第六百四十七話 仲間探し
メネアやダルマンさんたちは宿の部屋に荷物を置き、ダンジョン内の施設見学に向かっていった。
するとリヴァーナさんとミオが宿から出てきた。
ティアリスさんとアリアさんはなにか重い空気を察したのか、先にパラディン隊本部に行くと言ってリスたちとともに出ていってしまった。
そういやリスたちも一応パラディンだったな。
カトレアも仕事があるからと言ってどこかに行っちゃったし。
そしてダンジョン酒場に移動して、俺とボネは二人の話を聞くことになった。
「ボネちゃん、ミオを助けてくれてありがとう」
「ボネちゃん、ありがとう。お礼言うの遅れてごめんね。さっき聞いたから」
話したのか。
ということはミオは自分が氷漬けにされてたことも聞いたんだな。
それとおそらくメタリンのことも。
「……」
ボネはテーブルの上に寝そべり、黙って聞いている。
「別に気にしなくていいわよ。……って言いたそうです」
「うん。本当にありがとう。ミオを助けてくれたことも、リヴァをとめてくれたことも。あのときボネちゃんがとめてくれなかったらきっとリヴァ死んでた」
だろうな。
話を聞いた限りではそのすぐあとにあの大噴火があったらしいし。
「二人とも、気にしないでください。ボネはそのために同行させてたんですから。それにボネの体調のことも気にしなくて大丈夫です。あと、ミオはメタリンのことも気にしなくていいぞ。最前線で戦うということはこういう危険もあるってことだ」
「……でもね、鳥を倒したあと、クナイを回収してきてってミオがメタリンちゃんに頼んだの。あのときすぐに二人でみんなの元に戻ってればこんなことにはなってなかったかも……」
「いや、同じ結末だったと思うぞ。それほど敵の女が強かったんだよ。あの一面のマグマやボスごと凍らせる氷魔法だけでもとんでもないのに、さらに魔物をけしかけてくるんだからな。きっとまだまだ余裕があったんだと思う」
「そっか……。ミオがメタリンちゃんやボネちゃんのためにできることってなんだろう?」
「強くなることだけだろ。次にその女と会ったときに、互角とは言えないまでも少しは抵抗できるくらいには」
「……うん。強くなる。ミオ、メタリンちゃんの分も強くなるから。ボネちゃんに助けてもらった恩も絶対忘れないから」
ミオはボネに向かって、泣きそうな声で言った。
なんかビスが亡くなったときのユウナと似てるな。
あまり思いつめなければいいが……。
ってミオは大丈夫そうか。
ユウナがネガティブすぎるだけだな、うん。
「ミャ」
「ん?」
ボネが喋った。
だが言葉にはなってない。
ただ弱々しく鳴いただけだ。
これ以上声を出すと頭に響くのだろう。
「……私への恩なんか気にしなくていいし、メタリンのことも気にしないでいいわよ。それより、鳥たちを倒したからって調子に乗ってたんじゃないでしょうね? あの女からしたらあなたなんかいつでも殺せたはずよ。メタリンが死んであなたが生きてたのは、あなたが殺す価値もないほど弱いからってだけ。情けをかけられたのよ。あなたなんか外を歩いてる小さな虫と同じ」
「……」
「でもレアな鳥たちがやられたのは悔しいから、少しは痛めつけてやろうと思って氷漬けにしたんじゃないかしら。一応人間だから直接は殺さなかったってのもあるでしょうけどね。つまりたまたま相手が人間だったから運が良かったってだけ。誰かの分も強くなるとか言う前に単純にあなたは弱いのよ。そんな弱いあなたはまずは自分のため、そしていっしょにいる仲間のために強くなりなさい。もしあなたが死んでたらリヴァーナはきっと立ち直れなかったわよ。だから弱いのは二人ともね。心の強さも身に付けなさい」
「「……」」
そこまで言い終えると、ボネはテーブルの上から俺の膝の上に移動してきた。
……って痛い痛い痛い痛い!
太腿に爪を立てるなって!
