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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第七百四話 禁術の代償

 カスミ丸たちからノースルアンの町での報告を聞いたあと、管理人室に戻った。

 そしてドラシーを呼び出す。


「なによ? まだ朝じゃない。日曜日くらいゆっくり寝させてよ」


 どうやら森での会話は聞かれていないようだ。


「今から約二年前、ノースルアンが魔瘴の危機に陥った話は当然知ってるよな?」


「……はぁ~。紅茶の準備するわね」


 そんなに嫌そうにしなくても……。


 そしてカスミ丸たちから聞いた話の要点だけを話した。


「……そう。禁術を使ったことをよほど知られたくなかったようね」


「そんなにヤバい術なのか?」


「そうね。命を代償にする分、それ相応の効果は得られるわ。でもその代償は想像以上に重い。それに肉体にどういう形で影響が出るかは誰にもわからない。総魔力量が少なくなるだけですむ人もいれば、魔法が使えなくなる人もいる。肉体が急激に衰える人だっているわね。まぁ一番多いのは死ぬ人でしょうけど。その術を使うときって大概かなり切羽詰まってるときだから、魔力が完全に枯渇するまで使用し続ける人が多いのよ」


「そこまでのリスクがあるのに、たかが魔瘴を封じ込めるためだけに使うか? 騙されてたんじゃないだろうな」


「さぁね。でもさすがになんのリスクもないと思ってるほどバカではないでしょう」


「優秀なやつらだからこそ、魔力に自信があったのかもしれないな」


「それは自信過剰って言うのよ。でも禁術のおそろしさをちゃんと教えなかった指導者にも問題があるわね」


「……母さんも関係してたりするのかな?」


「あの子は子供にそんな危険な術を教えるような子ではないと思いたいけど……。ただ、あの子自身が禁術に手を出す危うさはあったわ」


 まさか死んだ理由も禁術を使ったからとかじゃないよな?

 ……めちゃくちゃありえそうな話だ。


「一瞬だけ使うって手もあるのか?」


「ないわよ。一瞬だろうと使うのは死ぬ覚悟がある人だけよ」


「じゃあ全員がそこまで追い込まれてたのか。よほどの魔瘴だったんだろうな」


「……あの山はね、昔から魔瘴が濃かったのよ。でも不思議と魔物はそこまでいなかった。あの傾斜が急な山は魔物にとってもそんなに住みやすい場所ではないからね。でも鉱石が豊富な鉱山があるとわかると当然人間は入って採掘するでしょ? それによって洞窟はどんどん広がっていき、魔物が湧ける場所が自然と作られたってわけ」


「やっぱりそうか。人間が作ったダンジョンみたいなものなんだな」


「そうね。まぁ鉱山なんてどこもそんなものよ。王都の近くにある鉱山にだって魔物が出るって言ってたでしょ? 人間が魔物のためにダンジョンを用意してあげてるようなものね。でもノースルアンの鉱山は採掘できる鉱石の種類が少し特殊でね」


「……ミスリルか?」


「そう。そのせいで上にも下にもかなり奥まで掘られた鉱山になってるわ。魔物が好みそうな家になってるんじゃないかしら」


「でもミスリルってかなり希少なんだろ? じゃあ鉱山が深くなったのももう何百年も前のことなんじゃないのか?」


「最近ではないことは確かね。大樹のダンジョンができたころはまだそこそこミスリルが取れてて、ルーカス君が何度も山の素材を持って帰ってきてたわ」


 それが今ウチにあるミスリル鉱山の元か。


「で、マグドの研究室もその山にあるのか?」


「う~ん、実は研究室の場所までは聞いたことなかったのよね。家族がいたから家は町中にあったはずだけど。でも魔物生成の実験となるとさすがに町中では危険でしょうから、山でやってた可能性はあるわ。山と言っても町から比較的すぐに行ける場所にあるのはアナタの記憶にもあるでしょ? それにマグド君は魔族領の出身だから、魔瘴が存在してる場所のほうが集中できたのかもしれないし。まぁそれを人前で言ったりはしないでしょうけど」


「なぁ、そのマグドがノースルアンに行った理由にも関係してるけど、なんで当時の魔物使いはノースルアンに引っ越したんだ? 母さんたちもだけどさ」


「あれ? この前説明しなかったっけ?」


「え?」


 ……された覚えはないような。

 でも俺が聞き逃してる可能性は大いにあるからな……。


「う~ん、マリンちゃんにだけ話したんだったかなぁ。まぁいいわ。魔物使いの子孫はね、自分に魔物使いとしての能力がなかった場合、魔瘴が濃い場所に行くと魔物使いが生まれやすいって言い伝えがあるのよ」


