ夜営業のラーメン屋でも楽しめるか。
明日の朝カフェも楽しみだ。