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第七百三十八話 二人が揃えば

 ユウナが土の中から這い出てきた。

 ララを乗せたダイフクは慌ててユウナに駆け寄る。


「ユウナちゃん! 生きてたんだね!」


「死ぬわけないのです。でもハリル君がいなかったらヤバかったかもなのです」


「土の中に隠れてたってことだよね!?」


「そうなのです。ハリル君は穴掘りの達人なのです」


「ホロロ!」


「もちろんワタちゃんもなのです」


 二人に会えたことがよほど嬉しいのか、ユウナの周りをグルグル飛んでいるワタ。


 ユウナはローブについてた土を一通り払い、フードを脱ぐ。


「詳しい話はあとなのです。向こうから殺気がプンプン伝わってきてるのです」


 もちろんワタ以外は誰一人としてミスリルゴーレムや周囲への警戒を怠ってはいない。


 ハリルは相変わらず土まみれの姿で先頭に立っている。

 そのすぐ斜め後方の上の位置にダイフクの顔。


「……ハリ?」


 前を向いたままダイフクに話しかけるハリル。


「ニャ~」


「……ハリ」


 ハリルは後ろ向きに歩き、ララとユウナ付近まで下がってくる。


「ハリ?」


「ピィ」


 どうやらマカと挨拶をしているようだ。


 ララは横目でハリルの顔を見る。

 ハリルもララの目をジッと見返す。


「あ、思ってたより可愛い」


「ハリ……」


「だってお爺さんって聞いてたんだもん。もっとシワシワかと思ってた。って土まみれだからちゃんと見てみるまでまだわからないか」


「……」


 悲しそうなハリル。


「ララちゃん集中してなのです」


「ごめんごめん。なんだか気が抜けちゃって。これでもさっきまであいつにビビりまくってたんだからね? で、今の状況わかる?」


「たくさんいた敵をララちゃんたちが倒して、そのあとにあいつが封印結界を力で破壊したって感じなのです?」


「うん、完全にそれ。でもあんな簡単に破壊できるんなら、なんでもっと早く外に出なかったんだろうね」


「力を使いたくなかったからなのです」


「あ、そういうこと? 力って魔力のことだよね?」


「そうなのです。あいつは最初のほうは内側から何度も攻撃して破壊しようとしてたのです。でもそれが無理だとわかると、今度は一発ずつの大きな打撃を加える方針に変更したのです。そしてその間隔はどんどんあいていき、それに比例するように威力は上がっていったのです」


「一撃に使う魔力量を増やしていってたってこと? さっき見た感じだと魔力を拳にだけ集中させてるような感じはしなかったけど。ということはこの短時間で魔法の技術をかなり成長させたってことかな?」


「たぶんそうなのです。魔法だって最初は使えなかったはずなのです。おそらく知性派のボスなのです。周りの魔物もあいつの言うことを聞いているかのような感じで急に全員が襲ってきたのです」


