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第七百八話 子供料理人たちの決断

 この4月から大人になるという新規の冒険者が今日も十人も来た。

 あと数日くらい待てばいいのに。

 親御さんにはちゃんと言ってきてるんだろうな?

 魔道列車が繋がったおかげですぐにここに来れてしまうというのも問題ありかもしれない。


 その冒険者たちが入っていったばかりのダンジョン入口を見てこんなことを考えてる俺ももう大人二年目か。


「「おはようございま~す!」」


「ん? お~? おはよう」


 元気よく挨拶をしてきたのはモモとヤックだ。

 それにその後ろにはハナの姿もある。

 みんな旅行から帰ってきたか。


「楽しめたか?」


「はい! 魔道列車圏内の町は全部周ってきました!」


「旅行も楽しかったですけど、改めてダンジョンって凄いんだな~と思い知らされましたね」


 うんうん。

 こうやって大人になっていくんだな。


「ハナもいっしょに行ったんだよな?」


「はい。楽しかったです」


「そうか」


 一人だけテンションが低いな。

 まぁいつも通りと言うべきか。


「今お時間いいですか!?」


「うん。でも先にみんなに挨拶してこい」


「「はい!」」


 それから二十分後、三人は管理人相談室にやってきた。


 まずは三人から大量のお土産を渡される。

 俺だけにじゃなくてウチの家に住む全員宛てにな。


 そしてしばらく旅行話を聞く。

 モモとヤックが交代交代でひたすら楽しそうに話す。

 ハナはお茶とお菓子をつまみながら黙って聞いている。


「それで今後のことなんですけど!」


 モモがいきなり話を変えた。


「ちゃんと考えたか?」


「「はい!」」


「……」


 ハナはまだ悩んでるのかな?


「まず私からでいいですか!?」


「うん」


 この三人には少なくとも二件のオファーが来ている。


 一件目はウチから料理人として。

 二件目は新設される学校から調理科の先生として。


 それ以外にもこの三人には実家の店を手伝うという選択肢がある。

 もちろんほかにやりたいことがあればそっちの道に挑戦してみてもいいだろう。


「私、先生になりたいです!」


「えっ?」


 意外だ……。

 モモが先生を選ぶとは……。


「本気なのか?」


「はい!」


「ミーノに相談は?」


「この前このお話を頂いてからすぐにしました! お姉ちゃんは、まだしばらくここで働いてからそのうち飲食店でも出したらどうって言ってましたけど! でも私は先生になって子供たちに料理をする楽しさを教えてみたいと思ったんです! 私がここで教わったように!」


「……そうか」


 どうやら本気のようだ。

 そこまで料理人のことを好きになっていたとは。

 モモはここで働き始めたころと比べるとずいぶん変わったもんな。

 小屋でラーメン屋をやってたことも今思えば懐かしい。


 ……なんだか涙が出そうになってくる。

 完全に親目線になってるのかもしれない。

 今のモモを見て肉屋のおじさんおばさんはどう思ってるんだろうな。


「だから先生になっていいですか!?」


「……もちろんだ。運営に携わる俺たちとしてもダンジョンの勝手を知るモモが先生になってくれると助かる。でも先生は大変だぞ? 子供は言うこと聞いてくれないかもしれないからな? 嫌になったからといって簡単にやめるなんてできないぞ? それに今度はかなり年上の人もたくさんいる職場だぞ? 中にはお堅い人もいるみたいだから嫌われないようにしろよ? 子供にも嫌われないようにするのはいいけど甘やかしすぎるのは良くないからな?」


「……はい」


 おっと、少し口うるさく言ってしまったな。

 これでやっぱり先生になるのをやめるとか言われたら完全に俺のせいだ。


「ま、まぁそれはどこの職場でも同じだけどな。それにほかの先生たちもみんな不安があるのは同じだ。おそらくモモが最年少の先生だろうから、そこは若さを存分に発揮して積極的に溶け込んでいけばいい」


「はい! 頑張ります!」


 うんうん。

 モモなら大丈夫。


 さて、あとの二人はどうするんだ?

 まさか二人も先生か?


「じゃあヤックの話も聞こうか」


「はい! 僕は……」


 ……ん?

 なんだそのタメは?


