第七十三話 鉱山
「これが鉱山? 普通の山じゃないの?」
「見た目はね。でも中は凄いわよ?」
とりあえず水晶玉で鉱山とやらを見てみることにした。
ゲルマンさんは大きく映し出された映像を見て驚いている。
「入れるの?」
「入り口を作ればね。カトレアちゃん……はやめときましょうか。ユウナちゃん、いい?」
「任せてなのです! どんだけでも持ってけなのです!」
ドラシーはユウナの手を触り、ユウナの魔力を利用して鉱山に入り口を作った。
「じゃあ行ってみましょうか」
「やったぁ!」
「わーいなのです!」
ユウナは魔力を消費した疲れもなさそうで元気だ。
「カトレア、残ってもらっていいか?」
「……はい、歩くのは疲れそうなのでここで見てます」
やはりまだ疲れが残ってるようだ。
それにまたいつ杖の錬金を頼まれるかわからないからな。
「ゲルマンさんも行きますよね?」
「ワシも行っていいのか? というより行けるのか?」
「えぇ大丈夫ですよ。それにすぐ着きますから。ドラシー頼む」
「わかったわ。じゃあいってらっしゃい」
次の瞬間には洞窟の入り口の前にいた。
ここは冒険者たちがまず来れないような山の裏側に当たるらしい。
「なんだ今のは?」
「転移って言うの! 便利でしょ!? ダンジョンの中でしか使えないけどね!」
「昔はこんなのなかったな。いや、知らなかっただけか」
「ダンジョンへはどうやって入ってたんですか?」
「小さい洞窟の入り口から入るだけだ」
「出てくるときはどうしてたんですかね?」
「ん? 普通に入ったところからみんな出てきてたぞ?」
洞窟の入り口から転移魔法陣を使ってたのは間違いないけど、出るときも入り口から出るしかなかったのか。
まぁ本物のダンジョンを想定してるんだから当然といえば当然か。
どうりでゲルマンさんは転移魔法陣を知らないはずだ。
そういや昔のフィールドはどんなものを使ってたんだろう?
俺が知ってるのは洞窟フィールドだけだからな。
「中に行こうか。一応気をつけてな」
「うん!」
「早く奥まで行くのです!」
「本当はヘルメットが必需品なんだぞ? ……こらっ! 危ないから走るな」
ララとユウナは走って奥へ進んでいった。
洞窟内は明るくしてくれてるから転びはしないだろうが、こうしてると本当ただの子供だな。
ゲルマンさんは呆れながらも微笑んでいる。
俺たちは歩いて進むことにした。
「普通の洞窟ですね」
「鉱石ってのはもっと奥にあるもんだからな」
少し進むと奥から二人の声が聞こえてきた。
どうやら鉱石があったらしく、はしゃいでいるようだ。
しばらく進んで二人に追いついた。
「これは……」
「あぁ、この光景だ。様々な鉱石が入り混じってるのはここでしか見たことがない。懐かしい」
そこは少し広い部屋になっており、足元以外の四方八方の壁、天井にまで鉱石と思われる物質が埋まっていた。
金や銀、あれは銅か、あっちは鉄だろうか?
鉱石の名前は知らないが普通の土や石とは違うものでいっぱいだ。
ゲルマンさんも当時を思い出して感傷に浸っているようだ。
ここから鍛冶が始まっており、さらに爺ちゃんと来た懐かしい場所なんだから無理もない。
もしかしてゲルマンさんはこの場所にもう一度来たかったから鉱山のことを気にしていたのか?
……例えそうだとしてもなんにも悪いことはないな。
昔話を聞けて楽しかったし。
「ロイス、ありがとうな。ここは俺にとって大事な場所なんだ」
「えぇそれなら良かったです。鉱石は取らなくてもいいんですか?」
「あぁ、ここの鉱石は俺にとっては貴重なものだからな。それを打つ気にはなれん。だが今度アイリスを連れてきてもらってもいいか? あいつは鉱山を見たことがない。ここを見ることで得るものもあるだろう」
「わかりました。それならここの鉱山は一般開放はしません。ウチの関係者で使うことはあるかもしれませんけど」
「せっかく鉱山があるのに鉱石をとらないでどうする? 鉱山が泣くぞ? それになくなることはないんだろ?」
「う~ん、魔力を消費しますからね。それにアイリスさんしか使える人いませんし」
俺たちにとっては宝の持ち腐れだ。
お金もそこまで必要じゃないしな。
かといって一般開放して人に来てもらおうって気にはならない。
「お兄! ゲルマンお爺ちゃん! こっちに来て!」
さらに奥に進んでいたララの俺たちを呼ぶ声が聞こえる。
俺たちは慌てずにゆっくり進んでララたちの元へ辿り着く。
ずいぶんと奥まで来たようだ。
「ねぇこれ見て! 少し色が違うの!」
「きれいなのです!」
二人が言う鉱石を見てみるが、これは銀じゃないのか?
