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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る

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第六百七十三話 ガレキ

 馬車を片付け、ここからは歩いて城まで行くことにした。


 道の両端にある建物は半壊している。

 元々強度がそんなに高くなかったせいもあるだろう。


「誰か来てくれ!」


「ガレキの下に人が埋まってるぞ!」


「崩れるから慎重に歩け!」


「お願いします! 助けてください!」


「まだ子供が中にいるんです!」


 そのような声がたくさん聞こえてくる。

 血を流してる人もいるし、地面に横たわっている人もいる。


 だがその割には救助してる人が少ない気がする。

 人だかりにいた人たちはあそこより先に足を踏み入れるのをこわがってるようにも見えた。

 まぁ爆発があったあとだから仕方ないか。


 それにこの先がこんなことになってることをまだ知らない人のほうが多いだろう。

 ここより北側の建物はほとんど影響ないみたいだしな。


 助けてやりたい気持ちはあるが、もう敵のテリトリーに入ってるのは間違いないから今は隙を見せるべきではない。

 冒険者が救助に来るまでなんとか耐えてくれ。


 ……でもポーションくらいはあげたほうがいいよな。


 地面の砂の上に横たわっているお爺さん、それを心配そうに見守ってるお婆さん。

 こんな老夫婦を見たら放っておけるはずがない。


「ポーションです。飲ませてあげてください」


「え……いいんですか? ありがとうございます。ありがとうございます」


 二度もお礼を言われてしまった。


「水もどうぞ。先を急ぐものでこれくらいしかできなくてすみません」


「とんでもないです。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません……」


「忘れてください。では」


 そんなやりとりをその先も何度か繰り返しながら城に近付いていく。


 だが道の両端の景色が微妙に変わってきてることに気付いた。

 建物の被害が徐々に大きくなっていってるのだ。


 もうこれは半壊ではなく全壊と呼んでもいいのかもしれない。

 完全に建物が崩れ落ちてガレキと化している。

 中にいた人たちは命があればまだいいほうだと思う。

 この町には大きな建物が少なかったのがまだ救いか。


 もう少しだけ耐えてくれ。

 申し訳ないと思いながらもさらに進む。


 ……またしても景色が変わった。


 もうがれきすらない。

 これは粉だろうか。

 それとも砂と言ったほうがいいのだろうか。

 俺たちが歩いてる道に比べると砂がこんもりと盛り上がっている。


 おそらく爆発によって建物が木っ端微塵になったんだろう。

 そのせいで見晴らしはかなり良い。


 だがもうこのあたりの道には人の姿も見られない。

 これほどの爆発ならおそらく人は……。

 しかも爆発の中心が城だとしたら……。


 エマをチラッと見てみる。


 ……俺と同じことを考えているようだ。


「エマ、集中しろ」


「…………はい」


 なんとか絞り出したって感じの声だ。

 泣きたいのを我慢してるのかもしれない。


「敵の気配はないか?」


「モ~(魔物はいなさそう)」


「ピィ(前方のほうから何人かの人間の声と足音が聞こえてきます)」


「ピィ? (冒険者のみなさんではないでしょうか?)」


 地面の下に住む巨大魔物みたいなものも想像してみてたが、そうではなさそうだ。

 いや、まだいないと決まったわけじゃない。

 敵はおそらく城があった場所にいる。

 もうウチの冒険者たちと戦闘になってるのかもしれない。


 少し歩く速度を上げてさらに進む。

 メインの大通りはもう縦断しただろうか?


 そして前方から人間の声が聞こえてきた。

 あれは……ウチの冒険者たちで間違いない。


 どうやら向こうも俺たちに気付いたようだ。

 何人かがこちらに向かって走ってくる。


「管理人さん!」


 Fランクパーティの人だ。

 名前は……忘れた。


「どういう状況ですか?」


「おそらくですが、城を中心にこのあたり一帯の建物が全て破壊されてます! 円状に被害が出ている模様です! ですがそれ以外は不明です!」


「敵は?」


「まだ発見できていません! だから迂闊に動くなと言われてます!」


 今走ってきたのは迂闊に動いたうちに入らないんだろうか……。


「爆発があったとお聞きしましたが、どのような爆発でした?」


「まだ確定ではありませんが、魔法による範囲攻撃かもしれないという意見もあるみたいです!」


 マジかよ……。

 エマを信じてないわけではないけど、今また攻撃されたら確実に死ぬ気がする……。


「指揮は誰が?」


「ヒューゴさんです!」


 ヒューゴさんが来てるのか。

 まぁ南側は壁が作れないんじゃ暇だろうしな。


「とりあえず俺は城へ行ってきます。みなさんは引き続きヒューゴさんから言われた任務をこなしてください。地面の下からの攻撃にも気を付けてください」


 敵は俺が来るのを城の地面の下で待っているのか?

