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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る
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第六百五十四話 可愛くて強いペンギン

「ピュー! (ご主人様ー!)」


 モニカちゃんの作業部屋に入るなりペンネが抱きついてきた。

 足にしがみついてきたという表現のほうがしっくりくるか。


「元気そうだな」


「ピュー! (元気じゃないよ! 寂しかった!)」


「そうかそうか。でも毎日通話魔道具で話はしてただろ?」


「ピュー! (声だけじゃ寂しい!)」


「そうかそうか。ごめんな」


 なんて可愛いピンクのペンギンなんだ。

 でもこれがそのうちあの巨大でおそろしいペンギンになるんだからな……。


「ハリルとワタとはこの前少し会ってたよな? 話はしたか?」


「ピュー(う~ん。なんか隠れちゃって出てこないの)」


 隠れてる?


 ……ハリルはイスに座るカトレアの足元からこちらを見ている。

 恥ずかしいのかな?


 ワタは……見当たらない。


「ワタ~?」


「……ホロロ」


 あ、ハリルの後ろか。


 もしかしてこわがってるのか?

 ペンギンテイオーの威圧感みたいなものを感じ取ってるのかもしれない。

 こんなに可愛いのに。


「ハリル、こっちに来い」


「……ハリ? (水魔法とか使ってこない?)」


 ペンギンというより水をこわがってるのか。


「まだ使えないから安心しろ。順調に育てば水魔法と氷魔法を使えるはずだけど」


「……ハリ? (僕に水は禁止だからね?)」


「ピュー? (うん。ハリル君は火魔法使えるんでしょ? ペンネに火は禁止だからね?)」


「ハリ(うん。じゃあ仲良くしよう。よろしくね)」


 ハリルが出てきた。

 だがワタはまだカトレアの足に隠れている。


「ピュー(うん、よろしく。ワタちゃんもおいで)」


「……ホロロ」


「ピュー? (こわくないから。ボネちゃんだってペンネのこと、こわがってないでしょ?)」


「……」


 どうやら無理のようだ。

 完全に震えてしまってる。

 まさかペンネをここまでこわがるとはな。


「ピュー(お姉ちゃんになれるかと思ったのに……)」


「まぁまだ会ったばかりだから仕方ない。それにワタはまだ言葉をなんとなくしかわかってないから」


「ピュー(うん……)」


 ペンネは落ち込んでしまったようだ。


 ……というか俺たち以外誰も喋ってないな。


「どうした?」


「……モニカちゃんが寝てますので」


 ん?


 モニカちゃんは机に顔を伏せている。


「私たちの顔を見たら安心して寝ちゃったみたいです」


「あまり眠れてなかったのかな?」


「モニカちゃんは頑張り屋さんですから。誰かさんが休んでるせいで責任も全部背負ってましたからね。さすがに七つも年下の子供には文句も言えませんし」


「……」


 カトレアはマリンのことを言ってるようだ。


 もしかしてララのことも言ってる?

 ララが大樹のダンジョンにいればマリンもサウスモナにいれたはずだもんな。

 ってそれは今のマリンの長期休暇とはまた別の話か。


「マリン、どうするんですか?」


「……長期休暇は昨日で終わったもん。だから今日ここに来てるんだし」


 気分転換させるために連れてきたつもりだったが、モニカちゃんの様子を見てちゃんと気が変わってくれたようだ。


「もう少しすれば時間もたっぷり取れますから」


「うん。今が頑張りどころなのはわかってるけど、どうにもできなかったんだもん」


「気持ちはわかります。でも今すぐマリンを必要としてくれる方がたくさんいるんですから、その人たちの期待に応えてあげてください」


「わかったって。ゲンさん、モニカちゃんを部屋に運んで寝かせてきてあげて」


 なんだか最近マリンが少し子供っぽくなった感じがするな。

 ララがいないから思う存分カトレアに甘えられるせいかも。


「ハリ(僕もいっしょに行く)」


 ハリルはゲンさんに付いていった。

 モニカちゃんのことを心配してるのだろう。


「で、海階層はどうだ?」


「まだこんな早い時間なのに何人もの人がいますね」


「漁師だからな。今までは明るくなる前から活動してた人がほとんどだし」


「特に問題なさそうなので、早速現地に行ってみましょうか」


 部屋を出るとゲンさんが戻ってきた。


「ゴ(ハリルは心配だからウサギといっしょに看病するってさ。たぶん海に行きたくないんだな)」


 あいつ……。

 だからわざわざ付いていったのか……。


「まぁいいや。じゃあ行くか」


 まだ震えてるワタを抱えて歩き出す。

 そして支部を出て、目の前にとまってた小型の魔道列車に乗り込む。

 この港線はまだ関係者しか利用できない。


 ……ワタは俺の隣に座るペンネのほうを見ようともしないな。

 ペンネというよりペンギンがこわいのだろうか?

 それともピンクが苦手とか?


