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第六百八十一話 まん丸な白い鳥

第十四章です。

 もう3月か。

 まだまだ寒いし、全然春って感じはしないな。


 だがいよいよ来月には地下五階のオープンだ。

 さぁ今日ものんびり寝転びながらダンジョン構成を……


「ロイス君、このあと10時に町役場の方々が来ますのでダンジョン酒場に案内してくださいね」


「わかった。……俺も参加したほうがいいのか?」


「当たり前でしょう。ではマリンたちを起こしてきますので頼みましたよ」


 どんな用件かも聞かされてないのに当たり前に参加させられるのか……。

 それなら昨日のうちに言っとけよな。


 カトレアは二階に転移していったようだ。


 最近、錬金術師組はみんな起きるのが遅い。

 夜寝るのが遅いからなんだろうけど。


 さて、気を取り直して地下五階の構成を……


「チュリー!」


 ん?

 外からなにか空耳が聞こえたな。


 と思ったら管理人室の魔物専用ドアから真っ白な鳥が入ってきた。


「チュリ! (ただいま帰りました!)」


 そして俺が寝転んでるソファーの前にあるテーブルに図々しく乗っかってきた。


「チュリ! (戻りました!)」


「……どちらさんでしたっけ?」


「チュリ!? (えぇっ!?)」


「こんなに丸々と太った鳥に知り合いはいないものでして」


「チュリ! (太ってるんじゃありません! 冬毛です!)」


「冬毛? 毎年こんなにまん丸になってたか?」


「チュリ! (ヒョウセツ村の寒さはここと段違いなんです!)」


 そうだ、この太った真っ白な鳥はヒョウセツ村に行ってたんだったな。


「半分忘れかけてたぞ」


「チュリ(すみません……。吹雪が凄くてなかなか行ったり来たりはできないものでして)」


「ふん。まぁいいけど。おかえり、ピピ」


「チュリ! (ただいまです!)」


 ピピが胸に抱きついてきた。


 ……すんごいフワフワだな。


「チュリ(あの……そんなにモフモフしないでください……抜けますから)」


「もう一か月も帰ってきてなかったんだぞ? さすがにみんな心配してたんだからな?」


「チュリ(すみません。でもみんな無事なので安心してください)」


「ララはいつ帰ってくるんだ?」


「チュリ(たぶん今月中には帰ってくるかと)」


「今日から3月だぞ? 今月中ってことは3月末になるかもしれないってことか? 村の封印結界に問題があるとかではないんだよな?」


「チュリ(それは問題ありません。封印魔法もお一人だけですが覚えることができましたし。魔物だけを通さない壁の魔法のみですが)」


「それで十分だろ。で、封印魔法を教えた代わりにララはなにを教えてもらってるんだ?」


「チュリ(ララちゃんはなにも教わってません)」


「え? じゃあなにしてるんだよ?」


「チュリ(教えてるんです。魔法を)」


「ん? 封印魔法以外もってことか?」


「チュリ(そうです。なんせあの村ではこの数十年、魔法がご法度のようでしたから)」


「ご法度だった理由は?」


「チュリ(魔法が使えると村を出て冒険者になってしまうかららしいです)」


「……なんで冒険者になったらダメなんだよ?」


「チュリ(冒険者なんてろくな職業じゃないという風潮があの村にはあるんですよ)」


「だからなんでそんな風潮があるんだってことだよ」


「チュリ(村長夫妻の経験からだそうです)」


「……ちなみにその村長夫妻はお年寄りか?」


「チュリ(そうです)」


「……元冒険者とか?」


「チュリ(察しがよろしいようで)」


 それ絶対あれだろ……。


◇◇◇


 昔々、大樹のダンジョンで修行していた四人パーティがいました。


 パーティ構成は、男戦士、女回復魔道士、そして女攻撃魔道士が二人です。

 しかしあるとき、攻撃魔道士の女の一人が、結婚するからパーティを抜けたいと言い出しました。

