第七百二十五話 冗談であってほしい……
カトレアもマリンもゲンさんもドラシーも必死にとめてくれた。
だがウェルダンが翼ゴーレムを相手にしてるという話を聞いたララはなおさら俺が行くべきだと言った。
『もしウェルダンが山のどこかで野たれ死にそうになってたらどうするの?』
『メタリンみたいになっていいの?』って。
それでもゲンさんとドラシーは反対してくれた。
あまりにも危険すぎると言って。
二人は俺を約二か月もこの森に閉じ込めておくくらいの過保護ぶりだからな。
でもララはそんな二人にこう言った。
『じゃあ私なら死んでもいいの?』
『世の中の人が全員死んでもお兄だけ生きてればいいの?』って。
そんなことを言われたらゲンさんとドラシーもたじたじになって当然だ。
だがドラシーは引き下がらなかった。
『それとこれとは話が違うでしょ』
『勝てる自信もないのに正義感だけで行くつもりなの?』って。
そこから言い争いになった。
「勝てるに決まってるでしょ。そのうえでお兄がいたほうがウェルダンやほかの魔物たちの生存確率が上がるって言ってるんでしょ」
「この子の死亡確率も上がるのよ? ナミやサウスモナでどれだけ危険な目にあったか理解してるの? この子がたまたま外出したときに限って良くないことが起きるのよ」
「お兄を疫病神みたいに言わないでよ。災難があるってわかってるところに首つっこむんだからそんなのただの後付けじゃん」
「だから今度はその災難にわざわざ首をつっこませないようにしてるんでしょ。ろくな結末にならないのは目に見えてるもの」
「お兄が行っても行かなくてもその結末は似たようなものだってば。それなら勝つ確率を少しでも上げるためにお兄を連れていったほうがいいんだって。魔瘴の中で戦うことになる魔物たちにとって、お兄がいることがどれだけ心強いかわかってないの?」
「それくらいわかるわよ。でも今この子が死んだら失うものが多すぎるって話をしてるんでしょ」
「だから私が守るから大丈夫だってば。もしかして私を信用してないの?」
「守りながら戦うなんて余裕があるわけないわよ。それにアナタ、ダイフク君が死んだらどうやって戦うの?」
「そんなのまだわからないってば。でもミオちゃんとリヴァーナさんも行くんだから私一人で戦うわけじゃないもん」
「今のアナタがあの子たちについていけるかしら」
「はい? 私のほうが弱いって言ってる?」
「そうよ。井の中の蛙って言葉を知ってる? まさに今のアナタね。ナミの火山での戦いを経験してからあの子たちはさらに成長してるわ。その間アナタはダイフク君に乗って雪の上を走り回ってただけでしょ? そんなアナタにこの子の命を預けられるわけないじゃない。アナタよりメネアちゃんが行ったほうがいいんじゃないかしら」
「……私だって修行してたもん」
「ダイフク君に上手く乗るための修行でしょ?」
「違うもん。魔法の修行も剣の修行もしてたもん」
「村人に教えながら?」
「……私だって戦えるもん。地下四階はクリアしたもん」
「ウチのダンジョンでは死ぬことはないってわかってるからよ。マグマドラゴンに殺されそうになったこともう忘れたの? 今度はそれ以上の強敵なのよ? というかマグマドラゴンなんて火山にうじゃうじゃいるただの雑魚敵よ? 今のあの子たちはそんな雑魚敵くらい余裕で倒せるわよ?」
「……死んでもお兄は守るもん」
「アナタに死なれるこの子の身にもなりなさい。それに死んだら敵を倒せないでしょ」
「……」
そこでララは黙ってしまった。
涙を必死でこらえてるようにも見えた。
するとカトレアが口を開いた。
「ドラシーさん、ロイス君を行かせてあげてください」
「ダメ」
「もしかすると敵の魔物さんも悪い魔物じゃないのかもしれませんし……」
「どう見たって悪い魔物でしょ? 話せるからって良い魔物ばかりとは限らないの。この子を油断させておいて仲間になり、あとから殺すっていう遊びを楽しんでるってこともあるかもしれないわよ? 意思を持ってる魔物は賢いのよ?」
「……」
またカトレアも黙ってしまった。
「私はララちゃんの意見に賛成」
「マリンちゃん? なに言ってるの? さっきまで反対してたでしょ?」
「じゃあダイフク君やマカちゃんやタルちゃんに聞いてみてよ。お兄ちゃんにいっしょに来てほしいかってさ。本心で答えてね」
みんなの注目が魔物たちに集まる。
「ニャ~(来ないほうがいいと思うけど、ロイスがいっしょだと元気出るかも)」
「……ピィ(確かにご主人様がいると力を100%発揮できる気がしますけど)」
「……ピィ(でも危険です……来てくれるのであればめちゃくちゃ嬉しいですけど。ウェルダンさんだって、怪我してるとなると余計にそう思うかと……)」
「なんて?」
「……アナタはどう思ってるのよ?」
ドラシーは俺にたずねてきた。
「……行くしかないだろ」
本当は行きたくないんだぞ?
