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第七百二十四話 援軍選定

 ピピはかなりの早口で状況を説明した。


「チュリ! (続きはもう少しありますけど、とりあえず早く! ユウナちゃんが危ないです! もちろん王都も!)」


「落ち着け。いや、落ち着けるわけがない。ちょっと待て。どうする? ヤバいよな? 鉄のゴーレムってアイアンゴーレムのことだよな? 狼はアイアンウルフ。それとブロンズゴーレムとブロンズウルフ。いや、そんなやつらのことよりミスリルゴーレムと土岩銅鉄ゴーレム翼付き……」


「まずアナタが落ち着きなさい……。みんなを呼んでくるわ」


 ドラシーが消えた。


 そして一分もしないうちにカトレアとマリンが魔物部屋にやってきた。


「ピピちゃん! おかえりなさい!」


「なにがあったの!? ってピピちゃん傷だらけじゃん!」


 どうやら二人とも風呂に入ってる最中に呼ばれたようだ。

 ……あまり見ないようにしよう、特にカトレア。


「ん~~。なに~? どうしたの~?」


「チュリ!? (ララちゃん!? 帰ってたんですか!?)」


「あれ? ピピじゃん」


 ララがいると知って抱きつきにいくピピ。

 それをカトレアが羨ましそうに見ている……。


 ダイフクも寝ぼけながらララの後ろを付いてきたようだ。

 ダイフクの背中の上ではボネとワタが寝ている。


 そして最後に俺の部屋にいたマカとタルが起きてきた。


「チュリ(みんな、大きくなりましたね)」


「……ピィ!? (ピピさん!?)」


「ピィ!? (あれ!? もうお昼ですか!?)」


 ピピは明日の昼に帰ってくる予定だったからな。


 ピピの傷に気付いたタルはとりあえず回復魔法をかける。


「じゃあみんなに急ぎで説明してちょうだい」


 そして俺はピピと同じくかなりの早口で状況を説明した。


「「「「……」」」」


 少し早口すぎたかもしれない。


「時間がない。カトレアはすぐにマルセールとソボク村の宿屋にいる冒険者リストを出してくれ。一応ビール村とボクチク村も。個人情報がどうとか面倒なことは言うなよ?」


「……わかりました」


「マリンはパラディン隊に連絡してソボク村の警備を強めるように言ってくれ。特に東側には注意と。それとウチの魔物たちがいなくなるからマルセールの警備も厳重にと。場合によっては大樹や森も守ってもらう」


「うん」


 二人は部屋を出ていった。


「ララ、どうする?」


「……」


「行くか? ララが行かなくてもゲンさんとダイフク、それにマカとタルには行ってもらう」


「ゴ(無理しなくていいって言え)」


「ピィ! (早く出発しましょう!)」


「ピィ! (一秒でも惜しいです!)」


「ニャ~? (どこ行くの~?)」


 ダイフクのやつ話聞いてなかったのかよ……。


「……」


「ララ? 無理しなくていいからな?」


「……え? なにが?」


「無理して戦いに行かなくていいってことだよ」


「え? 戦うに決まってるじゃん」


「え……」


「えってなに? ウェルダンとシャルルちゃんがやられてユウナちゃんも死にそうなのに行かないなんて選択肢あるわけないじゃん。あ、もしかして私が勝てないと思ってる? シャルルさんの攻撃で破壊できたんでしょ? それなら私でもなんとかなるって。たぶんBランクかCランクね。ミスリルだからってビビることないよ。ゲンさんがミスリルの鎧着てたほうが絶対強いって」


「……こわくないのか?」


「ダイフクに乗ってれば大丈夫だし。それにもしダイフクなしで戦うことになっても今なら大丈夫な気がする。なんか胸の奥から沸々と熱いものが湧いてきてる感じ? 今なら敵が例えAランクでも瞬殺できちゃうかも」


「「「「……」」」」


 おそろしい……。

 今の話を聞いたらこわくなるのが普通だろ?

