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第七百二十六話 席は一つ

「おい、子供はもうとっくに寝る時間だぞ」


「ユウナちゃんが戦ってるって聞いたよ!?」


 サクが食い気味に言ってくる。


「誰に聞いたんだよ?」


「パラディン隊の人。たまたまミオちゃんたちと同じ宿で、ちょうどみんなで集まって話してるところだったの」


 まさかリヴァーナさんたちまでコネを使って宿を手配したのか?

 って今はそんなことはどうでもいい。


「お前たちは連れて行かないからな?」


「わかってるけど……でもユウナちゃん大丈夫なんだよね?」


「戦場に出るということは常に死と隣り合わせってことなんだよ。安全な場所なんてどこにもない。シャルルに関しては既に重傷を負って戦える状態ではないとの報告も受けてる」


「「「「!?」」」」


「二体目の敵が突然現れるとともにシャルルを攻撃してきたから防ぎようがなかったらしい。その寸前までは一体目の敵相手にシャルルとユウナが押してて、あと一歩で倒せるってところまでいってたんだ。つまり最低でもCランク級の敵が二体いる。最低でもというのはまだ敵の本気を知らないからだ。もしかしたらAランクかもしれない。ウェルダンが二体目を上手く山に誘い込んだみたいだがそれからどうなってるかはわからない。ユウナもウェルダンも死んでる可能性だってある」


「そんな……」


「今のお前がユウナを心配したところでなんの助けにもならないのはわかったか? お前たちは第二陣のメンバーにさえ選ばれてないんだよ。わかったらおとなしく宿で寝てろ。そしてこの無力さを忘れずに、明日からまた地道に修行するんだ。それにほら、この二人を見ろ。お前とは違ってもう集中して……ミオ?」


「……うん」


 寝てるように感じたのは気のせいかな……。

 まぁこんな時間だから眠くて当然なんだけど。


「そうだ、シノン。もし魔道化範囲内のどこかで封印魔法が必要になったら頼むぞ」


「はい。……あの」


「なんだ? 連れてけとか言うなよ?」


「言いませんけど……。もしかして、ロイス君も行きます?」


「あぁ」


「「「「えぇっ!?」」」」


 いくら普段付けない武器と防具を装備してるとはいえ、よくわかったな。


「ダメだって! 危ないよ!」


 リヴァーナさんが心配してくれてる。

 でももう引き返せないんだ……。


「魔物たちの力を最大限に引き出すためですから」


 誰か代わってくれる人いないかな……。


「……そっか。リヴァがいるから安心してね」


 納得するのが早い……。

 火山での戦いを経験してるから余計にか……。


「ミオもいるから大丈夫」


 うんうん。

 ちゃんと俺を守ってくれよ。


「ねぇ、私は? 忘れられてる? 単に実力不足?」


「いや、ダイフクに乗るのが四人しか無理っぽいから定員オーバーなんだよ。悪いな。第二陣で向かってもらおうかとも考えたんだけど、こっちがあまり手薄になっても困るしな」


「えぇ~~。じゃああと一人は誰?」


「ララだ」


「「「「……」」」」


 ん?

 なぜ誰も驚かない?


「そっか。ララちゃんなら仕方ない」


 そうか、メネアは昨日ララといっしょに錬金してたんだっけ。

 だからララの今の魔法の実力を知ってるんだ。


「リヴァーナさんもララが行くことに納得できるんですか? メネアやアリアさんのほうが適任だと思いません?」


「昨日地下四階の最奥手前あたりでチラッと戦闘を見たんだけどさ、ダイフク君といっしょなら勝てる人はいないと思うよ? ララちゃん個人がどこまで戦えるかは見たことないからわからないけど」


 反対はしないってことか。


「ミオは?」


「ロイス君が行くこと以上に心配。心は正直だから」


 ミオは反対、と。


「でもロイス君やダイフク君たちがいっしょなら大丈夫だと思う」


 やっぱり賛成、と。

 ミオはララといっしょに修行したりもしてたから強さ自体はわかってるもんな。


「というかみんなララちゃんは来ると思ってたし」


「そうなのか?」


「うん。ユウナちゃんがピンチなのに行かないわけがないから」


 それもそうだな。

 こわがって行きたくないのは俺だけだよな。


 ……あれ?

