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第七百三十五話 猫乗り少女、戦闘開始

 アイアンゴーレム。

 アイアンウルフ。

 アイアンバード。

 ほかにもブロンズ系の魔物が多数。

 さらに元々王都周辺に生息していたと思われる弱そうな魔物が少し。

 とにかく、とんでもない数の魔物の集団ができている。


 その魔物たちの行動がユウナを殺すためか、ミスリルゴーレムを助けようと封印結界を破壊するためかはわからないが、奇妙な光景であることは間違いない。


「マカ、私の死角から来る敵の対処は全部任せたからね? 主に前方以外全部」


「ピィ……」


「なに? 無理なの? 暗いからさすがに大変?」


「……ピィ」


「タルがいないんだからマカだけでやってもらうしかないでしょ。ワタを戦わせるわけにもいかないし」


「ホロロ!」


「だ~め。まだ危ない。もしダイフクから落ちるようなことがあればしばらくご飯抜きだからね? まぁ落ちた時点で敵に殺されるだろうけど」


「ホロロ……」


「うん、わかればいいの。じゃあダイフク、もう少し近付いてみて」


「ニャ~」


「……まだ誰もこっちに気付いてないのかな? この状態で攻撃したら卑怯者とか言われたりしない? でも気付かないほうが悪いよね?」


「ピィ~」


「そうだよね? じゃあ始めるからね? あの真ん中にユウナちゃんとミスリルゴーレムがいるはずだから、一応封印結界を破壊しないように気を付けないと」


「ピィ!」


「あ、来た? ……アイアンバードか。よく見たらツバメっぽくない?」


 正面上空から向かってくる敵数体に対し、ララは右手に持つ杖から火魔法を放った。

 そして敵は呆気なく灰となった。


「ピィ~」


「火が大きい? 魔力の無駄遣い? でも避けられるよりマシでしょ?」


「ピィ!」


「あ、さすがにこっち来るか」


 火魔法に気付いた他の魔物たちが狙いをララに定める。

 地上からはアイアンウルフ、空からはアイアンバードたちが一斉に襲いかかってくる。


 ララとマカは火魔法で応戦する。


「ダイフク、左」


「ニャ!」


 ダイフクは進路を左に変え走り始めた。


「そのまま周りを回るように走って!」


 時計回りに走るダイフク。

 ララは右手の方角から襲ってくる敵に対し火魔法を連発。

 マカは左の暗闇の中から来るであろう敵に注意を払う。


「鉄が山積みって感じ! ダイフク! とりあえず一周回ってみて!」


「ニャ~!」


 速度を上げるダイフクに、アイアンウルフたちは付いてこれない。

 ララはアイアンゴーレムがうじゃうじゃいる鉄の山や、上空のアイアンバードに向かって火魔法を打ち続ける。


 そのときだった。

 鉄の山の中でなにかがキラリと光るのがララの目に映った。


「ジャンプ!」


「ニャ!?」


 ララに言われ咄嗟にジャンプするダイフク。


「ニャーーーー!?」


 だがジャンプするのがほんの少し遅く、鉄の山の中から放たれた魔法がダイフクの右後ろ足に命中した。


 ダイフクは着地のバランスを崩し、危うくこけそうになる。

 その場に立ち止まり顔をしかめるダイフク。

 足からは血が流れている。


 ダイフクがとまったことでアイアンウルフやアイアンバードが襲いかかってくる。

 それをララとマカは火魔法の威力を上げて対処する。


 そしてララは右手に持っていた杖をレア袋にしまい、剣を取り出した。


 すると鉄の山の中からなにかが飛び出してきた。


「ダイフク! 左!」


「ニャー!」


 ダイフクは痛みをこらえ、鉄の山から遠ざかるように走り出した。

 だがダイフクにいつもの速さはない。

 すぐに追いつかれると判断したララは敵と戦うことを選択する。


「ダイフク! どこかで休んでて!」


「ピィ!?」


 ララは片手でマカを抱え、ダイフクから飛び降りた。

 そして着地と同時にマカを地面に降ろす。


「来るよ!」


 ララがそう言った瞬間、敵はララに飛びかかってきた。


 ララは敵の前足による攻撃を剣で受け、そのまま斜め後方に受け流す。


「かたっ! これってミスリル!? じゃあミスリルウルフ!?」


 敵はすぐに向きを変え、再びララに襲いかかってくる。


 しかし、突如としてその敵の上に大きな物体が現れた。