 さすがのゲンさんもドン引きだよ。


「じゃあさっきの間はなに考えてたんだよ?」


「誰連れてこうかな~って。まずミオちゃんは確定ね。シャルルさんの攻撃にひっかかるんだからミオちゃんだともっと余裕かも。アプリコットちゃんも経験のために連れていきたいけど人数の関係で今回はパスかなぁ~。マクシムさんがいてくれると安心だけど、二人分の大きさだからそれならほかに二人選んだほうがいいよね~。じゃあやっぱりリヴァーナさんになるかぁ~。回復魔道士も連れていきたいけど、これでもう四人だから限界だよね。タル、回復は任せたからね」


「ちょっと待て。限界ってなんの限界だ?」


「え? ダイフクに乗れるのが四人が限界ってことだけど?」


「いやいやいや、ダイフクには馬車を引いてもらうつもりでいるんだぞ? ゲンさんも行くって言っただろ?」


「馬車なんか引いてちゃ遅いって。というか夜だし山越えになるし慣れないことはさせないほうがいいよ」


「……でも四人はさすがに少なくないか?」


「それでもやるしかないよ。一応あとから馬車で追っかけてきてもらうようにゲンさんたち第二陣の手配はしとこうね。って馬がいないんだっけ?」


「全部出払ってるからな」


「う~ん。ならマリンちゃんにお願いしてみるのは? 私魔石たくさん持ってるよ? 馬車引けるやつも探せばいるんじゃないかな~」


「あれはまず魔石を解析するところから始まるんだよ。だから短時間では無理だ」


「な~んだ。じゃあ馬借りるしかないね。どれだけ急いでも着くのに半日以上かかりそうだけど」


「……いや、船を使えばなんとかなるかもしれない」


「あ、そうじゃん。夜だけど大丈夫? というかユウナちゃんたちも船で行けばもっと早かったんじゃないの?」


「リーヌから王都に抜ける海は時間に関係なく魔物が多いし、波も荒いんだよ。今じゃそこに魔瘴も加わってるわけだし。それに冒険者たちには陸路の厳しさを知ってもらったほうがいいからな。船なんて使えるのはウチだけだし」


「ふ~ん。で、本当に船出せるの?」


「出すしかないだろ。サウスモナで開発中の新型だったらより早く着けるかもしれない。それでもダイフクが山を突っ切るよりはだいぶ時間かかるだろうけどな」


「じゃあすぐに手配してね。準備してくるからお兄も早く」


 ララは本当に行く気のようだ。

 ミスリルゴーレムと翼ゴーレム相手に戦えるのか?


「ゴ(勝算がないことはない。魔物が意思を持つということはマイナス面もあるからな)」


「それは俺も思った。話を聞いてると、普通の魔物ならなにも考えずに襲ってくるところなのに、わざわざ時間をくれてる感じだもんな」


「そんな甘くないわ。おそらくミスリルゴーレムは統率型よ」


「統率型?」


「周りにいる魔物に指示することができるから統率型。アイアンゴーレムやアイアンウルフがおとなしくなったのもミスリルゴーレムの指示待ちと見るべきよ。同じ場所から生まれた魔物で自分よりも遥かに格上の相手だと本能的に従わなきゃいけないと思ってしまうものなのよ」


「ゴ(そういやそんなやつもいるんだったな。確かアイアンゴーレムとアイアンウルフはEランクだっただろ? 早く鉱山を閉じないととんでもないことになるぞ)」


「硬いだけでそんなに強くはないと思うんだけどな。ブロンズゴーレムたちはFランクだから余裕だろうし。でも今王都に帰ってるEランク冒険者たちは地下四階中盤まで行くのがやっとの人たちばかりなんだよな~」


 それだとアイアン系の敵はもちろん、ブロンズ系の敵相手でも余裕とはいかないか。

 でもまだハリルとマド、コタローやアオイ丸もいるからなんとかなると思いたいが。


「ピピ、さっきの話の続きを頼む」


「チュリ(王都を出たところからですね)」



 翼ゴーレムに追いかけられることになったピピ。

 スピードならピピのほうが速かったが、ピピの行く先にはなんとアイアンバードの大群が待ち受けていた。

 もしかすると翼ゴーレムも統率型なのかもしれない。


 敵に挟み撃ちにされたピピ。

 絶体絶命かと思われたが、そこに救世主が現れた。


「モ~! (ピピさん! こっち!)」


 なんとピピの真下にはウェルダンがいた。


 急降下するピピ。

 敵も少し遅れて追ってきたが、ウェルダンから敵に風魔法が放たれる。


「モ~! (下を進んだほうがいい! 木があるせいであの変なやつは体が大きくて簡単には追ってこれないから!)」


「チュリ! (確かに! でもどうやってここに!? 怪我は!?)」


 地面すれすれをかなりの速さで進みながら会話をする二匹。

 空からは翼ゴーレムによるものと思われる風魔法や土魔法が降ってくる。


「モ~! (モリタがポーション飲ませてくれた! それに攻撃を受けた瞬間にたぶんユウナちゃんの補助魔法か回復魔法が飛んできたから致命傷は避けられたみたい!)」


「チュリ! (そうでしたか! シャルルちゃんはモリタを守ったうえで、最後の力を振り絞ってウェルダンのところまでモリタを投げ飛ばしたんですね! でもウェルダンは早くユウナちゃんのところに戻ってください! 私はロイス君のところに向かいます!)」