服が破けるだろ……。
本当は声や表情に出してこの痛さを表現したいが、それをすると今の話が全部俺の作り話だとバレてしまうおそれがある。
現場にいなかった俺が言ってもなんの説得力もないからな。
それに俺に弱いと言われたら腹が立つと思うし。
ボネの頭を撫でると、ようやく爪を離してくれた。
これ絶対血が出てるやつだ。
「ボネも少し言いすぎたみたいです。代わりに謝っといてくれって言ってます」
「「……」」
空気が重すぎる……。
まぁ俺のせいなんだけど……。
「……弱いリヴァたちが言うのもなんなんだけどさ」
「……なんでしょうか?」
下を向いたまま喋るのはやめてほしい……。
「実はパーティメンバーを追加しようと思っててね。……弱いからそういう考えに至ったんだろうけどさ」
「……」
凄く気にしてる……。
もしかして俺が言ったことがバレてるのかな……。
あ、急に顔を上げて、俺を睨んできてる……って睨んではないか。
「……なぜ仲間を増やそうと?」
「強い敵と戦うにあたって二人では限界があると思ったの。それに仲間が加わることが単純な人数のプラスだけじゃないこともみんなを見ててよくわかったし。そういう意味では、まだリヴァとミオはソロで戦う二人がただ集まっただけのパーティだったのかも」
「なるほど。でもお二人はまだ結成したばかりですしね。三人、四人となれば視野も自然と広くなりますからそこまで気にしなくてもいいですよ。だからといって多ければ多いほどいいってわけではありませんけどね。仲間が増えると輪が乱れる可能性も増えますから。今回のような短期決戦においての大規模パーティは非常に有効ですけど。仲間の悪い部分が見えないうちに解散できますから」
「ロイス君はやっぱりよく考えてるね。リヴァもミオが最初の仲間で良かったと思ってるもん」
「ミオも」
うんうん。
これぞ仲間愛だな。
「で、ご希望の方はいらっしゃるんですか?」
「……誰って言うと思う?」
「あ、いるんですね? アリアさんとティアリスさんですか?」
「……その二人には一応聞いてみたけど、パラディンをやめるつもりはないって」
「俺もさっき聞きました。ではほかに誰か? ユウナとシャルルとか?」
「まずはそれをロイス君に聞こうと思ってたの。ユウナとシャルルちゃんがリヴァたちと合うかなって」
「悪くはないですね。でもシャルルの役割的な立ち位置が少し微妙な気がします。ミオと少し被るというんですかね? お二人もそうだと思いますが、あの二人も前にもう一枚求めてるんです。ミオやシャルルよりも前で戦うタイプの人間をですね」
「そっかぁ~。でも前衛タイプと回復魔道士を入れるっていうリヴァたちの考えは間違ってはないよね?」
「はい。まぁユウナたちとは性格面で上手くいかないと思いますが。あの二人だけでもしょっちゅうケンカしてますからね……しかも些細なことで」
「ユウナは単純で純粋なようで凄く色々と考えてる子だから。シャルルちゃんはなんとなく想像がつくけど……王女様だし……」
みんなもシャルルのことがよくわかってきたようだな……。
「あれでもかなり丸くなったほうなんですけどね。頭に血が上ってさえいなければ周りのことをよく見れるいいやつなんです」
「王女様って二つのタイプに分かれるってイメージない? わがままかおしとやかか」
「あ~、それわかります。シャルルは……わがままタイプですね。腹違いのお姉さんはもっとわがままでした……」
「え……。この国大丈夫なのかな……」
「王子はしっかりしてますので。特に第一王子は。第二王子でマルセール町長になったジェラード王子も日に日に立派になってきてますし。第四王子もパラディン隊に志願してくるほど熱い心の持ち主でしたし」
「……ロイス君って冒険者だけじゃなくて王子様や王女様も成長させてるんだね」
「いや、みんな勝手にウチに来て絡んでくるだけで、俺は別になにもしてないです……」
ウチに来たってだけで騒ぎになるのに、これ以上面倒なことに俺を巻き込まないでもらいたい……。
「それはそうとほかに候補者はいないんですか? お二人の仲間ともなると、実力的に紹介しにくいものでして」
「それっていい意味でだよね?」
「もちろんです。強いからって意味です。……弱いんじゃなく、強いからこそお二人に合わせられる仲間候補がなかなかいないんですよ」
さっき弱いって言ったことを忘れてもらわねば……。
「でも実は一人候補はいたんです。リヴァーナさんたちか、ユウナたちか、ヒューゴさんたちのパーティに入ってもらおうと考えてた前衛タイプが。ですが事情があってしばらくウチに来れなくなったものですから」
「そんな人いたんだ? もしかしてパラディン隊試験受けに来た人?」
「そうです。マクシムさんていう凄く大きな男性なんですけど。ガボンさんより大きいかも」
「あっ! その人知ってる! 雪男さんでしょ!?」
「そうですそうです。映像見ました?」
「うん! 存在感が凄いよね! 攻撃力も半端ないし!」
「そうなんですよぉ~。しかもあの人……いえ、まだしばらく来れそうにないのが残念です」
「しかもなに? なに隠してるの?」
「そこは色々とですよ。映像で見たものだけが彼の実力の全てではないってことです」
「なにそれ!? まだまだ強さを隠してるってことだよね!?」
「まぁそれはお楽しみに。でも彼の性格的にはヒューゴさんたちのパーティに入るのが一番良さそうなんですよね~」
「え~~~~。ちょっと期待しちゃったんですけど~?」
「すみません。というか来ないかもしれないんですよね~。……ん?」
少し元気になってきたリヴァーナさんの隣でミオはなにか神妙に考え込んでいる。
「どうした?」
「う~ん」
「……仲間に入れたい人でもいるのか?」
「……うん」
だろうな。
俺が名前を挙げてくれるのを待っていたのかもしれない。
「……メネアか?」
「うん」
やっぱりな。
……もしかしてリヴァーナさんもそのつもりだったか?
