第七百四十話 発見
王都から南西の方角にある鉱山に向かって馬車は進む。
やはり鉱山からはブロンズ系の敵がまだ外に出てきているようだ。
だが王都に一直線に向かっていくというわけではない。
そこらにいる魔物と同じように、特に行く当てもなくあたりをうろついてるような感じだ。
ミスリルゴーレムや翼ゴーレムが死んだせいだろうか。
あの二匹の存在がもしかすると鉱山内の魔瘴で生成される魔物パターンになにか影響を与えたのかもしれない。
魔物に設定されてるはずの生息フィールド情報に鉱山の外が加わったのだろうか。
もしくは鉱山というフィールド設定自体が消えたのかも。
帰ったらマリンに話してみよう。
魔石もサンプルとしてたくさん持って帰らないとな。
「この魔物の銅から、剣とかって作れるの?」
御者席に座るミオは手に持ったブロンズバードの死骸を見ながら聞いてくる。
「錬金で不純物を取り除けばな。でも体積はだいぶ減るし、錬金の手間も考えたらわざわざ使う選択肢はない。あくまでウチの場合はだけど。銅や鉄が採掘できない地域だったら価値はあるかもしれない」
「ふ~ん。でも王都の人たちは今後鉱山に入って採掘するのは厳しくなるかも」
「今までの敵に比べたらワンランク上だからなぁ~」
「冒険者にとっていい稼ぎになるかも」
「鉱山内の護衛がか? それとも冒険者が直接採掘するようになるって?」
「どっちも。それに錬金してくれる人がたくさんいるんならブロンズ狩りが流行るかも」
「まぁFランクだから腕に自信が出てきた人ならちょうどいい敵かもな」
「いっそのこと南西の鉱山は封印しなくてもいいと思う」
「はははっ。それなら鉱山に行く手間が省けるな」
「うん」
「うん、じゃないだろ……。王都の外壁の一歩外にこんな敵がいたら危ないだろ……」
「これくらいの敵の対処ができないのなら遅かれ早かれ王都は滅びると思う」
確かに今回のような敵がまたすぐに現れないとも限らない。
今回はたまたまウチの冒険者たちの帰省のタイミングと重なって運が良かっただけだ。
そうでなければ俺たちがこの事態に気付いたときには王都が完全に崩壊したあとだった可能性すらある。
「まぁそれは国王たちが決めることとして、とりあえずは封印だろ。じゃないと俺たちが帰れなくなる」
「そっか」
王都に張る封印結界まで手伝ってたらキリがないからな。
ユウナは元々指導のために残るって言ってたみたいだからあとはユウナに任せよう。
できれば今日の昼過ぎには王都を出たいな。
船で帰れば夜には家に着ける。
でもこの魔瘴の海で、しかもリーヌへ向かう航路は途中荒れるらしいから船を出せるかはわからないけど。
馬車でリーヌ経由になるとしたらさすがに今日中には帰れないか。
そんなこと考えながら周囲を見渡していると、前方の敵を蹴散らしながら周囲を捜索していたピピとタルが戻ってきた。
「チュリ(見つかりませんね)」
「ピィ(暗さと魔瘴で視界が悪いせいもあります)」
「夜中だからなぁ~」
まさか鉱山の中に入るなんて危険なことはしてないよな?
俺の予想では中には入っていない。
封印魔道士を連れて行ったんだから、普通は入り口に封印魔法で壁を作って終わりだろう。
マドのことだからどこかに穴でも掘って隠れてるんじゃないだろうか。
ハリルとワタとマドは穴掘り大好きだからな。
まぁマドの場合は手で掘るんじゃなくて土魔法を使ってだけど。
う~ん、でもこうなったら仕方ないな。
魔物がうじゃうじゃ寄ってくるかもしれないけど、拡声魔道具で呼びかけてみるか。
「アオイ丸、後ろの見張りは頼んだぞ」
「……」
「アオイ丸? おい?」
寝てやがる……。
食事もしっかりと喉を通ってるじゃないか……。
さっきまでマドとコタローが心配とか言って御者席を離れようとしなかったくせに、むりやり休憩させたらこれかよ……。
でも昼から動きっぱなしだったんだから疲れてて当然だ。
騎士や冒険者たちの疲労もかなりあるだろうけど、住民の人たちも疲れてるだろうな。
それに比べたら俺の疲労なんてあってないようなものだ。
こんな真夜中なのに全然眠くないし。
「これで呼びかけてみるから周囲の警戒を頼む。それとマドがなにか合図を送ってくるかもしれないからよく見ててくれ」
ピピとタルは馬車の屋根の上に乗った。
「マド~? どこだ~? 俺の声が聞こえたら魔法かなにかで合図してくれ~」
……反応なしか。
「人間の方、いませんか~? 馬車で迎えに来ましたよ~?」
攻撃魔道士でもなけりゃ簡単に合図なんか送れないだろうけど。
怪我してたりして全く身動きできない可能性もあるしな。
そんな呼びかけをしつつ、馬車は鉱山へ向かってどんどん進んでいく。
「チュリ(もうすぐそこ山ですよ)」
ここまではなんの手がかりも形跡も見つけられなかった。
それもこれも今もまだ鉱山から湧いて出てきてると思われるブロンズ系の敵が悪い。
「やっぱり銅と魔石と銅を貫通したときの音が一番いい」
しかもミオが変な快感を覚えてしまったし。
魔石は回収したいから破壊するなって言ってるのに。
というかいくらミスリルのクナイを使ってるからって簡単に倒しすぎなんだよな。
まるで的当てゲームで遊んでるようだ。
敵も一応Fランクなのに。
「チュリ(クナイ拾うの大変なんですから、正面の魔物だけにしてと言ってください。それよりミオちゃんとララちゃん、どちらが強いんでしょうか)」
それを俺もさっきから考えてた。
でもたぶんララのほうが……ん?
