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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る
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第六百七十七話 苦情受付中

 砂漠の真ん中、いや、町の真ん中に八人掛けのテーブルとベンチを設置し、冷たいお茶を飲みながらぼーっとする。


 ……無駄な時間だな。


 ウェルダン馬車は港に向かってゆっくりと戻っていった。

 メンデスさんとガボンさんが護衛についてるから襲われたりしても大丈夫だろう。

 中には封印魔法の使い手が二人もいるしな。


「ダルマンさんも座ったらどうですか?」


「遠慮しとくよ。一応護衛だからな」


「俺の周りには封印結界が張ってあるんですから大丈夫ですって」


「でも俺には見えないから消えたりしたらわからないし……」


「なにもされなければ半日は余裕ですって、たぶん。マドも安心してるからこそのお昼寝ですよ」


 テーブルの上ではマドが寝ている。

 かなりお疲れの様子だ。


「あ、誰か来ましたよ。北に向かう途中の冒険者ですかね」


「……いや、違う。あれは……衛兵じゃないか?」


 うわ……それは面倒だな。


 ダルマンさんは右手に大きなミスリルの盾、左手にミスリルの剣を持ち、いつでも戦闘に入れる態勢だ。


「その新しい盾の使い心地はどうなんですか?」


「最高だな。ってその話はあとでな」


 そして三人の衛兵がやってきた。


「やっぱりさっきの声は君だったのか!」


「ん? ……あっ? どうも」


 南の戦場で共に戦ったあのリーダーの人じゃないか。

 あとの二人もたぶんそこにいた人たちなんだろうが顔までは覚えてない。


「まさか君がダンジョンの管理人だったなんて。なんで早く言ってくれなかったんだよ?」


「管理人だと明かしたところで、狙われる危険こそ増えても減ることはないじゃないですか」


「そうなのか? でもみんなが守ろうとしてるってことはそういうことなんだろうな」


「みんながなにを守ろうとしてるんですか?」


「だから君をだって。俺たちはさっきまで南側で救助活動をしてたんだけど、いっしょにいた冒険者たちが色々言ってたからさ」


 三人にはとりあえず座ってもらい、お茶を出した。

 そしてその色々がなにかを聞くことにした。



 管理人さんが魔王に狙われる前にさっさと撤収するぞ。


 管理人さんがここまで言うなんてこの町の闇は相当深い。


 大樹のダンジョンに文句がある人は管理人さんのところに行く前に僕のところに来い。


 救助活動を急がせないと死人が増えるから、今の防衛ラインを捨ててでも救助に向かえって言ったんだと思う。


 管理人さんはいつだって誰かを救うことばかり考えてる。


 これで管理人さんを批判するような人は物事の本質をなにもわかってない人だよね。


 怒ってる管理人さんもカッコいい。



「……最後のはなんですか?」


「いや、本当に言ってたんだよ。可愛い子が」


 可愛い子?

 誰だろう?


「……それより、城が気にならないんですか?」


「確かにそっちは城があったはずの場所だな」


「中にいた人たちのことが気になりません?」


「……気にならないと言えば噓になる。でも世の中にはどうにもならないことだってある」


 ほう?

 もう現実を受け入れたのか。


「それに魔王の攻撃だなんて聞かされたらどうしていいかわからないし、ただただ恐怖に感じるだけだ。この場所にいることさえこわい。だからここには冒険者以外寄りつかないと思うぞ」


「え? なら俺がここで待ってても誰も来ないってことですか?」


「普通はな。住民が港に行くにしても遠回りの道を選ぶと思う」


 じゃあもう帰ろうかな……暑いし。


「で、一つ聞きたいことがあるんだが」


「なんですか?」


「フリージア王女がダンジョンに行かなかったか?」


「……フリージア王女ですか?」


「あぁ。衛兵の一人が、フリージア王女が馬車で港のダンジョンに向かっていったと言っててな。だからもしフリージア王女がまだダンジョンから帰ってきてなかったのであれば無事かもしれないって」


「……確かに王女は来ましたね。でもダンジョン内を少し見ただけですぐに帰りましたよ。ウチの馬車で城までちゃんと送らせて、送っていった者もダンジョンに帰ってきてました」


「そうか……。もしかしたらとは思ったが、そんなに上手くはいかないよな」


 ダンジョンに来てないなんて言うと余計怪しくなるからな。


「王子は悲しむだろうな」


 ん?


