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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る
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第六百七十四話 砂の中での救出作業

「……生きてるのか?」


「ピィ! (はい! 封印結界の中にいます! シファーさんもいっしょです!)」


 良かった……。

 でもこれだけの爆発の中でよく封印結界を発動してここまで維持できたな……。

 さすがユウナだ。


「ピィ! (とにかくご主人様とエマさんも早く来てください!)」


「待て。罠の可能性は? 敵の気配はないのか?」


「ピィ! (ユウナさんは心配ないって言ってるのです! 早く馬車を準備してほしいとも言ってるのです! 詳しい状況は来てもらえればわかるのです!)」


 馬車をってことはもう体力も魔力も限界だからってことか?

 というかユウナの口調をマネしなくてもいいんだぞ?


「……信じるからな?」


「ピィ! (例え罠でも早く助けましょう!)」


 それもそうだ。

 敵をおそれるより今はユウナとシファーさんを助けないと。


「中からなにか来るぞ!」


「「「「!?」」」」


 ダルマンさんの声で緊張が走る。


 そしてそのなにかはすぐに俺たちの前に姿を現した。


「モ~(あ? ピッタリだったね)」


「「「「……」」」」


 ウェルダンだった……。


 そのすぐ後ろにはマドもいた。


「モ~(メルから聞いた? 今のところ敵はいなさそうだから早く来て。早くしないと死んじゃう)」


「死んじゃう!?」


「「「「えっ!?」」」」


「すぐ案内しろ! マドは今通ってきた穴を人間が通れるように土魔法で……固めてあるな」


「ピィ! (固めないと穴にならないのです! それより早くなのです!)」


 おい?

 その口調はまだ余裕があるからマネしてるって解釈でいいんだな?

 それともユウナがヤバい状況だからパニックになってるのか?


「ロイス君、どういう状況だ?」


「ユウナたちは封印結界の中で生きてるそうです」


「「「「おおっ!?」」」」


「でも限界らしいのですぐに運び出してきます。今のところ敵の気配はないようですが、みなさんは警戒を続けてください。ダルマンさんは俺といっしょに来てください」


「わかった! デルフィも来てくれ!」


 デルフィさんは無言で首を何度も縦に振る。


 そして俺たちはウェルダンを先頭に穴の中に入った。

 暗い穴の中を魔法剣の炎で照らしながら進む。


 ……今城の中なんだよな。

 こうやってるとただの穴の中としか感じない。

 ワタと出会った穴はもう少し天井が低かったっけ。

 ここは砂だからマドは簡単に固めることができたんだろうな。


「モ~(あそこ)」


 前方に明るい場所が見えてきた。


 ……あの後ろ姿はユウナで間違いない。


 ローブや髪を見る限りはほぼ無傷だ。

 だがユウナの向こうには人が横になっている、

 シファーさんが怪我したのだろうか。

 まさか重傷とか……。


「ユウナ」


「!?」


 俺が名前を呼ぶとユウナは体をビクッと震わせた。

 自分の後方からウェルダンが来てることや、誰か人間を連れてきたことには気付いてたはずだ。


 そしてユウナの元へと辿り着いた。


 ……あ、左にシファーさんがいた。

 だが仰向けの体勢で横になっており、目を閉じている。

 眠っているのか気を失っているのかはわからないが、死んではいないんだろう。


 じゃあユウナの前に寝てるこの丸坊主で……素っ裸の女性は誰だ?


 ……目のやり場に非常に困る。

 というかもう死んでるんじゃないのか?


「ユウナ、大丈夫か? 怪我は?」


「……私は大丈夫なのです。でも暑くて……」


「おい! ローブ脱げ!」


 ユウナの顔からは汗が出ていない。

 もう出る汗すら残ってないのかもしれない。


「今魔法を一時でもやめると……死んじゃうのです……」


 患者の心配をしてるのか。

 エマはユウナの顔や首を濡れたタオルで優しく拭き始めた。


「デルフィさん、ユウナと代わってください」


 デルフィさんは患者の向こう側に移動した。


「え? あ、デルフィさんなのです。でも……早くダンジョンに戻らないと……」


「ダンジョン? 馬車じゃダメなのか? もっと涼しい場所ってことか?」


「カトレアさんか、もしくはエマちゃんじゃないと……」


「エマ? エマならここにいるだろ?」


「へ? ……あ、エマちゃんなのです?」


 真横にいるエマに気付いてなかったとは……。

 相当きてるようだ。


「良かったのです。これで安心なのです。エマちゃん、交代なのです」


「交代ってなにをですか!?」


「封印魔法なのです。体から魔力が外に出ないようにしてほしいのです」


「えっ!? この方のってことですか!?」


「そうなのです。全身から外に魔力が溢れてきてるのです。それを封印魔法で閉じ込めるのです。エマちゃんならできるのです」


「え、え……」


 エマは戸惑っているようだ。


「デルフィさんは体の血流の巡りを意識してほしいのです。じゃないと体温がどんどん下がっていくのです」


「……」


 デルフィさんも戸惑い始めた。

 体の血流を意識して回復魔法を使ったことなど今までになかったのだろう。


「二人とも、早く。まず今の状態を見るのです。杖でも手でもどっちでもいいのです」


 エマはユウナの隣で、ユウナと同じように左手で患者の体に触れ、さらに右手の杖先も体に当てる。

 デルフィさんも反対側でそれをマネする。


「わかるのです? 目で見るより魔力で感じ取ってほしいのです」


「「……」」


 二人は目を瞑って集中する。

 二人の顔からは汗が流れ始めた。


「じゃあやってみるのです」


「「……」」


「あ、デルフィさんいい感じなのです。エマちゃん、もっと全身をまんべんなくケアしてほしいのです。……デルフィさん、もう少し足の指先や脳のほうまで意識するのです。流れはそんなに早くなくてもいいのです」


