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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第八十七話 お説教

 午後、鍛冶工房にお客がいなくなったときを見計らって建物を大改築することにした。


 魔力だけで作るのはさすがに消費が激しそうだったので、ゲンさんに頼んで森から少し木を用意してきてもらった。

 ダンジョンが好調なことで周辺の森も活性化しており、ところどころ木も間引いたりしたほうがいいそうでちょうど良かったらしい。


 そしてドラシーの仕上げで無事に大改築の作業はあっという間に終了。


 しかし俺は今、厨房エリアと新しい建物の間の地面に正座させられていた。


 視線を上に向けるとそこにはララが立っており俺を見下ろしている。

 厨房エリアには食堂の四人の従業員もいたため、この光景を従業員七人に見られていることになる。


「お兄、なに考えてるのかわからないのはいつものことだけど、なんで今武器屋と防具屋を作る必要があったの?」


「え……だって店舗がなくちゃ先に進まないじゃないか。二人の作業場も必要だしさ」


「でもオープンはまだまだ先のことでしょ? 作業場も道具さえあれば場所は今はまだどこでもいいでしょ? 他に優先しないといけないことあるよね?」


「え……そうだけど、二人の部屋も用意しないといけないだろ?」


「しばらくはウチに泊まってもらっても良かったじゃない。それよりラーメン屋の店舗がまだのことわかってる? カフェは食堂を使うから店舗の準備はいらないけど、魔道具は必要になるんだからね? お兄がカトレア姉に言ったラーメン屋の魔道具のことも覚えてるよね? 合わせるとすごい数だよ?」


「……はい。わかってるけど……」


「それならなんでこんな大きな建物を私たちに相談もなく作るの? カトレア姉とユウナちゃんもまさかこんな大きなものを作るなんて思ってもみないでしょ? お兄に呼ばれて少し魔力を使うくらいの認識しかなかったんだからね? ピピとメタリンもだよ?」


「……はい……反省してます。でもカトレアはわかってたはず……」


「言い訳しないの! もぉ~。ただでさえカトレア姉は睡眠不足なんだからね。これで魔道具の作成にも影響が出るよ。もうラーメンも食堂で出したらいいんじゃないかな」


「え、それだけはご勘弁を! ラーメンは専門店じゃないと雰囲気が出ないんだ! ほら! モモだって悲しむよ!?」


 横ではモモが「ラーメン屋出せなくなるの?」といった悲しげな表情で俺とララを交互に見ている……はずだ。


「来週じゃなくて再来週からにして本当に良かった。朝カフェは来週からでも先に始めようかと思ったけど、この調子じゃこれも再来週ね」


「……」


「はぁ~。で、これはなに? トイレ?」


「あぁ、従業員用に作ったんだ。厨房エリアからもそっちのバックヤードからも行けるから今後従業員が増えてもいいようにと思ってさ。わざわざ上行ったり不便だっただろ?」


「まぁそれは確かにそうね。……四人も喜んでるみたいだし」


 食堂での仕事中や厨房エリアで作業中にトイレに行きたくなったときは小屋の中にある冒険者たちも利用するトイレに行っていたのだ。

 今後は食堂で仕事中でもこっちの従業員専用トイレを利用することになるだろう。

 転移魔法陣があるからこっちのほうが早いし。


「あとでもう一回二人には謝っときなよ? ピピとメタリンにもね」


「あぁ、それはもちろん」


 カトレアとユウナは大改築の途中で魔力を使い果たしたが、それでも続けようとしたため体力面にも影響が出たようだ。

 最近の魔道具作成や錬金の練習で俺たちが思っていたよりも魔力を消費した状態だったらしい。

 終わった後、倒れこむようにして意識を失ってしまった。

 もちろん命に別状はないが今は家で静養している。


 ドラシーもいつもなら足りない分を計算してダンジョンの魔力を使うが、カトレアとユウナの魔力がそこまで減っていたことに気付かなかったらしい。

 そのせいで足りない分はピピとメタリンから余分に吸い取ることになってしまったようだ。

 それでピピとメタリンもダウンすることになった。

 ドラシーは責任を感じたのか、建物が完成するとすぐに姿を消してしまった。


 そうだ、悪いのは俺なんだ。

 だから妹に正座させられようが、それを従業員たちに見られながら怒られようが、土下座することになろうが仕方ないというものだ。

 少し泣きたい。

 あとでドラシーにも謝っておこう。


 でも作ってしまったものは仕方ないじゃないか。

 だって武器屋と防具屋なんてロマンがあるし。

 買わなくても見てるだけで楽しめるよ?

 買おうかどうかお財布と相談しながら迷って、そしていざ買おうと決めたときの顔は凄く充実した表情に違いない。

 その姿を俺は水晶玉で見るんだ。

 そのためにもいい商品を置かないとな。


 みんなの士気を高めるための早めの建築だったのだが、これ以上言うと火に油を注ぐようなものだから決して言わない。

 ララの左手の炎は想像するだけで寒気がする。

 それにララもカトレアやユウナより少なめに設定されてたとはいえ、いつもより魔力を多く吸収されたにも関わらず一人だけ平然として俺を説教してるんだからな。

 きっとララは戦士系じゃなく魔道士系なんだよ本当は。


「中入るけどいいんだよね?」


「あぁ、俺も早く入りたいんだ。設計図通りのはずだからアイリスは先に行って自分の荷物を確認したほうがいいかもな。俺たちもどんな部屋か見たいし。フランとホルンも先に自分たちの家を見てきたらいい。みんなも少し手を休めて見に行かないか?」


 三人は嬉しそうに駆け足で中へ入っていった。

 四人も中が見たくてうずうずしていたのか、俺の誘いに喜びの声をあげた。


「……お兄? なんで呼び捨てになってるの?」


「え? それは本人たちの希望だ。俺はオーナーなんだから従業員に敬語はおかしいって言われてな」


「ふ~ん。そうなんだ~」


 ララの視線が痛い。

 俺のことを女癖が悪いみたいに思ってるようだ。

 決してそんなことがないこともわかってるはずなんだけどな。


 ……ん?