 俺が城に着いた瞬間にいきなり登場したりするんじゃないだろうな……。

 落とし穴とかもやめてくれよ……。


 そして東の港と西の出口を結ぶ大通りを縦断した。

 ということは城はもうすぐそこだ。



 ……あれか。


 ほかに比べてあそこだけ砂の山が少し高く、範囲も広い。

 あれが城で間違いないだろう。


 そしてその周りにはウチの冒険者パーティが何組かいるようだ。

 その冒険者たちは周囲360度を見渡せる陣形を取っており、最大級の警戒をしているように見える。


 当然俺たちが近付いてきたことに対しても気付いており、臨戦態勢で待ち構えている。

 こっちには服を着た怪しげな魔物たちがいるだけに下手な動きを見せれば攻撃されるかもしれない。


 ……あ、あの人今一瞬だけ気が緩んだな。

 この怪しげな集団の中に俺がいることに気付いたか。

 みんなにも俺が来たことを伝えてるようだ。


 だがさっきの冒険者たちとは違い、みんながチラッと見てきただけで、周囲の警戒は怠らない。

 なにか声をかけてくるわけでもない。

 ちょっとした油断が命取りになるということをわかっているのだろう。


 どうやらここには3パーティがいるようだ。

 Eランクが一組、Fランクが二組。

 おそらくそのEランクの人たちがみんなにしっかり言ってあるんだろうな。


「モ~(ここも魔物の気配はなさそうなんだけどね)」


「……ピィ(ユウナちゃんたち、あの砂の下に埋まってるのでしょうか……)」


「ピィ(もう三十分は経ったんじゃないですか……)」


 ふぅ~。

 落ち着け。


 例えユウナが死んでたとしても、死体が見つからなかったとしても、絶対に冷静でいよう。

 もちろんシファーさんのことも心配だ。


 でも今はこれ以上の被害を出さないことが先決だ。


「ウェルダン、メル、マド、行けるか?」


「モ~(任せて。もし僕たちの誰かが叫んだら、すぐに逃げるかエマさんに守ってもらってね)」


「ピィ(穴掘りは私たちにお任せください)」


「ピィ(ご主人様は絶対に安全なところにいてください)」


「あぁ、頼むぞ。女王がいた部屋は……おそらくあのあたりだ。なにか怪しげな魔力を察知したらすぐに逃げろよ。もしユウナが封印魔法で守ってるのなら、砂を防ぐためにかなり強めの封印結界を張ってるはずだから多少強引に掘っていっても大丈夫だ。よし、行け」


 三匹は素早い動きで砂と化した城に飛び込んでいった。


 一直線には進まずに、左右に切り返しながら進んでいく。

 そして難なく俺が指示した場所に辿り着いた。

 三匹は敵襲を警戒してか、あたりをグルグルと走り回る。

 だが砂の下からは特になにも反応はない。


 大丈夫だと判断したのか、メルとマドは走るのをやめ、穴を掘り始めた。

 おそらくレア袋で砂を回収しつつ下に向かってるはずだ。

 ウェルダンは周囲の警戒を続けている。


 それを見て俺とエマはEランクパーティのリーダーの元へと移動する。


「任せて大丈夫なのか?」


 するとリーダーのほうから声をかけてきた。


「もしあいつらの大きな声が聞こえたらその盾を持つ手に全力で力を入れて構えてください。エマ、とりあえず盾に封印魔法をかけてくれ」


「はい」


「でもなんでロイス君はいつもこんな危険なところにわざわざ顔出すかな……。魔物たちだけに任せればいいのに」


 ダルマンさんは呆れているようだ。

 俺だって来たくて来たわけじゃない。


「城の中にはユウナとシファーさんがいた可能性が高いんですよ」


「「「えっ!?」」」


 ダルマンさんだけではなくガボンさんとメンデスさんも思わず声に出してしまったようだ。

 だが三人はすぐに警戒態勢に戻る。

 デルフィさんは明らかに動揺してしまったようだが……。

 ほかの冒険者たちには俺の声が聞こえなかったようだ。


「ヒューゴさんたちはどこにいるんですか?」


「……城の西側に向かった。俺たちが城の東側を警戒することになってる。この城より南側部分にあたる場所ではほかの冒険者たちが住民の救助にあたってる最中だ。もちろん敵がいないかを警戒しながら。東側や北側にも徐々に行ってるはずだ。壁のことは聞いてるよな? あれじゃ作業は無理だし、こんな事態が起きたから半数のパーティには救助を優先してもらうことにしたよ。残りのパーティは南側から来る魔物の警戒だな」


