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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第七百七話 近隣村での異変

 さっきまで、昼寝をしようか地下五階に行こうか迷ってた。

 だがリスからの連絡によってどちらもできなくなった。

 なにやらボクチク村でちょっとした騒動が発生しているようだ。


 昨日、パラディン隊が村内東部の封印結界の見回りをしていたところ、村の外から一匹のワイルドボアが突然襲いかかってきたとのことだ。

 もちろん敵は封印結界という壁にぶつかって自分がダメージを負うだけなんだが、問題になってるのはワイルドボアが出現したという点。

 二年前までは大樹の森にも出現していたワイルドボアだが、最近ではマッシュ村に繋がる山道でしか目撃情報はなかった。

 ボクチク村の東にも山はあるが、その山は傾斜がきつく、わざわざ近付くような人もいなかったため目撃されることがなかっただけかもしれないが。


 でもそのワイルドボアが突然ボクチク村付近に出現したということは魔瘴の影響と考えて間違いないだろう。


 そして話はただ一匹のワイルドボア目撃情報だけでは終わらなかった。

 なんと今日の朝になってナラジカも出現したことが確認されたのだ。

 さらに問題になったのはその数。

 エク、メル、マドのリストリオが村の外に確認をしに向かったところ、なんとナラジカが数十匹いたという。

 ワイルドボアも数多く発見されたようだ。

 それ以外の魔物も多数いたという。


 リスたちはヤバいと思い、戦いはせずにすぐに退散してきたらしい。

 いい判断だと思う。

 山は村から少し離れてるから放っておいても問題ない。

 たまにバカなワイルドボアが突進してくるだろうが、大勢で突っ込んできたりしなければ封印結界にはなんの支障もない。


 だが俺のその考えは甘かった。


 リスたちからの報告内容をボクチク村で警備してるパラディン隊に伝えた。

 そこまでは良かったんだが、その報告を村長たち数人に聞かれていた。


 聞かれていたというのはおかしいか。

 村長たちは村に迫る危険を知っておく義務があるもんな。

 それに誰だって魔瘴や魔物に対しての不安はある。

 パラディン隊やリスたちが騒いでいれば余計不安にもなっただろう。


 俺が考慮が甘かった点は、この件がボクチク村で発生してるということ。

 村長たち村人の目には、ワイルドボアやナラジカが無料で獲れる食用の肉としか映ってないんだ。

 だから村長たちはワイルドボアとナラジカの出現を喜んだ。

 そしてもう完全に狩りの方向で話を進めてる。


 気持ちはわからなくもないが、相手はFランクの魔物だぞ?

 その危険性を全くわかってやしない。

 魔瘴が濃くなってきてることもあり、野良での戦いとなるとウチのFランク冒険者でも躊躇する人は多いと思う。

 より良い状態のまま倒そうとすると苦労するだろうし。


 だからといってボクチク村の魔道ダンジョン内に敵を誘い込んで狩猟階層みたいなものを作ってあげるのは少し違う気がする。

 サウスモナやボワールの海階層は、人間が不利なフィールドという点や、海の生物には食べられる魚や魔物が多いという利点があるからこそ作られたものだ。

 なにより漁師たちのためでもあるし。


 仮に狩猟階層を作ったとしても、転移してくる魔物のほとんどは食用にならない。

 ワイルドボアとナラジカを隔離させることができたとしても、よほど数が多くない限りは費用対効果が良くない気もする。

 もし冒険者じゃなくてウサギに魔物を倒してもらおうとか考えてたりするんなら俺は怒るからな?

 よほど敵の数が多く、その敵の魔石だけでダンジョンの魔力分を維持できると言うなら別だけど。


 でもせっかくシャモ鳥とカウカウ牛を譲ってあげたばかりなのに、欲張りすぎるとろくなことにならないぞ。

 せいぜい冒険者向けに依頼を出す程度にしておくんだな。


 おっと、また通話魔道具が鳴った。

 次はなにを言ってくるんだ?

 ん?

 ボクチク村じゃなくてビール村のパラディン隊からだと?


「はい、こちら大樹のダンジョン管理人です」


「ロイスさんですか!? パラディン隊のアリアです!」


「あ~、アリアさん。こんにちは」


「こんにちは! 今お時間よろしいですか!?」


「えぇ。なにかありました?」


「今要請があってビール村に来てるんですけど、村の北部の封印結界外に見慣れない魔物が出現してるんです!」


「見慣れない魔物? どんな魔物ですか?」


「私は見ただけではよくわからなかったんですけど、村の人が言うにはなんか小麦みたいな敵だそうです! しかもたくさん! それとトウモロコシみたいな敵も一匹発見しました!」


「小麦にトウモロコシ? ……倒せそうですか?」


「その許可を頂くために取り急ぎ直接連絡させてもらったんです! まだその魔物たちが封印結界に影響をおよぼしたわけではありませんので駆除対象にはあたらないものですから!」


「許可します。ですが無理はせずに、危険そうならすぐに撤退を」


「了解しました! のちほど報告します! では!」


 ……ふふっ。


 小麦にトウモロコシ、面白いじゃないか。

 ナミの火山ダンジョンにいた果物系の魔物と似たような感じだろうな。

 食べることができるといいんだが。


 しかしパラディン隊もみんな真面目だな。

 嘘でも封印結界に攻撃してきたとか言って勝手に倒してくれればいいのに。

 でも理由なしに封印結界の外に出ないことや、無理に生態系を破壊しないようにとの教えが行き届いてる成果でもあるか。

 まぁアリアさんは俺が欲しがると思ってわざわざ連絡してきてくれたんだろうけど。


 ……ってもしかして、俺もボクチク村の人たちと同じ思考じゃないか?