これならさっきもいっぱいあったと思うんだが。
「…………おい」
「え?」
ゲルマンさんの顔色が先ほどまでとは違う気がする。
まるでなにか得体のしれない魔物に遭遇したときのような。
ララとユウナはキャッキャ言いながらその鉱石をペタペタ触りだした。
「どうしたんですか?」
「……これは……ミスリルだ」
「「「ミスリル!?」」」
……ってなんだ?
聞いたことがないからビックリしてみたものの、これがどういうものかはわからない。
ララとユウナはビックリして触るのをやめ、よくないものを触ってしまったと思って手を服で拭いている。
おそらく俺と同じでミスリルという名前に聞き覚えがないんだろう。
二人が知らないんなら俺も知ったかぶる必要はないな。
「すみません、ミスリルってなんですか? 初めて聞いたもので」
「あぁ、知らなくても無理はない。この大陸では北部のほうでたまに取れる程度だからな。価格もそれなりにする。それがこんなにいっぱいあるとは……」
「へぇ~。強度はどうなんですか? 武器として使えるんですか?」
「鋼より上だな。ちなみにララの剣は鉄だ。鋼は鉄よりも硬い。ミスリルはさらに鋼よりも硬い。しかも軽いんだ」
つまりなかなかいい鉱石ってことでいいんだよな?
それならララの剣に打ってつけじゃないか。
「どのくらいのレベルの冒険者が使うものなんですか?」
「中級者かな。いや、中級者の後半くらいか。初級者後半から中級者前半のレベルだと鋼を使ってることが多い。そもそも中級者後半レベルってのがあまりいないからな。それにミスリルは高いんだ。それなら鋼で我慢しようってなる」
「いくらくらいするんですか?」
「剣だと20000Gはするな」
「「「20000G!?」」」
って高いんだよな?
いや高いに決まってる。
確か銅の剣は200Gだったはずだ。
さっきの話だとその上が鉄の剣で、さらにその上が鋼の剣。
三段階上がるだけでお値段は百倍だ!
「ちなみに鋼の剣はいくらなんですか?」
「マルセールでは3000Gだな」
「「「3000G?」」」
なんだかとてもお安く感じてしまうのはなぜだろうか。
もし鋼とミスリルにそこまで性能の差がなければ鋼でもいいやってなるんだろうな。
「ミスリルにはそれだけの価値があるってことですか?」
「うーん、武器屋の売れ筋は鋼だろうがな。ミスリルは確かに硬いし軽い、だけど希少だからどうしても高くなる。かといって値段分の強さがあるかっていったらこれがまた難しいんだ。でもそれがこんなにいっぱいあるんならミスリルを選ばない理由はないな」
「なるほど。でも困りましたね。どう扱えばいいのでしょうか? あまり目立つようなことはしたくないんです」
「そうだなぁ。初級者にはもったいない気もする。剣の切れ味を自分の実力と勘違いしても困るだろうからな」
いい剣を使えば強くなって当然ということか。
確かにそれでは剣任せになって腕が上がったことにはならないな。
……でもそれは悪いことなのか?
弱いより強いほうがいいだろう?
それにいい剣を買うために魔物を倒してお金を貯めるんだから目的があっていいじゃないか。
でも年配の方のしかも鍛冶師の意見は大事にしたほうがいいな。
俺なんかとは経験が違う。
「わかりました。しばらくは取り扱うのやめときます」
「ええ!? 私の新しい剣ミスリルがいい!」
「わがまま言うな。まだ初級者には早いってゲルマンさんが言ってるだろ?」
「でも……。きれいだし……軽くて強いんならいいところ尽くしじゃん。きれいだし……」
ただこのミスリルの輝きが気に入っただけなんじゃないのか?
「そこまでは言ってないぞ。それにララならいいんじゃないか? 鉄の剣でドラゴンの腕を斬り落とすなんて聞いたことがないしな」
「え!? いいの!? ほら、お兄!? いいってさ!」
「私もミスリル欲しいのです! お守りにするのです!」
ゲルマンさんがそんなこと言うからユウナまで欲しがりだしたじゃないか。
まぁお守りなら可愛いもんか。
でもララにはいい剣を持ってもらってたほうが安全なのも事実だしな。
「わかったよ。ならアイリスさんには自分で頼めよ? 一本だけだからな? あまり冒険者たちに見せびらかすなよ?」
「やったー! うん、わかってるよ! みんなの前では鋼の剣を使うね!」
「えぇー!? 私もなんでもいいからミスリル装備が欲しいのです!」
ちゃっかり鋼の剣も作ってもらうつもりか。
ユウナはなんだったらもうミスリルの原石でも渡しておけば満足しそうだな。
「あぁそうだ。このミスリルはな、魔力の伝導率が高いんだ。それを利用して防具に使われることもある。ただ希少な分、武器に使われることが多いがな」
魔力の伝導率が高いんだったら魔力を通しやすいってことだろ?
それだと魔法攻撃され放題なんじゃないのか?
……逆か?
伝導率の高さを利用して予め魔力で魔法防御の性能を高めておくのか?
よくわからないから後でカトレアに相談だな。
というより寝てなければ今見てるだろうからなにか考えてるだろう。
「……なぁロイス……少し貰っていってもいいか?」
「「「えっ!?」」」
さっきまでと言ってることが違いますよ!?