「統率型って言うらしいよ。こういう敵に一番多いタイプなんだってさ」


「へぇ~なのです。で、倒せるのです? 性格を考慮しなければBランクの魔物ってところなのです」


「性格を考慮したら?」


「Cランクなのです」


「あ、下がるんだ。まぁシャルルさんでもいい線いったみたいだしね」


「むむ? シャルルちゃんも成長してるのです」


「そうだよね、ごめんね。でも私も成長してるから」


「でも言ってもCランクの敵相手に本当に勝てるのです?」


「そりゃ一対一ならたぶん無理だよ。でもダイフクがいるし、それにユウナちゃんもいるもん」


「もうこわくないのです?」


「さっきの封印結界を破壊したときほどの強さの攻撃はもうしてこないだろうしね~」


「それでも周りにいた雑魚敵とはレベルが格段に違うのです。急にあのときのことを思い出して動けなくなるかもなのです」


「今それ言う? もう大丈夫だって。それにダイフクに乗って戦う安心感って凄いんだよ?」


「安心感はあるかもしれないのですけど、できる行動は制限されるのです。特に剣には影響が出てそうなのです」


「完全には否定しないけどさぁ~。まぁとにかく見ててよ。無理そうなら二人がかりでまた封印結界の中に閉じ込めようね。あ、その前に補助魔法お願い。力と素早さ」


「了解なのです」


「マカはユウナちゃんといっしょにいて」


「ピィ」


 マカはダイフクから降り、ユウナの後方警戒に徹するようだ。


 そしてユウナはララとダイフクに力上昇と素早さ上昇の補助魔法をかけた。


「ニャ~」


「効くね~。剣も軽く感じるし、体も軽い」


「んん? その剣、見慣れないのです」


「新作だもん。まだ私用とお兄用の二本しかないみたい。だからまだテスト中って感じかな。カッコいいでしょ?」


「黒にも見えるし赤にも見えるのです」


「なんかね、ナミの火山のマグマが冷えて固まったやつとミスリルを合成したんだってさ。ミスリル単体よりは重いけど、硬度は上がってるし、なによりマグマって言うだけあって火属性と相性がいいみたい」


「へぇ~なのです。じゃあ火魔法を使った魔法剣として戦うのです?」


「うん。そこはアイリスさんもかなりこだわったみたい。もちろんカトレア姉もね」


「楽しみなのです。……でもあまり待たせるのも悪いのです」


 さっきから無言で待っているミスリルゴーレム。


「いまさら? 詳しい話はあとって言ったのユウナちゃんのほうなのに。でもこれだけ待ってくれてるんだからそんなに悪い魔物じゃないのかもね。まぁ魔力を少しでも回復させたいのかもしれないけど」


「ニャ」


「はいはい。ダイフクの睨みのおかげだね。あ、そうだ、ダイフクの右後ろ足に回復魔法かけてあげて」


 そう言いながらララはダイフクにまたがる足の位置を少し浅めにして座りなおした。

 ユウナはダイフクに回復魔法をかける。


「ニャ~~」


「治った? じゃあ今度こそ戦闘準備。最初の一歩が肝心だからね?」


「ニャ」


 ダイフクは重心を低くする。

 ララはそんなダイフクの頭を優しく二回ポンポンと叩いた。


「信じてるからね?」


「ニャ」


 ララは剣を持つ左手をピンと伸ばし、左下段に構えた。

 右手ではダイフクの服に付いている取手をしっかり握り、自身の重心も低く構えた。


「お待たせ」


「……グガァ」


「ちょっとは魔力回復できたからいいでしょ?」


「……グガァ?」


「ニャ~」


「……グガァ」


 ミスリルゴーレムも戦闘態勢を取った。

 両者間の距離は7メートルほど。


 どちらも動かずに、しばし睨み合いの時間が流れる。


 そして二十秒ほどが経過したときだった。


「ニャ~!」


 叫び声とともにまずダイフクが動いた。

 低い体勢のまま突っ込むが、元々の体が大きいダイフク。

 ミスリルゴーレムはそんなダイフクに対し、得意の右拳で殴りつけることを選択した。

 封印結界を破壊したときのような大振りをするのではなく、コンパクトな一撃のようだ。


 だがダイフクは二歩目で少し右に、ミスリルゴーレムから見て左に位置取りを変えた。

 それをミスリルゴーレムは、自身の右拳による攻撃を警戒して、半歩前に出している左足を狙ってくるものだと直感した。


 だがそれこそミスリルゴーレムの作戦だった。

 ミスリルゴーレムは最初から右足での蹴りによる攻撃を狙っていたのだ。

 最初の右腕の動作はフェイクで、すぐさま右足での攻撃に切り替えていた。


「?」


 だがそこでミスリルゴーレムはなにか違和感を感じた。

 その違和感を感じた直後、ミスリルゴーレムから見たダイフクはさらに左に位置取りを変えていた。

 それを見てミスリルゴーレムは右足での攻撃を途中でやめた。


 左足が狙いじゃないのか?

 いったいなにを狙っている?

 陽動か?

 じゃあ本命の攻撃は人間か?

 あれ?

 あいつどこいった?