「……王子様は生きてるんですか?」


「ん? ……いや、なんでもない」


 いやいやいや、隠すの下手すぎだろ……。


「ロイスー!」


 遠くから俺を呼ぶ女性の声があたりに響いた。


 やっと帰ってきたか。


「ダルマンさん」


「了解」


 今この場でユウナの名前を出されるのはマズい。

 この人たちはユウナと王女がいっしょにいたということを聞いてるはずだからな。


 ダルマンさんは西から走ってきたシャルルをとめる。

 ユウナや王女の話題は絶対に出すなと言ってくれてるはずだ。


「ミャオ」


 モリタも帰ってきたか。

 俺に擦り寄ってこようとしてるらしいが、封印魔法が邪魔してることに気付き、テーブルの上に乗り、マドの隣でお座りした。


 そして遅れてシャルルもやってきた。


「お前は地面に正座」


「嫌よ、熱いもの」


「じゃあベンチの上でいい」


 シャルルは言われた通りにベンチの上で正座した。

 一応反省はしているようだ。

 ユウナが辛うじて無事だということも聞けて安心もしたのだろう。


「おい、モリタにミルクをやれ」


「私もなにか飲んでいい?」


「……勝手にしろ」


 こんなに暑い中走ってきて汗もたくさんかいてるのに飲むなとは言えないしな……。


「この猫、もしかしてモーリタ村にたくさんいる猫じゃないか?」


「え? そうですけど、行ったことあるんですか?」


「あぁ。この前一度……いや、なんでもない」


 誤魔化せてないからな?

 というかモーリタ村に行ったくらいで誤魔化す必要なんかないだろ?


「じゃ、じゃあ俺たちはこのまま北側の救助に向かうから。あ、俺たちも避難させてもらうからよろしく。ありがとうな」


 怪しい……。


 そして衛兵たちは北に向かって走っていった。


 というか実は俺が怪しまれてるのか?

 まさか魔王は俺だと思われてるんじゃ……。


「ねぇ、早く説明しなさいよ。ユウナは本当に無事なんでしょうね?」


「無事だけど、もしユウナが封印魔法を使えてなかったら間違いなく死んでたぞ?」


 まぁその場合は王女もあんなことしなかったかもだけど。


「無事なんだからいいじゃない。それにちゃんと反省してるってば。でも退屈だったんだから仕方ないじゃない」


「仕方なくない。お前だけだぞ、パーティを組まずに行動したのなんて」


「向こうで私もパーティ組んだわよ。リヴァーナたちと」


「リヴァーナさんたち可哀想に」


「なんで可哀想なのよ!? 私だってちゃんと連携取れるわよ!」


「そういう意味じゃない」


 というか今思ったけど、シャルルに魔力暴走の話をしてもいいのか?


 ……子供のときの事件にさえ触れなければ大丈夫か。

 そういやこいつも三人殺してるんだったよな……。


 そしてユウナとシャルルが別れたあとのことから順に説明した。


「……」


 話を聞いたシャルルはキョトンとしてしまった。

 完全に目が点になってる。


「そういうわけだから、お前も一週間はユウナの看病という設定な。絶対に誰にも言うなよ」


「……」


 ダメだこりゃ……。


「ロイス君、南から冒険者が来る」


 ん?

 ……四人が周りをキョロキョロしながらゆっくりと歩いてきてる。


「あ? あの人たち、俺が南側にいったときにさっきの衛兵さんたちといっしょに戦ってた人たちです」


 俺に会いに来たのだろうか?


 ……まさか苦情を言いにきたとかじゃないよな?


「一応警戒をお願いします」


「わかった」


 あの四人の中でも特にあの人は強いんだよな……。

 魔道士の人とは初めて会うな。


 四人は城跡の前で一度立ち止まった。

 そのまま数十秒は城があった場所を眺めていただろうか。

 再び歩き始め、ようやく俺たちの元へとやってきた。


「あっ」


 ん?

 ダルマンさんが声を出した。

 襲ってきそうな気配でも感じたか?


「あれ?」


「ダルマンさん!?」


 え?


「おーっ!? やっぱりツタンとアミンか! 久しぶりだな~! 元気だったか!?」


「はい!」


「ダルマンさんもお元気そうで!」


 久しぶり?

 しかもかなり仲が良さそうだ。


 ということは…………。



 思い出した。

 モーリタ村だ。

 強い戦士の人と、さっきは会わなかった魔道士の人。

 俺はこの二人とモーリタ村で会ってる。


「ん? もしかして君は……ジオだっけ?」


「そうです! 数回しか会ったことないのに覚えていただいてて光栄です!」


「ははっ。あの村にはめったに人が来ないからそりゃ覚えてるって。そっちの君は初めてだよな?」


 じゃあ俺もこのジオって人と村で会ってるのか?

 見たことある気はしてるんだけど……。


「とりあえず座れよ。なんか飲むだろ? どれがいい?」


 モーリタ村ではこの人たちとどうやって別れたんだっけ?


 ……あ、確か火山が噴火した日の午後だったか?

 船でフィンクス村とサハへ旅立つのを見送ったんだっけ?