 もう一人の攻撃魔道士の女も、それなら私もこの機会に故郷に戻ろうかなと言い出し、この際パーティを解散しないかと提案しました。


 戦士と回復魔道士は突然の解散提案に困惑します。

 解散したくない二人は必死にとめました。

 結婚してもパーティを解散する必要はないじゃないか。

 村に戻らなくてもマルセールで結婚生活を送ればいいじゃないか。


 ですが氷のように冷徹で頑固な女は、結婚生活を送るのなら故郷でしか考えられないと言って一向に歩み寄る気配がありません。

 水のように考えが流されやすい女も、氷の女に触発されてか故郷に戻りたいという思いがどんどん強くなっていきます。


 結局その状態から話は進展しませんでした。

 そして攻撃魔道士二人は解散を拒んだ二人を残し、マルセールの町をあとにしました。

 攻撃魔道士二人からすれば、どうせ冒険者生活はもうこれで終わりなんだからと失うべきものがなかったのです。


 その後、攻撃魔道士二人は故郷で幸せな生活を送りました。

 子宝、そして孫にも恵まれ、現在その孫たちは優秀な魔道士として育っています。

 水の女の孫の一人にはなんと砂漠の女神様と呼ばれる女性もいるんです。


 それはさておき、一方で、回復魔道士はパーティを解散したショックからか冒険者をやめることにしました。

 最高のパーティと思っていただけに、もう二度とこんなパーティには巡り会えないと考えたら冒険者をやる気力がなくなってしまったのです。

 そして回復魔道士もまた、故郷であるスノー大陸の西の山奥、ヒョウセツ村に戻ることを決めました。


 戦士はそんな回復魔道士のことを放っておけませんでした。

 マルセールで解散しようという回復魔道士に対し、ヒョウセツ村に送り届けるまでがパーティだと言い張り、まるで聞く耳を持たなかったのです。

 まぁ戦士の出身地はヒョウセツ村へ帰る途中にあり、村から最も近い町であるセツゲンの町ですから里帰りついでにという気分だったんですけどね。


 渋々ながら同行を許可した回復魔道士でしたが、実は少し嬉しかったんです。

 正直、急に一人になることが心細かったからです。

 それにヒョウセツ村に一人で辿り着くのは、攻撃を得意としていない回復魔道士にとっては困難なことでもありました。


 そして二人でマルセールの町を出発しました。

 回復魔道士は冒険者をやめたせいか、解放感でいっぱいでした。

 途中のボクチク村、ボワールの町、スノーポートの町、セツゲンの町では完全に観光気分です。


 ヒョウセツ村に着いたのは、マルセールの町を出てから実に一か月後。

 二人にとって修行ではない旅というのは初めてでした。

 そのせいかお互いの今まで知らなかった部分が見えてきたりもしたものです。


 しかしそんな楽しかった旅もここまでです。

 冒険者をやめる回復魔道士とは違い、戦士はこれからも冒険者を続けることを決めていました。

 せっかくだから村に一泊していってという女に対し、戦士はこう言いました。


 『俺の新しい冒険はもう始まってるから』


 戦士はソロ冒険者として、新たな一歩を踏み出すかのごとくヒョウセツ村をあとにしました。


 『ありがとう! あなたのおかげで凄く楽しい冒険者生活だった!』


 女は村から遠ざかっていく戦士に向かって大きな声で叫びました。

 だが戦士は決して振り返ることなく、吹雪の中に消えていきました。


 戦士はそれから孤高の冒険者として旅を続けることを選びました。

 マルセールを通ることはあっても大樹のダンジョンには決して寄りません。

 大樹のダンジョンは戦士にとって思い出が多すぎたのです。


 どの町でも冒険者たちとはできるだけ距離をおきました。

 冒険者パーティを見て、羨ましいと思うことはあっても、また裏切られるかもという不安のほうが大きかったのです。


 そしてオアシス大陸以外の世界各地を一人で旅すること十年、戦士は故郷であるセツゲンの町に戻ることを決めました。

