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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る
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第六百六十話 サハへの再訪

 サウスモナ側から見て三つ目の人工島まで魔道列車で移動した。

 地上に出ると、あたりには薄っすらと魔瘴が漂っていた。


 ここからは高速魔船での移動になる。

 海の上はまだ魔瘴に覆われてないような場所でも海中では以前より確実に魔物が増えているから細心の注意を払って移動しないと。

 だがそんな魔物をほとんど気にすることなく、高速で移動すること約十分。

 サハの港へ到着した。


 確か前に来たときは、船を降りるなり港にいた町の人たちが寄ってきたよな。

 今回はどうだ?

 ドアを開けて顔だけ出してみるか。


「やっと来たか!」


「待たせすぎだぞ!」


「早く女王様の元へ!」


「案内するから早く付いてこい!」


「早く降りろ!」


「早くしろ!」


 すぐさま衛兵隊が駆け寄ってきたようだ……。


 しかもやけに急かしてくる。

 焦ってるのはわかるけどさぁ~。

 というか毎日ずっとここで俺たちを待ってたのかな……。


 さて、降りたくないが降りるしかないもんな。

 というか暑い……。


「ではパラディン隊のみなさん、お願いします」


「「「「はい!」」」」


 パラディン四人が船から軽やかなジャンプで降りていった。

 衛兵たちは思わず後退る。


「降りるのに邪魔になりますからもう少し下がってもらえますか?」


「女性もいますから」


「心配しなくてもちゃんと付いていきますので」


「俺たちはパラディン隊だ!」


 うんうん。

 相手を刺激しないように低姿勢なのはいいな。

 約一名を除いて。


「よし! 降りてきていいぞ! ……じゃなくて降りてきて大丈夫です!」


「ヴィックさん……。言葉遣いまでは別に無理しなくていいですからね?」


「いや、無理なんかしてませんです!」


「……ならいいですけど」


 冒険者のときとは違い、今はパラディン隊を代表してここに来てるという自覚があるようだ。

 でも船に乗ってるときからワクワク感が抑えきれてなかったけどな……。


 サウスモナ出身のヴィックさんではあるがサハに来るのは初めてらしい。

 どうやら近場であってもわざわざ船を使ってまでサハに行こうとする人はあまりいないようだ。

 あくまでナミに行く途中にある港町って感じなんだろうな。


「前は俺たち二人が先導するから二人は後ろを頼む。港を抜けると地面が砂になるらしいから足元には注意するように」


「「はい!」」


 うんうん。

 パラディン隊が護衛に付いてくれると安心だな。

 ここも保守範囲になるかもしれないからこういった視察も一応業務内容に入るはず。


 しかもこの四人はサウスモナ配属で最も強さに定評があるというパーティらしい。

 まぁヴィックさんの実力が飛びぬけているかららしいが。


 あ、パーティじゃなくてグループか。

 でもサウスモナ配属では15日周期の勤務体系が全く同じ、いわゆる同グループ内の人間は四人だけだからパーティと言ってもいいよな。

 大樹のダンジョンに修行に来たときにもこの四人でパーティを組むんだろうし。

 マルセール配属だと同グループ内に八人いたりするんだけどな。


「ロイス君、早く降りてくださいよ」


「押すなって。外暑いんだぞ」


 そしてカトレアに押されるようにして船を降りた。


 ……やはり暑い。

 でもモーリタ村のほうがもっと暑かったんだよな。


 船の操縦をしていたコタローが最後に降りてきて、船をレア袋にしまった。


「じゃあ行くか」


 衛兵隊の後ろにパラディン二人が付き、その後ろを俺たちが歩く。


 ……ここは市場だったはずだが、今日は誰もいないようだ。

 当然魚が並んでたりもしない。

 魔瘴の影響で魔物が増えたせいで船が出せなくなったんだろうな。


 すると前を行く衛兵たちが足をとめ、俺たちのほうを振り向いた。


「お前たちが遅いからこうなってるんだぞ!」


「サハの住人を飢え死にさせる気か!?」


「女王様はお怒りだ!」


「作業員はさっさと作業に入れ!」


 あらら……。

 女王以上にこの人たちのほうが気が立ってるんじゃないか……。


「なんだよその言い方は!? こっちは善意で助けに来てるんだぞ!?」


「ヴィック」


「……すまん」


 もう一人のパラディンが冷静な人で良かった。

 以前はヒューゴさんがこういう役割をしてたんだろうな。


 ん?

