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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第七百二十七話 初めての山道~マッシュ村

「チュリー! (前方右になにか寝てますから少し左に!)」


 ダイフクはピピの指示通りに少し左に寄る。

 敵が寝てるのにわざわざ無駄な戦いをする必要はない。


「ギャン!?」


「ごめん急所外した!」


 おいおい……。

 ララが風魔法で攻撃したせいで起こしてしまったじゃないか。


 横を駆け抜けたダイフクを追ってこようとする魔物。


「キャウン!?」


「よし」


 だがミオに石のクナイでとどめを刺され、声だけが虚しく響きわたる。


 それにしても本当に山道だな。

 道周辺だけ見るとウチの地下三階と似ているが、こっちの山のほうがクネクネしてるし傾斜も多少キツイ気がする。

 地面もデコボコしてるところが多いし。

 よくこんな道を長い時間かけて馬車で通ろうと思うよな。

 まぁ今後はウチの馬車くらいしか通らないだろうけど。


 というか俺の出番が全くない。

 前はララ、ピピ、マカ、リヴァーナさんによる風魔法祭り。

 後ろはメネアとミオの、いかに一発でとどめをさせるかという勝負になっている。


 それより想像以上にダイフクが速い。

 思ってたより揺れも少ないし。

 この乗り物、最高かもしれない。

 ピピほどではないが夜道でもしっかり前が見えてるようだし。


 俺とタルはみんなのおかげでさっきからぼーっとしてるだけだ。


「ピィ(ララちゃんとアリアさんの決闘、面白かったですね)」


「そうだな。魔物相手にもあれくらい戦えるといいんだけど」


 こんな会話をする余裕だってある。


 さっきのあの戦い。

 今思い返せばちゃんと俺の目にも見えてた。


 アリアさんが先に動いたのは間違いない。

 だがその次の瞬間に動いたララのスピードが半端なかった。

 あれは走るとかじゃなくて完全に飛んでたな。


 アリアさんが右上段から剣を振り下ろそうとするのに対し、ララは右下段から剣を振り上げた。

 アリアさんからすれば剣を振る前に剣を失ったように感じたことだろう。

 あそこまでララが速いとは思ってもみなかったんだろうな。

 一瞬だけの速度なら地下四階のマグロンたちよりも速かったんじゃないか?


 アリアさんが持つ剣の根本付近を狙ったララの攻撃も完璧だった。

 速さだけじゃなく力もある。

 それだけララの身体強化魔法の効果が上がっているということだろう。

 この二か月間、山ごもりしてたおかげなのかもしれない。

 剣の修行も毎日マクシムさんとアプリコットとしてたらしいし。

 力の強いマクシムさんと修行した成果が存分に発揮されたようだな。


 ……でもドラシーがそのことを知らないはずがない。

 もしかしてわざとああいう言い方をしたのか?

 ララの気持ちをたかぶらせるため?

 でもララはソボク村に着くまでずっとイライラしつつも落ち込んでる感じだったから逆効果だった気も……。


「ヒョウセツ村でのララの様子はどうだった? 楽しんでたか?」


「ピィ(楽しそうでしたよ。狩りも料理も修行も。でも一番はやっぱり狩りのときですかね。狩りというよりも仲間探しのほうですけど)」


「仲間探し?」


「ピィ(はい。私たちのような魔物がいないかいつも探してました。結局一匹も見つかりませんでしたけど。あとはレア魔物探しとか)」


 ララらしいな。

 魔物への愛は俺なんかよりもよっぽど深いのかもしれない。


「ピィ(そういえばワタなかなか起きませんね)」


「ワタ? 起きないってどういう意味だ?」


「ピィ? (え? そのままの意味ですけど?)」


「は? ……ワタも連れてきてるのか?」


「ピィ(え……。もしかして、知らなかったんですか……)」


「いやいや……。家で寝てるもんだと思うだろ……。でも前ってどこにいるんだよ?」


「ピィ(ダイフクの首の上あたりです。服と毛の間で寝てます)」


 なんだと……。

 確かに家でもその位置らへんで寝てた気はするけど……。

 でもワタも結構大きくなってきてるのに、俺は気付かなかったのか……。

 夜だから眠気のせいかもしれない。


「ララはわかってて連れてきてるんだよな?」


「ピィ(もちろんです。……あ、でもそう言われてみれば、ご主人様にバレないようにコソコソしてたような気がしないでもないですね……)」


 確信犯だろ……。

 なんでワタを連れてくる必要があったんだよ……。


「ピィ(ま、まぁいいじゃないですか。ダイフクに隠れてれば大丈夫ですって)」


「今頃カトレアたちが探してなければいいけどな」


「……ピィ(ごめんなさい)」


 お荷物は俺だけでいいのに。

 こんな状態で本当に強敵たちと戦えるのだろうか。


「お兄! ウェルダンの気配を感じ取ってよ!?」


 無茶言うなよ……。

 声でも聞こえない限り無理だって……。


 というかウェルダンとピピで翼ゴーレムをソボク村まで連れてきたほうが良かったんじゃないか?