 そういやダイフクたちはどこ行った?


「ティアリスさんのところ。慰めてあげてるんじゃない?」


 ようやくララが口を開いた。

 ドラシーと話してたとき以来だぞ。

 というかよく俺が魔物たちを探してることがわかったな。


「それよりあそこにアリアさんがいるよ」


 ソボク村の東出口前にはパラディン隊が二十名ほど集まっていた。

 外灯のおかげで結構明るい。


「整列!」


「「「「はい!」」」」


 いや、わざわざ横一列で出迎えてくれなくてもいいから……。

 誰が教えてるんだよこんなこと……。

 ってスタンリーさんまでいるじゃないか。


「お疲れ様である! ロイス殿! 隊員のアリアがリヴァーナ殿たちにぜひご同行させてほしいと申しているである! せっしゃとしてはアリアの意思を尊重したい次第である!」


「必ずお役に立ってみせます! よろしくお願いします!」


 はぁ……。

 元気が有り余ってるのかなこの人たち……。


「お兄、ここは私が」


「え?」


 ララが一歩前に出た。


「アリアさん、私に勝てたら同行を許可します」


 おい?


「……ララさんにですか?」


「はい。残る席はあと一つ。アリアさんか私かのどちらかです」


「「「「え?」」」」


 隊員たちに動揺が走る。

 過去にララになにがあったかは噂で知ってるはずだし、ララが実際に戦ってる姿を見たことない人ばかりだからな。

 そんなララが魔物と戦いに行けるなんて誰も思ってないということだろう。


「でもララさんは……」


「勝負しないのであれば不戦勝ということで私が行きますけど?」


「……いえ、やります」


「では本気で殺すつもりで来てください。身体強化魔法も使って構いません。手を抜いたらお兄にバレますからね?」


「……そんな装備で大丈夫ですか? 手加減できませんよ?」


「合図はなしで。いつでもどうぞ」


 アリアさんの表情が変わった。

 本気だなこれ……。


 ララとアリアさんは3メートルほどの距離で向かい合い、剣を構える。

 武器は二人ともミスリルの剣だが、ララは右手だけで、アリアさんは両手で握りしめる。


「ニャ~? (なにしてるの?)」


「しっ」


 やっと来たか。

 でももう少し空気を読めよな。


 というかララはどうする気だ?

 アリアさん相手に勝てるのか?


 それともさっきリヴァーナさんやミオに言われたことを気にして、やっぱり行かないつもりなのか?

 ドラシーに言われたこともずっと気にしてるはずだしな……。


 ……ピリピリした空気の中、二人の睨み合いが続いている


 先に動いたほうが有利なのか?

 それともわざと相手の動き出しを待ってるのか?


 む?

 今なんだかララの雰囲気が変わった気がする。

 魔法でも使ったか?


 そのときだった。

 まずアリアさんが先に動い……え?




 …………今なにが起きた?


 なぜ剣が宙を舞っている?


 なぜアリアさんはその場から一歩しか動けていない?


 というかララはなぜアリアさんのそんな遥か後方にいる?


 今の一瞬だけでその距離が出せるのか?



