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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第七百三十三話 仮面の英雄

 王都北西部。

 外壁からほんの30メートルの距離まで魔物の大群が迫っていた。

 だが今はその魔物たちが外壁を襲う気配は全くと言っていいほどない。

 外壁に近い魔物たちはなぜか背中を向けているからだ。


「鉄の魔物たち、どんどん増えてきてるぞ!」


「さすがにもう限界じゃないか!?」


「封印魔道士! あの封印結界はまだ持つのか!?」


「またその質問かよ! 俺たち程度の魔法じゃとっくに破壊されて終わりだって何度も言ってるだろ! ユウナちゃんを信じてその間に早く対策を考えろよ!」


「なんだその偉そうな口は!? こんな敵相手になにをどうしろって言うんだ!? 大樹のダンジョンのEランク冒険者たちでさえ何人も死んでるんだぞ!?」


「それはお前たちが助けに入らなかったせいだろ!? 勇敢な冒険者たちを見殺しにしたのはお前たちだからな!?」


「やめてください! 今は言い争いなんかしてる場合じゃないでしょ!」


「「……」」


 外壁の上や内側にいる騎士、魔道士、冒険者の間には殺伐とした雰囲気が漂っている。


「ミャオ~。ミャオ~」


 救護室代わりの馬車が数台。

 そのうちの一台からはずっと猫の鳴き声が聞こえている。

 するとその馬車の中から一人の男性が出てきた。


「セバスさん! シャルロット様のご容態は!?」


「まだ意識は戻りません」


「そうですか……」


 第三王女を第一線で戦わせてしまったことや怪我を負わしてしまったという事実に、悔やんでも悔やみきれないといった騎士も多くいる。


「セバスさんのお怪我のほうは大丈夫なんですか?」


「骨の一本や二本折れた痛みくらいなんとでもなりますよ。無理に動かせばもちろん痛いですけどね」


 第三王女を戦場から連れ帰ってきたのはセバスだ。

 意識を失っている王女を背中に背負い、年の割に素早い身のこなしでなんとか魔物たちから逃げきったものの、その際に負った傷は決して軽くはない。


「セバスさん! リアム様から通信が入ってます!」


「はぁ~、またでございますか」


 セバスは足を引きずりながら通信魔道具の設置場所に向かう。

 どうせまたシャルロット様の容態を聞かれるのだろうなと思いつつ。


「セバスでございます。……はい? ロイス様がですか? ……はい、はい、間違いないのでございますね? わかりました。失礼いたします」


 通信を切ったあと、今聞いた事柄についてセバスはしばし考える。


 大樹のダンジョンから来たという管理人御一行。

 白い大きな狼のような猫に乗ってきた。

 ほかに女性冒険者が数人。

 白い猫は門を開けたときにはいなかった。

 ロイスは城に案内する。


 白い大きな狼のような猫というのはシルバ君かダイフク君だろう。

 いや、数人を乗せられるということであればダイフク君か。

 ララ様が大樹のダンジョンに帰ってきていたということだろう。

 でもなぜロイス様がわざわざ危険を冒してまでこんな場所に?

 それならほかにもう一人冒険者を寄こしたほうが良かったのでは?

 とにかく、数人とはいえ援軍を連れてきてくれたのは間違いない。


 シャルロット様を助ける際にユウナ様の傍に行ったとき、ユウナ様は私に向かって、ピピちゃんに助けを呼びに行かせたと言っていた。

 でももう一匹のゴーレムが空を追いかけていったから無事かどうかはわからないとも言っていた。


 それからしばらくしてそのゴーレムが戻ってきたことから、ピピさんが無事だろうか凄く心配していたが、無事に逃げ切ることができて大樹のダンジョンに辿り着けたということなんだろう。

 でも私の中ではてっきりリーヌに向かったものかと思っていたが、ユウナ様は今リーヌにいる冒険者では対応できないと考えたのかもしれない。


 ……いや、もしやウェルダン君がリーヌに向かったということか?

 ウェルダン君が一撃でやられたとは考えにくい。

 それならウェルダン君がどこにも見当たらない理由の説明もつく。


 だがいくらピピさんのほうがウェルダン君より速いとはいえ、これは相当な賭けだったはず。

 冒険者村の馬は全頭出払っているし、マッシュ村ルートの山越えでしかも夜道ともなると普通はウェルダン君じゃないと厳しい。

 船での直通ルートもあるが、危険度を無視したとしても遠回りになる分こんなに早く着くことは到底不可能だ。

 そこをダイフク君が帰ってきてる可能性にかけるなんて普通はできない。


 でも結果的にリーヌ組よりも早く到着している。

 そして同行してる冒険者もおそらくロイス様によって選ばれた方々。

 女性冒険者というからおそらくリヴァーナ様たちか?

