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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第六百九十三話 レア錬金術師

 マリンの錬金部屋を覗こうとしたらドラシーが現れ、中に入るなと言われてしまった。

 そして半分説教じみた昔話を聞かされることになった。


「前にも聞いたってそれ。まぁ前のはもっと細かい話でもっと長かったけど」


「それなら今マリンちゃんがどれだけ集中してるかわかるでしょ? 邪魔しようとしたらダメじゃない」


「邪魔するつもりなんかないって。マリンの様子が気になってるだけだって」


「私が見てるから大丈夫よ。それにおそらく一日やそこらでは終わらない繊細な作業だからまだまだ時間かかるわよ」


「そんなにかかるんならもう今の時点で失敗してるんじゃないのか? ブルースライムのときにはそんなに時間かかってないんだろ?」


「だからブルースライムとは全然違うのよ。これでもマリンちゃんはマグド君よりだいぶいいセンスしてるんだからね?」


「もう何百年も前のことだから記憶があやふやなだけじゃないか? そもそも凄腕錬金術師のマグドは結局ブルースライムですら成功しなかったんだろ? 時間かけて野生のブルースライムを生成しただけって一番時間の無駄だよな」


「怒るわよ?」


「冗談だって。でもマリンもブルースライムの次がレアコアラって、結構無謀なことしてるんじゃないか?」


「実験体はブルースライムだけって決めてるのよ。ブルースライムなら成功したあとに処分することにもまだ罪悪感が少ないからね」


「わざわざ処分しなくてもいいのに。ブルースライムだってよく見たら可愛いのに」


「でもブルースライムよ? その子がなんの役にも立てなかったら可哀想でしょ」


「管理人室の前で適当に遊んでてくれてもいいけどな。冒険者に人気が出るぞ」


「それこそ無駄じゃない。実験体のブルースライムとはいえ、間違って殺されでもしたらマリンちゃんは少なからず傷つくのよ? それにあまり公にしちゃいけないのはわかってるでしょ? 人工的に魔物を生み出す以上、マリンちゃんには生成者としての責任があるの。もちろんアナタにもね」


「わかってるよ。でもそれなら俺にも生成する魔物を選ぶ権利くらい欲しいもんだけどな」


「例えばどんなのがいいのよ?」


「そりゃ強くてカッコ良くて……いや、みんなの人気者になれるような可愛い魔物がいいな」


「チュリ? (もしかして私に気を遣いました?)」


「そんなことないぞ。可愛いのが一番だ、うん。ララも喜ぶし」


 ピピが睨んでくる……。

 ボネに聞かれてたら面倒になるところだったな。


「アナタも、実験体以外の記念すべき一匹目の魔物は可愛くてレアな魔物で成功させたいってマリンちゃんの気持ちも少しはわかるでしょ?」


「まぁな。で、いつまでかかりそうだ?」


「まだまだよ。というか今はまだ魔石を解析してる段階だしね」


「え、じゃあ今日は無理なんじゃないか?」


「さっきから言ってるじゃない。だからここで待ってなくていいわよ」


 なんだよそれ。

 長々と説教されたのが損な感じだな。

 まぁ魔物生成錬金についてさらに詳しくなれたとでも思っておくしかないか。


 そしてドラシーはマリンのところへ戻った。


 そもそもドラシーはマリンほどの魔力の持ち主が魔法を使えないということで、魔物生成錬金に適性があるかもとはずっと考えていたらしい。

 でも魔物生成についてマリンがどう思うかはわからなかったので、せめて15歳になるまでは伝えないでおこうとしてたんだとか。


「チュリ(ボネが見てますよ)」


 確かにサクのベッドにいるボネが顔を覗かせてこちらを見ている。

 今のやりとりが楽しそうに見えたのかもしれない。


「ボネのやつ、最近俺に冷たくないか?」


「チュリ(気のせいですよ。ボネだってロイス君の近くにいたくても、サクちゃんといっしょにいろと言われてるんですからどうしようもないじゃないですか)」


「ならいいけどさ」


「チュリ(まぁダイフクがいなくて寂しそうなのはありますけどね)」


「それは感じるよなぁ~。モリタのやつが同じ猫同士仲良くしてくれるかと思ったら意外にもずっとシャルルといっしょだし」


「チュリ(きっとモリタはシャルルのことが放っておけなくなったんですよ。シャルルは少々元気が良すぎるせいでウチのみんなから冷たくあしらわれてますから)」


「いいコンビではあるよな。シャルルがモリタにばかり構ってるせいでユウナがヤキモチ妬かないか心配だけど」


「チュリ(ならユウナちゃんにもお供の魔物が必要かもしれませんね)」


「それはダメだろ。さすがに贔屓がすぎる」


「チュリ(ララちゃんを待ってることはみんなが知ってるんですから、誰も文句言いませんよ。それにユウナちゃんほどの実力者が地下四階をクリアできないのは誰がどう考えたって二人パーティのせいですから)」