「……でもね、メネアちゃんは、ロイス君がメネアちゃんに合うパーティを探してくれるって楽しみにしてるから」
「なんだよそれ。メネアに入ってもらう自信がないのか? それとも俺に選ばれる自信がか?」
「どっちも。あの戦闘ではミオもリヴァちゃんもメネアちゃんより先に倒れちゃってたし。そもそもミオたちはあそこのボスと戦ってないし。メネアちゃんはボスと戦って、攻撃を受けて気絶したにも関わらずすぐに目が覚めてたみたいだし。だからミオとリヴァちゃんは弱いって思われてるかもしれないし。それにメネアちゃんもそのままヒューゴさんたちのパーティに入れると思ってるかもしれないし」
そういうことか。
ダルマンさんたちは別として、ヒューゴさんたちは最後まで必死に戦ってたもんな。
普通に考えればあの場でも仮パーティを組んでたヒューゴさんパーティにそのまま入るのが自然の流れだろう。
でも俺はさっき、ヒューゴさんパーティにはマクシムさんに入ってもらう予定だというようなことを言った。
なのにまだ自信が持てないのか。
というかそのせいで少し希望が出てきたから余計に悩んでるのか?
「声はかけてみたのか?」
「……まだ。お喋りはしたけど」
「メネアはミオと色々話したって楽しそうに言ってたぞ。あ、でもカスミ丸といっしょに住んでることは言ったらダメだろ」
「う……。でもすぐに部屋を出ることになったらシファーさんも可哀想だし……」
それはまぁそうか。
「……ミオもカスミ丸といっしょの部屋を出たいと思ってるのか?」
「別に。リヴァちゃんはカスミちゃんとも仲良いし、理解あるし。それに普段ダンジョンから帰って夜ご飯食べながら反省会したあとはミオとリヴァちゃんはお互い完全に自由行動だし。リヴァちゃんはもう地下四階攻略済みということもあるせいか二人だとパーティ部屋もほぼほぼ使ってないし。でも仲間が増えるんなら出なきゃいけないかなって」
今サラっと俺が批判されたような気がしたのは気のせいだろうか……。
ウチのダンジョンじゃこれ以上強くなれないって言われたような気にしかならない……。
って俺が早く地下五階を作らないとって気にしすぎてるせいでなんでも悪いように聞こえるのかも……。
「ミオ、今の言い方はダメだよ? 地下四階の攻略を考えなくていいからパーティ部屋を使ってないんじゃなくて、二人だけだと普段からコミュケーションが取りやすいから使わなくてもいいって言わないと」
「あ、うん。そうだった」
二人で楽しくお喋りしながら戦闘できるほど楽で簡単なダンジョンと思われてるのかもしれない……。
地下四階に行くのは収入を得るために仕方なく行くのであって、本当なら一人で図書館で魔法の修行でもしてたほうがマシだと思ってるのかも。
……それともまさか今後は火山ダンジョンで修行するとか言い出さないよな?
ただ敵が強いだけのあの程度のダンジョンにウチが負けるのか?
ウチだって強い敵を出すだけならすぐにでもできることは知ってるだろ?
「……4月から地下五階をオープンさせますので」
「「えっ!?」」
言ってしまった……。
ウチに帰ってきて色々忙しかったせいでまだしばらく先でいいやと思ってたのに……。
まぁ忙しさを理由にして自分に言い訳するのは俺の悪いところなんだが。
暇なときもなにも考えてなかったし。
それにまだ二か月……はないか。
一か月半くらいはあるからなんとかなるだろう。
とか思ってると直前で焦ってアイデアが浮かばなくなるんだろうな……。
「メネアにはまず地下三階を一人で突破できるか挑戦してもらいます。それにメネアはもしパーティに勧誘されても自分だけで決めずに俺に相談するって言ってました。同い年の俺に親近感があるみたいでして。お二人はメネアの一つ上と一つ下。年齢も戦闘スタイルもバランス的にいいかもしれませんね」
「メネアちゃんのことよりも、地下五階を4月にオープンさせるって本当なの!?」
「え? ……まぁ理想はですけど」
「これ言っちゃダメなやつだよね!? ヒューゴ君たちは知ってるの!?」
「いえ……まだ誰にも話してません」
「ならミオ、絶対内緒だよ!?」
「うん。今度こそ誰にも言わない」
「そうと決まれば地下五階に向けてもっと強くならないと! 実装日当日にクリアするくらいじゃないと次もまた負けちゃうから!」
「うん。でも仲間はどうする?」
「そんなのロイス君に任せておけばいいの! ねっ? いいでしょ?」
「はい……」
任されてしまった……。
実質ほぼメネアを加入させろと言われてるようなもんだよな……。




