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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十三章 桜舞い散る
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第六百五十二話 ソボク村拡張相談

 夕食後、カトレアとマリンをリビングに呼んだ。

 夕食を食べたのは俺だけで二人はまだ食べてないようだが。


「え? ソボク村とマッシュ村が合併ですか?」


「あぁ。ソボク村に全員で移住するんだって」


「なるほど。マッシュ村の方々には申し訳ないかもしれませんが、いい判断だと思います」


「でもこれで王都への魔道列車の件は完全になくなったってことだよね?」


「だな。山道なんかに魔道プレートを設置したところで保守が大変なだけだし」


「もう少し時間があればいい方法が浮かんだかもしれないんですけどね。現状では手一杯です」


 カトレアの顔には疲れが見える。


 オアシス大陸から帰ってきてのカトレアは一日の大半を錬金術師エリアで過ごしている。

 なにやら怪しげな研究や実験をしながら。

 まぁそれがいつものカトレアなんだけどさ。


「魔瘴を魔力に変換なんて本当にできるのかなぁ~」


「できるはずです。このダンジョンにおける吸収の原理はそれを応用してるはずですから。要は魔瘴の木と逆のことをすればいいだけです」


 魔力を吸収して魔瘴を発生させるのと逆の原理ってことか。

 あ、この前ナミの果物エリアでゲンさんが言ってたのはこのことだったのか。


「まぁそっちはお姉ちゃんに任せるけどさ。でもちゃんと睡眠取らないとお肌ボロボロだよ? それに煮詰まってるせいかずっとなにか食べちゃってるの自分で気付いてる?」


「え……もしかして、太りましたか?」


「うん。お兄ちゃんからもなにか言ってよ」


「……俺は気付かなかったな」


 気付いてたとしても言えるわけないだろ……。


 錬金が順調なときは食べることを忘れるほどなのにな。

 カトレアが夕食をまだ食べてないのは、時間感覚がおかしくなってるのか、間食をしまくってるせいかのどちらかはわからない。


 カトレアは自分のほっぺたやお腹の肉をつまんだりして確かめているようだ。


「……なんですか?」


「別に……」


 こわいこわい……。

 見てはいけなかったようだ。


「……で、ソボク村のことだけど、住人が三百人ほど増えるから早急に村の拡張が必要になるんだよ。それ以前に帝国やジャポングからの移住者で手狭になってたみたいだし」


「どうしてくれって?」


「家の建築はマルセールの役場に頼んで人員を大量に手配してもらうってさ。だからウチは魔道化の拡張だな。資金は全部マッシュ村が出すらしい」


「あの村、お金だけはあるっぽいもんね。建物とかもやけにきれいだったし。ってお兄ちゃん行ったことないんだっけ」


「あぁ。マッシュ村もだけど、このままだと王都にも一生行くことないかもな」


「王都には一度くらいは行っといたほうがいいよ? サウスモナよりも都会だし、数倍は広いから」


 なんだと……。

 さすがに数倍は言いすぎじゃないか?


「家はどこに作る予定なんですか?」


「今ある住居エリアよりもマルセール側だってさ」


「なら公園が村の最も東なのは今と変わらないんですね」


「そうなるな。公園の出口付近の魔物対策をなにか考えないとな。マッシュ村がなくなれば今後あの山道を通ってくる人なんかほぼいなくなるだろうし、かなり厳重にしても良さそうだ」


 どでかい門でも作るか?

 帝国の橋にあったあの門みたいに。


「王都に行けなくなるとソボク村に宿泊する人もいなくなっちゃうよね。村としては大丈夫なのかな」


「だから公園を拡張して、木の種類を増やすことにした。それと住居エリアの拡張は西側だけじゃなく、北側と南側にも少し拡張して、それぞれに店が立ち並ぶ通りを作る。駅を中心に三つの店通りに行ける感じだな。そうすると店は今の三倍くらいの数になるか。あ、マッシュ村は湖が有名なんだろ? でも湖を作る土地の余裕はさすがにないから、村の中に人工的に川や橋を作って水の町みたいにしたらどうかって案は出してきた。いっそのこと村全体を公園みたいにしちゃったらどうかとかいう案も出してはみたが。今のあの村は公園以外にあと一つなにか観光の目玉が欲しいところなんだよな~」


「「……」」


「魔道ダンジョン内に湖を再現してもいいんだけど、さすがにそれはやりすぎかな~と思って言わなかったけどな、ははっ」


 なにかいい案はないかと聞かれたから適当に思いついたことを言ってみただけだけど。


「お兄ちゃんさぁ~、そうやってすぐ親身になって考えてあげるせいでみんなどんどんなんでも好きなこと言ってくるってことわかってる?」


「そりゃあ少しは。でも今後は封印結界の外には行けなくなるんだし、村の収益のためにはあの村の中でできることを考えてあげないとダメだろ? 魔道列車を乗り換えてまであの村に行きたくなるようななにかをさ」