 これからは実家の武器屋を継ごうと決意したからです。

 三十歳になったら店を継ぐ、それが父親との約束でもありました。


 戦士は冒険者としての旅の最後の場所に、二度目の冒険の始まりの地であったヒョウセツ村を選びました。

 かつてパーティを組んでいた回復魔道士に冒険者引退を報告するという目的もありました。


 彼女はこの十年なにしてたのだろう。

 もう結婚して子供も二人くらいいるんだろうな。

 太ってたら思いっきり笑ってやろう。


 セツゲンの町からヒョウセツ村までの道中、そんなことを考えながら吹雪の中を進みました。


 でもヒョウセツ村目前という場所まで来て、スノーウルフの大群に襲われたのです。

 不意を突かれた戦士は致命傷を負ってしまいます。

 それでもこれが最後の旅だと自身を奮わせ、なんとか勝利したのです。


 ですが致命傷を負っていた戦士は、あまりの出血量でもう歩くことすらできなくなっていました。

 思わず雪の上に倒れこむ戦士。

 視界もぼんやりし、異常な寒気も感じるようになりました。


 俺の人生という旅はここで終わりか。


 戦士がそう思ったときでした。


 『いつまで待たせれば気がすむの!? それとも永遠に待たせるつもり!?』


 どこからか女性の声が聞こえてきました。

 しかし、男はそこで意識を失いました。


 次に目が覚めたとき、男は見知らぬ家のベッドの上にいました。


 その日から、その家は男の帰る場所となりました。



◇◇◇


「って感じだったんじゃないか?」


「……チュリ? (最後のあたり簡単にまとめすぎじゃありません?)」


「そこは想像にお任せしますってやつだよ。それになんかこういう妄想は喋ってて少し恥ずかしくなってきた」


「チュリ(ならわざわざ恋物語風の話にしなきゃいいのに……)」


「そうは言ったってこの話は結局男女の話になるんだからさ。それが原因でヒョウセツ村の冒険者人口がゼロになってるんだぞ」


「チュリ(結果はそうなってますけど、ロイス君の解釈とは少し違うようですよ)」


「ん? 当の本人たちから理由を聞けたのか?」


「チュリ(はい)」


「どこが違う? 戦士の出身地か? でもそれは適当だからな?」


「チュリ(いえ、セツゲンの町出身ということは合ってます)」


「合ってるのかよ……」


「チュリ(でも武器屋の後継ぎとかではないですね。普通の家のようです)」


「そうか~違ったか~。で、真実とやらは?」


「チュリ(勘違いなんですよ)」


「勘違い?」


「チュリ(はい。その回復魔道士の女性と戦士の男性は四人パーティのころからもう付き合ってたんです)」


「は?」


「チュリ(バレないようにしてたらしいですが、パーティの解散を言われたときには攻撃魔道士の二人にバレて内緒にしてたことで怒らせてしまったんだと思ったらしいです。そういういざこざでの解散はやはりつきものですから)」


 バビバ婆さんはそんなこと一言も言ってなかったが……。


「チュリ(でも二人はそこまで怒ってる気配はなく、故郷で結婚生活を送りたいからパーティを解散させてほしいというあたかもその二人が悪いみたいな言い草をされてかなり戸惑ったとか。でも自分たちもそろそろ結婚したいなとも思ってたらしく、それは二人の優しさでもあると考えたらしいんです)」


 優しさねぇ……。


「チュリ(でもやはりまだ解散は早いと思い、必死に謝ってとめたそうです。でも二人は突然町からいなくなってしまったとか。あれだけ血の気が多い二人が急に冒険者をやめるなんておかしい、結婚なんてのも嘘に違いない、裏切った自分たちのせいだ、そう思ってしまったようですよ)」


「完全に勘違いだな……」


「チュリ(そうなんです。で、回復魔道士と戦士の二人はそれから旅をしてみたのですが、結局たったの数か月でヒョウセツ村に落ち着くことになったとか。二人の優秀な魔道士を冒険者の道から外させてしまったことを今でも後悔してました)」