「いい判断だと思います。壁のことについては俺の考えが甘かったせいです。とにかく壁のことは置いといて、今はまず敵が誰かを見極めましょう」


「そうだな。西にも援軍を呼びに行ってるから」


「でも西の情報がまだこちらにはなにも入ってきてないんですよね。ゲンさんが来れそうならいいんですけど、それで西が突破される可能性があるのならダメですし」


「まぁそっちはヒューゴ君に任せよう。とりあえず、町の西から来てる魔物たちはこの爆発には関係なさそうだよな」


「どんな爆発だったんですか?」


「音が凄かったな。一瞬だけ光も見えたらしいし、衝撃波のようなものもあった。音に関してはたぶん建物が壊れる音だったんだと思う。ドンとかバンとかボーンとかいわゆる爆発音みたいなやつではなかった気がするんだけどな」


 う~ん。

 じゃあやはり魔法か?

 リヴァーナさんの雷魔法が当たると凄い音がするからな。

 でもこれだけの被害をもたらすほどの威力となると、リヴァーナさんの腕を遥かに超えてるけど……。


「ウチから来た冒険者が巻き込まれたとかは?」


「たぶんそれはないと思う。壁を予定してる場所はもっと向こうだし、誰かがいなくなってれば誰かがすぐに気付いてるはず。そういう事態にならないために全員にパーティを組んでもらったし、作業中に近くにいるパーティのことは把握しておくように最初に伝えたからな」


 さすがだな。

 ヒューゴさんやダルマンさんに任せて正解だ。


「なら大丈夫そうですね。被害にあわれた住民の方には申し訳ないですが、少しほっとしました」


 不謹慎だと言われようがそれが俺の正直な気持ちだ。


「俺はエマちゃんが来てくれたおかげでかなり安心してしまってるけどな」


「だからって油断しないでくださいよ? 予想もしてない場所から魔法や爆発物が飛んでくるかもしれないですし、攻撃が目に見えたとしてもこの威力ですからね。エマの封印魔法とダルマンさんの盾のコンビネーションでも防げないかもしれないんですから」


「わかってるって。俺の盾だけに比べたら遥かに強度が上がったって意味だからさ」


 それならいいけど。


「でさ、これほどの威力の魔法を使えそうな敵に俺たちは心当たりがあるんだけどさ。しかもそこまで違和感なく町の中に入って来れるような敵にさ」


 それってもしかしなくても火山で会ったルチアのこと言ってるよな……。


 まぁ疑われても仕方がないんだろうけど。


「……敵の狙いはなんだと思いますか?」


「城を狙ってくるくらいなんだから女王じゃないか? もしくはこの国そのものとか。……ロイス君を狙ったという可能性もあるけど」


 やはり俺狙いの可能性も考えてるのか……。


「そういやコタローはどこですか?」


「町役場のうるさい人たちの相手をしてもらってる。それまでの話も聞いてるよな? あの人たち、この爆発も全部俺たちの仕業だとか言ってきてるんだよ」


「最悪ですね……」


 犯人は町役場の人間だったりして。

 城に爆発物を事前に仕掛けておいて、なにかの拍子で爆発するような仕組みにしてたとか?

 カトレアならできそうだよな。


 と、そのときだった。


「ピィ! (ご主人様ー!)」


 メルの声が響いた。


「「「「!?」」」」


「エマ!」


「はい!」


「おい! ここに集まれ!」


 やはり敵がいたか。


 ダルマンさんの声ですぐ集まってくる冒険者たち。

 エマによる封印魔法の壁も大きくて分厚いものが作られたことだろう。


 ……ん?


 メルがこっちに向かって走ってくるのが見える。


 そして特になにも起きず、メルは俺の元へとやってきた。


「ピィ! (ユウナさんを発見しました!)」


「なにっ!? 本当か!?」


「「「「!?」」」」


 俺の声に驚く冒険者たち。


 そうか、ユウナは無事……ん?


 発見とはどういう意味だろうか……。


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