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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第七百十八話 そんなの聞いてない

 地下四階は実に盛り上がってる。

 今日クリアできなければ、『弱体化した地下四階をクリアしてもなぁ~』、なんて言われることになるかもしれない。


 まぁそんなこと言う人なんて誰もいないだろうけど。

 俺が設定ミスを認めてる以上、それは俺を批判する声でもあるからな。

 数か月前には地下四階入り口から少し進んだ場所に少し難易度を下げた海底洞窟を仕込んだりもしてるから、難易度調整を失敗したことはみんなが知ってるはずだし。

 二度も難易度調整をするなんてダンジョン管理人として失格だと言われてもおかしくはない。

 だがその指摘をすれば俺の逆鱗に触れるかもしれないぞ?


 ……冗談だよ。


 冒険者からすれば自分たちが不甲斐ないせいで弱体化されたって思うのが普通か。

 今の難易度でも何組かは突破できてるし、決して無理というわけではないしな。

 特にリヴァーナさんは一人で、しかも初見での突破だったし。


「ねぇ、そういやペンネもリーヌに行ってるの?」


「いや、昨日リーヌや王都組といっしょにウチを出て、サウスモナで別れて魔物海層に行ってる。帰りにまた拾ってきてもらうから、帰ってくるのは31日だな」


「モニカちゃんはマルセールの学校にいたよ? 誰が面倒見てくれてるの?」


「その魔物海層の責任者たちだ。みんなペンネのことが大好きだから喜んで引き受けてくれるんだよ」


「へぇ~。今度暇で暇でどうしようもないときにでも顔出してみよっかな」


 ララが暇そうにしてるのなんて見たことないけどな……。


「さて、じゃあ私も行ってくるから」


「どこに?」


「地下四階。クリアくらいしときたいもん」


「一人でか?」


「まさか。そこまで自信過剰じゃないし、あんな凶暴な魔物たち相手なんかこわくて動けそうにないし。だからダイフクとマカとタルと」


 ほう?

 この二か月の修行の成果を見せてもらおうじゃないか。

 ララのじゃなくて魔物三匹のな。


「でももう昼過ぎだぞ?」


「大丈夫。サッと行ってサッと帰ってくるだけだから。今のダイフクのスピードがあれば余裕」


「……まぁそれで魔物急襲エリアを突破できるんならそれもありか」


「なにも不正はしてないんだからありに決まってるでしょ。なるべく冒険者の邪魔はしたくないしね。じゃあ準備ができたら行ってくるから。しっかり見てて」


 そしてララと魔物たちは完全武装で地下四階に入っていった。

 新調してもらったばかりの防具、メンテナンス済みの武器を装備しての本気モードだ。


 でもララが地下四階に入ったのなんていつぶりだろう?

 ……考えるまでもなく、あの魔工ダンジョンに入る前以来だよな。

 あのときはまだユウナと二人でパーティを組んでるときだったっけ。

 あれからもうじき一年が経つ。

 でもまだたった一年しか経ってないんだよな。

 この一年が濃すぎたせいか、もっと前の出来事のような気がする。


「ただいま~」


 ん?