 そして宙を舞っていた剣がようやく地面に落ちてきた。


 ……刃の根本部分がだいぶ欠けてしまってるのがここからでもわかる。

 こりゃもう使い物にならないな。


「参り……ました……」


 その言葉とともにアリアさんは膝をついた。

 完敗だな。


「シノンさん、手当てしてあげて」


「……」


「シノンさん?」


「……は、はい」


 ララに言われて慌ててアリアさんに駆け寄るシノン。

 どうやらアリアさんは右手首付近にダメージを受けているようだ。

 ララの剣の重さに負けたということだろうか。


 そしてララもアリアさんの元にゆっくりと歩み寄る。

 するとレア袋からミスリルの剣を取り出した。


「これ使ってください。火魔法錬金の最新の魔法剣です。もう少し修行すればアリアさんなら自分の風魔法を纏わせることだってできるはずです。横置いときますね」


「……まだまだ本気じゃなかったですよね?」


「本気ですよ。剣同士の戦いとしてはですけど」


「……戦闘ではこれに火魔法や雷魔法を織り交ぜるんですか?」


「そうです。そのための左手ですから。あと一応風魔法もそこそこ自信ありますけど」


「……帰ってきてからでいいので、私の未熟な点を教えてください」


「わかりました。でもちゃんと仕事はしてくださいね? パラディン隊のみんなはアリアさん頼りなんですから」


「……はい。ご指導、ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。では行ってきます」


 ララがこっちへ戻ってくる。


「ダイフク、準備するよ」


「ニャ~(うん)」


 ララはダイフクが装備している服を人が乗れる仕様にセットしていく。

 背もたれもあり、ベルトもあり、手で掴めるところや足を引っかけるところもありと、意外に結構乗りやすい。

 さすがウチの職人たちの仕事だ。

 これなら片手を放しての攻撃だって楽にできるな。

 まぁダイフクのスピード次第のところはあるけど。


「私が前で、リヴァーナさん、お兄、ミオちゃんの順でいい?」


「あぁ。マカとタルとピピは?」


「ピピは夜でも目がいいから前。マカも前が好きだから私のところね。タルはお兄のところがいいか。木がいっぱいだからマカもお兄も火魔法は禁止だよ?」


「わかってる。雷もやめたほうが良さそうだから風魔法にする」


「ピィ(私もご主人様のところが良かった……。タルずるい)」


 なんて可愛いやつだ。

 途中で交代させてやろう。


「リヴァーナさんも風か土でお願いしますね。ミオちゃん、お兄から石のクナイ貰った? 投げまくっていいからね。……でもやっぱりメネアさんもいたほうがいいかな? 水魔法だと自然に優しそうだし」


「メネアの水魔法は凶器だぞ。木なんか余裕で貫通する」


「そういうこと言ってるんじゃないってば。一人残されるの可哀想なんだもん。ダイフク、あと一人いけない?」


「ニャ~? (どの子だっけ?)」


「ミオの左隣の子だ」


「ニャ? (あれ? こんな子だっけ?)」


「あ、前にモーリタ村で会ったときは髪がもっと短かったなそういや」


「ニャ~(あ~~、だからかぁ~。なんか女の子っぽくなったね)」


「……で、いけそうか?」


「ニャ~(ちょっとみんな乗ってみて)」


「乗ってみろってさ」


 そしてまずララが乗った。


「……ん? リヴァーナさん?」


「……あ、うん、ごめん」


 今ぼーっとしてたよな?

 眠いのだろうか。


 そして俺が乗り、ミオも続いた。

 四人とマカとタルとピピを乗せた状態でダイフクは周囲を軽く走ってみせる。


 ……これは酔うかもしれない。


「ニャ~(いけそう。さっきティアリスがなんか補助魔法かけてくれたから体が軽い気がする)」


「チュリ(力強化と素早さ強化ですね)」


「そうか。ララ、いけそうって言ってるけど、どこに乗る?」


「ミオちゃん、その後ろ不安定になるけどそっちいける? 一応背もたれの後ろに手で掴めるところだけはあるんだけどさ」


 背もたれもなければベルトもなく、足を引っかけるところもない。

 でも忍者のミオならなんとかなりそうだ。

 その状態で背後へ攻撃できるかは微妙なところではあるが。

 俺なら走り出した瞬間に振り落とされるだろう。


「大丈夫だと思う」


「良かった。メネアさん、乗ってみて」


 そして俺の後ろにメネアが乗る。

 やけに嬉しそうだな。


「ニャ~(みんな軽いね。三人でマクシム一人分って感じ)」


 さすがにそれは言いすぎじゃないか?

 とか言ったら怒られそうだから言わないけど。


「じゃあ行くか」


「ちょ、ちょっと待つである! ロイス殿も行くのであるか!?」


「えぇ。ではここは任せましたからね? ララ」


「うん。ダイフク、行って」


「ニャ~(うん。前に出てくる敵は倒してね)」


 そして村の外へと出た。


「気をつけてねー!」


 後ろからサクの声が響く。

 俺がこっち側にいるのは不思議な感じだな。


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