「……ここに残ります!」


「お? そうか」


 なんだったんだ今のタメは……。

 てっきりとんでもないことを言いだすんじゃないかと思ったじゃないか。


「料理は楽しいですし、ここの職場も好きですし、ほかになにかやりたいことがあるのか考えてみてもここで働く以上の答えは見つかりませんでした」


 それはいいことなんだろうか。

 慣れ親しんだ職場や給与面とかを考えて、安定を求めてしまってるだけじゃないのか?


「5均屋の責任者も任せてもらってますし」


 料理だけじゃなくそっちの商品管理も真面目にやってくれてるもんな。

 ストアの総責任者であるホルンにヤックのフォローも任せてるが、その必要がないくらいとも言っていた。

 そのへんはさすが道具屋の息子だ。


「毎日なにがどれだけ売れたかとか、その売り上げ金額を見たりするのが楽しいんです」


「あ、それは俺もわかる。ホルンも同じようなこと言ってた」


「楽しいですよね!? 家ではそんな楽しさ味わえないですから!」


 おい?

 それは道具屋の売り上げが悪いってことじゃないよな?

 ちゃんとほかの村や町に薬草類やポーション類を転売してるから稼ぎはあるだろ?

 ってそれは安定しすぎて面白くないってことか。

 5均屋に比べると品数も少ないしな。


「ロイスさんはなんのデータを見るのが好きなんですか?」


「そうだなぁ~。ストアの売り上げはもちろんだけど、バイキング会場の料理の出具合だったり、ダンジョン内の魔物の倒された数とか? バー横のおつまみの売れ行きや売れた時間帯も気になるし、トレーニングエリアにある各施設の稼働率とかも気になるな。美容院みたいに波が少ない施設のことはあまり気にならない」


「……なんか次元が違いますね」


「俺は見るのが仕事だし、見てる数が違うだけで根本は同じだろ? ヤックに5均屋のことを任せておけるからこそ、5均屋に関して俺は楽観的に見ていられるということでもある」


「なるほど。たくさんの店の経営者としての目線ですね。勉強になります」


 まぁ俺はお金のことにはそこまで関わってないんだけど……。


「……じゃあとにかくヤックは4月からも今までと同じで、料理人と5均屋の責任者ってことでいいんだな?」


「はい!」


「宿屋に住むか?」


「いえ、マックもいなくなりますし、アンちゃん一人に道具屋と八百屋と肉屋の仕入れ品を任せるのも可哀想ですから僕も家から通います」


「アンは一人になっても大丈夫って言ってたけど、ヤックがそれでいいんならそうしてくれ。アンといっしょに帰ってくれるんなら勤務時間も今まで通りのほうがいいか?」


「いえ、アンちゃんも別にいっしょに帰ってほしいとかそういうのではないと思うのでそこは大人時間で大丈夫です。でもアンちゃんのために八百屋の裏あたりに転移魔法陣作れませんか?」


「あ、そうだな。やっぱり一人は危ないし、ダンジョン内からアンだけが通れる転移魔法陣を設置できないかカトレアに相談してみるよ。でもそれならヤックも通れたほうがいいか」


「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします!」


 うんうん。

 ヤックも良い子だな。


 でもこうなるとハナはいったいどんな選択をしたんだ?

 少なくとも通いでウチで働くという選択はないってことだよな?


「じゃあ次はハナだけど……」


 ずっと無言なのが気になる。

 実家で働いてくれと親から言われたのだろうか?

 でも改装して新しく一人従業員雇ったばかりだよな?


「ハナ?」


「……はい。私は………」


「「「……」」」


 なんだこの緊張感は……。


 というかモモとヤックは知ってるんだろ?


「サハに行こうと思ってます」


「……え? すまん、どこだって?」


「……サハです」


「サハ? ……サハだと?」


「そうです」


「いやいや、あの町は今なにもないことくらい知ってるだろ?」


「なにもないことはありません。今回の旅行でサハにも行ってきましたから現状は理解してます。港は残ってますし、そこには住民の方が百人ほど住んでました。冒険者の方も三十人ほどいました」


「……サハでなにする気なんだ?」


「もちろん料理です。私は料理人ですから」


「……魔道ダンジョン内の駅でってことか?」


「いえ、地上の港です。聞けばみなさん毎日同じようなものばかり食べてるというお話でした。冒険者の方々が取ってきた魔物を単に焼いたものが多いそうです。観光客向けに販売されてる料理もそんなのばかりでした。でも私だったら同じ食材からでももっと色んな料理が作れます」


 またよりによって面倒なことを言いだしたな……。


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