 この状況においてこれほど心強い援軍はないと考えていいだろう。

 ロイス様がご同行されてる理由は道中のダイフク君への指示のためと考えるべきか。


「セバスさん? ご気分でも?」


「……いえ。少し勝機が見えてきたものでして」


「勝機? どこにそんなものが……」


 この若者に言っても伝わるまい。


 そう思ったセバスは外壁の上に向かうことにした。

 痛みが響かないようにゆっくりと階段を上っていく。

 そして外壁の上に立ち、拡声魔道具を手に取った。


「ユウナ様! あと少し耐えてください! 必ず助けが来ますから!」


 これだけの魔物の大群に囲まれているユウナに声が届いているかはわからない。

 そもそもこの数時間、生きているという確認すらできていない。

 それでも叫ばずにはいられなかった。


「お、おい!? あっちを照らせ! 新手の敵かもしれない!」


 一人の騎士が南の方向を見て叫んだ。


「あれは火か!?」


「火を撒き散らしながらこっちに向かってくるぞ!?」


「速いぞ! 攻撃準備!」


「お待ちを! 敵ではないかもしれません!」


 セバスは慌ててとめに入る。


「あっ!? ゆっくりになったぞ!?」


 照明が向いたそのときだった。


「あ~、あ~、聞こえますか~? ホロロ~」


「「「「!?」」」」


 どこからか、拡声魔道具越しと思われる女性の声が聞こえてきた。


「ここ、戦場で合ってます~? ミスリルゴーレムっぽい敵いますか~? ホロロ~」


「「「「!?」」」」


「その明かり、眩しいからこっち向けるのやめてもらえますか~? 今暗いのに目が慣れちゃってるんです~。ホロロ~」


 照明担当の騎士は慌てて光を戦場に向ける。


「わぁ~、なにかたくさんいますね~。ホロロ~」


 その女性の声はセバスには聞き慣れた声だった。

 そして女性の声のあとに入る魔物の声にも聞き覚えがあった。

 だからこそセバスは驚きとともに、不安でいっぱいになっていた。


「あ、私はこの世界の遥か果てからやってきた旅の冒険者です。真夜中にたまたまここを通りかかってるだけですのでお気になさらず。名前は……レッド。ホロロ」


「レッドホロロ……」


「なんだか強そうだ……」


「なぜ通りすがりの冒険者がわざわざ声をかけてくるのだろうか……」


「この声どこかで……」


「もしやいつぞやのあの仮面の?」


 中にはレッドの正体に気付きかけてる者もいるようだ。


「レッド様! 本当に大丈夫なのでございますか!?」


 セバスはあえてレッドと呼んだ。


「……大丈夫だと思います? 私がちょっと旅に出てる間にあんなことになってたのに?」


「いや……それは……」


 レッドもこの声がセバスだとすぐに気付いたようだ。


 そしてセバスにはレッドが言ってることに心当たりがあった。


 売れすぎという理由で、公園からの店の撤退。

 大樹のダンジョンからの魚の供給停止。

 学校設立のための魔石寄付。

 その他細かいこと多数。


 大樹のダンジョンの経営においてはマイナスのことばかりだ。

 もしレッドがいればこんな簡単には話が進まなかっただろう。

 後々レッドから苦情を言われることはセバスも重々承知していた。


「……なんだかイライラしてきた。ホロロ」


「え……どうか冷静になってください……」


「ホロロ? あ、こら。ホロロ。危ないから出すのは顔だけって言ってるでしょ」


 よくわからない会話を聞かされて困惑する一同。


「あ、そうだ。壁の外には誰もいませんか? もし誰かいるならすぐに壁の内側に戻ってください。魔法で攻撃したいんです」


 壁の内側はざわつき始める。


「いないんですね? 攻撃始めていいですか?」


「レッド様! 魔物の大群の中心にはユウナ様とハリル君もいます! 封印結界の中ですが、もしレッド様の魔法で破壊するようなことになれば……」


「……その方々がどなたかは存じ上げませんが、この魔物の大群や、中にいるであろうミスリルゴーレムでも壊せない封印結界なんですからきっと私程度の魔法ではビクともしませんよ。だからあまり期待しないで見ていてください。魔法でダメなら剣で斬りまくりますから、くれぐれも近寄らないでくださいね?」


 そしてついにレッドが照明の届く範囲に姿を見せた。


「お、おい!? あれは!?」


「馬に乗ってるのか!?」


「馬じゃなくて狼じゃないか!?」


「違う! あれは猫だ!」


「顔に仮面をかぶってるぞ!?」


「やはりあのときの少女では!?」


 驚きの声が続々とあがる。

 白い猫のことを知っている冒険者もいるようだ。


 だがセバスだけは別の理由で驚いていた。


「レッド様!? まさかお一人でございますか!?」


「……」


 レッドから返答はない。

 その手には拡声魔道具は握られていなかった。

 もう戦闘モードに入ったのだろう。


「ララ様……」


 セバスは祈るような思いでララを見つめる。


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