第七百三十七話 ミスリルゴーレムとのご対面
ララの火魔法と風魔法を受け、瀕死状態の敵の魔物たち。
それでも襲いかかってくる魔物たちをダイフクは猫パンチで破壊していく。
そしてついに襲ってくる敵がいなくなった。
いよいよ封印結界の中にいるであろう人物に会える。
同時にミスリルゴーレムと対面することにもなりそうなのは少し置いといて、ララはユウナに会えることが楽しみだった。
なんせ二か月以上ぶりだ。
だが目の前の光景にララは自分の目を疑った。
ユウナがいると信じて敵を倒し続けてきたのに、そこにあったのはミニ大樹の柵とミスリルの塊だけ。
ララは絶望しつつも、確認するためにダイフクから降りた。
「……嘘だよね?」
「ホロロ?」
動揺が混じるララの言葉に、ダイフクとマカはなにも答えられない。
「……右の封印結界の周りを魔道線で巻いて、その魔道線の端を左のミニ大樹の柵に結んでる。柵の周りにも封印結界があるけど、柵と魔道線を保護するためだけって感じ」
ララは封印結界が見えていないダイフクのために説明する。
「ニャ~」
「え? 見えるの?」
「ニャ」
「……そっか。元々体内に魔石は存在してるんだし、魔力が全くないってわけじゃないんだね。ただ魔法が使えないってだけか。そうだよね。魔物だもんね。もしかしたらマナの力のおかげかもしれないけど」
「……ニャ~?」
ララが明らかに無理をしているように感じたダイフク。
「うん、大丈夫。覚悟はしてたから。……それよりミスリルゴーレムだよね」
悲しみを振りきるために必死に取り繕うララ。
動かなければただの大きなミスリルの塊にも見えるミスリルゴーレムはその場に座っていた。
「……寝てる? 死んではないよね?」
目は閉じられており、微動だにしないミスリルゴーレム。
ララは再度封印結界を確認することにした。
「……両面魔物タイプか。よく見たら地面に魔石か鉱石かの破片を撒いて魔法の効力を上げてる。これだけ時間が経ってもまだ効力を保ててるもん。これを破壊できる魔物はいないんじゃないかな。間違いなくユウナちゃんの魔法。さすが……ユウナちゃん」
ララの目から涙が零れ落ちる。
「グガァ?」
「「「「!?」」」」
突然聞こえてきた声に、反射的に封印結界から離れるララたち。
そして同時に戦闘態勢を取る。
「……私の言葉、わかるんだよね?」
「グガァ」
「……あなたを閉じ込めた人間の女の子、死んだの?」
「グガァ」
「……ピィ」
マカは首を斜めに傾げた様子をララに見せる。
ララはそれを、ミスリルゴーレムは知らないと言ってるんだと判断した。
「グガァ?」
「……ピィ」
「ニャ~」
ミスリルゴーレムとなにやら会話をするマカとダイフク。
そしてついに、ミスリルゴーレムが立ち上がった。
「グガァ」
「……出せって?」
マカは頷く。
「……」
ララの体に震えが走る。
武者震いなどではない。
想像してた通りの外見、大きさだったミスリルゴーレム。
だがここまでの威圧感を感じることまでは想像できていなかったのだ。
「……ふぅ~」
ララは大きく深呼吸をした。
そしてダイフクやマカの顔を見ながら、どうすべきかを考える。
さっきまで平静だったはずのダイフクも自然と息遣いが荒くなっている。
本当は今すぐ逃げ出したいのかもしれない。
「……や~めた」
「グガァ?」
「だって出られないんでしょ? ならわざわざ出してあげる必要ないもん」
「……」
「でもここにずっといられるのも迷惑なんだよね~。一応聞いとくけど、人間の仲間になる気はある?」
「……グガァ」
「ピィ」
マカは首を横に振る。
「だよね~。じゃあ残念だけど、死ぬまで一生ここにいてもらうことになるかも」
「……」
「あ、この結界を破壊できるなんて思わないほうがいいよ? なんならまだまだ強化できるからね?」
「……グガァ」
「ニャ?」
「ピィ?」
「ん? なんて? ……え?」
ララには言葉がわからなくても、ダイフクとマカが明らかに動揺していることはわかった。
その後も会話を続ける魔物たち。
ダイフクとマカの表情はますます曇っていく。
そして……。
「ニャ~!」
「えっ!?」
突然ダイフクが叫んだ。
そしてララに早く背中に乗るように促す。
