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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十四章 帰還

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第六百九十一話 錬金術師マグドの旅立ち

 魔物生成錬金。

 その名からもわかるように、魔物を生成するための錬金術である。


 だが錬金術師が修行すれば誰でも使えるようになるというものではない。

 適性がある者しか使えないという特殊な錬金術である。


 大樹のダンジョン内の魔物生成においてもこの錬金術が使われている。


「俺は人工ダンジョンを創るためにこの世に生まれてきたのかもしれない」


 創設者の一人でもあり、当時世界中でただ一人だけこの魔物生成錬金術を扱えたであろう錬金術師はことあるごとにそう言っていた。


 小さいころ、男は錬金術師ではなく魔道士になりたかった。

 だが残念なことに、男は魔法が使えなかった。

 周りは子供も大人もなにかしらの魔法が使えてるのに、男だけはなにひとつ使えるようにならなかったのだ。


 そして十五歳を迎えた日、男は村の村長に呼び出された。


 誰もいない密室でなにやら奇妙な釜に手を当てろと言われ、男は言われるがままに手を当てて魔力をこめる。

 すると釜がぼんやりと光った。

 それを見て驚く村長。

 男は村長に今すぐ両親を連れてくるように言われる。

 両親が来たところで村長から、男が今後使えるようになるかもしれない能力、今までに魔法が使えなかった理由が説明された。


 そして最後に村長はこう言った。


「マグド、お前の力は破滅を呼ぶ力とも言われておる。だから今すぐ村を出ていけ。このことは誰にも言わん」


 翌日、マグドは一人で村を出た。

 両親は幼い妹もいっしょに一家揃って村を出ると言ってくれたが、マグドはもう十五歳。

 大人なんだから一人で大丈夫。

 たまに内緒でこっそり帰って来るよ。

 そう言って笑って村を出た。


 マグドは魔法が使えないという理由で村の者からは変人扱いされていた。

 友達もいない。

 だからいつかこの村を出たいと、心の中ではずっと思っていたのだ。


 だが想定外の突然の旅立ちに、マグドは行き先を考えていなかった。

 だからとりあえずはこの大陸にあるもう一つの村に行ってみることにした。

 村を出て西を目指す。

 するとマグドの行く先に一人の男が立ちふさがった。


「ついてこい」


 マグドは言われるがままにその男についていく。

 目的の村とは逆方向の東側、さっき出てきたばかりの故郷の村に向かって進んでいく……のではなく、村からは少し南に位置取り、無言で東に歩いていく。


 道中、当然のように魔物が次々と襲ってくる。

 マグドは魔法が使えないこともあり、普段から剣の修行をしていた。

 だが今は先を歩く男が、出てくる敵を魔法で全て倒していく。

 その男が戦ってる姿を初めて見たマグドにとってはそれが意外であり、その強さは衝撃的でもあった。


 そして二人は海に到着した。


「東に行け。船はそこに用意してある。なに、心配はいらん。魔物に襲われん素材でできておる特別な船じゃ。潮の流れに乗れさえすれば日暮れまでには東の大陸に着けるじゃろう。着く先は崖が多い場所だから船をとめられそうな場所を探すのではなく、崖を上れ。船はそこに捨てていい。ほら、早く乗れ」


 マグドはまたしても言われるがままに船に飛び乗る。


「その釜はお前にやる。使うか使わないかはお前の好きにしろ」


 船には昨日のあの釜が袋に入ってる状態で積んであった。


「それとこれを持っていけ」


 マグドは男からズッシリと重い袋を受け取る。


「中には金と魔石と手紙が入っておる。マルセールという町に着いたら、まず素材屋に行け。道具屋じゃなくて素材屋な。そこの店主にワシの名前を伝え、袋の中に入っておる魔石をワシからの土産と言って渡せ。店主からなにか聞かれたら、魔物に会いたいと言うんじゃ。とある人物を紹介されるはずだから、その人物が住む家に行き、手紙を渡せ。そして事情を話すんじゃ。それまではお前の力のことは絶対に誰にも話すな。わかったか? もう一度言うからな?」


 丁寧すぎる説明を受け、いよいよ出発のときがやってきた。


「昨日はああ言ったが、お前の力は決して悪いものではないとワシは思う。要はお前がどう使うか次第だ。そのためにはまず……」


「村長、話が長いです」


「む? そうか……。ならもうなにも言うまい。自分の進む道は自分で切り拓け。では行くぞ」


 村長は陸と船の間のロープを火魔法で焼き切った。

 そしてさらになにやら海に向かって魔法を唱え続ける。


 すると船の周りに波の流れができ、船は導かれるように東に向かってゆっくりと進み始めた。


「お前の親にはワシから話しておく。もしお前がお前の力を放棄するというのであればいつでも帰ってきてよい。だがそのときはお前の身体から魔力を全て取り上げることになる。そのことを肝に銘じておけ」