 ってそれができそうになかったからウェルダンが囮になることにしたんだよな。

 つまり二対一で戦っても勝てる可能性はほぼほぼゼロに等しかったんだろう。

 かと言って王都に戻らせて敵二匹を組ませるのはキツイ。

 そう考えると山で逃げ回って時間を稼ぐというウェルダンの判断が一番ベストなんだろうな。


 だがもう何時間経った?

 少なくとも四時間、いや五~六時間は経ってるか?

 いくらなんでもそんなに長い時間は逃げきれまい。

 気配を隠してどこかに潜んでるという可能性はあるが、翼ゴーレムを王都に戻らせてしまっては意味がない。


 ……でもピピをウチに帰らせることが一番の目的だったんだよな。

 それならウェルダンはもう役目を果たしたとも言える。

 やはりユウナの元へ戻り、封印魔法を駆使しつつ、ハリルたちとともに耐え凌ぐ戦いを選んだほうがいいか。

 ウェルダンが無事に王都に戻ってくれてることを願おう。


「たぶんあと二十分くらいでマッシュ村に着くから!」


 ララはこの道を何度か通ってるんだっけ。

 最初は王都周辺に魔工ダンジョンが出現したとき、その次はこの前の年末に城にシャルルを迎えに行ったときか。

 でも一回目のときは王都には寄らなかったんだっけ。



 そして特に問題なくマッシュ村に到着。

 ダイフクの体力回復のためにここで五分ほど休憩することにした。


 まずララが封印結界を張る。

 続いてタルが浄化魔法で結界内の魔瘴を浄化。

 トイレ馬車、テーブル、ベンチをセット。

 あっという間に休憩エリアの完成だ。


「ララちゃんとタルちゃんのコンビっていいよね。やっぱり封印魔法と浄化魔法があると便利だもん」


「両方を求めるのは贅沢だと思う。封印魔法だけでもいいから欲しい」


「そう考えるとユウナちゃんって最強だよね」


 この三人のパーティに足りないのはまさにユウナだからな。

 って回復魔道士がいないパーティなんてほかにもたくさんあるけど。

 それにユウナを欲しがらないパーティなんてない。

 今いる回復魔道士を解雇してでも……とまではさすがに思わないか。


「はい、温かいの!」


 ララがホットカフェラテを準備してくれた。

 夜の山頂は寒い。

 魔法を使い続けていたみんなでさえもそう感じるようだ。

 走ってきたダイフクは汗かいてるのか?

 ……そうでもなさそうだな。

 というかララはワタのことをまだ内緒にしておくつもりなのだろうか……。


「ここまで二時間かぁ~。でもここからは下りだからたぶんあと一時間半もあれば着くよね!」


「まだ一時間半もかかるのか。ユウナ大丈夫だろうな」


「お兄、もしユウナちゃんが死んじゃってても冷静にね?」


「お前のほうが心配だよ……」


 冗談でもよくそんなこと言えるな……。


「最悪のケースを想定しようね。王都は全焼、誰一人生き残ってなくて、Aランク級の魔物がうじゃうじゃ」


「すぐに逃げるぞ」


「だね! 私たちはその絶望具合を確認しに行くだけだから! 誰か一人でも生き残ってたらラッキーくらいな気持ちでいようね!」


「極端すぎるんだって……」


 なんでこんなにテンション高いんだよ……。

 もう日が変わる時間だっていうのに。


「お兄もだけど、三人も王都行くの初めてですよね? 世界で一番大きな町がもう廃墟になっちゃってるなんて残念ですよね……」


「やめてよ……」


「悪い冗談」


「というか今いるこの村も廃墟なんだよね? オバケ出たりしないよね……」


 外灯もなく真っ暗なせいで周囲はほぼなにも見えない。

 建物があるのが辛うじてわかるというくらいだ。

 さっきからちょくちょく弱そうな魔物が封印結界にちょっかいかけてきてるが、マカが魔法で追い払ってくれてる。


「ピピまだかな~」


 ピピとタルには空の上から王都の偵察に行ってもらった。

 遠目で見るだけだからすぐに帰ってくるだろう。


「(誰か……)」


「ん?」


「(来て……)」


「……」


 この四人の声ではないよな?