 この声はマリンか。


 リビングに移動して出迎える。


「おかえり。学校は?」


「一応完成~。今日の昼からは先生たちが職場見学してるよ」


「へぇ~。……帰ってきたのはマリンだけか?」


「お姉ちゃんも。師匠とモニカちゃんはこのまま4月1日まで泊まって、私とお姉ちゃんは明日からのダンジョンアップデートの準備のためにもう帰ってきたってわけ」


「……そのカトレアは?」


「外の駅出たあたりを掃除してる。明日みんな通るからきれいにしとかないとって」


 あとで小言を言われそうだな……。


「それよりさぁ~、なんでララちゃんに言っちゃうかな~」


「魔物生成のことか? 一号のことがバレたから仕方なかったんだよ」


「驚かそうと思ってたのにぃ~」


「……マリン、一号なんだが……」


 そして今朝の出来事を話した。


「あっそ。所詮ブルースライムだからね」


 マリンは俺とは真逆であっさりしていた。


「俺は少し心が痛んだぞ……」


「だから言ったでしょ。弱い魔物を生み出すとそういうことになるって。あとで検証結果教えてね」


 マリンにとって一号は所詮ただの実験体だったってことか。

 まぁ強い魔物しか生成したくないってずっと言ってたもんな。



 しばらくして、カトレアが家に入ってきた。


「お疲れ」


「お疲れ様です」


 ……本当に疲れてる顔だな。


「掃除してなくて悪かったな」


「いえ。別に構いません」


 俺には最初から期待なんかしてないと思われてるのだろうか……。


「なんか飲むか?」


「ではお茶を」


 カトレアは二階に荷物を置きに行き、すぐに戻ってきた。


 ……キョロキョロしてなにかを探しているようだ。

 そして目当てのものが見つからなかったのか、ソファに座った。

 とりあえずボネを自分の膝上に呼び、撫でることにしたようだ。


「ダイフクとマカとタルならララといっしょに地下四階に行ってる」


「そうだったんですか」


 昨日ララは学校に魔物たちを連れて行かなかったからな。


「シルバ君は?」


「……マリン、こっちに来い」


 管理人室でララたちの様子を見ていたマリンが出てくる。

 そして俺の隣に座る。


 さっきマリンにもシルバのことを聞かれたから、カトレアが帰ってきたら話すと言ってあった。

 そのせいでなにか良くないことを察してるようで、マリンの表情は暗い。

 カトレアも同じく、シルバの身になにかあったとでも思っているようだ。


「シルバはヒョウセツ村に残った」


「「……」」


 そしてララやマカたちから聞いた内容を話した。


「「……」」


 カトレアの目からはすぐに涙がこぼれ始めた。

 マリンは泣かないように我慢してるんだと思う。


「……死んだのを誤魔化してるとかじゃないんだよね?」


「あぁ。ユキちゃんと村と人間たちを守るためだ」


「そっか。ユキちゃんは本当に嬉しかったと思うよ。今まで話せる相手がいなかったんだもん」


「そうかもな。マクシムさんよりシルバがいてくれたほうがいいよな」


「うん。ユキちゃんね、ここでお風呂入ったあと本当に真っ白になったんだよ? しかもキラキラ光ってるように見えるの」


「らしいな。そのせいで仲間外れにされたんだろう」


「うん」


 少し毛の色が違うくらいでと思うかもしれない。

 でも魔物たちの間ではよくあることらしい。

 ペンネが流されてきたのもほぼ間違いなくそのせいだろうとゲンさんが言ってたし。


「……私は納得できません」


「シルバとユキちゃんをここへむりやり連れてくることはできる。でもユキちゃんが残りたいって言ったのは村のためや俺たちに迷惑をかけたくないだけじゃない。大好きな故郷にずっと住んでいたいんだよ。本当はマクシムさんにも出ていってほしくなかったはずだ」


「……でも、シルバ君が……」


「シルバだってユキちゃんを残してここに帰ってきたら後悔すると思ったからこそ村に残ったんだ。俺たちならきっと理解してくれると思ってシルバが選んだ道なんだよ。だからわかってやってくれ」


「……」


 すぐには整理できなくて当然だ。

 俺だって昨日丸一日落ち込んでたんだからな。

 カトレアも寝て起きたら少しはマシになってるだろう。


「それよりダイフクとマカとタルの成長具合を見てやってくれ。ゲンさんとも話したんだが……」


 それからはララたちの戦闘の様子を見ながら、ララたちのこの二か月の話をした。


 そしてカトレアは魔物たち三匹の姿を見て、早くも落ち着きを取り戻した。

 立派に成長してる姿を見れて嬉しかったんだろう。

 エク、メル、マドにもまだまだ成長できる余地があるとわかったことにも関心を示していた。

 カトレアは俺なんかよりよほど強いな。


 そのあとは明日からのアップデートについての打ち合わせをした。

 ララが提案したDランク特典もすんなり通った。

 こんなに順調すぎるアップデート前は初めてじゃないか?


