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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第八十一話 町の防具屋と武器屋

「フランの作品を置いてやってくれないか?」


「はい?」


 競合するから店を出すなって言われるかと思ってさっさと帰ろうとした。

 だがおじさんに呼び止められ、面倒くさいと思いながらも話を聞くことになった。

 そしたらフランさんの作品を置いてくれだと?

 商品じゃなくて作品っていうのか。


「まだ商品の仕入れはしてないんだろ? だったらフランの作った服を仕入れてみないかい?」


「そんなことをしなくてもここで売ればいいんじゃないですか? それに俺とは競合するかもしれないんですよ?」


「ここでは店のスペースが限られてるし、他の商品を減らすわけにはいかないんだ。だからフランの作った物も数点しか置けていない」


「……他の商品を減らせない理由をお聞きしてもいいですか?」


「ウチはこの町唯一の防具屋だからな。取引先もこの町にあるから各装備部位ごとに一定の数はその取引先の物を置かなければならない事情があるんだ。売れてない商品はその取引先が別の商品を提案することになってる」


 つまり取引先の枠を奪ってフランさんの商品を置くことはできないってことか。

 取引先は納入量が減るし、防具屋としても取引先を失う可能性を考えなければならない。

 それにこの小さな町の中での取引だからこそ、お互いの首を絞めるわけにはいかないということか。


「なるほど。確かにそのような事情でしたらフランさんの作った物を置けないのも納得できます。では俺が新しく防具屋を作ろうとしてることについてはどう思いますか?」


「ウチとしては初級者向けの防具の販売は落ちるだろうな。でもそれはほとんどロイス君のダンジョンのお客さんだから仕方ないと思うよ。それに半年前の状況に戻るだけだろ? そう考えたらそこまで影響はないかもしれないしな」


「ウチに来る冒険者たち以外にはどのような人が買い物されるんですか?」


「この町に立ち寄った冒険者だな。大樹のダンジョンへ行くんじゃなくて他の町へ行く途中に寄った冒険者な」


「それで収益は上がるんですか?」


「あぁ、それなりには売れてるんだ。よその町に行ったらどんな物が置いてあるか気になったりするらしくてな。宿泊することが決まってると時間もあるから防具屋に顔を出すことも多いらしい。町それぞれでデザインや使ってる素材も違うからつい買ってしまうんだとよ」