「……つまり俺がノースルアンで生まれたのも、父さんが魔物使いじゃなかったからか?」


「そういうこと。そして魔物使いは大きくなったらマルセールに来る。マナと魔瘴、魔物使いにとってはどちらも必要なものとして考えられてるの。迷信みたいなものだけどね。でも魔物使いが二世代続けて生まれることって今までにほぼないのよね。ほぼというかたぶん、一度も」


「……それって俺の子供は魔物使いじゃないってことだよな?」


「今までの経験から言うとそうね。少なくともここができてからは魔物使いはみんなノースルアンで生まれてるわ。そしてすぐに引っ越してくる子もいれば、大人になってから引っ越してくる子もいる。アナタのお爺ちゃんは生まれてすぐに家族で引っ越してきたわね」


「じゃあ爺ちゃんの父親は魔物使いじゃなかったのか? 管理人だったんだよな?」


「管理人の名を語ることくらい誰にでもできるでしょ。あの子の父親と、息子のグラネロ君が魔物使いだったからあの子は色々ノビノビとやってたわね」


「あ~、確かに外出してることも多かったって話だもんな。でも俺の場合、母さんが死んだから急にここに来ることになったんだよな? 予定ではいつ引っ越してくる予定だったんだ?」


「アナタのお爺さんはアナタが生まれてすぐにでも来てほしがってたわよ。魔物使いだからとか関係なく、可愛い孫だしね。でもアナタの両親がノースルアンでまだやりたいことがあるって言ったのよ」


「やりたいこと?」


「そこまではアタシにもわからないわ。アナタのお母さんはいい子だけど考えてることはよくわからなかったもの。凄くいい子なんだけど」


「けどって言うとフォローしてるだけのように聞こえるからやめろって……」


「本当にいい子だったのよ? 魔法も錬金術の腕も凄くて、可愛くて頭も良くて、周りにも気を遣えるいい子だったんだけど」


「だからさぁ……」


「今のはわざとよ。でもだからこそ早死にしたのかもしれないしね。錬金術師にはそういう子も結構いるのよ。人のために、誰かのためになにか作ろうとして、知らず知らずのうちに自分の限界を超えて魔力を使っちゃってたとかね」


 錬金でってことか。

 カトレアなんかまさにその典型的パターンに当てはまりそうだ。

 限界を超えても魔力を使えるってことはある意味禁術みたいなもんだよな。


「というかさ、禁術のことララに教えてないよな?」


「教えるわけないじゃない。いくらあの子でも絶対に解けない封印になってるから大丈夫よ。……たぶん」


 たぶんって……。

 でもウチの地下室には禁術について書かれた本があるってことだよな。


「それと話を聞いてて思ったんだけどね、カスミちゃんが話を聞いてきたお婆さんって、もしかしたら禁術を使った本人なんじゃない?」


「え? なんでそう思う?」


「孫の話にしてはなんだか詳しすぎやしないかって思ってね。いくら親族が相手だからって、アナタのお孫さんは禁術を使ったせいで死にましたなんて話をする? 魔瘴病ということにしておいたほうがまだ波風が立たないと思わない? それにさっき禁術で肉体が衰える人もいるって説明したでしょ? それって急激に老いて見える場合もあるから」


「は? ……少女がお婆さんになることもあるってことか?」


「見た目の話よ? ノースルアンの事例でもそういう人がいたという話は聞いたわ」


「……」


 禁術こわすぎ……。

 絶対に使ったらダメ。

 もし禁術の話をする人がいたら、使ったら即死するくらいの勢いで警告しよう。


 でも死ぬよりはマシだったと言えるのかな……。


「それより、朝なのになんだかダンジョン酒場が騒がしいわね」


「さっき来週のアップデートの話をしたんだよ。だからその話題や、一晩をどこで過ごすかとかの相談をしてるはず」


「そんなの前日に言えばいいのに。一週間も期待させておいて、がっかりアップデートだったらみんな失望するわよ」


「でもみんなも宿の手配とかあるしさ。それにどうせ外で泊まるんなら実家に帰省したい人や旅行に行きたい人とかもいるだろうし。そういう人の中には今週半ばから早めに出発しようと考える人もいるかもしれないだろ?」


「なんでアナタがそんなことまで考えてあげる必要があるのよ。マナ活性化のためにどんどん人呼んでほしいのに。そろそろここも完全に魔瘴に覆われるのよ」


「わかってるって。でも戦闘ばかりの日々だからたまには体も頭も気分転換が必要なんだよ」


「本当にお人好しな子ね。あ、そうそう、カスミ丸ちゃんとアオイ丸君とコタロー君呼んでちょうだい。早急にやってもらいたいことがあるから打合せしたいのよ」


「コタローはサハに行ってるから夜な。カスミ丸たちも今日くらいは休ませるから」


 ウチはブラックじゃないんだからな。


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