第六百六十五話 砂漠で道路工事
コタローは馬車を守るようにして馬車の真ん前から魔法を放っている。
衛兵たちは休憩中で、今は冒険者三人とコタローだけで戦いをしてる最中だ。
あ、左の壁にいる人も冒険者らしいから四人とコタローか。
それより、コタローに言われた俺が知ってるはずだという冒険者のことが気になるので馬車の中から冒険者の顔を眺めてみる。
う~ん。
確かにどこかで見たことがあるような……。
だが近くにいる三人のうち、一人は確実に見覚えがない……と思う。
なんせ俺は自分の記憶に自信がないからな。
残りの二人はもしかするとウチに来たことがあったかもしれない。
そのうちの一人は衛兵と競うようにして戦ってた戦士の人だ。
ここまで戦える人なら少なくともFランク、いや、Eランクの実力はありそうだから覚えてないってことはないと思うんだけど。
でもパーティ内で一人が強いだけでは地下四階には行けないしな。
短期間来てただけとかならわかるわけないし。
もう一人は俺がここに来たときに死体を運んでた戦士だ。
今思えばこの人はずっと俺のことを見てきてた。
こんな見慣れない装備を着てる俺に最初から気付いてたのだろうか?
今は俺のことなど見もせずに、コタローに使い方を教わった魔法杖で楽しそうに魔法を放ってるが。
……もしかしてどちらかが例のサハの王子とか言わないよな?
王女たちの話では王子が旅に出てた期間は短かったように聞こえたし。
でもコタローはこの人たちのことは知ってるようだ。
それならこの人たちが王子じゃないことくらいはわかってるか。
隠し事をされてなければだが。
「ピィ! (イメージできました!)」
「ピィ! (ご主人様の説明がわかりやすかったです!!)」
「そうか。なら早速実行しよう。あくまで自然な感じで頼むぞ」
「「ピィ! (了解です!)」」
メルとマドは馬車を飛び出し、右側の壁の上を走っていく。
そしてある程度進んだところで壁から内側に飛び降り、マドが土魔法で壁を作り始めた。
ここから見ると横に広がるただの土壁にしか見えないが、実際はそこそこ広い範囲を上部までぐるりと囲うような壁になってるはず。
メルとマドはその囲いの中で作業を続けているようだ。
完成するまで内部は企業秘密だからな。
「コタロー、衛兵の人たちにも魔法杖の説明をしてくれ。初級の魔法杖ならまだたくさんあるからさ」
「了解でござる」
コタローが衛兵たちへ杖の説明を終えると、冒険者たち三人は左側の壁に向かったようだ。
パーティが合流する感じか。
コタローはリスたちの仕上げの手伝いをしてくると言って、右側の壁の上を走っていった。
この場を任された衛兵たちは馬車の前で三人ずつ左右に分かれ、魔法杖で遠距離攻撃を始めた。
遠目からの初級レベルの魔法杖による攻撃とはいえ、相手もFランクレベルなんだし、何発も当ててるとさすがに動きが弱ってくるからな。
一番強いリーダー格の衛兵の人も、馬車のすぐ左から気持ち良さそうに魔法を放っている。
「これいいな! どこで売ってるんだよ!?」
馬車の中にいる俺に話しかけてきているようだ。
「大樹のダンジョンです。たま~に売りに出るときがあるんですよ」
「大樹のダンジョンではこんなものも売ってるのか! というかさっき君が使ってた魔法ももしかして杖のおかげなのか?」
「バレましたか。そうです。それと実は剣からも魔法が放てます」
「あ、やっぱり剣からも魔法出てたよな!? 俺の目がおかしいのかと思ったぞ! というか君は大樹のダンジョンから依頼されてきた冒険者なのか!? その立派な馬車も大樹のダンジョンのやつとか!?」
まだ俺のことを冒険者だと思ってるのか。
「まぁそんな感じですね。大樹のダンジョンの方々が港で魔道ダンジョン関連の作業をしているところに急に騒ぎが聞こえてきたものですから」
「護衛の冒険者ってわけだな!? でも助かったよ! 魔物との戦いは俺たちより冒険者のほうが遥かに慣れてるからな!」
お?