「もぉ~、その考えは間違ってないけどさ、村の人たちで考えてもらわないと意味ないじゃん。村のことは村の人に任せて、お兄ちゃんはもっと別に考えることあるでしょ」


 ちょっと案を出してみただけなんだからそんなに怒らなくてもいいのに。

 魔道化エリアの拡張は勝手に決めてきちゃったけどさ。


「でもこれでこの大陸は完全に分断されてしまいましたね」


 西と東にってことか。


 西は北からボワールの町、ボクチク村、マルセールの町とソボク村、ビール村、サウスモナの町。


 東は北からノースルアンの町、マブール村、ラスの町、王都パルド、リーヌの町。


 ソボク村と王都パルドの間にあるマッシュ村は消滅予定。

 王都とリーヌの間にあったアルト村、サウスモナとリーヌの間にあったエッズ村は既に消滅。


 今後の魔瘴の影響によってはさらに消滅する町や村が出てくるかもしれない。

 特に東側だ。

 東側は全ての町や村が完全に孤立してしまってる。

 封印結界に少しでも綻びが出ればたちまち魔物たちに蹂躙されてしまうだろう。


「一周ぐるっと魔道ダンジョンや魔道列車を繋げられたらいいんだけどな」


「ボワールからサウスモナまでの三倍の距離を想定してくださいね」


「……無理だな」


「はい」


 今はまだ現実的じゃないな……。

 サウスモナからリーヌの距離だけでもウチからサウスモナと同じくらいあるわけだし。

 それにボワールからノースルアンが一番距離あるんだよなぁ~。


「ねぇ~、それよりサハはどうする?」


 サハか……。

 オアシス大陸の玄関口となる町、国であって、サウスモナから魔道列車で二十分ほどで行ける予定のサハの町か。


 サウスモナとサハの間の海上には既に三つの人工島を設置済みで、その三つ目の人工島まで魔道ダンジョンはもう繋がってる。

 だからあとちょっと作業すればサハの町中にもすぐにでも魔道ダンジョンを延長できる状態だ。


「なにかあったの?」


「う~ん、なにもないんだよ」


「ならなんでストップかけてるの?」


「そういう意味じゃなくてな、あの町、本当になにもないんだ」


「どういう意味? 人口三万人もいるんでしょ?」


「面積は広いのかもしれない。でも建物はどれもボロボロでお茶する気にもなれなかったし、人々に活気はないし、衛兵はナミの衛兵にケンカ売ってきたし。それにカトレアから女王の良くない噂を聞いたことも関係してるかも」


 女王はナミ王国を吸収できなくなってどう思ってるのだろうか?

 余計なことしやがってとか思ってたりして……。

 でもあの噴火で一度はナミの町は消滅したと思ってただろうから、みんなが生きてて良かったと心から思ってるかもしれない。


「お姉ちゃんはどう考えてるの?」


「……ロイス君にお任せしてますので」


 あ、ズルい……。

 サハに関しては俺と似たような考えを持ってるはずなのに……。


「早く決めないと。サハは海から魔瘴が迫ってきてるんだよ? それに西からも魔瘴来てるんでしょ?」


「わかってるって……。でも今さらやっぱり魔道化はしませんって通じるのかな~って」


「え……。やっぱりそっちなの?」


「一回しか行ったことがない俺が言うのもなんだけど、町としての魅力が本当になにもないんだよ。観光気分で行くときっと損した気分になる。もうなくなってしまったナミの町と比べると天と地の差って感じがしたな」


「そんなに? じゃあ以前のソボク村と比べたらどう?」


「暑くない分、ソボク村のほうが断然マシだ」


「なるほど……。魔道列車を繋げたところで誰もサハには行かないだろうし、逆にサハからほかの町に移住する人が増えるかもしれないか」


「少なくともサハの人口が増えるということはないと思う。家をタダでくれるとか言うのなら別かもしれないけど。それに観光客が来ない以上、サハの町としても魔道列車の収入による税金はそこまで見込めないと思うんだよなぁ。だから結局町の人のお金がサウスモナやウチに流れるだけになりそうだし。そうなったらもう町として機能しないと思うんだよなぁ~」


