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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る

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第六百五十九話 口論

 ダンジョン反対派の漁師たちとも和解したということで、今日からは全漁師にこの海階層を開放することになった。


 そしてその知らせを聞いたであろう漁師たちが続々と天然海層へと転移してくる。

 反対派なんかほんの数十人だけで、それ以外の多くの漁師にとってはこの解禁日を待ち望んでくれていた人たちばかりだろうからな。


 合わせて漁師以外の市場関係者にも解禁することになった。

 地上の海は魔瘴の影響で船が出せなくなり魚が獲れなくなったこともあり、市場にある魚屋や飲食店のほとんどが数日前から休業に入っていたそうだ。


 それならその人たちからはもっと早く漁師にこの海階層を解禁して魚を獲らせろという声も多かったんじゃないかというと、そうではないらしい。

 この機会にまとまった休みを取るから、市場のことは気にせずに海階層の準備をしっかりやってくれというダンジョンに好意的な人たちばかりだったそうだ。


 もちろんマウリさんとコタローが丁寧に説明して回ってくれたおかげでもあるだろう。

 だがそれよりもヨーセフさんヨハンさんというマルセールの魚屋親子が市場の人たちと以前から懇意にしてたことが大きいそうだ。

 やはり人付き合いは大事だな。


「というか感謝するのが普通だからね? 無理して魔瘴の海に出て毎日命がけで魚を獲ってこなきゃならなかったかもしれないんだよ? お店も漁師も廃業寸前だったところを大樹のダンジョンに助けてもらってるんだからね? たまにはお兄ちゃんももっと偉そうにしてみたら? 助けてやったんだぞってさ。みんなこれくらいしてもらって当たり前と思ってそうだもん」


 マリンの言うことにも一理あるかもしれないが、偉そうにするのは違うと思う。

 そんなことしたら俺やダンジョンに嫌悪感を抱く人が増えるだけだからな。

 無駄な面倒事はできるだけ避けないと。


「ピュー(マリンちゃん、イライラしたらダメ)」


 そうだ、もっと言ってやれ。

 せっかくの天然海層で穏やかな海を眺めながらのランチ中だというのに。


「なぁに、ペンネちゃん? 早く家に帰りたい?」


「ピュー? (う~ん、モニカちゃんも帰るの?)」


 ペンネは俺に聞いてくる。


「あぁ、モニカちゃんも帰るぞ」


「ピュー(ならペンネも帰る)」


「……モニカちゃんはヴァルトさんに教えないといけないことがあるから帰るのは明日になるかもしれないけど、俺は今日帰る予定だぞ?」


「ピュー(じゃあペンネは明日モニカちゃんといっしょに帰るね)」


 まさかと思って聞いてみたけど、俺よりモニカちゃんをとるとは……。

 完全になついちゃったな。

 いや、最後まで仕事をやり遂げようという責任感が強いんだけだな、うん


「ピュー(人が増えてきたからそのへんお掃除してくるね)」


「掃除? ここでもしてるのか?」


「ピュー(ペンネがお掃除してるとみんな笑顔になってくれるの)」


 みんなを笑顔にするためか……。

 こんな可愛いお掃除ペンギンを見るとつい微笑ましくなるもんな。


 ペンネはレア袋から愛用のほうきを取り出すと、人が集まるほうへとゆっくりと歩いていった。

 そしてコタローがペンネをみんなに紹介したようで、少しばかり歓声が上がった。


 ちらっとボネを見てみると、ボネは無言で俺を睨んでくる……。

 ボネも掃除してこいなんて言ってるつもりはないのに。


「ペンネちゃんは人気者だね」


「珍しいタイプだよな。ほかの魔物たちはあそこまで人混みに行こうとはしないし」


「それが普通だと思うけどね。ペンネちゃんはもう少し気を付けたほうがいいかも」


「人間に対して警戒心がまるでないもんな。あとで一言注意しておくか。それとペンネは嫌がるかもしれないがやっぱりなにか服装備させよう。海の中で違和感なく泳げて、すぐ乾いて、内側はひんやりしてて、防御力は抜群のやつな」


