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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第八十話 防具談義

「俺が言いたいのはですね、もっと軽い鎧があってもいいんじゃないかってことなんです。軽鎧とでもいいましょうか。皮の鎧は軽いじゃないですか? なのに銅、鉄、鋼の鎧といったものは重いものばかり。金属を使えば重くなって当然なんですが、全部が全部同じ形の鎧じゃなくてもいいと思うんです」


「でも薄くしてそこを攻撃されて体にまで届いたら後悔しませんか? もっと分厚ければ防げたかもしれないのにって」


 俺とフランさんは二杯目のカフェラテと追加注文したサンドイッチをつまみながら議論を白熱させていた。


「でもそれは薄かろうが分厚かろうが金属部分を破壊されたってことでしょ? 俺から言わせれば金属を破壊されるほどの威力だったらそもそもその鎧では防ぎようがないんだと思う」


「そうだけど……安心感が違うじゃない? なんていうか守られてる感がさ」


「鎧は確かに守ってくれてる。そのために頑丈に作られてる。分厚くすれば安心感を与えてくれるがそれは同時にスピードを失い、防げるものも防げないかもしれない。重さが増すと結果的に攻撃力の低下にも繋がる。全てを満たすことはできないからこそ、ベストな選択をしなければならないんだと思うんだ」


「守りだけではダメってことか。防具屋だからって防御力をあげることばかり考えてたけど。そっか、分厚くするのは結局金属の力を信じてないからなのかな。攻撃を受けて破壊されたときのことばかり考えちゃう。少しでも分厚いほうが剣が途中で止まる可能性もあるでしょ? でもそれを受けないようにするために軽くするって発想はなかったなー」


「どんな敵と戦うことを想定してるかの違いだよ。俺は四方八方から襲ってくることをイメージしてるからさ。一対一の決闘だったらダメージを受けないのは強みになるだろ? それに門番とかもいいかもしれない。俺はウチに来る冒険者を想定してるから。あんな重い鎧だと町からダンジョンにすら辿りつけないかもしれない」


「ふふっ、それはそうね。今度アイリスにも相談してみるね」


 ようやく話の区切りがついた。


 俺にはフランさんの言うような役割を持った冒険者が活躍する場面が想像しにくかったからむりやり俺の意見を押し通した形になってしまったな。

 ティアリスさんたちがベビードラゴンと戦っていたときの双子の兄弟の役回りがそれに当てはまるのかもしれない。

 でも魔物急襲エリアであんな戦い方したらまずティアリスさんが狙われて終わりだもんな。


 敵が数で来るんなら受け止めるんじゃなく減らすことを考えたほうがいいと思うんだよなぁ。

 ユウナが回復補助だけじゃなく攻撃魔法も使いたいっていうのは俺と考えが似てるところがあるんだと思う。

 結局俺はバランス重視な考え方なんだろうな。

 ララなんて攻撃あるのみって感じだし。

 というかすっかりため口になってしまっていた。


「そろそろ出ましょうか」


「そうだね。すっかり長居しちゃったみたい」


 支払いをすまして店を出る。

 俺はこのまま家に帰ろうと思ってたのだが……


「ねぇ、もう一回ウチの店寄っていかない?」


「……いいですけど、また鎧ですか?」


「違う違う! それに鎧はアイリスのところで作ってもらってるしね。私が作った商品の意見も聞きたいなって思ってさ。もちろん正直に言ってもらって構わないからね!」


 そうか、鎧の発注は出しても作ってるのは鍛冶屋だもんな。

 ということはアイリスさんもあんな感じの鎧作るのかな……。

 少し相談する必要があるな。


「ん? フランさんが作った商品があるんですか?」


「もちろんよ! 私は防具屋の娘だけど店番はしてないからね! それとさっきまでの口調に戻してよ。せっかく普通に話せるようになったのに。私なかなか人と上手く話せないんだから」


 え?

 こんなに話しておいて上手く話せないって……もしかして最初がそうだったのか?

 人って不思議だな。


 それよりなにを作ってるんだろう?

 鎧を鍛冶屋に依頼するようにローブとかも専門の服屋みたいなところに依頼してるんじゃないのか?


 店に着くとすぐにフランさんが作ったという商品を見せられた。


「……これを作ったの?」


「うん! どうかしら? 正直にお願い」


 どうもこうもさっき見ていたダークラビットのドロップ品で作ったと思われるローブじゃないか。

 羊に勝った1000Gの。

 これをフランさんが作ったっていうのか?

 さっきは素材にしか目がいってなかったが、しっかりした作りのローブだ。

 被るタイプでフード付きなのはカトレアのローブに似てるかも。

 正直耐久力とかはわからないが、ローブとしてはいいんじゃないか?

 うん、正直なにがいいかなんて俺にはわからん。


「根本的な質問していい? これどうやって作ってるの?」


「え? それはもちろん生地を縫い合わせて……もっと前? 素材から? ダークラビット? 毛皮をきれいにしてからまず糸にするの。それで糸を生地にするんだけど、ここで……え? もういいの? 聞いといてなによ!」


 なんだか難しそうな話になりそうだったので聞くのをやめた。

 俺が知ったところでどうにもできないからな。


「それ全部手作業でやってるの?」


「そんなわけないでしょ。加工専門の業者があるの。私は生地を買ってきて服用に加工して手で縫い合わせていくだけ。たまに糸を持ち込んだりもするけどね」


「業者はどうやって生地にしてる?」


「そういう魔道具があるの」


「へぇ~魔道具かー」


 魔道具で生地が作れるんならなんとかなるんじゃないか?