やはりこの人は冒険者に敵対心があるとかいうわけではなさそうだな。
この町の衛兵にしては珍しいタイプなんじゃないか?
「ついでに聞くけど、あいつが例の魔物使いか!?」
「え?」
コタローのことか?
「あの魔物のリスたち二匹といっしょに現れたあいつが噂の魔物使いなんだろ!? 身のこなしもやたら軽いし! 君はあいつの護衛でここに来たんじゃないか!?」
『例』のとか『噂』のとか、一体この町では俺のことはどう伝わってるのだろうか……。
でもコタローに俺の影武者として動いてもらうのはありかもしれない。
そのほうが俺の身の安全は高まるし。
ってコタローの身には危険が増すことになるよな。
カトレアには自分勝手だとか言われて怒られそうだ。
「それは秘密です。案外俺が本物の魔物使いかもしれませんよ?」
「はははっ! そりゃないだろう! 君は真っ先に一人でこの場所に乗り込んできたんだぜ!? いくらなんでもそんな危険なことを周りがさせるわけがないし! それに仮にその子猫ちゃんがペットじゃなくて魔物だったとしたら護衛としてなんの役にも立ってないわけだしな! あいつが魔物使いじゃないのなら、本物の魔物使い様はもっと強い魔物を従えて西側に向かってくれたんじゃないか!? 今度こそ正解だろ!?」
「……正解です」
「おっ!? やっぱりか! 最初からそうじゃないかと思ってたんだよ! はっはっは!」
嘘つけ……。
そもそもなんでこの町に魔物使いもいっしょに来てると思ってるんだよ……。
そりゃ最近の俺はフットワーク軽めだけどさ。
でもボネが護衛の役目を果たしてないということについては間違いないな。
この人が言うように俺は単身ここに乗り込んできたようなものだ。
……今考えるとゾッとする。
もし俺が来たときにこの人たちが既に全滅してたら、もっと多い数の魔物相手に逃げるだけの展開になってただろう。
そうなるとボネも魔法を使わざるを得なかっただろうし、ボネの体調は今よりもさらに悪化してたかもしれない。
これもあとでカトレアに怒られそうだな……。
ララに知られたらまた外出禁止になるかもしれない……。
せめてダンジョン圏内だけは許してほしいものだが。
そういやカトレアはマリンのところに行ってくれただろうか。
ウェルダンにもすぐに港に戻るように伝えてもらってるはずだから、西側がよほど酷い状況になってない限りはもう移動できてるころだろう。
さすがに女王や王女にマリンの面倒を長く見させるわけにはいかない。
貸しなんか絶対に作りたくないしな。
というか今俺たちやゲンさんが町を守ってることのほうがよっぽど貸しだよな?
「おっ!? 右側になにか動きがあったぞ!」
もう完成したのか?
どれどれ。
……囲いの土壁だった場所が砂漠と化してるな。
マドとメルも右壁の上に移動し、マドは最後の準備を着々と進めているようだ。
コタローやメルは空や遠くのほうから来る敵に対して攻撃をしている。
そしてさっきまで作業してた砂場の上空に、マドたちがいる壁の上まで続く細い道のようなものができた。
壁の上には大きな石が準備され、その上にマドが乗っている。
バランス崩して石ごと落ちたりするなよ?
左の壁にいる冒険者たちとは違い、コタローたちは壁の上から堂々と攻撃してることもあって、敵は徐々に右に集まっていってるように見える。
魔法を使えるオアシスガンとオリクスはそれぞれ水魔法と火魔法で攻撃するものの、コタローたちには簡単に防がれているようだ。
ほかの敵は壁を破壊しようと、壁に体当たりをしている。
だがおそらくコタローやマドは壁の補強もしつつ魔物の相手をしていることだろう。
そして右側に魔物がさらに増えてきたときだった。
「「「「あっ!?」」」」
壁の上にある石が空中の道をゆっくりと転がり始めた。
そして徐々に速度を上げて転がり、道がなくなったところで大きな石はそのまま砂の上に落ちる。
「「「「うわっ!?」」」」
地面が揺れた。
今の光景を見てなければ偶然発生した地震だと思ったことだろう。
石が落ちた場所からは砂煙が上がっている。
「「「「ギャァーーーーッ!!」」」」
魔物たちの断末魔のようなものがあたりに響き渡った。
「石に潰されて死んだんだ!」
「穴ができてるぞ!」
「でもあの石を落としただけであんな大きな穴ができるのか!?」
「さっきリスたちがなにかやってたからだろ! だからだよな!?」
ん?