「どうせなら武器も作ってもらえば? でもどうやって攻撃してるのかな?」


「主に頭突きだってさ。たまに手……じゃなくて羽? 翼? ヒレか? ……手でいいや。手で叩いたりもするらしいけど、ほとんどは勢いをつけてからの頭突きらしい。地下四階にいるような大人のやつは氷魔法と水魔法を駆使しつつ、高速で泳ぎながらのラリアットって感じで頭突きはめったにしないんだけどな。パンチみたいなのはするけど」


「ペンネちゃんはまだ手が短いからかもね。攻撃魔法も使えないし。じゃあ頭に爪みたいなやつ装備したらいいかも」


 頭に爪か。


 それなら手には防具一体型の刃を装備させたらどうだ?

 ……さすがに危なそうだからやめたほうがいいか。


「あ、お姉ちゃんたちも来たみたい」


「ホロロ!」


 俺たちを見つけたワタがこっちに向かって走ってきた。


「ワ~タちゃん。ご飯にする?」


「ホロ」


 ワタは嬉しそうに翼をパタパタと動かす。

 翼は動くけど、まだ飛ばないんだよなぁ~。

 早くピピに帰ってきてもらってワタに飛び方を教えてやってほしい。


 そしてカトレアとエマ、ウェルダンやリスたちもやってきた。


 船に乗ってた魔物でペンネだけが先に俺といっしょにここに来たのは魔物たちの配慮だろう。

 まぁそのペンネはほかの人間たちのところへと行ってしまったが。


「なんでロイス君たちまで地べたに座ってご飯食べてるんですか? シートも敷かずに」


「ボネとペンネが気持ち良さそうに寝転ぶもんだからついな」


「そうですか。私たちもご飯にします。テーブルで」


 カトレアはテーブルをセットし、エマと二人で食事を始めた。

 魔物たちはみんな地べたでの食事だ。

 ペンネとゲンさん以外はそれが普通だし、それが一番食べやすそうだからな。


「あ、モニカちゃんだ」


 やっと起きてきたか。


 ……ハリルもいっしょのようだ。

 右手にはお決まりのジョウロ。

 左手には本はなく、モニカちゃんのローブをがっしりと掴んでいる。

 よほど海がこわいようだ。


「ごめ~ん。少し寝すぎた」


「構いませんよ。ご飯食べましょう」


 モニカちゃんもテーブルに座り食事を始める。

 ハリルはゲンさんの傍へと行き、ゲンさん越しに覗き込むようにして海を見ている。


 そしてモニカちゃんはカトレアから午前中の報告を受けた。


「そっか。でもヴァルトさんが管理してくれるのなら安心」


 そういやモニカちゃんの意見を聞かずに勝手に決めてしまったな。

 怒ってはなさそうだからいいか。


「午後はどうするの?」


「三つ目の人工島からサハの町までの海中トンネルに転移魔法陣を設定します」


 既に海中トンネル自体は設置済みだ。

 だからこれまでも魔道ダンジョンを繋げようと思えばいつでも繋げられたんだが、ダンジョンが繋がっちゃったら魔道列車も早く運行させろって言われるしな。


「じゃあいよいよか。魔道列車が海を渡るんだね」


「凄いよね。まさか王都に繋がるよりも先に大陸を渡るなんて考えもしなかった」


 モニカちゃんとマリンは感慨深そうにしている。

 カトレアも含めてこの錬金術師三人はとんでもないことをしてるという実感はあるのだろうか。


「ですがその前に、一つ懸念事項があります」


「懸念事項? なに? サハの町の魔道化のこと?」


「……サハは魔道化しないかもしれません」


「え? ……どういうこと?」


「ナミまで魔道ダンジョンを繋げて、サハに使う予定だった素材をナミに使うのはどうかと。……ロイス君の案です」


 あ、また俺だけの責任みたいにして……。


「つまりサハの町はなくなるってこと? サハに住んでる人たちは移住しろってことだよね? 急にそんなこと言ったらサハで暴動起きない?」


 あ、やっぱり?