 なんてったってウチにはカトレアがいるんだ。


「でもこのローブのどこにダークラビットの毛皮が使われてるんだ?」


「裏地よ。中の部分。暖かいでしょ? 表は綿ね。二重になってるから多少防御力もあると思うんだけどどう?」


「どうって言われても、装備品としてどうかは俺には判断つかないけど服としてはいいと思うよ。魔道士用のローブとしてはなにを意識して作ってるんだ?」


「もちろん魔力を少しでも上げることが第一よ。ダークラビットの毛皮には魔力がこもってるからそれを身に纏うことで装備した人の魔力が上がるんだよ。たぶん」


「たぶん?」


「だって私は魔道士じゃないし……。ローブを作る裁縫職人はみんなこうやって魔力を高めるような素材を織り込んで作ってるし……。販売価格を考えるとダークラビットは裏地にしか使えないし……」


 そんな責めるようなつもりで言ったんじゃないんだけどな。

 裁縫職人のみんながそうやって作ってるんならそうなんだろう。

 裏地にだけダークラビットとなると二匹分くらいですんでるのかな。

 でもこれは服としてはいい品に違いないから買って帰ろう。


「このローブ買ってもいい? 羽織るタイプのもある?」


「え!? 買ってくれるの!? うんあるよ! 2タイプ作るようにしてるから!」


「色はこの色だけ? 白とかない?」


「色は黒だけだね、ごめん。黒が売れ筋だからね~」


「そっかそれなら仕方ない。じゃあ2タイプいただくよ。2000Gでいいのか?」


「え!? 二つとも買ってくれるの!? 本当にいいの? 無理してない? 2000Gって結構高いよ? 大丈夫? 同情してくれなくてもいいんだよ?」


「同情とかじゃなくていい品だなと思ったから買うだけだよ。それにウチには魔道士が二人いるから喧嘩しないように二つ買って帰るんだ」


「え!? ロイス君パーティ組んでるの?」


「いや、俺は戦わないよ。二人はウチの従業員のようなものかな。アイリスさんみたいな立場か」


「へぇ~従業員ね~。サイズはどうする?」


「そういやサイズを確認してなかったな。二人とも女性で百五十センチくらいなんだが」


「それならもう少し小さいほうがいいね! 奥にあるから持ってくる! ちょっと待っててね!」


 フランさんは店の奥に入っていった。

 すると、フランさんのお父さんと思われる店番をしているおじさんが声をかけてきた。


「いいのか? 今のうちに帰ってもいいんだぞ?」


「いえ、ローブが欲しかったのは事実ですし、いい品だと思いましたから」


「ならいいんだけどさ。あいつは防具にしか興味がなくてな。むりやり話に付き合わされて買わされたんじゃないかと思ってな」


 防具にしか興味がない?

 もしかして防具屋から出てきた俺と防具の話をしたいがために話しかけてきたのか?

 そう考えれば会話が途切れていたのも納得できるな。

 防具の話をしたいが、どうやって切り出していいかを悩んでいたのかもしれない。

 なかなか人と上手く話せないと言ってたのも防具にしか興味がなくてそれ以外の話題はあまり知らないからということかもしれない。


 なるほど、アイリスさんのマイペースな性格と合うはずだ。

 アイリスさんは会話がなくても気にならなそうだし、フランさんが一方的に話しても気にしなさそうだ。


 待ってる間に会計をすませておくか。

 確かに2000Gというのは少々高いのかもしれない。

 初級者にはなかなか手が出せない価格だな。


「なぁ、アイリスもロイス君のところのダンジョンで働きだしたんだろ?」


「はい。……えっ!? 俺のこと知ってるんですか?」


「そりゃ知ってるさ。俺はここで暇なときは外を見てるからな。毎週日曜に小さい子供が大量の荷物を抱えて犬と歩いてるのをもう何年も見てるよ。最近はあまり見かけなかったから今日店に入ってきて驚いたんだ。だってウチの店に来たの初めてだろ?」


「えぇ初めてです。それよりそんな小さいころから見られていたなんてなんか恥ずかしいです」


 前にもこんなことがあった。

 やはりこの町の多くの人に俺のことは知られてるらしい。

 毎週日曜に犬と一緒に大量の買い物をする少年として。


「はっはっは、みんな微笑ましく見てるんだからいいじゃないか。で、アイリスは武器や鎧も作るのか? 修理だけか?」


「今は修理だけですが、落ち着いたら作ることになると思います」


 どうしようか。

 武器屋を作ることやいずれ防具屋を作ることも言ったほうがいいのだろうか。

 この空気でいきなりライバル宣言するのはかなり気まずい。


「お待たせ! 包装もしてたら時間かかっちゃった! なになに!? 二人でなに話してたの!? そういやパパ、ロイス君今度防具屋開くんだって! ライバルになっちゃうよ、どうする!? ふふっ」


「「!?」」


 俺とおじさんは共に驚く。

 もちろん理由は違うだろう。


「ちょっ、フランさん?」


「ロイス君!? 本当なのか!?」


 ほら、なにか面倒事になりそうな雰囲気だ。

 こういうときはさっさとこの場を離れるのが一番だ。


「……考えてるのは本当ですけど、まだ下準備もなにもできていませんからね。今日だって防具屋がどんなものか知るためにお邪魔したわけですし。もちろん本当に開くことになったら挨拶に訪れさせてもらいますので話はそのときにでも。では」


 そう言って俺は品物を受け取り、店を出ようと足早に歩き出す。


「ちょっと待って! 違うんだ! 話を聞いてくれ!」


 店を出る前に呼び止められてしまった。

 失敗したな。


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