 どっちかの人がフィンクス村出身だった気がするけど……。


 でも俺がこの人たちと会ったのはその日と前日の夜だけだもんな。

 会話した量だってナミ三人衆とのほうが多かったし。

 そりゃほとんど覚えてなくても仕方ない。

 見たことある気がするって感じただけでも凄いよな、うん。


 ……でもこのジオって人とは本当に会ってるんだろうか。


「ダンジョンで死にかけてたところをロイス君たちに助けてもらったんだよ。でもそのあとなんと……」


 会話が弾んでるようだな。


 みんなの視線がたまにシャルルに向いてるのが気になるけど。

 正座させられてるし、この人が仲間を見捨てた身勝手な人なんだ~って思われてることは間違いないだろう。


 というかジオさん、やけに俺を見てくるな。


 ……待て。


 思い出したぞ。


 この人あれだ。


 ソロでダンジョンに入って、入口から少し進んだところで倒れてた人だ。

 ティアリスさんとアリアさんに助けられた人だ。


 そういや船で三人いっしょに帰っていった気がする。

 そうか、あのときの三人がパーティを組んだのか。


 このジオって人ともう一人はともかく、こっちの二人はあのダンジョンで修行してたくらいだからそりゃ強くて当然のはずだ。


「で、ダルマンさんがなぜここにいるんだ?」


「俺たちのパーティは今大樹のダンジョンで修行してるんだよ」


「「へぇ~?」」


「だから今日は突然依頼を受けてこの町に来た。今はロイス君の護衛だな」


「護衛って一人だけで? こんな危険な場所で?」


 怪しまれてるな……。


「ダ、ダルマンさんはお強いから! それに今ロイスさんの周りにあるのって封印魔法による結界ですよね!?」


 お?

 ジオさんは戦士風なのに魔力持ちなのか。

 身体強化系の魔法が使えたら将来性はかなりあるな。


「でも魔王の攻撃はこの破壊力だぞ? ロイス君を護衛するのなら、せめてその封印魔法の使い手がこの場にいないと心配にならないか?」


「ダ、ダルマンさんの盾見てくださいよ! 見るからに凄そうじゃないですか! この盾と封印魔法があればきっと大丈夫ってことですよね!? そうですよね!?」


「あ、あぁ……」


 ダルマンさんはジオさんの勢いに押されているようだ。


 というかジオさんはなぜそんなに俺たちをかばってくれるんだ?

 なにかやましいことでもあるんじゃないかと疑ってしまうな。


 ……ん?

 やましいこと?

 俺たちをかばってる?


 もしかしてジオさんは俺がなにかの間違いでこの被害を出してしまったとでも思ってるのだろうか……。

 モーリタ村で助けてもらってるだけに、その恩を今返そうと思ってるのかも……。


「そ、そうだ、ロイスさん! フリージア王女についてなにか聞いていませんか!?」


「き、聞いたことない名前ね!」


 おい?

 なんでお前が答える?

 誰もシャルルに聞いてないだろ……。


 というかまた王女の名前が出てくるのかよ……。


「さっき衛兵の方にも聞かれましたよ。確かに港にあるダンジョンに来られましたが、そのあとちゃんと城に送り届けたはずです。俺の魔物が嘘ついてなければですけど」


「そ、そうですか……。魔物さんたちが嘘つくわけないですもんね……」


 この国の人たちはそんなに王女が大事なのかな。

 女王や王女は住民からの評判が良くないと聞いてたけど。


 それとも衛兵たちに王女の行方を捜すように言われてるのだろうか。

 いや、衛兵じゃなくて王子に命令されてるのかもな。

 俺が会ったことあるはずだという王子に。


 ……ん?


 ちょっと待て……。

 今なにか嫌な考えが頭をよぎったぞ……。


 …………いや、まさかな。


 でもさっきの衛兵は、フリージア王女が死んでたら王子が悲しむだろうなって言ってた。

 そしてこの人たちもフリージア王女の行方を捜している。


 だがついさっき、この人はなぜか俺たちをかばおうとした。

 それが俺を疑っての行動じゃなかったとしたらほかになにがある?


 ……衛兵たちは王子が生きてることを隠そうとした。

 そしてモーリタ村に行ったことがあることも隠そうとした。

 城で聞いた王女たちの会話も思い出せ。



 ……うん。


 なんだか点と点が全て繋がった気がする。


「ジオさん」


「……なんでしょうか?」


「もしかして、ハルジオン王子様ですか?」


「「「「!?」」」」


 この四人の驚きようからして図星のようだ。


「ど、ど、どういうことよ!?」


「頼むからお前は黙っててくれ……」


 この人がハルジオン王子で間違いない。


 そして王子は知っている。

 フリージア王女の秘密を。


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