 でももしララが男を家に住ませたいって言ったら俺はきっと大反対するか。

 もちろん相手にもよるだろうが、それはララのことを心配してのことだからな。

 ララも同じように思ってるとしたら、既に住み込みで三人も女性がいてさらに二人増えようとしてる現状って……想像するだけでこわいから考えないようにしよう。


 俺たち六人はバックヤードへと足を踏み入れた。


「そこの右のドアが鍛冶工房だ。左のドアは武器の販売用商品を置くための倉庫だ」


「鍛冶工房の中はそのまんまなんだね。でもソファとテーブルが追加されてる!」


「隣にあった休憩部屋がなくなったからな。さすがにこの通路にソファは置けないと思ってな」


「前まで厨房エリアに出れてたあっちのドアはなに?」


「あれは保管庫だ。前まで裏にあったやつだな」


「へぇ~。……こっちの倉庫広すぎない?」


「店内には見本しか置かないんだ。誰も触ってない新しい武器のほうが嬉しいだろ? だから販売用の武器は全部この倉庫に置くことになる」


「なるほど。そういう気遣いは大事だと思う」


「そうだろ? これをわかってくれるとはさすがララだ」


 倉庫を後にし、さらに通路を進む。


「この左が三人が住む家の入り口だ。玄関は開いてるな。おーい? 入っていいかー?」


「「「どうぞ!」」」


 三人の了承を得たので家の中に入る。


「入ってすぐ左がトイレで、その奥が洗面所と風呂だ」


 ララ以外の四人は遠慮することなく隅々まで見ている。


「で、少し進むとキッチンとリビングね」


「なにこのキッチン!? キッチンをこんなとこに置くなんて。周りを一周できるよ? ……でもリビングにいるみんなの顔を見ながら料理するのも悪くないかも。後ろに冷蔵魔道具と食器棚があるのも便利かもしれない」


「だろ? 作った料理を向こう側から受けとることもできるからな」


「それは確かにいいね! なんかウチも気分転換に改装したくなってきたな~」


「それはまた今度な。リビングも広めにしたんだ。職人の気分転換も大事だからな。左には個人部屋が三つある。位置的には武器倉庫の裏あたりだな」


「そうだよね~従業員が働きやすい環境を整えるのも私たちの仕事だよね。これは今後も課題になりそう」


 個人部屋は奥からアイリス、フラン、ホルンの部屋に決まったようだ。

 想像してた部屋よりも広かったらしく、三人は上機嫌だ。

 この家を一通りみたミーノたち四人は羨ましがってるようだが。

 まさか自分たちも住みたいとか言い出さないだろうな?

 四人は買取したものを毎日実家に届けないといけないんだぞ?


「じゃあ次へ行こう」


「そうね、早く店内が見たいからね! ほら、みんなも早く行こう! アイリスさんたちも!」


 面倒なことを言い出す前に俺は次へ行くことにした。

 ララも感じ取ってくれたようだ。


 家を出て左、つまりバックヤードから入ってきて家の入り口を超えてすぐはドアこそないが広い部屋のようになっている。

 鍛冶工房の一回り以上は広い。

 ここはフランとホルンの作業場として使う。

 左手前奥には鍛冶工房の休憩部屋にあったソファとテーブルも置いてあり、従業員の休憩場所としても利用可能だ。

 右側には店内へと繋がるドアが手前と奥に二つある。

 正面突き当りは防具販売用商品の倉庫だ。


「フラン、作業はここでする予定なんだがどうだ? 鍛冶工房みたいにこの奥に防具作業部屋を作ってもいいぞ?」


「……え? ……ごめんなさい色々と呆気にとられちゃって。作業場ね? うん、ここでいいよ! みんながいる空間でできて嬉しい!」


「そうか、まぁやってくうちに専用の空間がほしくなったらいつでも言ってくれ」


「うん! ありがとう!」


 フランにはみんなと防具以外のことも話せるようになってもらいたかったこともあり、このようなオープンな空間にしたのだ。


「そこの休憩スペースは四人も使ってもらって構わないからな。ここに食堂との転送魔道具を置くから注文が入ったらよろしく頼むよ。それにみんなはこれからカフェのドリンクも飲み放題だからな」


 四人は家を見て羨ましさから少し気落ちしていたが、休憩スペースと飲み放題のことを聞いて少しは気を取り直してくれたようだ。

 食堂の営業時間中に限るが食事はいつでも食べ放題、ドリンクは時間に限らずいつでも飲み放題なんて凄くいい条件じゃないか?


「あっ、これからは食堂の営業時間以外も昼カフェ中ならパンケーキやハンバーガーを頼んだりもできるな。朝カフェメニューのサンドイッチ、ホットドッグ、おにぎりに関しては作り置きだから時間関係なく夜中でも食べたくなったら注文できるのか。三人はいつでも利用してくれていいからな」


 ここに住む三人は実質一日中食べ放題飲み放題と知り喜んでいるようだ。


「お兄!」


「え?」


 一方、通いの四人は恨めしそうに俺を見ていた。


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