 ということは今頃ビール村の人たちも、その小麦やトウモロコシをどうにかして販売できないか考えてるんだろうな……。

 まぁいいや。

 ウチの料理として出すために味と栄養が備わっていることを期待しておこう。



 それから三十分後、通話魔道具が鳴った。

 ……ん?

 ボクチク村?


「ピィ! (ご主人様!)」


「エクか? どうした?」


「ピィ! (村の外の東のほうで火が見えたんです! ワイルドボアとかがたくさん出現してた場所付近で!)」


「火? 魔物同士が争ってるのか?」


「ピィ! (そうだと思って一応様子を見に行ったんですけど、なんか見たことのない魔物がいたんです!)」


「どんな?」


「ピィ! (頭が三つある大きい豚です! ご主人様なら知ってるかもと思って!)」


「頭が三つの豚? 犬じゃなくて? ケルベロスドッグってやつならいるけど」


「ピィ! (犬じゃないです! 顔も体も見た目は完全に豚なんです! 色は白や黒や灰色が混ざってて不気味です! しかもその三つの顔の口からはそこそこ強力な火魔法が吐かれるんですよ! だからこわくて逃げてきました!)」


 そこまで言うなら豚で見間違いはなさそうか。

 それにケルベロスドッグはCランクだからそんなところに出現してたら大問題になる。


 というかリスたちは逃げてきてばかりだな……。


「ピィ!? (ご主人様!? どうしますか!?)」


「どうするって、ウチにいない敵ならそりゃ倒すに決まってるだろ。すぐにゲンさんたち向かわせるから」


「ピィ! (了解です!)」


 まぁリスたちもパラディン隊だから思考は似てきて当然か。

 豚となればさすがに倒さないわけにはいかないからな。

 ブラックオークくらい美味かったとしたらウチの名物になる。

 ボクチク村だけに得はさせん。


 ……って俺はどちらかというと肉よりも新種の魔物に興味があるだけだからな?

 新種のついでに食べられる魔物ならなおさら興味が出て当然だよな?

 別にお金のためなんかじゃないし。

 ドロップ品にできたら肉屋のおじさんやミーノやモモも喜んでくれるし。

 その分ウチにはお金が入ってはくるけどさ。


 そして地下五階で修行してるゲンさんたちを呼び戻した。

 念には念を入れて、ゲンさん、ピピ、ウェルダン、ハリル、引率にアオイ丸という盤石な布陣で送り出す。

 あとは管理人室でぼーっとしながら二つの村からの一報を待つだけだ。


 そしてゲンさんたちがここを出てから約一時間後、まずビール村のアリアさんから連絡が来た。


「すみません、少し手こずりまして……」


 アリアさんの声には疲れが出てる。


 どうやら思ってたより小麦の数が多くて邪魔だったのと、トウモロコシが予想より硬かったようだ。

 食べ物の話ではないからな?


 それよりアリアさんが手こずったというトウモロコシ。

 ミスリルの剣でも硬いと感じたのなら最低でもEランク、もしくはDランクくらいの強さはあるかもしれない。

 魔法はいっさい使ってこない、格闘タイプ。

 トウモロコシの粒みたいな手によるパンチがこれまた結構重いパンチだとか。

 焼きトウモロコシにしてやろうと思って魔道士が火魔法で攻撃したらしいが、それをくらった敵は怒り、より凶暴性が増したとか。

 怒ると硬くなるタイプなのかもしれない。

 とにかく、アリアさんがいなかったらかなりヤバい状況だったらしい。

 今後はこういうことも増えるかもしれないし、パラディン隊もまだまだ修行が必要だな。



 それからさらに一時間後、ボクチク村から連絡が来た。


「ピィ! (豚はやっつけたそうです! もう少し周辺の調査をするみたいなので帰りは夕方になるとのことです!)」


 こっちはなんなく倒せたようだ。

 だが三つの頭を持つ豚は意外に動きが素早いらしく、こちらも最低でもEランク、もしかしたらDランクの強さはあるかもしれないとのことだ。

 ブルブル牛やカウカウ牛と同じDランクとなれば美味しさも期待できるな。


 ってまた俺はそんなことばかり考えて……。

 ボクチク村の人たちは俺以上に喜んでそうだ……。



 夕方になり、魔物たちやアリアさんが獲物を持って帰ってきた。

 すぐに物資階層にて品評会、じゃなくて死骸を並べてまずは観察してみる。

 たまたまいたシファーさんも興味津々だ。


「あ、小麦だけじゃなくて大麦も混ざってますね」


「大麦? 小麦とどう違うの?」


 アリアさんはともかく、シファーさんも違いがわからないのか。


「この大麦は実が直線的に並んでるのわかりますか? それにこのヒゲのようなのぎも真っすぐ上に伸びてるでしょう? それに対し小麦は実の並びに統一性がない。それにのぎもどこかだらしない。大麦のほうがシュッとした見た目です」


「「……」」


 そんなことじゃウチの畑は任せられないぞ?