「なになに!?」
ララは意味が分からないままダイフクに乗る。
するとダイフクは封印結界からさらに距離を取った。
改めてミスリルゴーレムを見たララは、そこでようやく意味を理解する。
「……嘘」
ミスリルゴーレムの体の周りは魔法の膜で覆われていた。
紛れもなく身体強化魔法による膜であり、ララも普段から活用する力強化系の魔法であった。
だがミスリルゴーレムが身体強化魔法を使うこと自体はピピから聞いていたことでもある。
それでも驚いているのは、今ミスリルゴーレムが使っている魔法がララのものよりも遥かに強力だったからだ。
再度震えに襲われるララ。
このあとのミスリルゴーレムの行動が想像できたからかもしれない。
ミスリルゴーレムは後ろに二歩ほど下がりながら、右腕を体の後ろに持っていく。
そして軽く助走をつけるようにして前に進み、右拳で封印結界を思いっきり殴りつけた。
「「「「……」」」」
案の定、封印結界は破壊された。
封印結界全体が一瞬にして消え去ってしまったのはララの想像以上だったかもしれない。
右腕を回しながらゆっくりと近付いてくるミスリルゴーレム。
「グガァ?」
ゴーレム特有の顔のせいか表情から真意は読み取れない。
だが戦う気満々で近付いてくるのはわかる。
「……ダイフク……無理?」
「ニャ、ニャ~……」
心配そうに話しかけるララに対し、ゆっくりと後ろに下がりながら弱々しい声で答えるダイフク。
「ピ、ピィ!」
弱気のダイフクにマカが活を入れる。
マカはララと背中合わせの状態でダイフクの後方を警戒中ではあるが、やはりミスリルゴーレムの恐怖からかララの背中に預ける力が強くなっている。
ワタはダイフクの服の中へ完全に隠れてしまった。
するとミスリルゴーレムがとまった。
それに合わせダイフクもとまる。
「グガァ」
「……ニャ~?」
またしても会話する魔物たち。
するとミスリルゴーレムが町のほうを向いた。
そして外壁へ向かって歩き始めた。
「……ニャ?」
このままでは封印結界ごと外壁が破壊されてしまう。
ダイフクはララに判断を委ねることにした。
「……やるしかないみたい」
「……ニャ~」
ダイフクは重心を低くし、足に力を入れ、戦闘態勢に入った。
ララはいくつかの身体強化魔法をかけなおした。
そして剣を握る右手の力を強める。
そのときだった。
「ハリー!」
そんなに遠くはないであろう場所から大きな声が響いた。
「なんの声?」
「ニャ?」
「ピィ?」
「……ホロロ!?」
声の主を探すララたち。
ワタはダイフクの服の中から顔を出した。
「ハリー! ハリー!」
「ホロロー! ホロロー!」
何者かの叫び声に呼応するかのように声をあげるワタ。
「……あ」
そしてついにその声の主を目に捉え、驚くララたち。
なんといつのまにかミニ大樹の柵の傍に奇妙な動物がいるではないか。
どうやらその動物はミスリルゴーレムに向かって叫んでいるらしい。
ミスリルゴーレムも足をとめ、後ろを振り向きその奇妙な動物を見ている。
「ホロロ!」
「あっ!? こらっ!」
ワタはダイフクの服を抜け出し、奇妙な動物の元へ向かって飛び立っていった。
「ハリッ!?」
ワタを見て驚く奇妙な動物。
ワタはそのまま顔に抱きついた。
「……たぶんあれがハリルだよね?」
「ニャ~?」
「ピィ……」
三人ともハリルと会うのは初めてだった。
ハリルの体中が土まみれのせいで、今の外見からはマグマハリネズミかどうかはわからなくなっている。
するとワタがハリルの足元付近に降りた。
そしてなぜか地面を掘り始める。
ワタによって堀り出された土が宙を舞う。
その様子を不思議気に眺めるララたちとミスリルゴーレム。
一方、ハリルは勇敢にも一歩踏み出し、ミスリルゴーレムと対峙した。
絶対にワタの穴掘りは邪魔させないとばかりに。
だがその穴掘りも早々と終わったようで、土の舞いはやんだ。
ワタは土の中に隠れて顔を出さない。
次の瞬間、穴の中から白くて丸い物体がひょっこりと現れた。
そして白い物体はララたちのほうを向く。
「えぇっ!?」
ララは白い物体を見て驚く。
「あ、仮面のヒーローなのです。やっほーなのです」
なんと穴の中から出てきたのはフードを被ったユウナだった。