 衛兵の一人が一歩前に出てきた。


「善意と言ったが、報酬はしっかり要求するんだろ? しかもかなりふっかけた額をな。そんなの善意じゃなくてただの商売だろ」


「「……」」


 よしよし、ヴィックさんは今度はこらえたな。


 ここは俺の出番……ん?


「自分に任せるでござる」


 サハに来たとき用の変装をしてるコタローは俺に小声でそう言うと、パラディンの二人よりも前に出た。


「タダでなければ善意とは呼んではいけないのでしょうか? それにこれが商売であることはそちらの女王様にもご理解していただいてるものと認識していましたが、こちらの認識違いだったのかもしれませんね」


「……」


「ですがご安心を。幸いにもまだ契約には至っていませんからね。衛兵隊のみなさんが反対してるとなれば女王様も思い直すかもしれません。このことはぜひ女王様のお耳にお入れしましょう」


「いや……」


「もちろん避難のために一時的に魔道列車は開通させましょう。善意ですからタダで結構です。ですがその善意にかかる費用は全額こちらが負担しているということをお忘れなく。ダンジョンを維持するだけでも費用は発生しますし、最大三万人もの人のために魔道列車を動かすとなると相当な費用がかかります。ですから開通させたら直ちにサウスモナへ移動してもらいたいものですね。この町のみなさんが費用分の魔力を負担してくれるというのであればゆっくりでも構いませんが」


「……」


 衛兵はそれ以上なにも言わずに、再び前を歩きだした。



 コタローとはここに来る前に話をした。


 どうやらコタローはサハとの交渉にはうんざりしていたようで、俺やマリンの案に反対などは全くしてこなかった。

 サハの役場の人たちは女王に言われてるせいか、相当強気な姿勢や言動でコタローに接してきてたようだ。

 封印魔法の範囲を少しでも広げようと、数本の木に布を引っかけただけのいかにも即席の家をわざわざ作ってきてたりもしてたそうだ。

 愚痴になると思ってモニカちゃんには話してなかったらしいが。


「少しキツイ言い方だったでござるか?」


「いや、あれくらいでいいと思う。なぁ、モニカちゃん」


「え……うん。役場の人たちもあんな感じなの?」


「今の衛兵ほどではないけど似たようなものでござるな。この町は衛兵隊と役場の人間の力が特に強いのでござる。女王の後ろ盾があるからなにしても許されると思ってる節さえ時折感じるでござるよ」


「……」


 そして屋根のある市場を抜け、強烈な日差しを浴びることになった。


 そこで衛兵たちは再び立ち止まる。

 またなにか言ってくるのか?


 ……あ、衛兵たちの前に町の人が何人か立ちふさがっているようだ。


「どけ!」


「うるせぇ! お前らみたいな弱小の衛兵が端を通れよ!」


「なんだと!? 誰に向かって口を聞いてるんだ!?」


「役立たずの衛兵に向かってに決まってるだろ! こんなところで油売ってるんなら海の魔物の一匹でも狩ってきてみろよ! こわくてなにもできないんだろ!」


「貴様!? 侮辱罪で牢屋行きだ! 取り押さえろ!」


「「はっ!」」


「離せ! 俺はなにも間違ったことは言ってない!」


 文句を言ってた人は衛兵二人によって地面に押さえつけられる。


 そして周りにいた人たちは助けようと、衛兵隊と殴り合いの戦闘になった。




 ……だが衛兵隊の圧勝だったようだ。


 衛兵はピンピンしてるのに対し、住民は全員地面に倒れ体を押さえて痛がっている。


 通行の邪魔にならないようにか、倒れている人たちは脇のほうに乱雑に寄せられた。

 牢屋まで運んでいったりはしなさそうだ。


「最近はこんな反抗的なやつらが多くてな。……行くぞ」


 反抗的……か。


 みんなの目には今の光景がどう映ったのだろうか?

 住民をボコボコにする残虐な衛兵たち?

 それとも衛兵が言うように反抗的な住民たち?


