表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

669/742

第六百六十九話 助っ人従業員たち

「……はい、わかりました。ではお願いします」


 小屋の外で通話していたカトレアが戻ってきた。


「スピカさんか? なんて?」


「スノー大陸にあるスノーポートの町、その西側も徐々に魔物が増えてるそうです」


 やはりか。

 あそこはサハと似たような経度の位置にあるからな。

 西側から魔瘴が迫ってきてるんだろう。


「なので師匠が現地に飛んでくれるとのことです」


「スピカさんが? 珍しいな」


 実はスノーポートの町はもうほぼ魔道化準備が整っている。

 二万人が住むそこそこ大きな町とはいえ、サハに比べると面積はかなり小さいからな。

 雪国ということもあって建物もしっかりした造りだし、町の人たちも協力的で作業が非常にスムーズに進んだんだ。

 サハの作業が遅れたのはそのせいもあるんだぞ、うん。

 魔道線の予備がほとんどないのもその関係だ。


 まぁ俺はスノーポートには行ったことないけど。

 ボワールでも雪が降ってて寒かったのに、そこよりさらに寒くて雪まみれの国なんてとても行く気になれなかった。


 だからスノーポートとの交渉はエマとカスミ丸とアオイ丸、セバスさんやメアリーさんたちに全任せした。

 カトレアもマリンも行きたくなさそうだったからか、俺もなにも言われなかったし。


 現地での作業はゲンさんやリスたちのほか、作業員として雇った一般の人たちの力もあり、あっというまに魔道化準備が完成。

 ボワールとスノーポートの間の海には人工島や海中トンネルも設置。

 もう魔道ダンジョンも繋がってるし、なんなら今すぐに魔道列車も運行可能。


 町や海中トンネルに転移魔法陣を設置するために、カトレアには渋々行ってもらうことになったが、町の印象はそこそこ良かったとのこと。

 まだ町側の駅の準備ができていないこともあり、町からダンジョン内には誰も入れないようにしてるけど。


 だからあとこちら側の残ってる作業としては町全体への封印魔法だけだ。

 寒さのせいかエマの体調が優れなかったらしく、後日ということにしてもらったようだ。


「で、エマもすぐに向かわせろって?」


「いえ、それはこちらの作業が終わってからでいいそうです。あちらは町の外に魔物が増えてるというだけでまだ町にまで影響はなさそうということですから」


「ならスピカさんもまだ行かなくていいんじゃないか?」


「……でもこちらと同じようにいつ危険になるかもわからないし、町を拠点にしてる冒険者たちの指揮を執るためにも今日のうちに移動しておくとのことです。なので万が一の場合は今大樹のダンジョンにいる冒険者や、ボワールやマルセールのパラディン隊を招集するかもと言ってました」


「へぇ~。まぁこれだけの冒険者をこっちに呼んじゃってる以上はパラディン隊もあてにするしかないよなぁ~。マルセールや大樹のダンジョンが危険になっちゃうかもしれないけどなぁ~」


「……」


 少し嫌味っぽく言ってみたけど、ちゃんと不快に感じてくれてるだろうか?

 これ以上言うと怒るからもう言わないけど。


「まぁそれは置いといて、スピカさんが自ら動くなんてどういう風の吹き回しだ?」


「……師匠はナミの火山が噴火したときにもすぐさま冒険者やパラディン隊を派遣しようとしてたみたいですから」


「そうじゃなくて、スピカさん自身が現地に行くってことについてだよ。いくらカトレアやモニカちゃんがこっちの作業で忙しくて、マリンも体調不良とはいえさ」


「……師匠も力になろうとしてくれてるんです」


「でもそれならスピカさんがこっちに来て、カトレアかモニカちゃんに向こうに行ってこいとか言いそうなもんだけどな」


「……師匠は効率重視ですから、師匠が向かったほうが早いと考えてのことです」


 さっきからなぜ少し間があるんだ?