「モ~! (うん! 鳥の大群くらいなんとかなるよね!? あの変なやつは引き受けるから!)」


「チュリ!? (任せていいんですか!? おそらく強敵ですよ!?)」


「モ~! (山を逃げ回るだけだから! 町には近付けさせないほうがいいし!)」


「チュリ! (ではお願いします! 必ずすぐに戻ってきますから!)」


「モ~! (うん! 待ってるから!)」


 そうしてピピはウェルダンと別れた。

 ウェルダンは立ち止まり、翼ゴーレムに向けて風魔法を何発も放つ。

 すると思惑通りにウェルダンの元に翼ゴーレムが下りていった。

 アイアンバードの大群はそのままピピを追う。


 ピピは多少の木や葉っぱなどは気にせずにひたすら森の中を進んだ。

 そのせいか、山の山頂あたりを通るころには体に大量の切り傷ができていた。

 だがアイアンバードはもう追ってこなくなっていた。


 そこからは全速力で飛ばすことにした。

 夜だからとか、魔瘴で視野が悪いとか、魔物がたくさん飛んでるかもしれないとかはいっさい考えずに。

 とにかく全速力で一直線に大樹を目指して飛んだ。

 魔物にぶつかろうが関係ない。

 とにかく早く大樹に帰るという思い一心で空を飛び続けた。



「……チュリ(というような感じです)」


「ピピ……。よく帰ってきてくれた」


 無事で良かった。

 夜道はどんな魔物に出くわすかわからないから凄くこわかったはずなのに。


「……チュリ(痛いです)」


「あ、すまん」


 つい強く抱きしめてしまった。


「でもウェルダンが心配だな」


「チュリ(そうなんです。簡単に逃げきれるような相手ではないと思うんですが……)」


「ゴ(でもいい判断だと思うぞ。ユウナが二匹同時に相手するのはきついだろうからな)」


「ユウナは一人でどうやって戦ってるんだろう?」


「ゴ(封印魔法を駆使するだろうな。敵を閉じ込めたりしてるかもしれん)」


「封印魔法の壁はあっさり壊されたんだぞ? ミニ大樹の柵や魔道線を上手く利用でもしない限り厳しいと思うけどな」


「チュリ(あ~……。そういうのこそ私が役に立てるのに……)」


「王都って町の周り全面壁なんだよな? なら壁の内側に強力な封印魔法の囲いを作っておいて、そこに誘導させるって手が一番いい気がする。敵にわざと外側の封印魔法や壁を破壊させるようにしてさ。その壊れた壁から町の中に逃げれば敵も追ってきて自ら結界の中に入ってくれるんじゃないか? 特にその翼ゴーレムなんかは。まぁ実際はそんな上手くはいかないんだろうけど。マドがいるなら落とし穴作戦も使えそうだな。あいつ、めちゃくちゃ上手く作るんだよ。コタローとアオイ丸にユウナの変装をさせて陽動作戦も面白そうだ」


「ゴ(よくそんな悪知恵ばかり働くな……)」


「もう少し正々堂々と戦おうという気はないのかしら……」


「弱者なりの知恵って言えよ。まともに戦って勝てるなら苦労はしないって」


 ……でもなんだろう。

 急に胸騒ぎのようなものがしてきたぞ……。

 ユウナは大丈夫なんだろうな?

 シャルルの怪我は……って死んでないよな?


「ダイフク、ゲンさん乗せられないか?」


「ニャ~(ゲンさんは無理だって。大きいし重いからバランス崩して上手く走れなさそう)」


 そうなんだよなぁ~。

 遅くなったら意味がない。

 事態は一刻を争うんだ。


「チュリ(というかウェルダンが無事なら馬車を引くためにウェルダンが帰ってきたほうが良かったですよね……。そこまで頭が回りませんでした)」


「ピピのほうが速いだろ。それにユウナはダイフクがウチに帰ってきてることにかけたんだと思う」


 するとカトレアが戻ってきた。


「マルセールとソボク村の分です」


 宿泊者リストを渡してくる。


 ……お?