俺に訊ねてきてるようだ。
「そうです。穴を掘って、天井部分はあの石を落としただけで全部壊れるくらいの薄くて脆い地面にしてただけですよ。落とし穴みたいな感じですね。深い穴の下には土魔法で作った大きな針がたくさんありますから、落ちて串刺しになった魔物も多いはずです。ただし、落とし穴として使えるのは最初の一回だけで、次からはただの穴ですけどね。でもバカな魔物だと走ってきた勢いのまま落ちてくれるかもしれないですから、一応穴が見えにくいように向こうからは少し上ってくる形にしてます」
「へぇ~!? そんな罠を作れるあのリスたちは賢いんだな!」
「賢いですし、並の魔道士よりは動きもいいですから。このあと左側にも穴を作って魔物たちがここにやってくるルートを中央に限定します。向こうのほうに魔瘴スポットが発生してるのがお見えになりますか?」
「魔瘴スポット!? ……いや、見えない」
コタローと同じでこの人たちも見えてないのか。
まだそんなに濃くはなってないからなんだろうか。
それとも俺やリスたちに見えるのは、マナを持ってるせいだったりするのか?
でもそうだとすると普段から俺たちの目には魔瘴が濃く映ってるってことだもんなぁ。
「とにかく、あそこから魔物はやってきてます。一応この扇状に広がってる壁ももう少し横に拡張してもらいますね。この付近に住んでた住民の避難は進んでるようですし、俺たちがここで戦闘してる以上、敵もわざわざ遠回りしてまでほかの人間を襲いにはいかないでしょうから。でも空の魔物の侵入は防げないかもしれませんからご注意を」
ん?
リーダー格の人は戦闘をやめ、俺をジッと見てくる。
俺の態度や口調が偉そうすぎて怒らせたのかもしれない……。
「……こういう状況に慣れてるのか? 年の割に冷静だし、指示も的確だ」
「命令してるわけじゃないですから誤解しないでくださいね?」
「わかってるさ。ここにいるやつらは誰もそんなふうに思ってないって。君が大樹のダンジョンにただ通ってるのではなく、そこに雇われてる冒険者で管理人の魔物とも親しいのは間違いなさそうだしな」
よしよし。
さすらいの魔道士設定を信じてくれたようだ。
って雇われてる時点でさすらいではないか……。
それに魔道士のネタバレもしちゃったわけだから今はただの得体のしれない謎の冒険者だ。
「モ~!? (ご主人様~!? どこ~!?)」
「「「「ん?」」」」
どこかからウェルダンの声が響いた。
「モ~!? (あっ!? コタロー! ご主人様はどこ!?)」
こちらに帰ってこようとしてた壁の上のコタローを発見したようだ。
壁の裏側、つまり右から来てるのか。
俺たちを探すために町の西側から南に移動して建物沿いをずっと走ってきたんだろう。
「なんの声だ!?」
「敵か!?」
「裏に注意しろ!」
「待て! 右の壁の上だ!」
「おい! 気を付けろ!」
「……え?」
コタローに注意を促したものの、コタローがウェルダンを撫でる様子を見て、目を丸くする衛兵たち。
「モ~!? (あっ!? いた! ご主人様~!)」
そしてウェルダンは馬車の中にいる俺を見つけ、壁から飛び降りる。
さすがに衛兵たちも仲間の魔物だと察してくれてるようだ。
まぁこんなおしゃれな防具を着た魔物なんて野良にはいないだろうしな。
「モ~! (怪我ない!?)」
「大丈夫だ。それよりここまで走ってきて暑かっただろ? 中に入って休憩しろ」
「モ~? (このくらいの暑さならどうってことないよ。……ボネ体調悪いの?)」
「暑さにやられたみたいだ。表は大丈夫だから中に入れ」
「モ~(うん。あ、涼しい)」
ウェルダンは馬車を揺らさないようにゆっくりと乗ってきた。
コタローは衛兵たちにウェルダンのことや穴の説明をしてるようだ。
俺とウェルダンの会話を聞かれるとマズいからな。
……よく見るとウェルダンの防具がボロボロじゃないか。