「放棄しない場合は帰ってはいけないんですか!?」


「ならん。ここには既にお前を怪しんでる者もいる。いつかお前の力に気付く者も必ず出てくる。その場合、お前は……」


「村長! もう少し大きな声で!」


 もう声がハッキリとは聞きとれない距離にまで船は進んでいた。

 だがマグドは村長が言わんとしたことを理解した。


 力を使おうとしなければ村にいてもよい。

 そう村長は言った。

 だがマグドは自分に本当にそんな力があるのかを確かめたかった。

 だから今すぐ帰るなんて選択肢はない。

 なによりやっと見つかった魔力の使い道だ。


 それに自分は悪いことに使おうなんて考えてはいない。

 いつかきっと認められる日が来る。

 そう自分を思い込ませ、故郷である大陸をあとにした。

 同時に、もう二度と村に戻れない、二度と家族に会えないかもしれないという不安を抱えながら。



 船は順調に東へと進み、夕暮れ時には陸地が見えてきた。

 だが最初に見えたその陸地からはかなり南に逸れていく。

 木がたくさんある森を遠目に見ながら、船はそのまま崖地帯に辿り着いた。


 マグドは村長に言われたことを思い出し、崖を登る。

 釜さえなければもっと楽に登れるのにと思いながら。


 そして未知の大陸へと上陸することに成功した。

 だがそこはマグドが住んでいた大陸とはまるで別世界だった。


 海上にいるときから感じていたことだが、まず魔瘴が薄い。

 それに木には緑の葉が生え、地面にも緑の草がたくさん生えている。

 あたりを見た感じだと魔物もいな……弱そうなスライムはいる。

 この世界にはこんな場所もあったんだと感動し、マグドはしばらく動くことができなかった。


 すると右手のほうから馬車がやってきた。

 どこへ向かっているのかと聞いたら、なんとマルセールだと言う。

 御者は怪訝そうにしながらも、『乗れ』と言ってくれ、お言葉に甘えるマグド。

 そして村長の言葉にあったマルセールという町に早くも到着することができたのだ。


 こうしてマルセールに着いたマグドであったが、着いた早々少し残念な気持ちになった。

 町とはもっと人が多く、建物もたくさんあってどれも立派なものだと思ってたからだ。。


 落胆しながらもかなり腹が減ってはいたが、まず素材屋に向かうことにした。

 最終的に辿り着く家の人物が村長の知り合いであればご飯くらい食べさせてもらえるかもと思ったからだ。

 なにがあるかわからないからできればお金は無駄遣いしたくなかった。


 そして素材屋に入った。

 客は誰もいないようだ。


「いらっしゃい」


 カウンターの向こうに座るおじさんが声をかけてくる。


「あの……」


「買取りかい?」


「え? あ、この魔石を……」


 マグドは袋から魔石を二つ取り出し、カウンターに置く。


「おお? 大きいな。……ん?」


 おじさんの動きがとまった。


「お前さん、この魔石をどこで手に入れた?」


「えっと、ここから西にある大陸から来まして」


「西?」


「あ、すみません、じつはその魔石は……」


 緊張してるのか、村長の名前を出すことを忘れていたマグド。


「……土産ね。ちょっと待っててくれ」


 店主っぽいおじさんは奥に消えていく。

 数分後、お婆さんを連れて戻ってきた。


「どれどれ。……ほう? いい土産だ。しかも二つか」


 お婆さんはそう言って何度か頷く。


「坊や、探し人でもいるのかい?」


「あ、はい。魔物に会いたいんです」


「…………魔物か」


 マグドにはお婆さんの表情が険しくなったように感じた。


「坊やが住んでた土地にはたくさんいただろ?」


「え? まぁ……」


「ふっふっふ。冗談だよ。上がりな。向こうで話をしよう」


 そしてお婆さんと二人で話をすることになった。

 お婆さんはマグドが住む村や大陸のことを聞きたがった。

 マグドは自分の力については話してはいけないということだけに注意しながら話した。


 お婆さんもマグドがなにか事情を抱えていることに気付いているのか、マグド自身のことについては深く聞いてこない。

 マグドがお婆さんに伝えたのは、十五歳になったから村を出て旅をすることにしたという情報のみだ。


「あの、僕がこれから会うのはどのような方なのでしょうか?」


「どこにでもいる普通のやつだよ。坊やは十五歳って言ったね? あそこの子供たちももうそれくらいの年になってるんじゃないかな」


 同じ年くらいの子供がいると聞いてマグドは不安になった。

 村には子供は少なく、その子供たちが魔法の修行をしてる中で剣の修行をしていたマグドには友達と呼べる人間はいなかったからだ。


「お婆ちゃん、ご飯だってさ」


 部屋に突然女の子が入ってきた。


「あれ? 誰?」


「お客さんだよ。この子のご飯も用意してくれるかい?」


「わかった~お母さんに言ってくる~」


 女の子は部屋を出ていった。


「ごちそうになっていいんですか?」


「あぁ。その様子じゃ泊まるところもまだ確保できてないだろ? ウチに泊まっていきな」


「いえ、そこまでしてもらうのは悪いかと……。できれば早くそのご家族にお会いしたいですし」


「ん? さすがに今日は会えないよ」


「え、そうなんですか……。もう日も暮れましたし、今からお伺いしても失礼ですよね」


「そうじゃなくて、坊やが会いたいやつらはこの町にはいないんだよ」


「え?」


「もう何年も前にこの町から引っ越していってね。今はノースルアンという町に住んでる。ここからだと馬車で二日ってところか」


「二日……」


 マグドは世界の広さを思い知らされた。


 翌日、マグドはノースルアンに向かう馬車に乗った。

 そして二日後、無事到着した。

 それからのマグドの人生は今までと大きく変わることになった。


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