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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第七十五話 毎日のメンテナンス

「ねぇ、毎日武器のメンテナンス頼んでも大丈夫なのかな?」


「えぇ大丈夫ですよ。そのためのシミュレーションもしてますから」


「でもアイリスさん一人なのよね? いくらウサギが手伝うといっても無理があるんじゃない?」


「まぁ仕事ですからね。それに帰り際に預けていただくということは次の日の朝は受取だけですからアイリスさんもウサギたちも翌朝の仕事は発生しませんからね」


「それもそうね。じゃあメンテナンスだけの場合は翌朝来てすぐに受け取れて、修理が必要な場合は翌朝からの作業になるから待ちが発生すると考えておけばいいのね?」


「ご理解が早くて助かります。でも武器を持たずに帰られて道中不安はないんですか?」


「町までの間に魔物が出たことなんてないしね。それに軽くなっていいんじゃない? 私は杖だからそんな頻繁にメンテナンスしなくてもいいけど」


 そう言うとティアリスさんは三人のパーティメンバーとともに鍛冶工房への階段を下りていった。


 時刻は十八時過ぎ、鍛冶工房の受付は十八時半までにしているので、駆け込みの修理依頼などが多い時間帯でもあるだろう。

 今日に限ってはほとんどの冒険者は午前中に修理やメンテナンスをしているので帰り際の客は少ないはずだ。

 と思っていたらそうではなく、メンテナンスしてもらった武器の切れ味や輝きを気に入った人が多いらしく、またメンテナンスを頼む人が続出したのだ。

 もちろん受取は翌日になることを理解してのことだ。


 受付終了後からはウサータも加わって作業ができる。

 アイリスさんの仕事は作業前と作業後の確認をするだけで、二匹のスピードを考えるとそこまで時間はかからないだろうとのことであった。

 なのでメンテナンス分に関しては当日のうちに完了させておくことにした。


 今日が特別だっただけで、明日からは当初の想定通り、午前中の早い時間と夕方以降に修理及びメンテナンス作業が集中するはずだ。

 アイリスさんはそれ以外の日中の時間は武器作成を行うらしい。

 となると材料が必要になるから鉱山が既にあって良かったと思う。


 採掘するウサギもいたほうがいいか?

 ウサギが取ってきた鉱石をカトレアが錬金釜でインゴットにして……。


 これ以上カトレアの仕事を増やさないほうがいいな。

 でもカトレアの力が必要なのは明らかだ。

 そのうちインゴットにするまでの過程を魔道具化してもらおう。

 ゲルマンさんも言ってたが受付魔道具の応用でできるような気がするし。

 繊細な鉱石の配分も数値化したほうがわかりやすそうだしな。

 均一になるように混ぜるのもなんとかなるだろ。


 あと考えないといけないのは杖の魔力安定化だな。

 これはユウナの修行にもなるんじゃないか?

 でも錬金術ってそんなに簡単にはできないんだっけ?

 まぁ杖はそんなに頻繁にメンテナンスしなくてもいいって言ってたし、しばらくはカトレア任せでもいいか。


 でもここまでカトレアの錬金術任せの仕事が増えてくると、さすがにもう一人錬金術師を探したほうがいい気もする。

 カトレアにかかる負担が多すぎていつ愛想尽かされて出ていかれても文句は言えない。

 こんなときに都合よく従業員希望の旅の錬金術師なんてのが現れてくれないもんだろうか。


「あの……」


「はい?」


 目を瞑って考え事をしていたらいきなり声を掛けられた。

 ビックリして目を開けると、そこには二人の女性が立っていた。


「なんでしょうか?」


「カトレアさんいますか?」


「カトレアですか? 申し訳ありませんが今日はもう出てこれないんです」


「そうなんですか……。わかりました。また明日出直します」


「すみません。ありがとうございました」


 二人は残念そうに帰っていった。


 カトレアのファンかな?

 ……もしかして錬金術師か!?


 なわけないか。

 おそらく彼女たちは魔道士で、カトレアに今すぐ杖のメンテナンスを頼めないか聞きにきたってとこだろう。


 魔道士ってパーティに必ず一人はいるよな。

 今日ここにきた冒険者の数は百六十人、仮に四人パーティだとしたら魔道士は四十人。

 意外に多いな。

 それだけいると中には一人くらい錬金術師もいそうなもんだが。

 錬金術ができるのにわざわざここに冒険者として来る変わり者なんてそうはいないか。

 カトレアは冒険者というよりも錬金術のために来たんだしな。


 ララが覚えてくれれば一番いいんだけど、なぜか錬金には全く興味がないようだし。

 そうなるとやっぱりユウナしかいないよな。

 魔力は問題ないとして、錬金術の適性があるかどうか。

 ……ないだろうな。

 考えたり集中したり繊細なことが苦手そうだし。


 一度張り紙で募集してみようか。

 この際、錬金術師じゃなくても希望者ならオッケーにしよう。


 さてと、十八時半になったな。

 食堂も鍛冶工房も受付終了の時間だ。

 まず工房への入り口を閉めよう。

 ユウナはどこにいるのかなっと。


 ん? なんだ、部屋にいたのか。


「なにしてるんだ?」


「杖の魔力安定化なのです!」


「なんだと!?」


「ふぇっ!? なんなのです!?」


「いや、すまん」


「もぉ! せっかくカトレアさんに教わったのに集中できないのです!」


 あまりにタイムリーすぎてつい大きな声を出してしまった。

 ユウナをビックリさせてしまったじゃないか。

 カトレアに教わって杖の魔力安定化をしてるだって?