「なぁ、今なんかあそこ光らなかったか?」
「どこ?」
「正面少し左のほうだ」
「チュリ(見てきます)」
ピピは回収してきたクナイをミオに渡してから飛び立っていった。
鉱山が近付いてきたこともあり、馬車の速度を落とすことにした。
ミオとタルは警戒を強める。
そのまま馬車を進めるとすぐに鉱山の入口が見えてきた。
ピピを待つために一旦左に逸れ、馬車を停車させる。
それから数分後、ピピが戻ってきた。
「チュリ(マドとコタロー君を発見しました)」
「なにっ!? 本当か!? マドだけじゃなくコタローもいたのか!?」
「えっ!?」
「見つかったのでござるか!?」
アオイ丸が飛び起きてきた。
「チュリ(はい。ですが……)」
「……ですが?」
「「……」」
ミオとアオイ丸は下を向いてしまった。
ピピのテンションと俺の言葉で状況を察したんだろう。
そうか、間に合わなかったか。
ウェルダンに続いてマドまでも……。
「チュリ(まだ死んでない可能性もありますが……)」
「変に期待させるようなことは言わなくていいぞ」
「チュリ(いえ、発見したというだけで、死んでいるかどうかの確認まではできませんでした)」
「なんで確認しないんだよ? というかどこにいた?」
「チュリ(小さな穴の奥です。マドもコタロー君も横たわっていました)」
「そこまで行ったんならなんで確認しなかったんだよ? 確認するのがこわかったのか?」
「……チュリ(できなかったんです)」
「できなかった? なんで?」
「チュリ(魔物がいたからです)」
「魔物? マドとコタローの近くにか?」
「チュリ(はい。近くというか、マドのすぐ隣に)」
「……まさかマドを食べてたとか言わないよな?」
「「……」」
ミオとアオイ丸は絶句した。
「チュリ(まだ食べてはいませんでしたけど、私が近付こうとしたら戦闘態勢を取られたものですから。せっかく見つけた美味しい獲物を横取りされたくないのかもしれません)」
「早く助けないとヤバいな。ミオ、小さな穴があるらしいからそこを土魔法で広げて中を見てきてくれ」
「え……コタロー君食べられてない?」
「まだ大丈夫だそうだ。だから早くピピとタルといっしょに」
「わかった。どんな敵?」
「ん? そういやどんな敵だ?」
「チュリ(暗くて詳しくはわかりませんでしたが、おそらくなにかの鉱石の体を持ったネコかトラみたいな感じでした)」
「鉱石のネコかトラ? オオカミじゃなくてか?」
「チュリ(ウルフ系には見えませんでしたね。大きさはたぶんボネくらいじゃないですかね)」
「ボネくらいの大きさ? そんなに小さいのか。ならたいした敵じゃないんじゃないか? ……と、大きさだけで敵を判断するのは素人だ。ピピが退いてきたからには理由があるはず」
ミオとアオイ丸は俺の意見に同調するように頷く。
「チュリ(杖を持ってるんです。ウチのリスたちみたいに小さなサイズの)」
「ほう? 魔道士タイプか。杖を持ってるなんてレア魔物かもしれない。ってそれ、マドの杖じゃないか?」
「チュリ(あ、そうかもしれないです……。杖を横にして口にくわえてたんです。戦闘態勢に入ってもそのままでしたから魔道士タイプかと思い込んでました)」
「杖が気に入ったのかな。でも杖をくわえてるんならマドを食べたりする気はなかったんじゃないか?」
「チュリ(あ、そうですよね……。疲れで頭が働いてないのかもしれません……)」
「まぁそれは仕方ない。って早く助けに行かないと」
「じゃあさっき光ってたのは鉱石の体がってこと? 穴からこっち見てたの?」
「ん? その可能性はあるな」
「チュリ(ロイス君の声が聞こえて外に出てきたんじゃないでしょうか)」
「そうかもな。……あ」
「光った」
「光ったでござる」
「チュリ(光りましたね)」
「ピィ(光りました)」
「……誘ってるのかもな。マドとコタローをエサにして俺たち全員を狩るつもりなのかもしれない」
「賢い」
「まさかまたもや厄介な敵じゃないでござるよな……。それかダイフクが言ってたという敵とか……」
「チュリ? (ユウナちゃんたちを待ったほうがいいのでは?)」
「ピィ!? (マドが食べられたらどうするんですか!?)」
どうしたものか……。




