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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第七十四話 錬金釜でインゴット

 鉱山の中を一時間ほど歩き回り、武器を何本か作れそうな量の鉱石を掘削してから家に戻ってきた。

 ララとユウナとゲルマンさんはそのまま鍛冶工房に向かった。

 

 取ってきた鉱石は石炭、錫、銅、鉄、銀、金、ミスリルだ。

 他にも何種類かあったんだが特に使い道もなさそうなのでこれだけにしといた。

 採集袋はこういうときにも役に立つな。

 ダンジョン内で採取できるものなら重さも感じず、量もある程度詰め込める。 

 もちろん俺は鉱石のことはなにもわからないからゲルマンさんが言うものしか取ってきていない。


 錫ってなにに使うの? とゲルマンさんに聞いたら、なんでも銅と錫を混ぜることで青銅という物質になるらしい。

 一般的に売られている銅の剣とかの銅は青銅を使ってることも教えてもらった。

 ただの銅では柔らかすぎて武器にはならないそうだ。


 そして、鉱石を掘っているときに思ったことがある。


 鉱石は岩や石の中に埋まっているため、鉱石を取ろうとするとどうしても周りの岩や石もくっついてくる。

 このまま持ち帰り、鉱石だけを取り出し、さらに武器とかに使用する場合は溶かしたりしてインゴットとかいう塊に加工するらしい。


 うん、これ錬金術なら一瞬でできるんじゃね?


「……おかえりなさい」


「ただいま。見てた?」


「……はい、圧巻の光景でしたね」


「だな」


 俺は採集袋から銅と錫が入った岩の塊をそれぞれ取り出した。


「話も聞いてた?」


「……はい、できると思います。まず岩などの不純物を取り除くことからしてみましょうか」


 さすがカトレアだ。

 話が早くて助かる。


「……あっ! 錬金釜は鍛冶工房に置いてきたんでした……」


「じゃあ俺たちも向こうに行こうか。ピピ! ……いないのか。最近出かけることが増えたな。メタリンいる!?」


「キュ! (はいなのです!)」


「お客が来たら教えて。鍛冶工房にいるから」


「キュ! (了解なのです!)」


 ますますユウナと口調が似てきた気がするけど気のせいか。

 微妙に声も似てるんだよな。


 家の廊下の転移魔法陣から鍛冶工房の休憩部屋に飛んだ。

 するとそこではアイリスさんとおじさんがご飯を食べていた。


「休憩中でしたか。修理のほうはどうです?」


「ん。終わった」


「さすがですね。お疲れ様です」


「……君たちは色んなところから現れるね。あっ、このカレー凄く美味しいよ!」


 この部屋からも注文できるように食堂と繋がる小さな転移魔法陣を設置してある。

 鍛冶はアイリスさんがいないと作業が進められないため、今日のように食堂に行く時間すら惜しいこともあるだろう。

 修理は早くしてあげたいからな。


「それは良かったです。そういやおじさん、鍛冶工房がオープンすること町で宣伝しましたよね?」


「え……あ、うん、ごめん。でも初日から客が少ないと嫌じゃないか? アイリスのためを思ってのことなんだよ」


「ん、お父さん、ロイスはサプライズを楽しみたかったの。冒険者たちもドキドキ感あるでしょ? それに二日も前から宣伝したらみんな町では頼まなくてこっちに集中するに決まってる。だから五時間ぶっ続けで百五十件もこなすことになった」


「あ、そうだな、うん、反省してます。ごめんなさい」

 

 アイリスさんも少し怒っているのかもしれない。

 そりゃあ修理ばかり五時間もやらされたら嫌にもなるか。

 しかも百五十件だって?

 ほぼ来場客数と同じじゃないか。

 このあともまだ来るだろうしな。

 まぁ一度研げばあの仕上がりだと最低でも一週間は大丈夫なんじゃないか?

