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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第六百九十八話 従業員との交流

 子供組の進路相談は終わったものの、まだまだ終わらない懇親会。


 続いてやってきたのはネッドさんシエンナさん夫妻。

 ビール村からやってきたこの二人もここに来てもうすぐ一年が経つ。

 ウチはたった一年勤務しただけでもベテランと呼ばれるまだまだ若い職場だ。


 ネッドさんが受け持つ仕事は多い。

 日中はダンジョン綿、米、大麦、小麦、その他数多くの野菜などの栽培および収穫。

 そしてお酒造り。

 さらに夜にはダンジョン酒場の一角にあるバーのマスターとしての一面も持つ。

 自分で作ったお酒を自らの手で冒険者たちに提供し、喜んでもらえる姿を見るのがなによりの楽しみだとか。


 シエンナさんの朝は早い。

 まずは朝食バイキングの厨房にて、料理人として一日が始まる。

 朝食の仕事が終わると、そのあとはネッドさんと同じく農業と酒造。


 お互い微妙にすれ違いの時間がありつつも、非常にやりがいがあると言って日々働いてくれている。


「学校での農業・牧畜科の先生の件、考えてくれましたか?」


「うんだべさ。ぜひともお受けしたいと思うべ」


「そうですか。ありがとうございます」


「オラたちは午後からの実習担当なんだべ? 午前中の講義は誰がやるんだべさ?」


「あれ? 聞いてませんか? シエンナさんのお父さんがやるって話ですよ」


「「えぇ~っ!?」」


 あ、もしかしてサプライズにしたかったんだろうか……。


「……聞いたところによると、シエンナさんはウチで、息子さんはビール村駅の責任者として働いてるせいか、それにお父さんも触発されたとか」


「なんで私に相談しないべさ……。というかあの子とさっき話してたのになにも言ってこなかったべさ」


 やはり言ってはいけなかった気がする……。


「……すみません。では今の話は聞かなかったことに。もし学校でお父さんとお会いしたら派手に驚いてあげてください」


「あ、そういうことなんだべ? 仕方のない親だべ」


「ははっ、遊び心があっていいじゃないですか。で、それに合わせてお二人の勤務体系も少し変更しようと思うんですが」


「どうなるんだべ?」


「今後はお二人とも、午前中はウチで農業と酒造を。午後は学校で生徒たちへの農業指導を。さすがに夜は休んでください。もちろんバーのマスターもやめてくださいね」


「なるほどだべ。バーのことは名残惜しいけど仕方ないだべ」


「一日中二人いっしょって気を遣ってもらって申し訳ないだべ」


「いえいえ。もし別々の時間も欲しいということであればまた言ってください」


「はははっ! まだなんとか大丈夫と思うべ」


「なんとかってどういうことだべ?」


 いつ見ても仲がいい夫婦だ。


「それともう一つお話がありまして。実は二人ほど新人を入れようと思うんです」


「オラたちの仕事にだべか?」


「そうです。午前中だけで今までやってたことを全部やってもらうのは負担が大きいですすからね。ちょうど午前中の三時間くらいだけ働きたいと言っておられる方が二名いまして。冒険者村に住んでる三十歳くらいの女性お二人なんですけど。子供が学校に行ってる間に自分も少しでも稼げたらということなんです。教えるのが面倒なら別に断ってくれても構いません。その方たちにはそのまま冒険者村下のダンジョン畑にてユウシャ村出身の方々と同じ畑仕事に就いてもらいますから」


「いやいや、大歓迎だべ。オラたちも畑に朝七時から行こうと思ってたところを八時にできるべさ。じゃあその人たちは九時から十二時でいいべさ?」


「はい。ではそれでお願いしますね。でも味見とか言って午前中からお酒を飲ませるようなことはしないでくださいよ?」


「はははっ! 午前中から酒飲めるなんて最高の仕事なのにもったいないだべ!」


「あ、でもこれからはネッドさんも禁止ですからね?」


「え?」


「そりゃそうでしょう。生徒たちの前で酒臭いのは教育によくありませんから」


「……そうだべな。諦めるべ……」


「う~ん、なら午前中作ったお酒の試飲は学校から帰ってきたあとにするようにするしかないですかね」


「それでいいべ! これからは美味しいもの食べながら飲み放題だべ! 最高だべ!」


 結局夜も働いてもらうことになるのか。

 まぁ食事みたいなものだからいっか。


 そして二人は満足気に部屋を出ていった。

 ネッドさんはこのあとバーの仕事があるからな。

 あと二週間ばかり、楽しみながらやってほしい。


 さて、次は……あれ?