とりあえず防具を脱がせ、濡れたタオルで体を拭いてやることにした。
「モ~(あ~気持ちいい)」
「西側はどうなってる?」
「モ~(最悪だね。敵は強いし、魔瘴はもうすぐそこまで迫ってきてるし)」
「どんな敵がいた?」
「モ~(あれだよ。新種って言ってたあの黒い煙みたいな鳥)」
「コクエンドリか……。たくさんいたのか?」
「モ~(その鳥はまだ数匹だけかな。でもゲンさんは魔瘴が濃くなれば行動範囲も広がってもっと増えるかもしれないみたいなこと言ってたよ)」
「火山から噴出したマグマと魔瘴パターンが一致したのかもな。火山から飛んできた可能性もあるけど。国境からナミまでの道にはもっと発生してるんだろう」
これは魔道プレート設置が非常に困難になったな……。
「モ~(しかも火山で戦ったときよりも厄介なんだってさ)」
「そりゃあのときは低い天井があったし、複数匹と同時に戦うことはほとんどなかったからな。ほかにはどんな敵がいた?」
「モ~(レッドウルフが多かったよ。それとそのワンランク上のマグマウルフだっけ? マグマプチスライムみたいに体が燃えてるやつ)」
「マグマウルフだな。だから防具がこんなにボロボロになったのか」
「モ~(火がこわいからできるだけ遠くから風魔法で攻撃しようとしたんだけど、やっぱり接近戦じゃないと力を発揮できないしね。僕も戦闘中は鎧にしようかな)」
「そうしろ。多少動きづらくなってもウェルダンは鎧を装備したほうが絶対強い」
「モ~(鎧だと戦士っぽくなるから嫌なんだけどね。華麗な魔道士になりたいのに)」
俺と同じ考えじゃないか……。
ウェルダンは風魔法を使えるもののタイプ的には誰がどう見ても前衛だが。
「それより向こうはゲンさんだけで大丈夫なのか? というか衛兵から伝言聞いてないか? ウェルダンはすぐに港へ戻って、カトレアといっしょに城にマリンを迎えに行ってくれるように伝えたつもりだったんだけど」
「モ~(それはちゃんと聞いたよ。でもゲンさんが怒ってさ)」
「怒る? なんで? マリンを一人にしてるからか?」
「モ~(それもあるけど、ご主人様が南に行ったからだよ)」
「え……」
「モ~(自分の判断だけで勝手に危険なところへ行くなってさ。それにボネの心配もしてたし。だから僕はご主人様を早く港に連れて帰るように言われたってわけ。あれたぶん激おこだよ? 実際ボネも体調崩してるし)」
「……」
まぁ俺がゲンさんでもそう言うか。
今回はたまたま上手くいってるだけで、一歩間違えば全滅だもんな。
「わかった。港へ戻ろう。で、ゲンさんのほうは大丈夫なのか?」
「モ~(今は大丈夫だけど、さすがにゲンさんだけでずっと相手し続けるのは無理があるから早くもっとマシな援軍を連れてこいってさ。来るんだよね?)」
「早けりゃそろそろ港に到着しててもおかしくない。でもゲンさんといっしょに衛兵たちがたくさん援軍に行ってただろ? その人たちはどうした?」
「モ~(僕が行ったときには戦ってるのはもうゲンさんしかいなかったよ)」
「……全員死んだのか?」
「モ~(まだ生きてて怪我してる人は町の中に避難してたよ。外の現場では数百人は死んでたかな? 衛兵だけじゃなく冒険者っぽい人もたくさん。十人くらいは隠れてゲンさんの戦いを見てたけど。まぁそんな悲惨な現場を見たら援軍で駆け付けた衛兵たちも戦うのがこわくなって当然かもね。でも相手が相手だから仕方ないんじゃない?)」
「……そうだな」
数百人の被害とは……。
やはり俺たちが来るのが遅すぎたせいだとか言われそうだ。
あ、もしかして王子も死んじゃってるんじゃ……。
「ん? ちょっと待て。パラディンの四人は? まさか死んだのか?」
「モ~(生きてるよ。回復魔道士の人は怪我人の手当てしてて、あとの三人は町を守るための壁を土魔法で作ってまわってた。一人が土撒いて、一人が土魔法で固めて、一人が魔物を警戒してるって感じ?)」
ほう?