「(水の中……)」


 ということはつまり……。


「オバケだ……」


「「「「えっ!?」」」」


 四人は驚きつつもすぐさま戦闘態勢を取る。

 なんて心強いんだろう……。


「みんなには聞こえないのか?」


「なんにも! ウェルダンじゃないのそれ!?」


「いや、違う。女性の声だ。建物の中に人間が取り残されてるのかもしれない」


「お兄にしか聞こえてないのなら魔物だよ! ウェルダンの心の声かもしれない! ウェルダン!? どこにいるの!?」


「落ち着け。ウェルダンじゃないから。水の中とか言ってるから風呂場で魔物に殺された人間かも……」


「「「「……」」」」


 さすがにみんなもこわくなってきたようだ……。

 でも俺のほうがもっとこわがってるからな?


「(早く……)」


「早くとか言ってる……」


「「「「……」」」」


「(死んじゃう……)」


「死んじゃうって……」


「「「「……」」」」


 もう死んでるのに……。

 亡霊ってやつか……。


「(今ならまだ間に合います……)」


「もう間に合わないから成仏してくれよ……」


「(早く……私を……解放して……)」


「解放って……タルが帰ってきたら魂を浄化してやるからな……」


「「「「……」」」」


 ついには四人は手を繋ぎ始めた……。

 俺もそこに混ぜてくれ……。


「あ、水の中ってもしかして湖じゃない?」


 ララが思いついたように言った。


「そういやこの村には有名な湖があるんだっけ? カトレアに聞いたことがある気がする。確か……マッシュ湖だったか?」


「……いっぱい人沈んでそう」


「「「「……」」」」


 余計こわくなるようなこと言うなよ……。


「(早く……)」


 ヤバい……耳を塞いでみよう……。


「(手遅れになる……)」


 意味なかった……。

 俺は呪われてるんだろう……。


「……湖に行ってみるぞ」


「「「「……」」」」


「いい。俺とダイフクとマカで行ってくる」


「ダ、ダメだって! それなら私も付いていくから」


「わ、私も行くよ!」


「私も!」


「みんなで行こうね! うん、それがいい!」


 ここに残されるのがこわいんだろうな……。


 休憩エリアはそのままにして、みんなでダイフクに乗る。


「ニャ~? (オバケなんて本当にいるの?)」


「ピィ~? (さぁ? でもご主人様の場合はハリル君のときの件もあるから)」


 こいつらこわくないのか……。


 そしておそるおそる村の中を進み、湖らしき真っ暗な水場へやってきた。

 完全に闇の湖だ……。


「……どう?」


「……いや、なにも聞こえなくなった」


「じゃあ湖じゃなかったんだね! 帰ろ!」


「(手を……水に……)」


「え……」


「お、お兄?」


「水に手をつけろみたいな声が……」


「「「「……」」」」


 手をつけた瞬間に湖の中に引き込まれるんだろうか……。


「よし、マカ、頼んだぞ」


「ピィ? (手をつけるだけでいいんですか?)」


「そうだ。ちゃんと片方の手は握っててやるから」


「ちょっとお兄! マカにそんなことさせないでよ!」


「ダイフク、もっと水際に行ってくれ。いつでも逃げれるように準備しとけよ」


「お兄! もう出発しようよ! 罠かもしれないって」


 罠か。

 これが翼ゴーレムの声だったりしてな。


「(早く……マナを分けて……)」


「え?」


 マナって言ったよな?

 敵がそんなこと言うだろうか……。


 …………仕方ない。


「ララ、ここに封印魔法の壁を作ってくれ」


「え、うん……」


 これで陸と湖の境界に壁ができたはず。


「俺の左手を握っててくれ。もし俺が湖に引っ張られるようなことがあればすぐに引け」


「ほ、ほんとにやる気なの?」


「マナがどうとかって言ってるんだよ」


「「「「マナ!?」」」」


 ダイフクから降りて湖に近付く。

 昼間ならきれいだったんだろうな。

 って魔瘴のせいで魔物だらけの湖になってるかもしれないが……。


「いくぞ?」


「う、うん!」


 意を決して、右手を水につけた。

 中に入れるのはこわいから水の表面につけただけだ。


 …………どうした?


 これでいいんだろ?

 もうちょいつけたほうがいいのか?


 手の甲が完全に浸かるようにしてみるか。


 そのときだった。


「「「「!?」」」」


 正面遠くの水面でなにかが光った。


「お兄!」


 ララが慌てて俺を引っ張る。


「あれ見て!」


「光が飛んでく!」


「どこ行くの!?」


 ……消えた。

 いや、見えなくなったというのが正しいか。


「音聞こえたよね!? 水からなにかが飛び出すときの音!」


「あぁ。本当に解放されたのかもしれない」


「なにが!? 魔物!?」


「さぁな。でも水から出る瞬間、『ありがとう』って言って飛んでいった」


「……マナを欲しがるくらいだから悪い魔物じゃないよね?」


「そう祈るしかないだろ。というかまだ魔物とも決まったわけじゃない」


 そいつは王都に向かっていったようにも見えた。

 強敵を増やしてしまったのでなければいいが……。


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