「スピカさんとモニカちゃんとジェマはどこ行った? トイレか?」


「ジェマちゃんはあそこにいます。師匠とモニカちゃんはとっくに帰りましたよ」


 なんて協調性のないやつらだ……。

 これだから錬金術師ってやつは……。


「二人ともやることがあるんですよ」


「わかってるよ。それにしてもなんでこうもウチは錬金術師不足なんだ? 王都にはいっぱいいるんだろ?」


「ヴァルトさんが来てくれたじゃないですか」


「それはありがたいけどさ。でも海専門だし。まぁ海階層は完全に任せっきりでいいからみんな助かってるけど。俺とララの中ではさ、ウチが有名になればなるほど、人工ダンジョン目当てに錬金術師が押し寄せてくる計算だったのに」


「私とマリンとモニカちゃんと師匠。四人も来たじゃないですか」


「モニカちゃん以外の三人はどのみち来る運命だったと思うぞ」


「じゃあそういう運命を持った方がまだこれからも来るかもしれませんね」


「まだどこかにスピカさんの子供を名乗る錬金術師がいるのか?」


「いるわけないじゃないですか。ここに来る錬金術師はみんな運命に引き寄せられて来るっていうことですよ」


「ウチの存在を知ってるくせに来ようとしない錬金術師は運命もやる気もないってことでいいか?」


「なんでそうなるんですか、もぉ~。じゃあそろそろ私も戻りますからね。サハにいるエマちゃんに連絡取ってから、マリンの様子でも見てきます」


 そしてカトレアも懇親会から離脱していった。


 ……ジェマはホルンたちのところにいるようだ。

 パラディン隊の装備の相談でもしてるのかもしれない。

 ジェマも大概働きすぎだよな……。


「ロイス、お疲れ。ビールでも飲む?」


「うん」


 アイリスがやってきた。

 そしてしばしアイリスと二人きりで、エルルのことや実家の鍛冶屋のこと、ゲルマンさんのことなどを話す。


 こうやってアイリスと長々と話すのは久しぶりかもしれない。

 それにこんなに饒舌に話すアイリスは初めて見たかもしれない。

 酒を相当飲んでるのか?

 鍛冶職人の人数も増えたし、冒険者の人数が増え続けてることで仕事量も増え、色々とストレスを抱えてるのかもしれないな。


「ララは本当に帰ってくるんだよね?」


「今月中に帰るって言ってるんだから帰ってこないなんてことはないと思うけど」


「本当にヒョウセツ村にいるんだよね?」


「いるいる。ピピが言ってるんだから間違いない」


「そっか。ララ、戦えてるかな」


「今は村の人に魔法を教えてるだけで、ララが村の外に出て直接魔物と戦ったりはしてないと思いたいけど」


「戦うよ、ララなら。村のみんなの分の食料も必要だし」


「まぁあの村には元々戦える人が少なかったみたいだしな」


「……もしララが本気になったら、次はもう誰にもとめられないかもしれないね」


「ん? どういう意味だよ?」


「誰よりも強くなるって意味。それと……」


「それと?」


 そこでアイリスは黙ってしまい、しばらく沈黙が続く。


「……私の考えすぎかな。少し酔ってるのかも。じゃあね」


 そう言うとアイリスはそのまま部屋を出ていってしまった。


 周りはまだまだお祭り騒ぎのように飲み食いを楽しんでいるようだ。


「オーナー! ビールどうぞ!」


「あ、すみません」


 鍛冶職人の若手がビールを注いでくる。

 若手と言っても俺よりは年上だが。

 俺がビールを注ぎ返すと、その人は一気飲みして、また次のテーブルに旅立っていった。


「大丈夫? 飲まされすぎてない?」


 今度はシファーさんがやってきた。


「大丈夫ですよ。それより、楽しめてますか?」


「うん。砂漠の女神を始めたころはね、仕事終わりは毎回こんな感じで宴を開いてくれてたんだけど、あまりにも体がダルすぎて三回目くらいでもうやめにしてくださいって言っちゃったの。それからはなにもなし。だからこんなに楽しめてるのは初めてかも」


「それなら良かったです。でも夜のダンジョン酒場なんて毎日これ以上にうるさいでしょ?」


「ふふっ。みんな毎日凄いよね。特に土曜日。戦いのあとのお酒はポーション以上に効くんじゃない?」


「はははっ。上手いこと言いますね」


 シファーさんもいつになく上機嫌のようだ。

 見た感じだと酒は飲んでなさそうだけど。


「でもあれだね。古株の子たちが率先して話しかけにいってるから雰囲気いいよね。年齢なんか関係ないって感じ」


「俺が普段からそういうことをしないせいで気を遣うようになったんでしょう」


「逆でしょ? キミが毎日一回は必ずふらっとみんなのところに現れるところをみんな見てるからだよ」


「あれはただの挨拶じゃないですか。一日に一回も顔を合わせないとなると感じ悪いですし。みんなはバックヤードの休憩スペースとかでそれなりに顔合わせてるんでしょうけど、俺は管理人室にこもりっきりのことが多いですからね」


「そういう認識ならそれでいいけどさ。じゃあ私はこのあと依頼所の仕事あるから先に出るね。ごゆっくり~」


 あ、だから酒を飲んでなかったのか。

 ってそろそろ俺も管理人室に戻ってダンジョンから帰ってくる冒険者をお出迎えしなければ。

 宿屋従業員もルッカを残してリョウカとシンディの二人はもう戻ってるようだし。


 ミーノはどこだ?

 ……あ、いた。


「ミーノ、あとは任せていいか?」


「うん。駅から来た人たちはみんな泊まってくみたいだから宿の手配もしとくね~」


 このあとは温泉に入るというわけだな。

 これで従業員満足度も上がるに違いない、うん。


 そして一人、管理人室に戻り、いつものイスへ座る。

 ……酒飲んじゃったけど、まぁいいか。


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