 そりゃ怒るよな……。


「コタロー君はなんて?」


「まだ話してません」


「リッカルド町長には?」


「まだです」


「え、マズいって……。とにかくコタロー君には早く話したほうがいいよ。コタロー君はダンジョン側の人間としてサハの役場の人たちとも打合せして、魔道化する範囲の選定とかもしてたんだよ?」


「それは知ってます。それだけに言いにくいんです」


「サハもナミも両方魔道化するのはダメなの? 素材分の魔力が足りない? それとも今後の保守魔力? モーリタ村と、モーリタ村からナミの町までの道は魔道化したんでしょ? あっちはそれで終わりじゃなかったの?」


 モニカちゃんは矛先をカトレアから俺に変え、俺を睨んで……って別に怒ってるわけではなさそうだ。

 俺をジッと見てくる。


「モニカちゃんはサハに行ったことないんだよな?」


「え……うん」


「ならこのあと一度行ってみるといい」


「……町に問題があるってこと?」


「町というか人というか、町全体の雰囲気というか。俺がそう感じただけで、モニカちゃんはそうは思わないかもしれないけど。サハに住む人に失礼なことを言ってるのは理解してるつもりだ」


「だからって町を捨てろって言うの? ナミまでダンジョンを繋げるつもりならその途中になるのに?」


「ナミの人たちを救うため、ナミの町まで魔道ダンジョンを繋げるためにはサハをスルーするしかないって考えもあるだろ?」


「両方救えるかもしれないのにその言い方はズルくない? そんなこと言われたらサハの人たちは町を捨てる選択しかできなくなるでしょ……」


「サハの人たちがそうは思わないような人たちだったらどうする? 孤立することを選んだナミの国のことなんてどうでもいいから自分たちの町を救えっていうような人たちだったら。例えば一番権力を持ってる人がそんな性格だとしたら誰もなにも言えないかもしれない」


「……サハの女王がそんな人だってこと?」


「かもしれないって話だ。俺は会ったこともないからどんな人かは聞いた話でしか知らない」


「……カトレアがそう言ってたの?」


「いや、ナミのお偉いさんから聞いた。その人からは女王を嫌ってるオーラがプンプンしてたけど」


「え……そんな人の言うこと信じちゃダメでしょ……。しかもナミの人って」


 それもそうだ。

 でもカトレアは自分が悪者にはなりたくないみたいだから仕方ない。


「ロイス君も色々考えての決断であり、苦渋の選択なんです」


 ほら……。

 あくまで俺が考えた案ということにしたいようだ……。


「でもサハの人たちを思ってのことでもあります」


「ん? 町を出ることがサハの人たちのためってこと?」


「はい。ロイス君の見立てでは、例えサハを魔道化し魔道列車が繋がったとしても、サハに住む人以外からはあの町はスルーされることになります。少なくとも現時点では町になんの魅力も感じないからだそうです。ということは駅で停車してる時間が無駄だと思われるような町になるかもしれないんですよ? この駅で乗り降りする客なんてサハの住人しかいないんだから停車時間なんて数十秒でいいよなんて意見も出てくるかもしれませんね」


 俺はそこまでは言ってないよな……。


「そうなんだ……。ナミやサウスモナと経済格差も広がってくるかもね……」


 まぁ言いたいことは伝わったようだ。


「ねぇ」


 ん?