冷静じゃないか。
マグマウルフはまだなんとかなるかもしれないが、コクエンドリはさすがに無理だろうからな。
そこそこの厚みと高さがある壁だったら多少の時間稼ぎはできるし、上手くいけばこのあとの魔道化でも利用できるし。
「コタロー」
「はいでござる」
「西側がゲンさん頼みになっててヤバいらしい。コクエンドリが出現してる」
「コクエンドリ!? あのヒクイドリが進化したというやつでござるか!?」
「うん。魔瘴も近くまで迫ってきてるらしいし、今ゲンさんがやられるとコクエンドリの炎で町が全焼するかもしれない」
「「「「全焼!?」」」」
「……援軍が来たらコタローとリスたちはすぐに町中に戻ってミニ大樹の柵を埋めにかかってくれ。縮小する範囲はコタローの好きにしていい。こんな状況だから女王様も町役場の人たちも文句を言えないだろうし」
「縮小ってなんだよ!?」
「女王様も町役場も無視してなにする気なんだ!?」
「ミニ大樹の柵とはいったい!?」
うるさいな……。
こっち見てないでちゃんと攻撃しろよな。
「おい、信じていいんだな?」
結局話が通じるのはこの人だけか。
「どうでしょうか。でもこのままなにもしなければすぐに町は滅びます。帝都マーロイはこれと似たような状況になってから僅か一日で壊滅しましたから。俺はその二日間の様子を現場にてこの目でハッキリと見てます」
「「「「……」」」」
やはりこの話はどこでも効くな。
さすらいの冒険者感が出てるし。
「今この町の西側では衛兵と冒険者合わせて数百人以上の死亡が確認されているそうです」
「「「「えっ!?」」」」
「でも助けに行こうなんて思わないでくださいね? みなさんはお強いのでしょうが、それでも死ぬ確率のほうが高いと思います。怪我人を運ぶくらいなら問題ないでしょうが」
「「「「……」」」」
「ですから西側は大樹のダンジョンの魔物やサウスモナのパラディン隊に任せ、みなさんはコタローの指示に従って町の南側に住む人たちの避難を促してください。それはみなさんにしかできないことでしょうから。あ、南側にも西側はありますもんね。先に西側から避難させたほうがいいかもしれません」
「「「「……」」」」
仲間がたくさん死んだことや自分たちが役に立たないと言われて相当葛藤してるな。
さて、ウェルダンに馬具を装着させるとするか。
「おい? 君はなにする気だ?」
「すぐに港へ戻れと指令が出たものでして。先ほども言いましたが、俺の本来の仕事は大樹のダンジョンから来てる方々の護衛ですので。この混乱のさなか、その人たちになにかあれば報酬が貰えないどころか大樹のダンジョンへの出入りすら禁止されてしまいますからね。雇われ冒険者はツラいですよ、はははっ」
「「「「……」」」」
「よし、準備完了。では俺はこれで。みなさんのご武運をお祈りします」
馬車はゆっくりと進み始める。
「あっ、おい!? 君、名前は!?」
「さすらいの……」
「「「「……さすらいの!?」」」」
なにか適当に名前を言おうかと思ったが、いい名前が思いつかなかった。
それを察したのかウェルダンが馬車の速度を上げてくれた。
今頃コタローはみんなに色々聞かれてるだろうな。