 どちらにしろ、俺が想像してた以上にこの町の状態は悪いのかもしれない。

 おそらく食料も限界のはずだ。

 元々は船でサウスモナから多くの物資を仕入れてたはずだからな。


 ……こうなってるのは魔道列車を早く開通させてなかったせいかも。


「ロイス君、私たちはここで」


「あ、そうだな。暑いから魔物たちの体調には気を付けてくれ。もちろん自分たちも」


「わかってます」


「ホロロ!」


「ワタちゃんは私たちといっしょです。みんなすぐ帰ってきますから。ではマリン、ロイス君のフォローは頼みましたよ」


「は~い」


 カトレア、モニカちゃん、エマ、それとペンネ、リス三匹、ウェルダン、ワタ、ハリルは港での作業に入ってもらう。

 転移魔法陣の設定や港の魔道化などやることはいっぱいだ。


 ペンネは暑さが苦手だからさっきの人工島のダンジョン内で待ってもらってる。

 ダンジョンが繋がればすぐに泳いでここまで来るだろう。


「ハリル、起きろ」


 ハリルはゲンさんに抱えられている。


「……ハリ?」


 船に乗るのを嫌がるのが目に見えていたので少しの間だけ眠ってもらった。

 カトレア特製の安心安全のお薬を飲み物にほんの少し混ぜただけだからなにも問題はない。


「ハリ(あ、なんだか暖かいね)」


「サハの町だ。オアシス大陸の東の果てな」


「ハリ(わっ、砂だ)」


 ハリルはワタといっしょに砂で遊び始めた。

 どうやってここまで連れてこられたかはどうでもいいらしい。


「じゃあ行ってくる。作業の前に、倒れている人たちの手当てをしてやってくれ」


「当たり前です」


 そして俺たちは砂地へと足を踏みだした。

 さっさとしろと言わんばかりの衛兵たちが前を足早に歩きだす。


 こっちは俺、マリン、コタロー、ボネとゲンさん、そしてパラディン四人。

 パラディン四人の内訳は戦士二人に魔道士二人。

 もし衛兵たちと戦闘になってもなんとかなるだろう。

 例え何百人が襲ってこようが、サハの衛兵程度に今のゲンさんが負けることはないだろうし。



 暑さを我慢しながらしばし無言で歩く。


 女王は町の中心部あたりの城にいるらしい。

 この町にそんな目立つような大きな建物なんかあったっけな。

 まぁ城だからって高くて大きくなくちゃいけないわけでもないか。


 それにしてもやはり砂の上は歩きにくい。

 暑いし。


 ……マリンはこの町を見てどう思ってるんだろうか。


「町の感じはどうだ?」


「イメージしてた通りって感じ? でも暑さは想像以上かも」


「帽子持ってきて正解だったろ? 疲れたら言えよ。ゲンさんに乗ってもいいんだからな?」


「もぉ~、そんなに心配しなくても大丈夫だって」


 心配はするぞ。

 マリンは普段運動とかしてないだろうし。

 砂に足取られて急にこけるかもしれないから、一応すぐに手を出せる準備はしてる。


「で、さっきの衛兵と町の人との騒動についてはどう思ったんだ?」


「う~ん」


「ん? あんなの見せられて気分が悪くなったか?」


「そうじゃないけどさぁ~。お兄ちゃんはどっちの味方?」


「どっちもどっちって感じかな。なんとも思わなかったっていうのが正直な感想だ」


「……私は衛兵の人たちに同情しちゃったって言ったら変?」


「別に変じゃない。ケンカをふっかけたのは明らかに住民のほうだし」


「だよね。それにね、衛兵の人、武器持ってるのに誰も使わずに素手で応戦してたの」


「まぁ住民のほうも素手だったし、実力差からすれば武器を使う必要もないんだろうけどな」


「それと倒れた人たちを端っこに寄せてたときも、ちゃんと砂の上の痛くないところに寄せてたし」


「お? よく見てるじゃないか。でも砂の上は熱いから市場の屋根の下のひんやりした地面のほうが優しいかもしれないけど」


「痛がってたんだからさらにあんな硬い地面の上に放り投げられたら可哀想でしょ。でも本当にただのケンカみたいだったよね。モニカちゃんは顔背けてたけど」


「モニカちゃんは普段冒険者と魔物の戦闘をあまり見ないからな。剣で斬ったり魔法で惨殺したりする光景に比べたら顔を殴りあうことくらい可愛いもんだ」


「だよね。でもここの人たちにとっては深刻な状況なんだよね、きっと」


「コタロー、ここでは普段からああいうことが起きてるのか?」


「態度の悪い住民を衛兵が注意してケンカになることはあるみたいでござるけど、さっきみたいに住民から絡んでいくことはあまりないと思うでござる」


「ならそれだけ住民も焦ってるってことだ。マリン、この状態でマリンの提案をしたら余計混乱するだけじゃないか? やはり思いきって俺の案でいったほうが町の人も諦めがつくかもしれない」


「う~ん。女王の様子見てから考えるね」


 今回は全部マリンに任せてみようか。


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