「そういえば前にお兄ちゃんが考えてたサハの魔道ダンジョン内にピラミッドを設置するとかって話は?」


「あれはナミの人々がサハに移住したときの話だからなしだ」


「ならソボク村以上にサハのほうがヤバいね。ソボク村は最悪マルセールと合併してもいいわけだし」


 こんな状況で俺がソボク村に肩入れしてるのが知られたら色々と面倒そうだな……。

 だからマリンはうるさく言ってくるのか。


「で、結局お兄ちゃんとしてはどうしたいの? サハの人たちをサウスモナやマルセールに移住させる? それともまだ考えてない?」


「……考えてないことはないんだけど」


「本当? 忙しかったのわかってるから、嘘や適当なことは言わなくていいからね?」


 マリンの口調が優しい……。

 でも考えてたことがあるのは本当なんだ。


「ナミまで魔道列車を繋げたらどうかなって」


「ナミ? 本気?」


「うん。雨が降ってるからマグマも早く固まるだろうし。それにおそらくフィリシアはその冷え固まったマグマを利用して、地下遺跡やピラミッド用の石を錬金で作ったんだ」


「それがなんの関係があるの?」


「それなら錬金で作り変えなくてもある程度の強度は保障されてるようなものだろ? 安心してその冷え固まったマグマの上に魔道プレートを設置できる。砂漠の砂の上と違って設置しやすいだろうし。それにカトレアの解析により、大ピラミッドの内側部分の石はさらに特殊な石だったこともわかってる」


「内側部分の石? そんなのも回収してこれてたの?」


「この前ピピとマドがメタリンを捜索しに大ピラミッド周辺に行っただろ? そのときに外に落ちてた石を回収してきてたんだ。おそらく大ピラミッド頂点部分あたりの破壊された石だと思われる」


「ふ~ん。特殊って、さらに頑丈だったってこと?」


「いや、強度は似たようなもんだが、魔力の伝導率が高いんだ」


「あ、なるほど。封印魔法のためってことだよね?」


「あぁ。あのマグマには、溶岩の間に侵入してしまったか運悪くそこに湧いてしまった魔物がボスに倒されて魔石が大量に溶け込んでいたはずだからそれも納得できる。でも地下遺跡に使われてる石の魔力伝導率はそんなに高くないこともわかってる。おそらく錬金によってマグマ石から魔力成分を抽出し、魔力伝導率の高い石とそれ以外の石の二種類に分けて作ったんじゃないかというのがカトレアの推測だ」


「へぇ~。つまり今砂漠の上に広がってるマグマは魔力伝導率がそこそこ高い物の可能性が高いってことだよね?」


「そうだ。天井や壁にあった鉱石も、上から流れ落ちる排水がマグマに当たり、跳ねて飛び散ったマグマによってできた物だと推測される。その鉱石の解析結果は知ってるか?」


「知らない」


「……」


 全く興味ないって感じだな……。


 俺たちが帰ってきた次の日からマリンはずっとこの調子だ。

 おそらくカトレアよりマリンのほうが睡眠も取ってないだろう。


 それもこれも、フィリシアが俺に返してきたあの本と錬金釜がいけなかった。

 まさかマリンに適性があるとはな。


 フィリシアの本には、扱うには魔法の適性のようなものが必要かもしれないみたいなことが書いてあった。

 だからマリンがこれまでほかの魔法を使えなかったのはそれに適正があることも関係してたのかもしれない。


 だがそのせいで仕事もそっちのけにしちゃってるのが意外なんだよな。

 真面目で仕事熱心なマリンがまさかこれほどのめり込むとは。

 とは言ってもまだほぼなにも成果が出てないようなものらしく、イライラしてる様子も伝わってくる。

 よほど高度な錬金術なんだろう。


 マリンが仕事をしないせいでモニカちゃんは大忙し。

 サウスモナ魔道ダンジョンの海階層の件で、ずっとサウスモナで仕事をしてくれてる。

 パラディン隊支部にいることが多いから、パラディンのみんなからは支部の責任者とか思われてそうだな。


 ペンネやコタロー、シモンさんとヴァルトさんもいっしょとはいえ、みんなは外にいるほうが多いし。


「お~い? お兄ちゃ~ん?」


「ん? そろそろモニカちゃんを手伝う気になったか?」


「まだならない。今私、長期休暇中だもん。ってなんでモニカちゃんの話? あ、魔道ダンジョンの話だから? マグマ石やその鉱石を使えばミスリルを使わなくても魔道プレートが作れるって話? そのマグマ石の上に魔道プレートを設置して道を作るならナミまでの地上の道の封印魔法も簡単で強いのがかけられるかもってこと? ウチの魔力消費も少なくすむかもって?」


 さすがに理解が早い……。

 モニカちゃんの件とは関係ないつもりだったが、そこから繋げるとは……。


 というか長期休暇中だったのか。

 それなら仕方ない。

 ララも勝手に長期休暇取っちゃってるしな。


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