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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第七十話 鍛冶工房大盛況

「もうすぐ十一時だぞ」


「全然減らないのです!」


「なぜあとからにしようとか考えないんだろう?」


「みんな新しいものが好きなのです!」


 八時開店だった鍛冶工房はそれからずっと受付の列ができていた。

 初日ということもあって冒険者たちがまだシステムを理解していないこともあるが、予想してたよりも利用する冒険者の数が単純に多い。


 アイリスさんたちは一時間に二十~三十の注文をこなしている。

 だがそれでもまだ表示板魔道具には上から下まで受付済みの武器一覧が表示されていた。

 杖のほうは落ち着いてるみたいだが、それでもこの三時間の間に二十ほどの錬金を行ったカトレアは疲れ切ってウチのソファで休んでいる。

 昨日までの鍛冶工房システムの作業で多くの魔力を使っていただけに、まだ完全には回復していない状態で今日を迎えていた。

 そもそも睡眠すらまともにとっていなかったんだから疲れていて当然だ。


 それよりもだ!

 いくらなんでも多すぎない?

 おそらく七割くらいの人が利用してるはずだ。

 小屋の中にはできあがり待ちの人もいっぱいいる。

 まだ今日一回もダンジョンへ入ってないんだよこの人たち!?

 武器がなくてもできることはあるはずなのに、できあがった武器を早く見たくて待ってるんだとさ。


 三時間見てて思ったが、きっと半分くらいの人は鍛冶屋を利用するのが初めてなんだと思う。

 それだけ初級者にとっては鍛冶屋の敷居が高かったということだ。

 修理すればまだまだ使えるのに、それが判断できなくて新品を買うような人も多くいたことだろう。

 初級者なんだからお金は少しでも節約し、道具は大事に使わないといけないのにな。


「ロイスさん! 私思ったのですけど、町で杖いっぱい買ってきて錬金すれば高級品として売り出すことができるのです!」


「……わざわざそんなことをしなくても錬金術ならもっと稼げる方法はいくらでもあるだろ」


「はっ! それは確かにそうなのです! でもそれならなんでカトレアさんは稼ごうとしないのです!?」


「逆に聞くがお前はなんでまだここにいるんだ? 四人PTの回復役としてなら中級者としてでもやっていけるんじゃないか?」


「それは……私は一人でも戦える力が欲しいのです……ここの料理はなんでも美味しいのです……毎日楽しいのです……もっとここにいたいのです……」


「人それぞれ大事にしたいものがあるんだろうな。現にユウナだって今の話の中にお金の話は一つも入ってなかっただろ? カトレアだってユウナと同じ気持ちがあるからこそ、ここにいたいと思ってくれてるんじゃないのか?」


「……気持ちわかるのです。私も今ここから追い出されたら……きっと冒険者はやめてしまうのです」


 なんかしんみりしてきたのでこの話は終わりにしよう。

 列も少しは落ち着いたみたいだ。

 もう食堂も開いてるからダンジョンへ入る前に昼食にするんだろうな。


「そういやララは?」


「厨房エリアにいるのです。なんかラーメンを作るとか言ってたのです。私ラーメン食べたことないのです」


 豚骨ラーメンの試作中か。

 レシピを教えたもののララは食べたことがないから時間がかかるかもしれないな。


「お兄! これ食べてみて! あっ、カトレア姉ごめん起こしちゃった?」


 噂をしてたら試作品を持ってきてくれたようだ。


「色々試してたら二種類いい感じのができたの。あっさりなのとこってりなの。具はまだだからスープと麺だけね」


「早速いただくよ。まずはあっさりから。……ん? これは……」


 美味いな。

 いや、かなり美味い。

 もうこの段階で町の豚骨ラーメン専門店の味を超えているのでは?

 というかもう麺も作ってたのか。

 これは店の細麺とそっくりだな……。

 いや、もしかしたらこれもこっちのほうが美味いのかもしれない。

 やはり水か?

 大樹の水がラーメンのスープと麺に適してるのか?


「どうかな?」


「うん、美味い。町のラーメン屋を超えているかもしれない」


「本当!? 食堂で出せる?」


「具材にも手を抜かないでくれよ。チャーシューはホロホロにな。ピンク生姜は甘いやつで頼む」


「任せて! こっちも食べてみてよ?」


「あぁそうだったな。こっちはこってりだっけか? ……おぉ、かなりドロドロだな……む、これは……」


 なんだこれは……。

 初めての感じのスープだな。

 コクが凄い。

 そして美味いぞこれ。

 なんかクセになりそうな味だな。

 食べ終えた直後はしばらくはいらないと思うんだけど、気付いたらまた食べたくなるというか。

 麺はさっきのよりかは太いな。

 このスープに負けないように少し太めにしたのか。

 さっきのラーメンとどっちが好きかと聞かれたら……もしかしたらこっちを選ぶかもしれない。


「こってりはどう?」


「あぁ、これも美味い」


「どっちが好き?」


「!?」


 おそれていた質問をされてしまった!

