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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第九話 宣伝

「いらっしゃいませ、おはようございます」


「おはようございます! 初めて来たんですが……」


「それはそれは、遥々お越しいただきありがとうございます。では簡単に当ダンジョンについて説明させてもらいますね」


 週が明けた月曜日、いつもと変わらずダンジョン営業が始まった。

 月曜日はお客が一番多く訪れる日でもある。

 逆に土曜日は一番お客が少ない。

 世間の冒険者は土日はお休みとかにでもしてるのかもしれないな。

 ここも週休二日制にすればもっと楽できるのに、俺が。


「……説明は以上になりますが、ご質問ございますか? もし中に入られるのであればお一人様50Gを頂いております」


「大丈夫です! じゃあこれでお願いします!」


「……はい、ありがとうございます。入り口はあちらとなっております。お気をつけていってらっしゃいませ」


「ありがとう! いってきます!」

 

 冒険者は元気よく洞窟に向かっていった。

 俺より少し年上かな?

 とても感じのいい青年だった。

 おそらく魔物と戦った経験もほとんどない初心者だろうな。


 世間一般では十六歳から成人と認められ大人の仲間入りとなる。

 俺は十四歳だからまだ少年と呼ばれる年だ。


 このダンジョンに訪れる冒険者は十五~二十歳の年齢であることが多い。

 大きな町であれば十~十五歳の間は学校で基礎教育を学ぶケースがほとんどらしい。

 十六歳になる年からは職に就くか、専門の学校へ行くか、冒険者になるかを選択することになる。

 ここから一番近い町であるマルセールには学校はないため、俺とララは学校で教育を受けるという選択肢は考えてすらいなかった。


 それにしても張り切ってるなぁ。

 家の中を見ると、ダイニングキッチンのテーブルでララとドラシーが打ち合わせをしていた。


 この家の一階はダイニングキッチン、リビング、管理人室と続いており、リビングと管理人室の間には壁とドアがあるがドアを開ければダイニングキッチンの奥まで見渡せる設計となっている。


 管理人室の中は人が三人ほどしか入れない広さであり、家へ通じるドアと外へ通じるドアの二つがある。

 カウンターテーブルより上は窓となっていてそこで受付を行う。

 外からは中が見えない窓ガラスなので窓を閉め切っていると寝ていてもお客にバレることはない。


「チュリリ! (出かけてきます!)」


「おっ、気を付けてな」


 窓を開けてやるとホワイトエナガのピピが目にも止まらぬ速さでどこかへ飛んで行った。

 あれが鳥の普通なんだとこれまでは思っていたけど、魔物と聞いた後では少しおそろしさを感じてしまう。

 ピピをおそれているのではなく、もしピピが敵だったらと考えるとあの速さはおそろしいってことだ。


 というかララはピピの言葉を理解できてないんだよな?

 ピピやシルバは俺以外の人間の言葉も理解できているようだからララともなんとか会話が成立しているのか?

 だとしても雰囲気だけであそこまで通じ合ってるのは凄いと思う。


 ピピはララが産まれた直後、家の近くの木にいたのを見つけた俺が声をかけてウチで飼うことになった。

 ララも喜んでいたように見えたからピピにはなるべくララの傍にいてくれるよう頼んでいた。

 それからずっといっしょだから言葉がわからなくても会話ができるようになったのだろうか。


 と、家の中を見ながらぼーっと考え込んでいたらララがこちらへ来るのが目に入った。


「お兄! これでどうかな!?」


「ん? なんだこれは?」


 一枚の紙を渡された。

 なになに……その紙には次のようなことが書いてあった。



 大樹のダンジョン 地下一階リニューアルオープン!!

 日時:四月一日(月) 九時~

 新たに薬草採集が可能に! (※①)

 休憩エリアを新設! 大樹産の美味しい湧き水もお楽しみいただけます!

 地下一階出現モンスター変更!

  ブルースライム、オレンジスライム、ダークラビット

 初心者に優しい安心安全設計!

 料金:お一人様 50G

 ※① 枚数制限がございます。ご了承ください。 

 今後の予定:四月八日地下二階リニューアル、四月十五日地下三階新オープン

 営業時間:月~土 九時~十八時 定休日:日


 背景には大樹の絵が薄く描かれていた。



「……よくできてるな。カラーも使ってあって見やすいよ。それにこの大樹の絵がいいアクセントになってると思う」


 とりあえず褒めないとと思い、適当に言葉を並べた。

 これを受付に貼るのか?