 まるで以前のカトレアみたいじゃないか。


「でもまさか一人では行かないよな?」


「……セバスさんとメアリーさんも同行するようです。護衛としての役割もあります」


「ふ~ん。じゃあ三人だけか?」


「……はい」


 む?

 今の質問に対しての間はさすがに怪しい……。


「なにか隠してるな?」


「え……いえ。少し考え事してるせいだと思います」


 怪しい……。


「じゃあ俺もスノーポートに行ってくるよ」


「えっ!?」


「なぜそんなに驚く? もうここは俺がいなくても大丈夫だろ?」


「ダメです! 魔物さんたちがいるんですからロイス君にはここにいてもらわないと! それにゲンさんにまた怒られますよ!」


「護衛にはペンネとウェルダンを連れてくから大丈夫だって。町からは絶対出ないし。ペンネも雪国行ってみたいよな?」


「ピュー! (うん! 冷たい海で泳ぎたい!)」


「ほら。じゃあスピカさんに連絡しておくか」


「師匠に任せておけば大丈夫ですから! エマちゃんにも明後日くらいには行ってもらいますし!」


 必死だな……。


「ならなに隠してるか言えよ」


「……怒ったらダメですよ?」


「俺が怒るようなことなのか?」


「……怒るのはロイス君だけとは限りませんが」


 む?

 それはつまりここにいるエマやモニカちゃんやメロさんも怒るかもしれないってことか?


「このまま隠し事をされてるほうがイライラするから早く言え」


「……はい」


 ようやく観念したか。


「実は……デイジーさんもいっしょに行くみたいです」


「デイジーさん? デイジーさんてあのデイジーさん? メロさんの実家の八百屋のすぐ傍に住んでて魚屋をやってるあのデイジーさん? ヨーセフさんの奥さんでヨハンさんのお母さんのあのデイジーさん? マルセールの元町長で俺とは浅からぬ因縁があり俺をマルセール出禁にしたあのデイジーさん? スピカさんとは幼馴染で親友のあのデイジーさん?」


「そこまでしつこく言わなくてもいいじゃないですか……」


「お前が隠すからだろ。で、なんでデイジーさんも行くんだよ?」


「……旅行です」


「「「「旅行?」」」」


「そうです。スノーポートの町が魔瘴に覆われる前に、あの町名物の天然物のカニを食べてみたいとかで……」


「「「「……」」」」


 なんだろう。

 なぜだか怒る気になれない。

 呆れてしまったからだろうか。


「つまり、ちょうどいい機会だからってことでいいか?」


「……はい」


「「「「……」」」」


 みんなも同じく呆れてしまってるようだ。

 まさか旅行なんて言葉が返ってくるとは思ってもなかったからな。

 しかもカニを食べることが目的だなんて。


「……カニって美味しいのか?」


「さぁ……。私が食べたことあるわけないじゃないですか」


「そうか。メロさんは?」


「俺もない。モニカちゃんは?」


「ないよ。エマちゃんは?」


「ないです。ペンネちゃんは?」


「ピュー? (カニってなに?)」


「カニを知らないってさ」


「「「「……」」」」


 誰も食べたことがないとは……。

 王都ではカニが獲れなかったのだろうか。


「噂では高級らしいです」


「へぇ~。でもカニってウチの魔物にも何体かいたよな?」


「いますね。Gランクのスノーガニと、Bランクのサモンガニだったと思います」


「カニなのにガニって言うのはなんなんだろうな。でもあんな硬いのどうやって食べるんだ? 煮れば柔らかくなるのか?」


「さぁ……。ララちゃんなら知ってるでしょうけど」


 カトレアは料理に関してだけは疎いからな。


 でも高級ということなら、ララはカニを知っててわざとウチでは出してない可能性はあるか。


「中に柔らかい身がたくさん詰まってるって聞いたぜ」


「中? スノーガニは中も外も全身ガッチガチじゃなかったかな~。戦い方としては、遠くにいる敵に対しては初級水魔法や氷魔法で攻撃、近くに来た敵にはあのたくさんある手か足で殴る物理攻撃っていうスタイルだったはず。でも小さいし、火や雷魔法にめちゃくちゃ弱いし、横にしか歩かないからなんにもこわくない。しかも見た目は真っ白で不気味だし」