 ララはどっちを好きと言ってほしいんだ?

 俺にはとても選びきれない……。


「いや……どっちも好きだな」


「だと思った! じゃあ二種類作るね!」


「お、おう? 頼むよ」


 両方が正解だったか。

 どちらかをボツにするなんてもったいなさすぎるもんな。


「あの……私も食べてみたいのですが、二種類とも」


「私もラーメン食べたいのです! お腹空いたのです!」


「じゃあ持ってくるね! ユウナちゃん手伝って!」


 来週くらいから新メニューとして出せそうかな。

 そういえば久しぶりの新メニューだな。

 いっそのこと物資エリアにラーメン専門店として出店するか?

 魔道具を使えばウサギたちだけで運営できるような気がするし。


「カトレア、物資エリアにラーメン専門店……いや、なんでもないごめん」


 すんごい睨まれたよ?

 まだラーメン専門店としか言ってないのに。

 ちょっと魔道具を作ってもらおうかなと思っただけなのに。

 しばらくは保留にしておくか。

 カトレアの体調が回復してからもう一度提案してみよう。


「わふっ! (馬車が来た!)」


「馬車だって!?」


 馬車が来るなんて初めてじゃないか?

 冒険者たちは馬車を使わないからな。

 まぁ初級者に馬車なんて使うお金の余裕はないのだが。

 となるといったい誰がわざわざダンジョンに馬車で来るんだ?

 ドラシーがまだ排除していないとなると悪者ではないってことか。

 馬車がエリア入り口まで入ってきた。


「あっ! おじさん!」


 馬車の御者台に座ってるのは鍛冶屋のおじさん、つまりアイリスさんのお父さんだ。

 俺は慌てて管理人室から外へ出た。


「おじさん! どうしたんですか!?」


「やぁロイス君! たまには馬車で出かけてみようかなと思ってね!」


 ……アイリスさんを見に来たんだな。

 娘のことが心配でたまらなかったんだろう。

 そりゃあ娘が一人で店を出すとなったらちゃんとやっていけるか心配だもんな。


「……朝から人が殺到してて休憩すらとれない状態なんですよアイリスさん」


「へぇそうなんだー! せっかく来たからダンジョン食堂に行ってみたいな! でもその前に新しい鍛冶工房とやらも見ておこうかなぁ」


「おう、ロイス。鍛冶工房を見せてくれ」


「!?」


 ゲルマンさんも乗ってたのか!

 てか二人して来て店は大丈夫なのか?


「ゲルマンさん、こんにちは。そうですね、今は忙しいみたいですが行きましょうか。店の外から入りますか? それともいきなり中に行きますか?」


「ん? なんか変な聞き方だな? じゃあ外から案内してくれ」


「わかりました。店はそちらの階段を下りたところにあります。少しお待ちくださいね。カトレア、悪いけど指輪を二つと鍛冶工房内に入れるように設定してくれ」


「……わかりました……はいどうぞ」


 窓越しに指輪を二つ受け取る。


「おいおい、カトレアの嬢ちゃん顔色悪いぞ? 大丈夫か?」


「……はい、このところ少し忙しかったもので。お気遣いありがとうございます」


「ロイス君、女性に無理させちゃいけないよ? アイリスは大丈夫だろうね?」


 おじさんてこんな人だったっけ?

 店にいるときはそんなに心配そうな様子じゃなかったんだけどな。

 そうか、あのときはまだ通いのつもりだったからか。

 それが急に娘が一人暮らしするって言って出ていったんだもんな。


 ……あれ?

 もしかすると俺は恨まれてるのか?


「……この指輪をはめていただけますか? ではこちらへどうぞ」


 俺は考えるのをやめ、二人を鍛冶工房の入り口へと案内していく。

 まだ列ができてるな……。


「こちらが受付になります」


「えっ!?」


「なんと!?」


 なにに対して驚いているのかはわからない。

 二人はダンジョンのことをほとんど知らないはずだからな。

 鍛冶屋だから店の作りになにか疑問を持ったのかもしれないしな。


「「ウサギ!?」」


 あっ、そこなんだ。


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