表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
65/742

第六十五話 鍛冶師アイリス

「アイリスさん!?」


「ん。ララ、久しぶり」


 馬車に気付いたララが家から出てきてアイリスさんがいることに驚いている。

 ララは一年に一回鍛冶屋に行くか行かないかくらいなので、アイリスさんに会ったことがあるのも数回程度だ。


「どうしたんですか!? 遊びに来たんですか!?」


「ん、そんな感じ」


 いやいや違いますよね!?

 でも遊びにきたとしても不思議ではないのか。

 ここに来る冒険者もアイリスさんと同年代がほとんどだしな。


「今説明するから。とりあえず家の中入るぞ」


「え? ダンジョンじゃなくてウチに遊びに来たの?」


「メタリン、馬車をとりあえず魔物部屋へ入れといてくれる?」


「キュキュ! (了解なのです!)」


「アイリスさん、まずララに説明……アイリスさん?」


 アイリスさんのほうを見ると、アイリスさんはなぜか岩に話しかけていた。

 岩……というかゲンさんだ。


「……ん、じゃあまた後で」


「ゴゴ(おう、ゆっくりしていけ)」


 え? 会話してたの?

 もしかしてアイリスさんて……


「アイリスさん、ゲンさんと話せるんですか?」


「ん? いや、なんとなく雰囲気。いい岩だなって」


 さすがに魔物使いではないか。

 メタリンにもゲンさんにも物質として興味があるのかもしれないな。

 それにしても岩が喋ったら普通驚くと思うけどな。

 まさか自分から話しかけにいくとはアイリスさんおそるべし。


 四人で家の中へ入ると、ソファには先客がいた。


「おい、起きろ」


「……んん? もう朝なのです?」


「あぁ、早くしないとご飯がなくなるぞ」


「えぇ!? それは待ってなのです! すぐ食べるのです!」


 ユウナは飛び起きてキッチンのテーブルへ走っていった。

 昨日の件もあるので放っておこう。


「もぉ~お兄! ユウナちゃんには今日の昼営業も手伝ってもらったんだからね! ただでさえ昨日のダメージが残ってるんだからもう少し優しくしてあげて! まだ夜営業もあるんだからさ」


「そんなに昼忙しかったのか?」


「うん、今日は百五十人来てるからね」


「やっぱりあと一人か二人食堂の従業員増やしたほうがいいよな?」


「そうだねー。でもあの三人はダンジョンへ行けるくらい元気が余ってるようだけど。ってもしかしてアイリスさんも!?」


「いや、アイリスさんは別件だ。アイリスさん、そちらに座ってください。飲み物はなにがいいですか? 大樹のサイダーがおすすめですけど、他もなんでもありますので遠慮なくどうぞ。お腹空いてないですか?」


「ん、ありがと。じゃあサイダーで。ダンジョン食堂のカレーも食べられるの?」


「サイダーですね、お目が高い。食堂のカレーをご存じなんですか?」


「ん、友達が噂で聞いたって」


「やった! アイリスさん、すぐ持ってくるからね!」


 ララは勝ち誇った表情を俺に向けると物資エリアに転移していった。

 いや、サイダーも選ばれてるから同点だからな?


 ユウナも加わり四人でソファに座り雑談すること数分、ララがカツカレーを持ってきた。

 トンカツを揚げてたから時間がかかったのか。


「はい、どうぞお召し上がりください!」


「ん、ありがと。いただきます」


 ララがカトレアとユウナの間にむりやり割り込んで座り、四人でアイリスさんの食べる姿をじっと見つめる。


「……どうですか?」


「ん。凄く美味しい。こんなカレー初めて食べた」


「本当!? 良かったぁぁぁ!」


 ララも凄い嬉しそうだ。

 自分の料理を褒めてもらうのはそりゃあもう嬉しくて当然だろう。

 ただ、このカレーは今はミーノとウサギが作ってるんじゃないのか?

 ってそれは言わなくてもいいことか。


「他にもメニューいっぱいありますからね。従業員の休憩中以外はいつでも好きなときに好きなだけ食べてください」


「ん。楽しみ」


「お兄? そろそろ説明してくれてもいいよ?」


「あぁ、そうだったな。実はな……」


 それから俺はララとユウナに今日の鍛冶屋での出来事を説明した。

 アイリスさんの食事のペースは非常にゆっくりだったが、それでも話が終わるころには食べ終わっていた。


「なるほどね。お兄いい仕事するじゃん! でもアイリスさんはそれでいいの? 修理ばっかになるかもしれないよ?」


「ん、修理はそんな時間かからないから大丈夫」


「でも百五十人も冒険者がいればそれなりに依頼も来ると思いますよ?」


「ん、たぶん大丈夫。私の修理は早いから」


 自信が凄いな。

 こんなに自信過剰な人だっけ?

 そんなに修理が早くできるんなら鍛冶屋でももっと早くしてあげることもできるんじゃないのか?