「ペンネの強さに気付いてるんじゃないでござるか?」


 いたのか……。

 後ろの座席から急に声かけてくるなんて反則だぞ……。

 コタローは本当に影が薄いよな。

 忍者や情報屋としてはプラスのことなんだろうけど。


「ペンネちゃん、もしかして魔法が使えるようになったんじゃないですか?」


 カトレアはペンネの体内の魔力を見ているようだ。


「ピュー? (魔法なのかな? パンチは強くなったかも)」


「パンチってなににパンチしてるんだよ?」


「ピュー? (海の中にいる魔物だよ? ペンネが攻撃する気なくてもみんな襲ってくるんだもん)」


「どこの海だ?」


「ピュー(今から行くところだと思うけど)」


「……コタロー、ペンネを海階層で戦わせてるのか?」


「とめても入るのでござるよ……。しばらくしたらお魚くわえて出てくるでござる」


「ピュー(だってお魚美味しいんだもん。好きなだけ食べていいってモニカちゃんも言ってるし、悪い魔物がいたらパンチで倒さないとダメっていつも言われてるもん。でもご主人様にはまだ内緒って言われてたの。こっそり強くなったほうがカッコいいからって)」


 モニカちゃんか……。

 まだこんなに小さくてお掃除が大好きな可愛いペンギンを戦わせるとは……。

 今までは魔物に会ったら逃げに徹するように言ってきたのに台無しじゃないか。


「……水魔法や氷魔法はまだ使えないんだな?」


「ピュー(やり方知らないもん)」


「そうか。で、パンチは強くなってると」


「ピュー? (うん。アジジだっけ? あれくらいなら一発で倒せるよ?)」


 なんだと……。

 幼いとはいえ、やはりペンギンテイオーだ……。


「アジジ程度なら一撃らしい。たぶん力系の身体強化魔法だ。ペンギンテイオーも個体によっては使えるようになるのかもしれない」


「なるほど……。でもペンネちゃんが特別かもしれないので、魔物データベースに書き加えることはやめておきます」


 まだ自分では魔法が制御できてないのかもしれない。

 だから体の外まで妙な流れの魔力が溢れてきてるのだろう。

 ワタはそれを見てこわがってるんだな。


「これから毎日ちゃんと魔力を制御する修行しような。じゃないとペンネの体が壊れちゃうから」


「ピュー? (うん。でも毎日夜にモニカちゃんが呼吸の仕方みたいなの教えてくれてるからそれのあとでいい?)」


「呼吸の仕方?」


 もしかしてそれこそ魔力制御では?

 モニカちゃんはそんなことまでやってくれてたのか……。


「モニカちゃんの基本給、少しアップな」


「それはララちゃんと相談してからです。でもモニカちゃんは魔道列車が運行し続ける限り、なにもしなくても勝手に基本給以上のお金が入ってくるんですからちょっとやそこらのアップじゃなんとも思いませんよ。私たち大樹のダンジョンで働く錬金術師は歩合制の契約ですから」


 そうだ、毎月の魔道列車の利益に応じて、使用料として数%をモニカちゃんとマリンに支払ってるんだった。

 ほかにも各町村から魔道ダンジョンや魔道化の維持費用として貰ってる分もあるし、それは今後ボワール分とかも増えるだろうし。


 そうなるともう基本給なんていらないんじゃないだろうか……。


「別に私はお給料なくてもいいけどね」


「ダメです。マリンが貰わないとモニカちゃんも貰いづらくなるでしょう? 家族だからというのは関係ありません。私もロイス君もララちゃんもきちんと貰ってるんですから」


「でもお兄ちゃんやララちゃんの給料はちょっと少なすぎない?」


「運営用の資金もお二人の物だからそれはいいんです」


「とは言ってもお兄ちゃんこの前モーリタ村で3万G分も買い物したんでしょ? しかもそれほとんど職人さんたちにお土産であげてたし」


「あの買い物はロイス君や大樹のダンジョンの器が試されてたんですから仕方ないんです」


「でもお兄ちゃんの一か月の給料超えてるからね? その前はこの町の酒場でカスミ丸さんたちの分も奢ってたし」


「そういうのも従業員のモチベーションアップのためには必要なんです。でもあれは確かマリンが奢れと言ったのでは?」


「え……。とにかく、給料貰ったところで結局ダンジョンのために使ってたら意味ないじゃんってこと」


「ロイス君なんて物欲がほとんどないんですからそれでもいいんです。たくさん貰って豪遊してる経営者なんかよりよっぽどいいじゃないですか。エマちゃんもそう思いますよね?」


「はい……。でも私の給料のほうがロイスさんより多そうなんですけど……」


「エマちゃんには大変なお仕事をしてもらってるんですから当然です。ララちゃんが帰ってきたらもう少しアップしてもらえるように交渉しますからね」


「え……ありがとうございます……」


 はぁ~。

 給料の話なんかするんじゃなかったな。


 でも仕事の成果に対しての対価なんだからみんなそれ相応の額を貰うのは当然だ。

 じゃなければいい仕事なんかできっこないからな。


「あの、ロイス殿」


「ん?」


「自分はまだ試用期間という扱いなのでござるか?」


「え? もう一か月経ったよな? じゃあ正規雇用でいいんじゃないか?」


「本当でござるか!?」


「いいよな?」


「ララちゃんが帰ってきてから相談します」


「え……」


 コタローは見るからに落胆した様子だ……。


「……と、言いたいところですけど、コタロー君もアオイ君もカスミちゃんも今月から正式にウチの従業員になってますからご安心を。もうとっくにララちゃんとも話してあります」


「……ありがとうでござる」


 拍子抜けしてしまったのか、あまり驚きも喜びもないようだ。


 これだけ色々仕事をしてもらってるんだから誰からも文句はないだろう。

 情報屋という名のなんでも屋だからな。

 しかもかなり有能だ。

 あと一人か二人いると俺がさらに楽できていいんだが。


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