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第七百一話 一週間後のお願い

 日曜日の朝九時。

 いつもの日曜ならまだ寝てる冒険者も多いはずだが、ダンジョン酒場には大勢の人が集まってきている。

 ここだけだと入りきらないので、図書館の講義室やバイキング会場も開放したくらいだ。

 バイキング会場では声だけになるが、特別に朝食の時間も延長してるので、食べながら聞いてもらってもいい。


 なんかこういうの久しぶりだから少し緊張するな。

 それとも冒険者たちのワクワクする感じが俺まで伝わってきてるせいだろうか。


 そしてダンジョン酒場の一番大きな画面の前で演説を始める。


「地下五階オープンに関連してのアップデートおよびメンテナンス作業のため、来週3月30日日曜日の十一時から、翌日3月31日月曜日の十五時まで、大樹のダンジョン内の全ての施設の営業を停止します。それに伴い、その間みなさま方には大樹のダンジョンから外に出てもらうことになります。宿屋の部屋からもです。つまり、一日と少しを大樹のダンジョン外で過ごしてもらうことになりますので予めご了承ください。部屋の荷物はそのままで結構です」


 昨日渡した冊子で知ってるからかみんな頷いてくれてる。


「なお、3月31日および4月1日に説明会を行う予定はありません。ですので慌てて3月31日に戻ってこられなくても、帰省先や旅先でゆっくりしていただくことも可能かと思います。当方の事情により一日宿を空けてもらうということもありますので、今回に限り特別に、部屋の状態維持期間を三十日間とさせていただきます。宿屋の宿泊延長というわけではございませんのでお間違えのないようよろしくお願いします。当然ながら外泊していただく一日分の宿泊日数はそのまま持ち越しですのでご安心を」


 地下五階に行けないからってユウナみたいにふてくされる人も出てくるだろうな~。


「さて、それでは地下五階以外の施設のアップデート情報についてお話しします」


 みんなこれが気になってるんだろ?

 地下五階の情報なんて九割以上の人にとってはまだまだ関係ない話だからな。



①ダンジョン酒場拡張

 ・広さが倍。

 ・座席数800。

 ・イスなしテーブルのみの立ち席を追加。

 ・映像を映し出す画面が全5画面に。

 ・バーの店員がウサギのみに。

 ・酒類の販売は自動販売魔道具にて。

 ・酒類販売時間が十八時半~二十二時に。

 ・おつまみの販売種類倍増。

 ・パーティ酒場はダンジョン酒場内に設置される専用部屋に移動。

 ・依頼所のカウンターもダンジョン酒場内の専用部屋に移動。


②バイキング会場拡張

 ・収容人数を1500人想定に。

 ・料理の種類追加。

 ・夜のみお酒の購入が可能に(自動販売魔道具)。

 ・バイキング会場への入り口が四つに。

  宿屋フロント横に二つ、残り二つはダンジョン内の休憩エリアから直接移動用。

 ・バイキング会場からの出口も四つに。

  宿屋フロント横への出口が二つ、残り二つは外のダンジョン入口へ直接移動用。

 ・朝食時間の変更、六時~八時半。

 ・夕食時間の変更、十八時半~二十一時。


③ダンジョンストア拡張。

 武器防具屋

 ・広さが3倍。

 ・既存商品のデザイン変更商品を新発売。

 ・武器の新商品を数量限定新発売(Eランク以上限定)。

  ※アップデート翌週の日曜から販売


 5均屋

 ・広さが倍に。

 ・商品の数も倍。


 新店舗開店。

 ・生活雑貨中心の店。

 ・5均屋で販売してる雑貨商品より質、価格とも高め。

 ・レア袋を受注生産にて販売開始。

  ※購入可能者はDランク以上かつダンジョン挑戦日数が300日以上の方のみ。


④トレーニングエリア

 ・規模が倍に。

 ・公園のようなのんびりできる場所も新たに設置。


⑤温泉

 ・広さが倍に。



「以上が施設に関してのアップデート予定の情報となります。いかがでしょうか?」


「「「「パチパチパチパチ!」」」」


 拍手喝采とはこのことか。


「今の内容をまとめた紙を来週のアップデート後にお配りしますので正式な情報はそちらでご確認ください。ではここまででご質問のある方がいらっしゃいましたら挙手でお願いします」


 さて、まずは俺の目の前にいるヒューゴさんから……ん?


 ……どうした?

 ヒューゴさんが質問しないのなら別にほかの人が質問していいんだぞ?