「ニャーー!」


「あっ!? こらっ!」


 なんと敵の後ろから大きなジャンプでやってきたダイフクが前足二本で敵の頭を殴り、地面に叩きつける。

 そのまま体全体で覆い被さるようにして敵に乗っかり、敵の動きを完全にとめてしまった。

 敵の頭部分は地面の土に完全にめり込んでおり、敵はピクリとも動かない。


「……死んだ?」


「ニャ~」


「……ほかに敵は追ってこないみたいね」


 ララはまず鉄の山のほうを確認した。


 そしてダイフクは横に移動する。

 地面にめり込んだ敵の頭はいくつかの塊に分かれているようだ。


「今の一撃で死んじゃうんだぁ~。ミスリルウルフならDランクかCランクくらいはありそうなのに。まさかこいつがボスじゃないよね? でもこれをゴーレムとは呼ばないか」


「ニャ~!」


「はいはい。ダイフクのほうが強いのはわかったから。でも怪我してるのに無理しちゃダメでしょ? 傷口が広がったらどうするの? ほら、まだ血が流れてるでしょ?」


「ニャ!」


「ピィ!」


「ホロロ!」


「え? みんなして私のせいって言うの? 私が負けると思った?」


「ニャ~」


「ピィ~」


「ホロロ~」


「そうじゃないって? 心配してくれたの? これくらいの小さめの敵ならもう大丈夫だから。でも一応念のためにマカを連れて飛んだでしょ」


「ホロロ!」


「……ワタ? みんなのマネして調子に乗ってると怒るよ?」


「ホロ……」


 ワタは下を向きシュンとしてしまった。


「まぁ確かにこいつは強そうだったけど。だって私の剣を避けるために咄嗟に体を捻ったもん。相手の力量を見極められるのは強くて賢い魔物の証拠ね。あのまま突っ込んできてたら確実に真っ二つにできてたはずなのに、たぶんそれを右前足一本を犠牲にしてでも避けようとしたんだよ? おかげで私のほうが少し動揺しちゃって、結果的に私が避けちゃったみたいに見えなかった?」


「……ニャ~」


「ピィ~」


「正直に言っていいって。だからダイフクも焦って助けに入ってきてくれたんでしょ? ありがと。でもやっぱりミスリルって硬いね。この剣が負けるとは思わないけど、気を抜くと折られるかも」


「ニャ~」


「はいはい。ミスリルを破壊できるダイフクは凄い凄い」


 ララに褒められてダイフクは満足気だ。


「それより手当て。マカ、足お願い」


 ララはダイフクの口からポーションを飲ませる。

 マカはダイフクの足の血を水で洗い流し、傷薬を塗る。

 ワタは怯えて俯き加減になりながら、ララの顔色を窺っている。


「よし、終わり。マカ、敵の回収しといて。お兄が喜ぶから」


 回収が終わり、再びダイフクに乗るララとマカ。


「さて、様子見はもういっか。面倒だから一気にやっちゃうね」


「ピィ」


「ん? なに?」


 マカは敵の集団の左、町の外壁のほうを指さしている。


「あ。……たぶん死んでるね」


 地面には人間の遺体が数体転がっている。


「あの人たちも今のミスリルウルフにやられたのかも。さっきの攻撃魔法の威力とあの速度でああやって飛びかかってこられるとウチのEランク冒険者たちでも厳しいだろうし。まぁそれ以前にアイアン系の魔物でも厳しいかも」


「ピィ」


「うん。あとで回収してあげようね。できるだけあそこに被害がおよばないようにしないと。でもその前に、最優先するのは自分の身の安全だからね? ワタ、もし私たち三人が死んじゃっても、カタキを討とうなんて思わずに自分だけでも逃げないとダメだよ?」


「ホロロ!」


「ダメ。空飛んでお兄のとこまで逃げるの。わかった? わからないって言うんならここに封印結界の檻作って閉じ込めるけど?」


「……」


 ワタはダイフクの服の中から外に出た。

 そして寂しそうな目をしてララに近寄ってくる。

 ララはそんなワタの頭を優しく撫でる。


「ホロロ」


「うん。いい子。お兄に伝えることも大事な役目だからね。まぁ負けるわけないからそんなことにはならないけど。ほら、戻って」


 ララはダイフクの服の中にワタの体半分を押し込んだ。


「じゃあ今度こそ行こっ。ダイフク、出発」


 ダイフクはゆっくりと歩き始めた。

 ララの左手には炎が宿る。


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