でもこれで行かないなんて言えるやつはこの世にいないと思う……。
そりゃ俺だってウェルダンのことは凄く心配してる。
マドやハリルが無事かどうかも心配だ。
もちろんユウナやシャルルや冒険者たちのことだって。
「……」
ドラシーは無言でゲンさんを見る。
ゲンさんはしばらく考え込んでから、首をゆっくりと縦に振った。
「……はぁ。わかったわ。行きなさい」
なんだかナミに行ったときのことを思い出してきた……。
俺なんかが行って本当に大丈夫なんだろうな……。
「ほら、早く準備しなさい。時間がもったいないわ」
そしてドラシーは消えた。
結局俺が家を出るときにも姿は見せなかった。
完全に怒ってるんだと思う。
大樹のダンジョンのことはカトレアとマリンに任せてきた。
予定通り明日の十五時に受け入れを開始し、明後日も予定通りに営業してもらう。
二人が泣きそうになりながら俺たちを見送ったのはもう会うのが最後かもしれないとか思ってるんじゃないだろうな……。
ボネも珍しく俺にしがみついてなかなか離れようとしなかったし……。
とか考えてるうちにソボク村に着いてしまった。
当然ながらホームには誰もいない。
そして地上へと転移する。
「「「「あっ!?」」」」
「「「「お疲れ様です!」」」」
近所迷惑になるから静かにしてくれ……。
駅前には二十人ほどが集まっていた。
半分はパラディン隊のようだ。
……ティアリスさんはこっちに来てたか。
ん?
こいつらはどこで話を聞きつけた?
見送りにでも来たのか?
パラディンたちの視線は久しぶりに会うララに釘付けのようだ。
さっき驚いてたのはおそらくララがいたからだろう。
「みなさんお疲れ様です。パラディン隊は今後も厳重に警備をお願いします。敵は空を飛べますのでどこに現れるかわかりません。山が荒らされたことで元々山にいた魔物たちがどういう行動に出るかも想像つきません。パラディン隊だけでは守りきれないと思ったときにはすぐに報告するようにしてください。すぐに冒険者たちが駆けつけてくれるはずですので。ではここはお願いします」
「「「「はい!」」」」
さすがに緊迫感が漂ってるな。
「すみません、質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「パラディン隊から何名か同行させる予定はありませんか?」
そうくると思った。
「ありません。みなさんは町や村を守ってください」
「そちらのお三方のパーティには回復魔道士がいないようですが」
「タルがいますので大丈夫です。それに人数の関係上、これ以上は乗せることができないという理由もあります。第二陣では回復魔道士も複数名同行してもらう予定ですが、そちらも既にサウスモナに向けて出発してますのでご安心を」
「……ウェルダン君の姿が見えませんが、馬車で行くんですよね? もしかしてダイフク君が引くんですか?」
「ウェルダンは王都にいますので。それに馬車では時間がかかりますからダイフクの背中に乗って行きます」
「「「「!?」」」」
「以上ですか? ほかになにかご質問がある方? ……では時間がありませんのでこれくらいで。守りは任せましたからね?」
「「「「はい!」」」」
「……はい」
そんなガッカリしないでくれよ……。
町の守りも大事だってことは理解してくれてるはずだろ?
「では冒険者のみなさん、行きましょうか。村の出口まで歩きながら状況を説明しますので」
俺とララのあとに冒険者たちが付いてくる。
リヴァーナさん、ミオ、メネア。
でもそのさらに後ろの三人はどこまで付いてくる気なんだ……。