 俺はそんなに剣を振るったことないから正直予想がつかないけど。

 空いた時間で好きに武器でも作ってもらって息抜きしてもらおう。


「ララたちは来てますか?」


「ん、あっちで鉱石取り出してる」


「あっ、凄いね! ミスリル! ぜひ少し分けて……」


 俺とカトレアは隣の作業部屋へ入る。

 三人は鉱石を叩いて小さく割っているようだ。


「あっ! お兄! 見て見て! ミスリル!」


 ララはミスリルの欠片を指でつまんで見せてきた。


「これをゲルマンお爺ちゃんにネックレスにしてもらうんだぁ!」


「そうか、良かったな。ユウナとカトレアとアイリスさんの分も作ってもらえよ」


「うん!」


 ネックレスくらいならいいだろう。


「じゃあ頼む。まずは青銅とやらを作ってみよう」


「……はい、錫は20%でいいんですよね?」


「あぁ、それを超えると使い物にならないらしいから気をつけてな」


「……わかりました」


 俺はカトレアの指示で錬金釜の中に銅が混じった岩と錫が混じった岩を入れた。

 さすがに重いからな。

 そしてカトレアは魔力を込めはじめた。


「……不純物を取り除くのは簡単ですね、では混ぜます……う~ん、少し銅が多いですね、少し横に置いといて……これくらいかな……万遍なく、うん、たぶんできたはず……えいっ!」


 カトレアが最後に少し多めの魔力を込めると、錬金釜からインゴットと思われる塊が飛び出してきた。

 いつも思うけどこの飛び出してくるの危なくない!?

 鉱石の塊なんて重い物が当たったらケガではすまないかもしれないよ!?


「……ん、重いですね」


「だろうな。ちょっと貸して」


 俺はカトレアの手からインゴットを取ると、ウサータの元へと歩き出した。


「ウサータ、これの成分見てくれる?」


 ウサータは頷き、ここに置いてと言ってきた。

 カウンターの上の魔道具にインゴットを置くと、すぐに数値が表示された。


「錫19%か。どうなんだろこれ? ゲルマンさん! 少しこちらへ来てもらってもいいですか?」


「うん? どうしたんだ? なんだこの魔道具は?」


 すぐに来てくれたゲルマンさんは受付魔道具に興味を持ったようだ。

 そういえばさっきはすぐに移動したからこれは見せてなかったな。


「武器の形状や成分を計るための魔道具です」


「なんと!? 成分がわかるのか!? ……これは銅のインゴットか。成分は……うん、ちゃんとした青銅だな。で、なんの用だ?」


「今カトレアにこのインゴットを作ってもらったので青銅になってるかどうかを確認してもらいたかったのですが、大丈夫なようですね」


「あぁこれは間違いなく青銅だよ。しかも質もそれなりにいい。この魔道具は正しいよ。きれいに混ざってるな。このインゴットはアイリスが持ってきたやつか?」


「え? だからカトレアが今作ったんです。さっき掘ってきた銅と錫を使って」


「ほぇ? なにを言ってる? お前たちが来たのはついさっきじゃないか? こんな短時間で作れるわけないだろう。年寄りをからかうのもいい加減にしろよ?」


 実際に見てもらったほうが早いか。


「カトレア、今度は錫18%でやってみようか」


「……わかりました。次は成功してみせます」


 先ほどと同じように俺は銅と錫が混じった岩を二つ錬金釜に入れ、カトレアは魔力を込める。


「……うん、今度は大丈夫……ほいっ」


 すると中から青銅のインゴットが飛び出してきた。

 今度はそれを俺が受け取り、すぐに魔道具の上に乗せた。


「……錫18%。さすがの調整だな」


「……ふふふ、このくらい朝飯前です。でも今日はもう無理そうです」


 ゲルマンさんを見ると、驚きすぎて声が出せないようであった。


「こんな感じなんですがいかがでしょう?」


「……へ? ……あぁ、よくわかった。もしかしてこの魔道具を作ったのもカトレアの嬢ちゃんなのか?」


「もちろんです。ウチでこんなの作れるのカトレアしかいませんしね」


「いや、てっきりコアのやつが作ったと思っていたものだからな。でも目の前で見てはっきりしたよ。この魔道具の成分を計る技術と今の錬金術による調合は同じものだろうからな」


 え? そうなの?

 でも言われてみればそうか。


「ついでにこのミスリルも加工してもらっていいか?」


「いや、カトレアは少し疲れてますので今日は無理です。すみません」


「そうなのか。でも普通はインゴットの錬金には数時間かかるんだぞ」


「そんなにですか!?」


「あぁ、時間と魔力を使うらしいから結構高いしな。それなら多少手間が掛かろうとも自分とこでやろうと思う鍛冶屋がほとんどだよ。儲けが出ないからな。それがこんな一瞬だなんて……。ウチにも錬金術師欲しいな」


 そう、カトレアは凄いんだ!