「でしょー!? じゃあこれを大量にコピーするね! ドラシーが」


「大量に? ここに貼るだけじゃなくてか?」


「まずここに来る冒険者に配る分、それとマルセールの町の宿屋とか道具屋に貼ってもらったり置いてもらうの!」


「……いいんじゃないか」


 宣伝!?

 これって宣伝だよな!?

 ビラ配りってやつか!?

 ダンジョンがそんなことやるの?

 いや、ダンジョンも客商売だから宣伝くらい当たり前か。

 これも時代ってやつだな。


 ところで誰が町で頼んできたりするんだ?

 ……考えるだけ無駄か。


「じゃあお兄は明日朝から町へ行ってきてね! 受付は私がやっておくから!」


「……了解」


「あっそうだ、ついでに市場調査してきて!」


「市場調査?」


「うん! 薬草の買取価格や販売価格、それと各種ポーションの販売価格の確認もお願いね!」


「……了解」


 これはかなり面倒そうだぞ。

 相場なんて気にしだしたら毎週町へ行く度に確認しなきゃいけなくなりそうだ。

 食材を買ったりするのは気分転換にもなるから割と好きなんだが、調査とかはあまりやりたくない。

 ……あの手を使うしかないか。


「(ねぇ昨日のロイス君はどこにいったのよ? いつもの覇気がない少年に戻っちゃってるわよ)」


「(お兄は追い込まれないとやる気を出せない面倒な体質なの。でも本気を出したお兄が凄いのは昨日でわかったでしょ? だから普段はだらけさせることも必要なの)」


「(そんなんでこの先大丈夫かしらね。お客さん相手だと礼儀正しくていい子になるんだけどね)」


 なんか二人が俺に聞こえないようにコソコソ話してるが気にしないでおこう。

 目が完全にこちらを向いているので俺のことであるのは間違いない。

 だが明日のことを考えると憂鬱になってどうでもよくなった。


◇◇◇


 この日訪れた冒険者は全部で八人。

 十七時近くなってダンジョンから最後に出てきたのはあの感じのいい青年だった。


「お疲れさまでした。長いこと潜っておられましたね」


「あ~どうも! いや~ダンジョンって初めてだったもんで探り探りになっちゃいましてね。でも噂で聞いていた通り敵が弱くて助かりました! 後ろから襲われることがないってのは非常に安心できますね」


「そうですか、お気に召していただけたのでしたら良かったです」


「でもやっぱりダンジョンは休憩場所とかに気を遣いますねー。いくら敵が弱いとはいえ常にビクビクです」


「そのうち慣れると思いますよ。気配でわかるようになりますしね」


「そういうものですかー。なんにせよ少しは強くなった気がしますし、魔石もいくらか集まったので満足です。それでは暗くなる前に町へ帰りたいので失礼しますね!」


「はい、ありがとうございました!」


 受付前を去って町へ向かおうとする青年。


「……あっ、すみませんちょっとお待ちいただけますか!?」


「え?」


 危ない危ない、また忘れるところだった。

 他の冒険者にビラを渡すのを忘れていたことをさっきララに怒られたばかりだ。


「よろしければこちらを受け取ってもらえますか?」


「これは?」


「来週リニューアルするんです。まずは地下一階だけですけど」


「おお!? リニューアルですか!? ……薬草エリア!? それに休憩エリア!? この休憩エリアってのは魔物は出ないんですか?」


「えぇ、そのように設計するつもりです」


「それはありがたい! このダークラビットという魔物はあの青いスライムやオレンジのスライムよりも強いんですか?」


「そうですね、少しだけですけど」


「なるほど、じゃあちょうどいいかもしれないな。……ん? 地下二階もリニューアルに地下三階が新オープン?」


「地下二階は二週間後の予定ですけどね」


「ふむふむ」


 青年は少し考え事をした後、「また来週来ますね!」と言って元気よく走って帰っていった。


◇◇◇


 翌日、早朝からマルセールの町へ行き、各店舗へビラを置かせてもらえないか交渉をした。

 この町の店にとってもダンジョンに人が集まることは大歓迎の様子で、幸いにも断られることはなかった。

 ビラ配りと同時に市場調査も行ったが、調査に関しては次からはもっと楽にできるだろう。


 帰り道、森の中の魔物を討伐しながら(シルバがだけど)、のんびり昼過ぎにダンジョンへ戻った。


 この日のお客は二人だけだった。


 しかし、その翌日の水曜から土曜までの四日間、ダンジョンに訪れた冒険者は……一人もいなかった。


 これは本当に潰れるかもしれない……。


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