「それはオーナーがそのスノーガニとかいう魔物のカニしか知らないからだろ? きっと普通のカニは見た目からして全然違うんだよ。というかスノーガニが小さいとか言ってるけど、普通のカニはたぶんそれよりもっと小さいぞ。オーナーの感覚が麻痺してるんだって」


「じゃあスノーガニも食べられるかもしれないのか。サモンガニなんて、凄く大きくて見た目からして強そうでめちゃくちゃこわいんだ」


「そりゃBランクの魔物なんだったらとんでもないんだろうな。その分美味さもとんでもないんじゃないか?」


 帰ったらドラシーに食べ方を聞いてみようか。


「お二人とも、今はカニの話より師匠の話です」


「でも気になるだろ? あのスピカさんがカニ目当てにわざわざ遠出するくらいなんだぞ?」


「デイジーさんはお魚屋さんなんですから、師匠もカニの美味しさを聞いてたのでしょう」


「……つまり本当にカニ目当てのただの旅行だよな」


「……すみません」


 こっちがこんな大変なときに旅行しようなんてけしからん。

 ……と、怒るべきなんだろうが、ついでだから仕方ないしな。


 セバスさんとメアリーさんという人選も絶妙だ。

 あの二人にもたまにはゆっくりしてもらいたいし。


「お土産頼んどけよ」


「それは言ってありますのでご安心を。状態保存機能付きレア袋で大量に持ち帰ってきてくれるはずです」


 まぁそれなら許してやるか。

 本当に美味しいのならボワールで養殖することも検討しないとな。


「それとジェマちゃんなんですが、セバスさんたちがお出かけするのでその分のお仕事で忙しいのと、ここやスノーポートからの救助要請に備えて今日はパラディン隊本部に泊まるそうです」


「ジェマも大変だな。じゃあ今日は家に誰もいないのか」


 夜に誰もいないなんて俺があそこに住みだしてから初めてじゃないか?