 いくらゲルマンさんに頼まれても絶対にあげないからね!

 そもそも物じゃないからな!


「……すみません、明日以降でしたら大丈夫なので後日お届けしましょうか?」


「本当か!? そうしてくれると助かる。じゃあ今週アイリスが帰ってくるときにいっしょに頼むよ。悪いな」


「……いえ、私も勉強になりますので」


 こんなことができるのにまだ勉強だって?

 向上心の塊だな。

 俺とは大違い!


「カトレアちゃん! 受付魔道具もカトレアちゃんが作ったんだって!?」


 いきなりおじさんが話に加わってきた。

 もうご飯は食べたのか。

 アイリスさんも来たようだ。


「……え……そうですけど」


「これの成分計る機能凄いよね!? それとこのタグだっけ? これも便利でいいよね! もう一台作れたりしない? ウチでも取り入れたくてさ! どうかな?」


「え……」


 なんか今日のおじさんはやっぱりいつもと少し違うな。

 なんというかテンションが高すぎる。

 ダンジョンに来たのは初めてだから仕方ないのか。

 敵と戦ったわけではないけどな。

 カトレアが助けを求めるような目で見てくるから間に入るとしよう。


「おじさん、この魔道具を凄いと思ってくれたんなら作るのがそんなに簡単じゃないことはわかりますよね? だから申し訳ないんですけど難しいです」


「それはもちろんわかるけど……こんな魔道具があるとわかったら自分の目に自信が持てなくなるような気がしてさ」


「魔道具を使えばそれこそ自分の目に頼らなくなるんじゃないですか? ウチで使ってるのはウサギがスムーズに受付をすませるためですから」


「そうなんだけど……」


 おじさんは黙ってしまった。

 そんな簡単にこの魔道具を譲るわけにはいかないし、それをカトレアが望んでいるとも思えない。

 ゲルマンさんもなにも言ってこないから俺が間違ってるわけではないのであろう。


「……ロイス君、私はいいですよ」


「はい?」


「えっ!? 本当かい!?」


 本気で言ってるのか?

 さっきのゲルマンさんのミスリルといい、なんだかカトレアもいつもと違うな。

 俺の意見に抵抗するようなことはあっても反対の行動を取ることは今までなかったのに。 


 するとカトレアは微笑んで頷いてきた。


 …………そうか。

 ゲルマンさんやおじさんのためじゃなくて、俺のためか。


 俺がゲルマンさんに世話になってることを町に行ったときからカトレアは知ってるもんな。

 そして俺がなにかしてあげれないかと考えていることも知っている。

 そのために鍛冶工房の売り上げの一部を鍛冶屋に渡すことも向こうは望まないといえど考えていた。


 それを全てわかったうえで、これが鍛冶屋のためになり、俺からの恩返しの意味も込めることができるとカトレアは思いついたんだろう。


 はぁ~、本当カトレアはみんなのことよく見てるよな。

 そしてなにも言わなくても俺がカトレアの考えに気付くこともわかってる。


「おじさん、今はカトレアの魔力と体力が底を尽きそうなのですぐには無理ですから来週でもいいですか? お店で使えるようにするには少し改良を加えたりもしないといけませんからね」


「いいのかい!? ありがとう! 代金はいくらでも払うよ!」


「代金はいりません。材料はウチにあるものを使いますし、カトレアの勉強も兼ねてますからその実験台になってもらうとでもお考えください」


「ロイス君……うん、わかったよありがとう。困ったことがあったらいつでも言うんだよ」


 なぜだかおじさんが泣きそうになっている。

 今泣くような発言なかったよね?

 タダが嬉しいのか?


「ロイス、いいの? カトレアが大変だよ……」


「大丈夫ですよ。カトレアの凄さが知ってもらえてウチのみんなは嬉しいですし。それにアイリスさんにはこれからも鉱石のこと教えてもらわないといけないですしね」


「ん、ありがと。私も頑張るから。ミスリルでなにか作りたいね」


 ゲルマンさんは一連の様子を終始笑顔で見守っていた。

 この人寡黙なんだからな?


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