 マリンがなにか言いたいようだ。


「私もお兄ちゃんの意見には賛成だったんだけどさ、やっぱりオアシス大陸の玄関口として町は残すべきじゃない? 魔道列車がなくなったときのことを考えると、町は必要なんじゃないかな」


 魔道列車がなくなったときか。


 俺のような魔物使いがいなくなるときのことで、それまでに魔物使いなしでのダンジョン運営ができてない場合だよな。

 それは数十年後かもしれないし、明日かもしれない。


「そのときに魔王や魔瘴がどうなってるかはわからないけど、サハの町は規模縮小してでも残したほうがいいと思う。町を復興するのはすごく大変ってドラシーも言ってたし」


 確かにそのようなことをドラシーから聞いた覚えがある。

 現にナミの町も数十年かかってのあれだ。

 なくなるのは一瞬なんだけどな。


「マリンはサハに行ったことがないからそう言うんです。あの町の住人は活気がありませんし、建物だって簡素なものばかりなんです。あの町の人たちにとってもサウスモナやナミに移住するほうが幸せだと思います。……今のナミに移住するのは少し厳しいかもしれませんが。それに港には封印結界を張りますので玄関口としての機能は残りますから」


「港だけじゃ町って呼べないじゃん。それに幸せかどうかを決めるのはお姉ちゃんじゃなくて町の人でしょ? ナミやサウスモナよりも今の町が一番好きって人もたくさんいるかもしれないじゃん。例え家がボロボロで金銭的にもあまり裕福じゃなかったとしてもさ。お姉ちゃんのはただの主観的な意見だよね」


「……」


 カトレアは黙ってしまった。


 マリンはきっとカトレアだけではなく俺に対しても言ってるのだろう。

 確かに俺やカトレアの意見はサハの住人の意見を無視した考えだった。


「マリン」


「なに?」


「まず確認だが、ナミまで魔道ダンジョンを繋げることには賛成なんだな?」


「うん。マグマを活用する案には大賛成だもん」


「そうか。で、サハは規模縮小してでも残すべきだと言ったが、規模縮小するってことは住む場所を失う人も出てくるんだぞ? その人たちのことは無視していいのか?」


「そのあたりはまずサハの女王やサウスモナのリッカルド町長が考えることじゃない? それに規模縮小って無駄なものをなくして効率化って意味で考えると悪いことばかりじゃないはずだし」


 まぁそう言われると……。


「……マリン」


「な~に?」


「俺たちは町の内情には口を出さない。マルセールやソボク村のように相談された場合は別だけど、おそらくサハはよそ者に意見を求めるようなことはしないし、自分たちの意見が通らなかったら文句を言ってくる。なんせナミの町がなくなることを喜んでたかもしれない人たちだからな。女王は町が規模縮小されると聞いただけでも激怒するかもしれない。もちろんこれは俺の女王に対する一方的なイメージだ。町に住む一般の人たちはいたって普通の人たちなんだろうけど」


「それなら町を残さないなんて話になったら女王は激怒どころじゃすまないよね? 暴動が起きるどころか戦争になるんじゃない?」


「戦争にはならない。なぜなら今はもう魔瘴のせいで海を軽々とは渡ってこれないからな。それに四方八方から魔瘴が迫ってきてるんだから戦争なんかに人員を割いてる余裕なんかないだろうし」


「……もしかしてそのためにわざと魔道化を遅らせてたの?」


「いや、どうしようか悩んでて先延ばしにしてたらこうなってしまってただけだ」


「「「「……」」」」


 決してわざと遅らせてたわけではないぞ?

 俺が面倒がってただけだからな?

 今日だってさすがにもうこれ以上はヤバいと思って重い腰を上げてここまで来てるんだからな?


「だからサハの町をなくすなんて大胆な考えができたんですね……」


「こちらが完全に上の立場で女王とやりあおうという考えですよね……」


「こんな状況だと女王もおとなしいんじゃない? でもさすがにそろそろ町の人たちも焦ってきてるよね。魔道化はまだかって女王へ苦情が殺到してたりして」


「絶対わざとだよね? ロイス君が想像してる女王のイメージって本当はカトレアの見解も入ってるでしょ? ここまで警戒してるんだから相当悪く言っちゃったんじゃないの?」


「私は別にそこまでは……」


 みんなは口々に勝手な想像を話してるが、俺がそんなことまで計算して考えてたわけないだろ……。


 でもなるほど、現状の立場的にはウチが優勢なのか。

 魔瘴に感謝とは言わないが、これならこわそうな女王相手でも少しは強気でいけそうだ。


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