「あ、そういや予備の魔石を使ったことには激怒してたぞ。まぁいずれ全部返ってくることや、毎月学校運営費が貰えるとわかって許してくれたけど」


「「……」」


「ん? どうした?」


「……運営費が入ってくるのは本当ですが、初期投資の魔石が返ってくると言ったことは……嘘です」


「は? 嘘? 町にダマされたってことか? ジェラードさんやセバスさんか?」


「いえ、私が嘘をつきました」


「は? なんで?」


「そう言わないと魔石を使わせてくれなかったでしょう? 急でしたから魔石を集めようにもほかの手段はありませんでしたし。それに今のご時世的に、町には学校に使えるお金がないんです。学校よりも先に最低限の生活環境を整えることが大事ですからね。ちなみに運営費というのは学校で使用する魔力を、魔石の相場額で支払ってもらうことになってます。つまりそのほぼ全てが学校で使用する魔力となって消えるため、ウチにはほとんど入ってきません」


「おい、それってつまり……」


「学校関連での収入はゼロと考えてください。初期投資の魔力として使用した魔石も返ってくることはありません。それと、この前マーロイ大陸で入手してきていただいた水晶玉も使いました」


「……嘘だよな?」


「本当です。言おうかどうか迷ったんですが、四人で話し合った結果、伝えておいたほうがいいという判断になりました。事後報告ですみません」


「……」


 ちょっと待て。

 そんなのララじゃなくても俺が怒るぞ?

 じゃあなんのために学校なんて…………それは子供たちのためだよな。


 でもウチが全面的に資金提供してまで作るなんて聞かされてたら絶対反対したからな?

 しかも貴重な水晶玉まで使うなんて……。


「お金が必要なだけなら私たちが支払えます。ですが魔力が必要となると今は現物に頼ることしかできなかったんです」


「それはわかるけど……」


「なら私たちが魔石や水晶玉分のお金を大樹のダンジョンに支払うと言えば納得してくれますか?」


「なんでだよ。そんなのおかしいし、カトレアたちから受け取れるわけないだろ……」


「だから言わなかったんです。私たちだってロイス君を騙してることに悪気はありました。もちろんもし大樹のダンジョンや魔道ダンジョンに緊急事態があり、大量に魔石が必要になったらどうしようという不安な気持ちは今も継続中です。ですがこの4月から開校させるという学校計画は私たちにしかできないことだったんです。来年、北マルセールあたりに開校すればいいというお話もありましたが、お子さんにとっては一年がとても貴重な時間なんです。採算度外視でもやる必要があると感じたんです。でも正直、私たちやダンジョンの力を見てもらいたいという気持ちもありました。それについては錬金術師のエゴだと思っていただいても構いません。魔石はまた一から私たちが貯めますから、今回はそれで許してもらえませんか?」


 いや、採算度外視なんてウチの経営的に非常に困るんだが……。

 地上でのことなら俺もここまで難色を示したりはしない。

 ってそれを言ったら避難民を無償で受け入れてることに矛盾することになるか。


 う~ん。

 学校はカトレアたちの趣味みたいなものと考えればいいのだろうか。

 魔道ダンジョンや町の封印結界などの安全管理をきちんとやってくれるのであれば別に趣味でなにしてくれたって全然構わないんだけどな。

 お金が入ってこないのは残念だが、魔石を貯めてくれるのならララも許してくれると思うし。

 でも水晶玉はもったいなかったなぁ~。


「俺も緊急でなにかあったときのことはわかってて了承したんだからそれはいいとして、まさか水晶玉まで使ってるとは……。水晶玉があるからまだ大丈夫だと思ってた節もあるからな。それにあの魔石はララが苦労して貯めた魔石だ。お金で買った魔石ではあるが、お金だけの問題じゃないってことはわかってるよな?」


「はい。ララちゃんにもちゃんと謝りますから」


 ならまぁいいけど。


 それにしてもウチの錬金術師たち、ダンジョンの中であればもうなんでもできそうだな……。


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