「そんなもんなんですか。まぁ服は複数あっても困りませんしね」


「あぁ、だから防具屋を作ることに関してはなにも気にすることはない。きっと武器屋の親父もそう言うと思うぜ?」


「そうですか。ありがとうございます」


 そうだ、武器屋にも言っておかないといけないんだった。

 武器屋の親父って言い方が既に頑固そうなイメージをしてる。


 そういやフランさんはずっと黙ったままだな。

 さっきまであんなにうるさかったのに。

 なにか言いたそうにずっとこちらの様子を窺っている。

 おじさんもなにか言いたげな様子だな。


 ……あ。


「フランさん、じゃあ何点かウチに卸してもらってもいいですか?」


「えっ!? いいの!?」


「本当か!?」


「はい、もちろん。防具は数もいっぱい必要になりそうですしね」


「やったぁー! これでもっといっぱい作れるのね!」


「良かったな! きっと売れるぞ!」


 仕入れ先を一つ確保できたのは良かったな。

 ここの防具屋の商品と被ることが少ないのも大きい。

 それにフランさん個人が相手ならこちらの要望も言いやすい。

 アイリスさんも喜んでくれるだろうし。


「じゃあまた店を出すことが正式に決まったら商品の相談に来ますね。よろしくお願いします」


「うん! こちらこそよろしくお願いします! いっぱい作っておくね! 今日はもう帰るの?」


「いえ、ついでなので隣の武器屋さんにも挨拶しておこうかと思います」


「じゃあ私も行くね!」


「え? ……いや、いいですよ。すぐ終わりますんで」


「遠慮しなくていいの! じゃあパパ隣にいるからね!」


「あぁ。ロイス君、よろしく頼むよ」


 なぜかフランさんもいっしょに武器屋に行くことになった。

 お隣さんだから顔が利くのだろうが、正直いなくてもいいな。


 あっという間に武器屋に案内された。


「いらっしゃい。……なんだフランか」


「おじさん! お客さん連れてきたの! あっ、武器は買わないけどね」


「それはお客さんと言わないだろう。……うん? ロイス君かい?」


「はい、初めまして」


「なんだフラン、知り合いだったのか。ロイス君、ダンジョンの噂はいつも聞いてるよ」


「ロイス君ね、ダンジョンで武器屋開くんだってさ。武器はアイリスが作るの。いいよね? 武器屋作っても」


 ……また俺が言うよりも先に言った。

 でも言う手間が省けたからいいか。


「そうなのかい? 鍛冶屋を始めたとは聞いてたが、武器屋も作るのか。もちろんウチは構わないよ」


「あっさりなんですね。俺が懸念してるのはこちらの売上が減ってしまうかもしれないことなんですよ?」


「確かにね。でもそんなことは考えなくてもいいから好きにやりな。冒険者たちも喜ぶと思うよ」


「そう言ってもらえると助かります。ありがとうございます」


 防具屋のおじさんが武器屋の親父なんていうからどんな人かと思ったけど、普通に気のいいおじさんじゃないか。

 それにこっちのおじさんのほうが少し若く見えるくらいだ。


「帰ったぞ」


「ただいま帰りました」


 店の入り口からお爺さんと女性が入ってきた。


「あぁ父さんご苦労様、ホルンもお帰り」


「来客中か、ゆっくり……ってフランじゃねーか。そっちは…………よく来たな」


「お爺ちゃん! こちらはロイス君!」


「静かにしろ。知ってるよ。でも珍しいな」


「初めまして。お邪魔してます」


「あぁ、まぁゆっくりしていけ」


「父さん、今度ロイス君のダンジョンで武器屋を開くことになったそうなんだけど、別にいいよね?」


「おう? 武器屋までやるのか? がっはっは! 小僧面白いこと考えるな! どんどんやれ!」


「はい、ありがとうございます」


「うん? なんか聞いてた印象と違うな? ワシの前だからって緊張してるのか? やり手みたいだからもっとガツガツした奴かと思ってたぞ?」


 どんな印象なんだよ。

 俺は最弱キャラを自負してるくらいなんだぞ。

 それよりこの人が武器屋の親父で間違いない。

 さっき浮かべたイメージ通りだ。


「宣戦布告に来たわけじゃありませんから。それに俺は静かに暮らしたい派です」


「がっはっは! 気に入った! で武器はどこから仕入れるんだ?」


「仕入れはしません。アイリスさんが作ります」


「ほう? アイリス一人で店の武器全部作るのか? それは面白いな! アイリス対ゲルマンってわけか! がっはっは!」


 ……そうなるのか。

 ゲルマンさん……というより町の鍛冶屋で作った武器のほうがいい物であればここの武器屋で買うってわけね。

 アイリスさんも比較されて大変だな。


「お爺ちゃん! アイリスの武器が負けるわけないでしょ! それと防具屋も開くみたいでさ! 私の作った防具も置いてもらえることになったの!」


「なんだと? 小僧本当に防具屋もやるのか? そんなに拡げて大丈夫なのか? 商売はそんな甘くないぞ?」


「ウチの場合は店の利益よりも優先したいことがありますので、多少赤字になるくらいは構いません」


「嘘を言ってるわけではなさそうだな。で、フランの防具のどこに目をつけたんだ?」


「どこって言われましても俺には防具を見る目はありませんからね。単純に商品を見てこれなら買ってもいいなって思ったからですよ。それに防具の調達は課題でしたから。フランさんと会ったのも今日が初めてですし、たまたま縁があっただけですよ」


「バカ正直な奴だな。普通初めて会った奴の商品なんか仕入れようと思わないだろ? まぁ俺も孫が作った物を店に並べてもらうのは悪い気しないけどよ」


「孫!?」


 お爺ちゃんって呼んでたから少し不思議に思ってたけど、本当にフランさんのお爺ちゃんだったんだ。

 ということは防具屋のおじさんはこの人の息子ってこと?

 親父って実の親父だったのか!

 じゃあ流れ的にこのホルンという女性はここの娘さん?


「さっきパパが親父って言ってたでしょ! だから私がついてきたのよ!」


「いや、まさか肉親のことを言ってるとは思わないし」


 つまり武器屋のおじさんと防具屋のおじさんは兄弟で、俺はその兄弟のライバル店を出そうとしてるわけだ。

 はぁ~、なんか店を出すのが急激に面倒になってきたな。


「ロイスさん、アイリスちゃんに無理させないでくださいよ。あの子は働き屋さんなんですから」


「え? はい、気をつけます」


「本当ですか? 聞いたところによると妹さん、まだ幼いのに働き詰めだそうじゃないですか。ご両親がいなくて大変なのはわかりますが、あまりよくないと思います」


「あ、はい。すみません、普段から気をつけてるつもりなんですが……」


 なんだこの人。

 初対面の相手に言うようなことじゃないよね?

 アイリスさんのことはまだしも、ララのことは他人には言われたくない。


「ちょっとホルン! そんな言い方はないよね!? ロイス君に謝りなよ!」


「そういえばフランちゃんがアイリスちゃん以外と仲良くしてるのも珍しいですね。ロイスさん、ちょっと仲良くなったからってフランちゃんにも無理させちゃダメですよ」


「ホルン! 怒るよ!」


「ふふっ。フランちゃん、少しは落ち着きましょう。はしたないですよ」


「もぉ~!」


 ……おじさんとお爺さんが呆れかえってるとこ見ると、普段からよくある光景みたいだ。

 この二人は従妹になるんだよな。


「じゃあ俺はこのへんで失礼します。ありがとうございました」


「小僧! 表の馬車はお前のか?」


「え? そうですけど? ……邪魔でしたか? すみません」


「それならまだ何人か乗れるよな?」


「え……」


 嫌な予感がした。


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