 リヴァーナさんパーティはソボク村に泊まってるんじゃないか。

 もしかしてララはそれを知ってたのか?


「四人となるとララ、リヴァーナさん、ミオ、メネアか。あとはマカとタル。それなら走れそうか?」


「ニャ~? (メネアって誰?)」


「あ、そうか。オアシス大陸のモーリタ村でお前を魔物だって見抜いた子だよ」


「ニャ~(あ~~。あのときは災難だった気がする。でもあの子なら軽そうだから大丈夫)」


 村人に追い回されたことはダイフクにとって思い出したくない過去のようだ。


「ララちゃんを行かせる気ですか?」


「行きたいって言うんだから仕方ないだろ」


「……そうですね」


「とめないのか?」


「私がなに言おうがとめられないでしょうから」


「たぶん俺でも無理だ。無事を祈ろう。それよりサウスモナのシモンさんとヴァルトさんに連絡とってくれ。第二陣はとりあえずサウスモナからリーヌまでは船で向かうから。そこからさらに船で行くか、陸路の馬車で向かうかは相談して決めてもらう」


「わかりました。こちらビール村とボクチク村、それにサウスモナの宿泊者リストです」


 気が利くじゃないか。

 船を出すことも考えて、サウスモナのリストまで準備してくれてるとは。

 ボクチク村より北に行ってる人たちは今回は対象外だな。


 ヒューゴさんたちはサウスモナにいるはずだから拾えるはず。

 あとマクシムさんは……あ、いた。

 ビール村だと?

 あの人、酒が好きなのかな。

 でもちょうどいいか。

 これを機会にパーティを組ませてみよう。


 あとは誰を連れていくべきか。

 サイモンパーティやナイジェルパーティはどこだ?


 おっと、マリンが来たようだ。


「パラディン隊への連絡完了~。それとアリアさんから伝言。王都に行くのなら私も連れていってください。敵が誰であれ八つ裂きにしてみせますってさ」


「却下。ソボク村で迎え撃つように言っとけ」


「そう言ったんだけどね~。あとティアリスさんがしつこい。あの様子だとたぶん駅で待ち構えてるよ」


「こういう事態のときに冒険者が安心して外に出ていけるためのパラディン隊なんだけどな……。やっぱり血が騒いじゃうんだろう。それよりもう一度ソボク村のパラディン隊に連絡して、リヴァーナさんたちが泊まってる宿に大至急向かってもらってくれ。すぐに戦闘準備して駅前に集合って」


「わかった。三人とも?」


「あぁ」


「ちょっと待ちなさい。さっきララちゃんが言ってた四人の中にメネアちゃん入ってた?」


 ドラシーもダイフクと同じでぼーっとしてたのか?


「ゴ(確かにそうだな)」


 ん?


 ……そう言われてみればメネアの名前は出てなかったかもしれない。


「じゃああと一人は誰のことだよ? アプリコットやマクシムさんは呼ばないって言ってたよな?」


「えぇ。回復魔道士がどうとか言ってた気もするけど……」


「ゴ(回復魔道士も連れていきたいけどやっぱりリヴァーナだなってなったんじゃなかったか?」


「そんな感じだった気がするな……。ミオの前に誰か名前あがってたっけ?」


「う~ん。ララちゃんの中ではもう決まってる人がいたのかしら……」


「ゴ(タルとマカで一人分ってことじゃないか?)」


「少し大きくなったとはいえまだ人間一人換算にはしないだろ。タルとマカは別枠で考えるのが自然だと思うけど」


「ねぇ~~、そんな議論どうでもいいからまずララちゃんに確認すればいいじゃん」


 確かにマリンの言うとおりだ。

 でもララはいったい誰を連れて行く気だ?


 そしてすぐにララがやってきた。


「お待たせ~。ってお兄? なんで着替えてないの?」


「え? 俺は船に乗るつもりはないぞ?」


「はい? なに言ってるの?」


「え? 俺もゲンさんといっしょに船で王都に向かったほうがいいか?」


「は?」


「え? ……ソボク村までララたちの見送りに行くべきか?」


「お兄?」


「え? …………え?」


「「「……」」」


 ドラシー、ゲンさん、マリンと俺は同じ表情をしてるはずだ。


「お兄? 早く準備しようね?」


「……ララ、ミオ、リヴァーナさん、マカ、タル……の四人とダイフクだよな?」


「それじゃ三人だよね? お兄が行くのは最初から決定してるでしょ?」


「「「「……」」」」


 全く笑えない冗談だぞ?


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