 ドラシーが寂しがってそうだ。


「でも明日月曜だぞ? 新規の受付は誰がやってくれるんだ?」


「シンディちゃんに小屋でやってもらうように頼んであるそうです。朝以外に来られた方用には、ご用のある方は小屋の中にあるボタンを押してください方式にしたそうですよ」


「小屋だけで全部完結するんならもう管理人室の意味も俺がいる意味もほとんどないな」


「管理人室に座って毎朝みなさんに挨拶をするのも大事なお仕事です。みなさんも小屋を出てロイス君に挨拶することで、戦場へ向かうスイッチが入るんですから」


 挨拶だけしとけばいいんならとても楽なんだけどな。

 現実はそんなに甘くない。


「それより、第三陣の方々がまもなく到着します」


「第三陣? まだ援軍を呼んであったのか?」


「はい。とても重要な方々です」


 まだ来てないEランクの人で有力そうな人なんかいたかな~。


「ロイス君は外で出迎えてきてください」


 言われるがままに外に出る。

 ペンネも付いてきてくれたようだ。


「ん? なんだこの建物?」


 いつの間にか小屋の隣に小屋よりだいぶ大きな建物ができてる。

 錬金作業用の部屋として作ったのだろうか。


「ピュー(ご主人様~、お腹空いた~)」


「あとでな。今はまずお出迎えだ。ちゃんと挨拶するんだぞ」


 それからすぐに列車が到着した。


 ……だがたったの一両編成のようだ。

 そこまでして呼ばないといけない人たちとはいったい誰だろう。


 そして列車から人が降りてきた。


「お待たせしました!」


「え? ヤック?」


 続けてミーノ、モモ、ハナ、リョウカが降りてきた。

 そういうことか。


 そのあとも十人ほど降りてくる。

 確かこの人たちは南マルセール駅の24ストアか、自然公園内にある店のどちらかで見たことある気がする。


 第三陣の援軍とは料理人のことだったようだ。

 おそらくそこにできた新しい建物の中に厨房があるのだろう。


「お疲れ。……ん?」


 だが最後に少し予想外の人が降りてきた。


「なに?」


「いえ。まさかこのメンバーといっしょに来るとは思ってなかったもので」


「私も従業員なんですけど?」


「そういう意味じゃなくて、料理人ではないじゃないですか」


「あ、キミさ~、私に料理ができないって思ってる?」


「できるんですか?」


「……少しは」


 自信ないんじゃないか……。


 するとカトレアとエマが小屋から出てきた。


「みなさん、お疲れ様です。早速ですがこちらへ」


 そしてミーノたちを引き連れて厨房に入っていく。


「リョウカは入らないのか?」


「私は宿屋担当として来てるから」


「あ、そっちか」


 冒険者たちの休息環境を整えてくれるってことだな。


「シファーさんは早く厨房入ったほうがいいですよ」


「わかってて言ってるよね?」


「冗談ですって。とりあえず小屋に入りましょうか」


 おそらく錬金のお手伝いで呼ばれたんだろうな。


 ん?

 あれ?

 小屋の隣にまたもやさっきまでなかった建物ができてる……。

 人が外にいるときは危ないから急に建物は作るなって言ってるのに……。


 小屋の中に入ると、そこにモニカちゃんとメロさんの姿はなかった。

 床に転がってたはずの魔道プレートや魔道線、それにミスリルやミニ大樹の枝という錬金前の素材もきれいになくなっている。


 ということは今新しくできた建物こそ錬金作業用のためのものか。


「この小屋どこでも大活躍だよね」


「居心地がいいですし、サイズ的にちょうどいいんですよ。適当に座ってください」


 シファーさんはテーブルの席に座る。

 リョウカは座る前にキッチンへ行き、三人分の飲み物を準備してから座った。


 そして俺は二人にまず現在の町の状況を説明する。


「それ絶対なにか企んでると思うよ」


 シファーさんは女王の俺への対応に疑問を持ったようだ。


「女王に会ったことあるんですか?」


「何回かだけどね。フィンクス村もサハ王国だから、一年に一度だけ女王が視察に訪れる日があるの。そのときに何度か話をしたってだけ」


「そういや女王宛てに手紙も書いてましたもんね」


「あれはフィンクス村の人たちを受け入れてもらうために仕方なくだけどね。できればあの人には関わりたくないし」


 女王に会った人はみんな揃っていい印象はないって言うんだよな。

 俺とララがおかしいのだろうか。

 ってララは女王のことなんか気にもしてなかっただけか。


「もしかして王女にも会った?」


「えぇ。女王とコタローと三人で話してるところにちょうどやってきたものですから」


「どっちの王女?」


「二人ともです。最初にやってきたのはお姉さんのほうだけでしたけど、そのあと女王に妹さんも連れてくるように言われてました」


「あ~。キミ、たぶん狙われてるね」


「狙われてる? 俺、殺されそうだったんですか?」


「そうじゃなくて……。男としてって意味」


「いやいや、それはないですって。大樹のダンジョン管理人への単なる挨拶だけっぽかったですよ。王女様が俺なんかに興味があるわけないじゃないですか」


「キミお気楽すぎなんだって……。その様子だと女王や王女たちのことなにも知らないでしょ?」


「知らないとマズいことですか?」


「マズくはないけど、今後も王女たちと接する機会があるなら知っておいたほうがいいんじゃない?」


 気を遣うのが疲れるからできれば会いたくないし、別にそこまで興味はないんだけどな……。

 まぁせっかくだから一応聞いておくけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