「家では本気出してないからね」


「「「「!?」」」」


 本気を出してないだと!?

 なぜだ!?

 サボり癖か!?

 もしかしてこれ以上仕事が増えるのが嫌でわざとゆっくりやってるということか!?


「……周りの職人さんに気を遣っていらしたんですね?」


「ん、そんな感じ」


 カトレアはアイリスさんの考えを察したらしい。

 さすがこの中で一番年上なだけあるな。

 ……カトレアに睨まれてる気がするから目は合わせないぞ。


 本気を見せなかったのはなにか考えがあってのことか。

 アイリスさんは自分が目立つようなことはしないだろうし、他の職人さんのやる気をなくすようなこともしたりしないだろう。

 周りに合わせることで協調性を大事にしたかったのか?

 もし自分が本気を出したらそれを見た周りの職人さんが才能の違いに気付いて鍛冶師をやめてしまうかもしれないと思ったのかもしれない。

 あらゆる可能性を考えた結果、自分の才能を閉じ込めることにしたのか。


 まぁ俺はアイリスさんの腕を知らないし、見てもきっと違いはわからないんだろうけどな。

 ここでのびのびやれるんならそれが一番いいことじゃないか。

 なら俺の仕事は最高の環境を用意してあげることだけだ。

 用意するのはもちろんドラシーとカトレアだけどな。


「アイリスさん、本気を出しても出さなくてもどっちでも構いません。俺が望むことは冒険者たちの武器の修理を完璧かつ迅速にこなしてくれることです。そのためならどんな環境でも用意します。希望があればなんでもお聞きしますので遠慮なく」


「ん、わかった」


 アイリスさんは表情を全く変えずに俺の話を聞きつつサイダーを飲みながら頷いた。


「(きれいな人ですけど反応薄くないです?)」


「(でもいい人よ。会ったときはいつも膝の上に乗せてくれてたもん)」


「(……腕は確かでしたよ。それに今は楽しそうにも見えます)」


 また三人がなにかこそこそと話してるな。

 俺の前ではいいけど客人の前ではやめろよな。


「では早速設計に取り掛かりましょうか。ララとユウナはゆっくりしてていいぞ」


「ええ~!? 私も考えたい!」


「そうなのです! 仲間外れ反対なのです!」


「……わかったよ。じゃあまずユウナはテーブルの片づけ、ララは水晶玉の準備ね」


 二人はすぐに立ち上がってそれぞれ動くと、またすぐに戻ってきてソファに座った。

 ユウナのやつ、皿たった一枚だけなのに自分で洗わずにウサギたちに任せてきたな。


「カトレア、さっきのあれ出してくれる?」


「……はい」


 カトレアはテーブルの上に図面のようなものが書いてある紙を出した。

 鍛冶屋でアイリスさんを待ってる間にカトレアは間取り図を作成していたのだ。


「アイリスさん、あなたの家の鍛冶屋の間取り図です。これを基本に考えようと思いますが、俺たちには道具の名前がわからないのでそれも教えてほしいです」


「ん、もう少し狭いほうがいいかな。一人だし」


「そういえばアシスタントはいらないですか? 補助程度なら教えればすぐできるようになりますけど?」


「ん~、いたら助かる。でも素人には無理だと思う」


「素人なんですが吸収力は高いです。一度教えてあげてもらえませんか?」


「そうなの? ならやってみる」


「お兄、もしかして……鍛冶屋はどこに作るの?」


 ララは気付いたようだな。

 火と水や音のことを気にせずに、しかもアシスタントまですぐに用意できるといったらもうあそこしかない。


「物資エリアに作ろうと思う。そこには客は来れないから鍛冶屋ってより鍛冶工房ってところかな。地上には受付カウンターだけを設置する予定だ」


「ん?」


「「「うんうん」」」


 アイリスさんは話の内容がわからないようだが、他の三人はみんな頷いている。


「カトレア、あった?」


「……えぇ、ありました。一覧を出しますね」


 カトレアは水晶玉で鍛冶に必要そうな道具を探していたのだ。

 鉱石の話を聞いてもしやと思ったが、やはり昔にダンジョンコアで一度取り込んだか作ったかをしていたらしい。


「これがすぐにでも作れる道具の一覧なんですがどうでしょうか?」


「……ん、全部ある」


「そうですか、良かった。ただ、道具の質は作るまで確認できないので問題ありそうなら後で言ってくださいね。じゃあ図面の物と名前を確認させてください」


 カトレアは一覧を見ながら、アイリスさんの言った通りに道具の名前を図面に書き込んでいく。

 これで設計図は完成のようだ。


「では物資エリアに行きましょうか。あっ、アイリスさんは先にカードを作成しましょう。カトレア、頼むよ」


 アイリスさんは不思議そうな表情をしながらもなんだか微笑んでいるようにも見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