 ソファに隠れてわからなかったがよく見れば錬金釜を使ってるようだ。

 もしかしてカトレアの手伝いをするために覚えようと思ったのか?


「どうしたんだ急に錬金術なんて始めて」


「えっ? ……やっぱり、自分の杖くらい自分で……メンテナンスしたほうがいいと思ったのです……」


 なんか歯切れが悪いな?

 これは嘘をついてるな?


「……本当は?」


「えっ!? ……鉱石を簡単に取り出せたらなーって思ったのです……ごめんなさいなのです」


 少しでも期待した俺がバカだった。


「で、やってみてどうなんだ?」


「鉱石は無理みたいなのです。なんだかごちゃごちゃしてて訳がわからないのです」


 そりゃいきなりできるわけないだろう。

 こういうのは初級錬金術から始めるもんだ。

 まずはポーションだな。

 それだけでもカトレアはずいぶん助かるはずなのに。


 ……ん?

 鉱石は無理って言ったか?

 鉱石は?


「杖はどうなんだ?」


「こっちのほうがわかりやすいのです! 杖の中に魔力があるから感知しやすいのかもしれないのです!」


「なんだと!?」


「ふぁっ!?」


「出来はどうなんだ? 時間はどのくらいかかるんだ?」


「え……まだカトレアさんほど上手くはできないのですけどなかなかなのです! 時間は……三十分くらいかかるのです。こんなのを数秒でなんて絶対無理なのです」


 今日始めたばかりなんだよな?

 それで三十分でできるんならたいしたものなんじゃないか?

 出来については俺にはわからないからなんとも言えないが。

 練習すればもっと早く、もっといい仕事ができるようになるんじゃないか?

 でもユウナにできるってことは……


「もしかして魔力があれば誰でもできるのか?」


「え……そうなのですか……でもカトレアさんは褒めてくれたのです」


「ララ、どう思う?」


 ララは夕食の準備をしているが、きっと話は聞こえていただろう。

 カトレアとユウナのやり取りも知っているはずだし客観的に見れるはず。


「う~ん、実はさっき私もやってみたんだけどね、私には錬金釜の中の杖どころか魔力すら感じとることができなかったの。まぁ私は魔道士じゃないけどね。でもユウナちゃん並みの魔力量がないとすぐに魔力切れになると思うんだよね。カトレア姉の魔力も凄いしさ。きっとカトレア姉は魔力の感知や収束する技術が凄いんだと思う。それに魔力消費を少なくする方法も知ってるんだよ」


「なるほど。単に魔力があるだけじゃ錬金術はできないのか。じゃあユウナには素質はあるってことだな」


「私素質あるのです!? これができたら役に立つのです!? ここにずっといてもいいのです!?」


 ユウナにもカトレアにも出ていけなんて言ったことないんだけどなぁ。

 むしろいたければずっといてもいいって結構言ってると思うんだけど、どうもユウナは気にするよな。

 過去になにがあったかは知らないが色々不安があるんだろうな。


「あぁ、もちろん役に立つさ。ここに来る魔道士たちはみんなユウナを頼りにするぞ? でもカトレア並みの腕じゃなければお客様の杖を任せるわけにはいかないなー。カトレアも忙しくてストレス抱えてるだろうから、このままじゃいつここを出ていってもおかしくないしな。そうなる前にもう一人錬金術師を探してこようと考えてるんだ。なぁララ?」


「えっ!? ……そうだね~、カトレア姉一人では大変だしね。うん、誰かカトレア姉の補助をできる人を探しましょう!」


 ララも話に乗ってくれたようだな。

 ほら、悩んでる悩んでる。


「……私じゃカトレアさんの補助なんてできないのです……ここにいられなくなっても仕方ないのです」


「「!?」」


 予想してた反応と違う!

 普通は「私がやるのです!」とか言うところじゃないの!?

 素質はあるって俺もララも言ってるじゃん!?

 もしかして杖以外の仕事もできないとダメとか考えたのか?


「ユ、ユウナちゃん? ほら、杖の魔力安定化だけできればいいんだよ? それなら練習すればできるようになるんじゃない? ねぇ、お兄?」


「あ、あぁもちろん杖の魔力安定化の仕事ができる人がいればいいのになぁって意味で言ってたんだよ? でもなかなかいないからなぁ、ララ?」


「え!? う、うん、錬金術師なんてそう見つからないからね! やっぱりユウナちゃんがもう少し練習するのが一番みんなのためになるんじゃないかな? お兄!?」


「!?」


 くそっ、また俺に振ってきたなララのやつ。

 いったいこれ以上どうすればいいって言うんだよ。


「ユウナちゃん、大丈夫ですよ。きっとすぐ上手くできるようになりますから。いっしょに練習しましょう」


「本当なのです!? 私もカトレアさんみたいになれるのです!?」


「……はい、ユウナちゃんは魔力感知に優れてますからきっと得意になりますよ。それにあまり他の錬金術も覚えられると今度は私がいる意味がなくなりますからできれば杖だけにしてもらえますか? ふふっ」


「わかったなのです! 杖の魔力安定化だけマスターしてみせるのです!」


「……ふふ、お願いしますね」


「「……」」


 いつからここにいたのかは知らないが助かった。

 結局カトレアに頼ってばかりだな。


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