 ミスリルゴーレムは様々な疑問を感じ始めていたが、ダイフクはそのまま左を駆け抜けていった。

 なにひとつ攻撃をせずにだ。


 ミスリルゴーレムはダイフクの動きを追うために、慌てて体を左側に回した。


「?」


 だが視界に異変が起きた。

 左を見たつもりがなぜか地面を見ている。

 頭が重くて言うことをきかない。

 やはりこれはなにかされたに違いない。

 あの人間か?

 どこいった?


 頭はどんどん重くなり、視界の中の地面がどんどん近付いてくる。

 そしてついには頭が地面にぶつかった。


 倒れたんだ。

 体が言うことをきかない。

 あいつか?

 魔道士ってやつか?

 なにをした?

 毒か?

 ん?

 空か?

 いつのまに仰向けになった?

 ダメだ。

 体に全く力が入らない。


 ミスリルゴーレムの瞳には町からの光によってぼんやりと照らされた空が映る。

 その視界に突如として人間が割り込んできた。


 さっき地面から出てきたあの人間だ。

 俺を封印結界とかいうやつに閉じ込めたあいつだ。

 なにもできない俺にとどめをさすつもりか。


「……まだ生きてるのです? 話せるのです?」


「……」


 声すら出ない。

 俺はもう終わりだ。


「念のために封印結界作っておくのです」


 またあの結界か。

 こんな状態じゃもう出ることは不可能だろうな。

 というか早く殺せ。


「これで良し、なのです。向こうはこわいからララちゃんに任せるのです」


 向こうがこわい?

 なんのことだ?

 あの魔物に乗ってた人間、ララちゃんって言うのか。

 いったいいつどこに消えたんだ。


「ハリ? (生きてるの?)」


「ピィ? (まさか?)」


 こいつらか。

 魔物のくせに人間の仲間になんかなりやがって。


「マカちゃん、ハリル君、気を付けるのです。まだ目が動いてるのです」


「ハリ(なんで動くの……)」


「ピィ(こわいこわい……)」


 目なんだから動いて当たり前だろ。

 ……でも確かに目しか動かないからな。

 目だけ動いているのが不思議で当然かもしれない。


「ホロロ?」


 こいつも魔物だよな?

 言葉が話せないのか?

 なのになぜ人間といっしょにいる?


「ララちゃん、そっちはダイフク君に任せて早く来てなのです!」


「うん」


 向こうになにがあるんだ?

 別の魔物でもいたのか?

 またあいつが俺を助けに戻ってきたのか?


「ララちゃんは大丈夫なのです? フラフラしてるのです」


「ちょっとヤバいかも。それよりどう?」


「目だけが動いてるのです」


「こわっ……。凄い生命力だね……」


「でも目もだんだん閉じていってるのです」


 なんだと?

 ……確かにぼやけてきたような感じはするな。


「そっか。……ねぇ、最期になにか言っておくことある?」


 そうか、死ぬのか。

 この様子だととどめをさすまでもないってことだな。

 いったいどんな攻撃を受けたんだろうか。


「ニャ~? (さっき言ってたこと、本当?)」


 こいつ、こんなに強いのになんで人間に従ってるんだ?


「ニャ~? (本当なら僕が一度確かめてくるからさ?)」


 確かめるだと?

 お前たちのような魔物か、俺みたいな魔物かってことをか。

 好きにすればいい。

 どっちみち俺はもう……終わ……り……。


「……グ(あぁ)」


「「「「!?」」」」


「ニャ~(わかった。今度は味方としていっしょに戦おうね)」


「……」


 そしてミスリルゴーレムの瞳から光が失われた。


「ふぅ~、終わったのです」


「気持ち悪い……」


「魔力使いすぎなのです。残党狩りはダイフク君たちに任せて休んでるのです」


「うん……」


「ララちゃん」


「なに?」


「おかえりなのです」


「……どっちの意味? 旅から帰ってきたから? それとも……」


「両方なのです」


 ユウナはララを優しく抱きしめた。

 ララも少し遅れて、弱々しい力で抱きしめ返す。


「……ただいま、ユウナちゃん」


 二人の熱い友情とともに、ミスリルゴーレムとの戦いは終わりを告げた。


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