「そんな勘違い起きるのかな……って起きちゃってるんだもんな。しかも数十年経っても誰も知らないままという……」


「チュリ(両方の話を知ってるのは私とロイス君だけですね)」


 知らないほうがいい話もあるよな。

 知らなくてもいい話って言ったほうがいいか。

 この話はこのまま墓場行きでいいんじゃないか。

 って墓場とかいうと婆さんたちに怒られそうだ……。


「……チュリ? (さっきから撫ですぎじゃないですか?)」


「そりゃ久々にピピと会えたんだから撫でるだろ。モフモフだし」


「……チュリ? (少し変ですよ? なにかありました?)」


「ん? なにかと言えば、まぁサハで色々な。楽しくないことばかりだった。あの町の魔道化はやめにしたんだよ」


「チュリ? (え? そうなんですか?)」


「その話は長くなるから昼からな。このあと町役場の人たちが来て会議があるんだよ。そういやセツゲンの町はどうなってた? 帰るとき通ってきただろ?」


「チュリ(雪のおかげか、まだ生きてる人も少しは見られましたよ。魔物に気付かれないようにどこかに隠れて暮らしてるんでしょう)」


「お~? 封印魔法なしでそれは凄いな。結局スノーポートに避難してきたのはたった五百人だけだってさ」


 あそこの国王は魔道化の話を聞こうとすらせずに城の門前でカスミ丸たちを追い返したらしいからな。

 三日間通っても進展なしじゃさすがに俺たちに責任はあるまい。

 冒険者ギルドや町役場に何人か話がわかる人がいてくれたからこその五百人の避難者だ。


「チュリ(町がなくなっていったり人が死ぬことに慣れてしまうのもツラいですよね)」


「うん。そのうち本当になにも思わなくなりそうだ」


「チュリ(最後は大樹のダンジョンだけになったりして)」


「ありそうな話だな。そのとき冒険者の数が少なくなってたら、ダンジョンは維持できずにそのまま消えて終わりだ。大樹や森も破壊されるんだろうな~」


「チュリリ(やめてくださいよ。ドラシーさんが聞いてたら怒りますよ)」


「それは大丈夫。最近ドラシーは毎日マリンに付きあっててクタクタだからそう簡単には起きてこない」


「チュリ? (マリンちゃん? なにしてるんですか?)」


「あれだよあれ。俺がナミから持って帰ってきたあれ」


「チュリ(あ……魔物の……。なにかの間違いだったとかじゃなく、やはりマリンちゃんに適性があったんですね)」


「そうなんだよ。まぁ今はちゃんと仕事もやってくれてるからいいんだけど、一時は完全に仕事を放り出して熱中してたくらいだ。ドラシーはマリンが危ないことしないかの見張り役でずっと傍にいるってわけ」


「チュリ? (なるほど。ドラシーさんにとってはなつかしい光景なんですかね?)」


「かもな。ダンジョン創設時のことでも思い出してるんじゃないか」


「チュリ(あとで私も見に行ってきます。……ところで、ここにロイス君一人というのも珍しいですね。表にも誰もいませんでしたよ)」


「みんな忙しいんだよ。リスたちはパラディン隊の仕事。ゲンさんとウェルダンとハリルとペンネはダンジョンで修行中。ワタはたぶんまだ寝てる」


「チュリ(ハリル君とペンネも修行するようになったんですね)」


「強くなりたいって言うからさ。今はみんなで魔法の修行をしてるよ」


「チュリ(へぇ~。どうやらサハのことが関係してそうですね。午後が楽しみです。……そういやボネは? 寝てるんですか?)」


「……」


「チュリ? (え? ……嘘ですよね?)」


「いや、死んでないぞ? 勘違いするなよ?」


「チュリ(驚かせないでくださいよ……)」


「隣の部屋にいるよ」


「チュリ(リビングに? 喧嘩でもしたんですか?)」


「覗いてみろ」


 ピピは飛び立ち、リビングに入ろうとする。


 ……が、リビングには入らずに、空中で停止した。

 そして翼をパタパタさせながらリビングの中を見ている。


 しばらく見たあと、再び俺のところへ戻ってきた。


「チュリ? (ボネといっしょにいる人、誰ですか?)」


「そうか、ピピにもあの人が見えるのか」


「チュリ(え……)」


 ピピは思わず体をブルっと震わせた。


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