「「……」」


「……よし、回復魔法はデルフィさんにお任せするのです。……うん、大丈夫そうなのです」


 ユウナは左手を患者の体から離した。

 無事回復魔法の引継ぎは終わったようだ。


「エマちゃん、もう少し魔力を強くできるのです?」


「……」


 エマの表情は苦しそうだ……。


「あ、凄いのです。これなら大丈夫だと思うのです」


 ユウナは右手の杖も離した。

 するとユウナは全身の力が抜けたかのように後ろに倒れ掛かる。

 もちろん俺が受けとめることになった。


「ダルマンさん、もう馬車を置けそうですか?」


「あぁ、これくらいの広さがあれば」


 メルとマドがさらに広げてくれた穴にダルマンさんは馬車を出した。

 そして俺はユウナを抱え、馬車の中へと運び、ゆっくりと寝かせる。


 患者は体温が下がっていく症状らしいからこのまま外で治療したほうがいいのかもしれない。


 ユウナのローブを脱がせてやってると、ダルマンさんがシファーさんを抱えて入ってきて、ユウナの隣に寝かした。

 ダルマンさんは馬車を降り、周囲の警戒にあたってくれるようだ。


「シファーさんは大丈夫なのか?」


「ショックで気を失ってるだけなのです」


「ショック? ……なにがあった?」


「話せば長くなるのです。その前にスピカポーション飲ませてほしいのです。……あ、シファーさんにではなくて私になのです」


 ユウナにかよ……。


 でもさすがにこんな状態のユウナに自分で飲めよとは言えない。

 上半身を少し起こしてやり、ゆっくりと飲ませる。


「敵の正体はわかってるのか? まだここにいて危険はないのか?」


「……城の外にはどんな被害が出てるのです?」


「城から半径数百メートルくらいのかなりの広範囲で建物が塵と化してる。当然人間もかなり死んだはずだ。辛うじて半壊ですんだ場所では今救助が行われている」


「……」


 ユウナは表情を変えずに馬車の天井を見つめている。


「なぁ、せめて城の外に出たほうが良くないか? いつまた敵の襲撃があるかわからないんだし」


「……大丈夫なのです」


「なんで言い切れるんだよ? ……もしかして外で治療中の人が犯人とか言うんじゃないだろうな?」


「……」


「おい? 正解なのですとか言うなよ?」


「……」


「というか誰なんだよあれ? ……まさか王女とか言わないよな?」


「……」


「おい? 嘘だろ? お前たち二人といっしょにいたはずだから適当に言ってみただけなんだぞ? あんな素っ裸で丸坊主で目も瞑ってるとなると誰だか判断できないんだからな?」


「……王女なのです」


「嘘だよな? でも王女って二人いたからな? 一応聞くけど、どっちの王女だ?」


「……フリージア王女なのです」


「マジかよ……。でもその人がフリージア王女だとしても、敵や犯人ではないよな?」


「……敵ではないけど、犯人ではあるかもしれないのです」


「おい……冗談だろ……」


 なんだかわけがわからなくなってきた……。

 なんでフリージア王女が城を破壊するんだよ……。


「じゃあ仮に王女が犯人だとして、どうやったらこんな大規模爆発を引き起こせるんだよ?」


「……たぶんなのですけど、……魔力暴走なのです」


「魔力……暴走……」


 なんだろう。

 魔力暴走という言葉だけで全てが腑に落ちるこの感じ。

 そうか、魔力暴走か。

 な~んだ、そっかぁ~。


 よく考えもしなくても、今の王女の症状は魔力暴走が起きたあとに出る症状だ。

 スピカさんからシャルルの話を聞いてたはずなのになぜもっと早く気付かなかったんだろう。

 でもほんの数分前に気付いてたところで今の状況はなにも変わらないか。


 それに以前ワタを助けたとき、俺は実際に魔力暴走をこの目で目撃してたじゃないか。

 話を聞いてなんであのときのことをすぐ思い出さなかったのだろう。

 メルとマドも見てたよな?

 ってあのときとは被害状況が比べ物にならないほど大きいせいかもしれない。

 まぁそれを言ったところでこの状況はなにも変わってはいないんだろうけど。


「……じゃあシャルルの封印の指輪があればなんとかなるんじゃないか?」


「だからカトレアさんのところへ行こうとしてたのです」


「あ、なるほど。あの指輪の研究で今カトレアが持ってるんだっけ」


「でも一つでは制御しきれなかったかもしれないのです。王女は指輪を二つ装備してたのです。だからエマちゃんも必要だったのです」


 これだけの破壊力を出せる魔力の持ち主なんだもんな……。


「王女が魔力を持ってることには気付かなかったのか?」


「無理なのです。封印魔法を二重にかけられてどうやって気付けと言うのです? ロイスさんこそあの王女からそういう気配を感じ取れなかったのです?」


「いやいや、無理だって。どこにでもいる普通の面倒な王女としか思ってなかったし。俺の目は節穴なんだぞ」


「自分で言うな、なのです……」


 他人が言ったらただの悪口だからな。


「で、魔力暴走が起きた原因は? 何者かに指輪を外されたのか?」


「話せば長くなるのです」


「じゃあ帰ってからでいいや。王女の容態はいつ安定しそうかわかるか? 体を動かしても大丈夫そうなら馬車に乗せてダンジョンに戻るけど、無理そうならウェルダンに指輪を持ってきてもらうから」


「……あれは女王の部屋での出来事だったのです」


 って今話を始めるのかよ……。


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