「……質問ありませんか?」


「「「「……」」」」


 みんなは無言で頷いた。


 内容が完璧だったんだろうか?

 もしくは情報量が多すぎてなにから質問すればいいのか迷っているのだろうか。

 それとも俺が面倒そうにしてるのを気遣ってのことだろうか。

 いや、さっきの拍手からしてそこそこ満足のいくアップデートだと思ってくれたに違いない。


「では先に進めます。次は新ランクについてです。地下五階に突入されますと、自動的にDランクに昇格します。ですので、もしEランクのままがいいという方がいらっしゃいましたら地下五階には足を踏み入れないでください。宿屋宿泊代金も高くなりますから」


 地下四階最奥まで行ってる人が地下五階に行かないはずはないけどな。


「ではそのDランクにつきまして、まずはDランクの特典をご紹介します」


①下記のどちらかを選べるお部屋拡張。

 ・現在の部屋が横に倍の広さに、しかもちょっとしたテラス付き。

  真ん中に壁とドアを設置して二部屋にすることもできます(初回選択時のみ無料)。


 ・個人専用露天風呂温泉部屋の貸し出し。

  部屋の浴室から直接移動できます。

  景色変更化。

  毎日ウサギがお掃除。

  温泉の種類変更や露天風呂の材質変更は有料(初回選択時は無料)。


②Dランクパーティ部屋について。

 ・広さが12畳に。

 ・壁にそこそこ大きな画面を設置。

  現在ダンジョン酒場で流れてる映像と同じ映像から選択可。

  また、過去一週間の映像については自由に鑑賞が可能。

 ・お好きな自動販売魔道具を四つまで設置可能(お酒も選択可能)。

 ・ソファが最大四つまで設置可能。


「以上がDランク特典になります。料金は……一日700Pです。一週間まとめてですと、一日分サービスになりまして4200Pになります」


「「「「……」」」」


 高いか?

 でもEランクの600Pからは100Pアップしただけだからたいして変わらないだろ。

 マルセールにはもっと高い宿屋がそこそこあるらしいぞ。


「では今のDランク特典につきましてご質問がある方は……」


 お?

 数人の手がいっせいに上がった。


 …………まぁ顔触れを見れば納得だな。


 今手をあげてるのは既に地下四階最奥まで到達してる人たちばかりだ。

 じゃないとDランクについての質問なんか普通は恥ずかしくて手をあげられないよな。

 ヒューゴさんはとても悔しそうにしている。


「では順番にいきましょうか。まずはリヴァーナさん、どうぞ」


「はい! 部屋拡張についてなんですけど、部屋の大きさは今のままでいいし、露天風呂も専用じゃなくて大浴場でいい場合、別の設備を希望することって可能ですか!?」


 いきなりそういうイレギュラーな質問かよ……。


「それは考えていませんでしたが、ちなみにどのような設備をご希望ですか?」


「図書館にある魔法訓練用の個室です!」


 そうきたか……。


 確かにリヴァーナさんが一番使ってる設備、設備というか施設だけど。

 日曜なんか満室になることも度々あるし、図書館は今回のアップデートには入ってないしな。


 でもだからといって個人の要望を全部聞いていてはキリがない。

 これを認めてしまうとほかのみんなもそれぞれ欲しい施設や設備を要望するだろうからな。


「図書館にある訓練個室の数を増やしてほしいというご要望ですかね?」


「違います! 自分の部屋からすぐに行けて、疲れたらすぐに部屋に戻れる訓練個室が欲しいんです! 最悪訓練中に寝てしまっても大丈夫ですし!」


 くっ……。

 そこまでして修行に打ち込みたいのか……。

 確かに魔力や体力が限界になりフラフラの状態で図書館から部屋に戻るのは少し可哀想だ……。

 リヴァーナさんの場合、平日の夜も修行してるし……。


「……でも訓練中に意識を失って倒れたりでもしたら、翌朝まで誰にも気付かれないなんてこともあるかもしれませんよ?」


「あ、確かに……」


 勝った。

 そういう事態も想定して図書館の個室周辺にはウサギがたくさんいるんだしな。

 ドラシーだってそんな細かいところまでは見てられないし。


「一応持ち帰って検討はしてみますが、期待はしないでください。ダメでも次のCランク特典のときには候補には入れますので」


「……はい」


 ふぅ~。

 なかなかハードな質問だったな。


「ではお次は……サイモンさん、手あげてましたよね? どうぞ」


「……えっと、部屋の広さと温泉の選択はすぐにじゃなくてあとからでも……じゃなくて、図書館の訓練個室のような施設が……部屋にあればいいな~って……」


 なんだと?