 ってシファーさんにとってはどうでもいいことか。


「大麦はビールに使われてたりするんですよ。ほかには味噌や醤油などですね」


「「へぇ~」」


 二人ともあまり興味がなさそうだ。

 大麦の魔物が出現したなんてネッドさんが知ったら嬉しすぎて腰抜かすんじゃないか?

 口に入れていいものかはまだわからないが。


 そして例のトウモロコシを見てみる。


 ……想像より大きいな。

 背は俺と同じくらい、横幅は俺の倍以上。

 粒も一粒一粒が凄く大きく、大き目のおにぎりみたいな大きさだ。


 ……む?

 確かに硬い……。

 残念だがこりゃ食べられそうにないな……。


「この一匹しかいなかったんですか?」


「はい。レア設定なのかもしれません」


 レアか。

 一応マリンに見せるまでは吸収させるのはやめておいたほうがいいな。


「で、こいつが火を吐く凶暴な豚か」


「脳が三つあるはずでござるのにケンカしないんでござるよ。動きも速いし、木にも登れるでござるし」


「木に? 凄いなこの豚……」


 賢いのかもしれない。

 魔物は頭がいいってだけで強さがワンランクくらい上がるからな。


「こいつも一匹だけなんだな?」


「くまなく探してみたでござるけど……」


 まぁいい。

 さすがにこいつは食べられそうだからすぐ吸収行きでいいだろう。

 一応マリンを待ってみるが。


「チュリ(呼んできました)」


 ピピがミーノとヤマさんを呼んできてくれたようだ。

 こいつらが食べられるかどうかを確かめてもらわないといけないからな。


「でか……」


 ミーノがトウモロコシを見て若干引き気味になる。


「お~? 本当に硬いな」


 ヤマさんはトウモロコシの粒を手や包丁の刃で触ってみている。


「ゲンさんに力尽くで取ってもらった粒がいくつかあるからまずは成分の調査をしてみてくれ」


「うん」


 カトレアが開発した魔道具があるから成分調査自体はすぐに終わるだろう。

 その結果によって調理をし、毒見はウサギにやってもらう。

 ウサギが食べて大丈夫そうなら次はウチの魔物たちの出番だな。


「こっちの豚も大きいな。三種類の豚だから三元豚の魔物版と考えていいか」


 そういう品種があるのか。

 肉屋では値段ばかり見て品種まではあまり見たことないからな。


「こいつ、木に登れるらしいんですよ」


「え? 豚なのに? おそろしい……」


 ヤマさんもドン引きのようだ。


「で、こいつが小麦の魔物か。……ん? こいつは大麦じゃないのか?」


「あ、ホントだ」


「「……」」


 ほら?

 ウチの料理人ならみんな知ってて当たり前。


「小麦は楽しみだな。パン、うどん、パスタ、ラーメン、色々な可能性を秘めてる。大麦もパンに使ってみてもいいな」


「お米の魔物もいたら良かったのにね」


 ん?

 ミーノってヤマさんと話すときこんなくだけた口調だったっけ?

 まぁ親しげなのはいいことか。


「ミーノ、忙しいところ悪いけど成分調査は今すぐやってもらっていいか? ボクチク村とビール村の人たちも気にしてるらしいんだよ」


「うん、わかった」


「じゃあ解散で。アリアさんもお疲れ様でした」


 そしてこの場には俺とアオイ丸と魔物たちが残った。

 ミーノを待つ間、新しい魔物の名前を考えようと思う。


「小麦はムギコ、大麦はムギオでどうだ?」


「天才でござるな……」


「いや、冗談だから……」


「え? いいと思うでござるよ?」


「本当に? 小麦は全部メスみたいで大麦は全部オスみたいじゃないか? 笑ってほしかっただけだぞ?」


「シャレが利いてるところがいいんでござるよ」


「お、おう……ならこれで決定で」


 あとでマリンたちにも聞いてみるけど。


「トウモロコシはモロコシーで、豚はサントンな」


「冴えてるでござるな!」


 どこがだよ……。

 魔王が怒ったりしないかな。



 そして待つこと三十分、ミーノが戻ってきた。


「全部食べられそう! あのトウモロコシの粒だけど、沸騰したお湯で十五分ほど茹でたら外側の鎧みたいな皮がポロっと外れたの! 中身の粒は成分的にも激甘! しかもプチプチ!」


「お~? それは良かった」


 来週の地下五階オープンに合わせて新食材を使った料理が期待できそうだな。


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