「まぁな~。でも誰をユウナに付ける? ペンネは無理だし、リスたちには少々荷が重いだろうし、ハリルは地下四階には絶対行きたくないって言うだろうし。となるとピピかウェルダンなんだろうけど、それはなんだか反則な気がするしなぁ~」


「チュリ(私はともかく、ウェルダンだと完全に前衛の一人として考えますからね。シルバやダイフクも似たような感じですけど)」


「ダイフクはまだ乗り物として考えられるから有りだな」


「チュリ(ララちゃんとユウナちゃんの二人を乗せて戦わせる気ですか……)」


「冗談だって。あとは誰がいた? ……ボネとワタか。ボネも無理だし、ワタはマリンの許可がおりないだろうし、おりたところでまだどうやって戦うかもわかってないしな」


「チュリ(だいぶ飛び回れるようにはなってきたんですけど、戦闘はしようとしませんからね。ブルースライムを見てもキャッキャ言ってるだけです)」


「まだ善悪の判断ができない状態なんだろうな。まぁ悪い魔物にさえならなければペット的存在でもいいよ、ワタは」


「チュリ(まだまだ安心できませんね。話すようになるのが少し遅い気もしますし。だからロイス君はできるだけワタといっしょにいるようにしてくださいよ)」


「でもマリンがミニ大樹の傍にはいるから大丈夫って言うんだよなぁ~。マリンの機嫌を損ねたくはないしさ」


「チュリ(もぉ~。そんなに人のご機嫌ばかり窺ってるとろくな人間になりませんよ)」


「どうせ俺やマリンは魔物寄りの人間だしな」


「チュリ(そういうこと言ってるんじゃありません。それにマリンちゃんまで巻き込まないでください)」


「でも本物の魔王からしたら俺よりマリンのほうが脅威だと思うぞ」


「チュリ(それはないです。ロイス君がいなければマリンちゃんの実験も絶対に成功しないみたいですから。ロイス君さえいなければマリンちゃんは魔王にとって味方ですよ。……ロイス君がいる限りはかなりの強敵かもしれませんけど)」


「じゃあ魔王はどちらかを消せばいいってわけだ。俺とマリン、どっちが狙いやすい?」


「チュリ(う~ん。マリンちゃんが外に出ないのならロイス君になるんでしょうけど)」


「俺が狙われるのは今までと同じだから別にいいんだけどさ。とりあえずマリンが外出するときの護衛は強化しないとな。ウチで従業員に狙われたらどうしようもないけど」


「チュリ(もしかしてマリンちゃんは自分の護衛のためにコアラを生成しようとしてるんじゃないですか?)」


「あ、それはあるかもな~。幻惑魔法で敵を欺いたり、敵をあぶりだすことができるかもしれないし。じゃあマリンの護衛はコアラで決定だな」


「チュリ~(上手くいくといいんですけどね~)」


「そういやコアラの本当の姿はどんなんだったんだよ?」


「チュリ(一匹は幻惑通りの真っ白のコアラでしたよ。もう一匹は……ん? ボネがなにか動いてますね)」


「ボネ?」


 ベッドのほうを見てみる。


 ……ボネはユウナを起こそうとしているようだ。


 すぐにユウナが体を起こした。

 そしてユウナは隣のベッドで寝ているサクの顔を覗き込む。

 サクが起きたか、もしくはなにか異変があったかのどちらかだろう。

 とりあえず俺も行ってみるか。


「大丈夫なのです?」


「……」


「吐き気とかはないのです?」


 ベッドへ近付くにつれユウナの声が聞こえてくる。

 どうやらサクが目覚めたようだ。


「なにか飲むのです?」


「……」


「あ、ロイスさん。サクちゃんが起きたのです」


「みたいだな」


「ミャ~。ミャ~」


 サクの顔横にいるボネがなにかを訴えかけてくる。

 サクは目を瞑っているせいか寝ているようにしか見えない。


「どうした? まだ体調悪そうか?」


「ミャ」


「それは大丈夫そうか。ならまた体内の魔力関係か?」


「ミャ~」


 正解のようだ。

 でもそれはさすがにユウナもなんにもしてあげられないだろうからな。


 そのときだった。


「……大丈夫」


「「「!?」」」


 なんと、サクが喋った。


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