 さっきどこかで聞いたような話だが、空耳じゃないよな?


「いや……なんでもない……」


 そうか、俺の聞き間違いだったか。

 サイモンさんも攻撃魔道士なだけに専用の訓練個室が欲しいのかと思ってしまったじゃないか。


「ではお次はナイジェルさん、どうぞ」


「え…………図書館の……施設みたいなものが……」


 なに?

 図書館の訓練個室がどうしたって?


「ナイジェルさん、魔法使えませんよね?」


「え…………そうだった」


 そうだったってなんだよ……。

 そこはせめてウチの魔道士がとか言ってくれよ……。


「みなさん、もしかしなくてもリヴァーナさんの意見に合わせようとしてますよね?」


「「「「……」」」」


 図星のようだ。


 おそらくリヴァーナさん以外はそんな要望みたいな質問を考えてはなかっただろう。

 だがリヴァーナさんの意見に同調しておけば本当に実装されるかもと思ったのかもしれない。

 それともリヴァーナさんのそこまでして修行がしたいという向上心に負い目でも感じたか?


 でもその訓練施設は本当に個人の部屋に必要な施設なのか?

 利用するといってもどうせ日曜にちょこっとだけだろ?

 選択パターンの三つ目に入れたとして、魔道士たちは本当に選ぶんだろうな?

 そりゃリヴァーナさんくらい通ってくれるんだったらこちらとしても作った甲斐があるというものだけど。


 だがやはりこれを認めると、こうやってみんなの意見で押せばなんでも通ってしまうという実例を作ることになる。

 というかみんなに内緒でリヴァーナさんにだけこっそり作ってやればいいのか。

 それくらいならカトレアたちも文句は言わないだろう。

 よし、それでいこう。


「持ち帰って検討してみますね」


「「「「……」」」」


 ニコっと笑って言ってみた。

 これでこの件についてはもう誰も触れてこないだろう。


「ほかにご質問のある方?」


「「「「……」」」」


 さすがにこの空気で質問できる勇気がある人なんていないか。


 ……ってそれじゃダメじゃないか。

 あの頭がカッチカチの管理人にはなにを言っても無駄だと思われるかもしれない。

 冒険者から陰口を言われるのは別にいいが、溝が深まるのはよくない。


「地下四階最奥に達してない方もご質問されてよろしいですよ?」


 あ、しまった……これじゃ嫌味に聞こえる。


「……みなさんいずれはDランクになられるんですから、今みたいになにかご要望があれば今のうちに言っておいたほうが後々お得かもしれませんよ? 今回もまだ実装前ですし」


 これなら大丈夫だろう。


 …………だが全く手があがらない。

 ヒューゴさんを見ても、首を軽く横に振ってくるだけだ。


「……では次にいきます」


 なんだかどうでもよくなってきた……。


「4月1日から、地下四階の難易度を緩和します」


「「「「えっ!?」」」」


 これには反応してくれるのか。


「具体的な緩和措置としまして、魔物急襲エリアおよび最奥にいる敵の出現個体数を減らします。やはり海の魔物にとって有利すぎるフィールドのため、今設定してる魔物ランクよりも強く感じると思われるためです。実際の海で魔物と戦う場合は、こちらは陸か船の上での戦いになりますので、魔物の脅威は地下四階ほどは感じません。海の中から急に襲ってくる恐怖はありますけどね。でも実際にウチが開発した船で戦ってみると地下四階レベルの魔物なら倒すのにそこまで苦労はしないんです。船の上で戦うんじゃなくて、船の中で船を操作して戦うからですけど」


 今のEランク以上の人はウチの船に乗ったことがある人もたくさんいるから船の凄さはわかってくれてることだろう。

 それに難易度が下がったほうが喜ぶ人は多いだろうけどな。


「難易度が高いうちに最奥に到達したいという方はこの一週間が最後のチャンスとなりますのでお急ぎください。では本日の説明会は以上になります。来週のアップデートを楽しみにしててくださいね」


 そして俺はその場から一歩下がり、自分のすぐ後ろに設置してあった転移魔法陣に乗った。


 転移した先は家の転移魔法陣部屋。

 そのままリビングに入る。


「お疲れ様でござる」


「ん? お、帰ってきたか」


 ソファには、久しぶりに見るカスミ丸とアオイ丸の姿があった。


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