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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第六百四十二話 過去の想いとともに

 みんなの見解ではあいつがマグマスライムと呼ばれる魔物だそうだ。

 氷漬けにされてた魔物はあいつで間違いないとのこと。

 それに先にここにいた謎の女も、スライムと聞いて怪訝そうにしてたらしい。


 というかその女、魔族だよな。


 カトレアの推測が当たってしまったというわけだ。

 しかも悪いほうに。

 今後人間との戦いは避けられないってことか。

 魔族だけに有効な封印魔法とかってあるのかな?

 同じ人間なんだし、あるわけないか。


「苦戦してる。防御力がかなり高いみたい」


 ティアリスさんが外の戦いを見てきてくれた。


 ゲンさんでも苦戦するのか。

 周りからの援護もそれなりにあるはずなのに。


「やはり敵は魔法を使ってませんか?」


「うん。完全に物理攻撃だけ。やっぱり最後の噴火で全部魔力使いきっちゃったんだと思う」


 それなら俺たちが逃げきれないってことはなさそうだな。

 倒せるなら倒すに越したことはないが。


「シファーさん、準備はいいですか?」


「うん。……ねぇ、今朝の約束覚えてる?」


「約束はしてないですよね?」


「そうだっけ? どこがいいか考えとくね」


 どこで働くかってことか?

 まぁもう好きにしてくれていいぞ。

 とにかくこんな場所とは早くおさらばだ。

 あ、鉱石は少し持って帰りたいな。


「へぇ~。シファーさんともデートの約束してるんだぁ~」


「いやいや……」


 勘違いもいいところだろ。


「……とも? ……もしかしてティアリスさんも?」


「ちょっと? シファーさん?」


 なに言い出すんだよ……。


「私は昨日から約束してますけど?」


 ティアリスさんも今そんなこと言ってる場合じゃないだろ……。


「ふ~ん。キミさ、メネアにも気を持たせるようなこと言ってたよね?」


「言ってないですって……それより戦闘中なんですよ?」


「……ふふっ、冗談だって。ねぇ、ティアリスさん」


「はい。ロイス君が少し硬くなってたからだよ? ボネちゃんのことが心配なのはわかるけど、焦ってもいいことないからね? ロイス君もいつも言ってるでしょ?」


 なんだよ……。

 お芝居だったのか。


「おい、こっちの準備も完了だ。デートの話で盛り上がれるなんて若くていいな。でもまず生きて帰ってからにしろ」


 ガボンさんは勘違いしてるようだ……。


「怪我は大丈夫ですか?」


「あぁ。馬車を押すくらいならどうってことない」


 馬車の中にはボネ、リヴァーナさん、ミオ、メネア、バビバ婆さんが寝ている。


 さて、俺も戦う準備をするか。

 右手には雷魔法の剣。

 左手には風魔法の剣。

 斬りかかるわけではなく、魔法による遠距離攻撃をするためだ。

 杖を使ったほうが威力は上がるんだろうが、剣のほうがカッコいいしな。

 それに万が一敵が襲いかかってくることも考えたら、やはり剣のほうが持ってて安心だ。


「キミ、剣似合うね」


「どこがですか。俺ほど武器が似合わない人間はそうはいませんよ」


「……ほんとよくわかんないね、キミ」


「誉め言葉だと受け取っておきましょう。では行きますか。確認ですけど、ティアリスさんとデルフィさんはすぐにヒューゴさんとメンデスさん側に移動をお願いしますね。ガボンさんとソロモンさんは通路に馬車の移動をお願いします。そっちには衛兵と水道屋が大勢いますので」


 よし、行くぞ。


「シファーさん」


「うん」


 そしてシファーさんが土魔法で右側の壁を破壊し、右側からも出れる道を作った。


 俺とシファーさんはその右側から出てまず状況確認。

 ここまで攻撃が来ないと見て、ガボンさんとソロモンさんが押す馬車を誘導。

 その間にティアリスさんとデルフィさんは左側から出てヒューゴさんたちの元へ合流。


 馬車が溶岩の間の入り口まで移動したのを見届けたあと、俺とシファーさんはダルマンさんとグラシアさんの元へ合流。


「ロイス君も戦うのか!?」


「早くウチに帰らないといけない事情ができまして」


「なんだよその理由……。でも魔法があまり効いてないんだよ。それにあんなに大きいくせに意外に身軽で、ゲンさんの斧もかわすんだ」


「相手はマグマハリネズミです。効果が薄いとはいえ、水魔法や氷魔法が効いてないことはないと思います。今朝、ハリルも風呂というか水をこわがってましたし」


「風呂の水と同じにするなよ……」


「同じですって。効いてないように見えるのはただ威力が弱いだけです。例えばダルマンさんの足元にほんのちょこっとマグマが流れてきたとしましょう。その程度じゃどうやっても致命傷にはならないでしょうが、嫌なことは嫌でしょう?」


「まぁそれはそうだけど……」


 今のがいい表現かどうかは知らん。

 適当だからな。


「アリアさん! こっちに下がってください!」


「えっ!? ……わかりました」


 アリアさんは悔しそうにしつつもすぐに戻ってきた。

 そしてグラシアさんが治療に入る。


 ミスリルの鎧がここまで破壊されるとはな。

 こりゃ骨の一本や二本は折れてるんじゃないか?


「キミ、胸ばかり見すぎだって」


「え? ……いやいや! だから誤解ですって!」


 俺は破壊された鎧を見てただけであって、別に鎧の中なんて見てないぞ!

 なんでそうやってすぐ人を変態みたいに言うんだよ!


 ……などとはとても言えない。

 さっきの俺の視線だと、証明のしようがない負け戦だ……。


「だから冗談だって。面白いね、キミ」


 なんだよこの人……。

 面倒になりそうだからやっぱり従業員の話はなしだ。

 約束なんてしてないし。


「ダルマンさん、もしゲンさんが突破されて敵が俺のほうに来そうならすぐに間に入ってください」


「それはもちろん。でもなにする気だ?」


「魔法で攻撃するだけですよ」


 ゲンさんより大きいから狙いやすくていいな。


「ラシッドさん! そちらは左足の膝より下を中心に狙ってください!」


「わかった!」


 足と言っても前足と後ろ足があるけどな。

 まぁどっちを狙ってくれてもいいぞ。

 既にメンデスさんたちは右足を狙って攻撃してる。


 では俺は前足二本を狙おう。

 外しても後ろ足に当たったらラッキー程度にな。


 その前に、ゲンさんに伝えておかないと。


「ゲンさん! ボネが魔瘴で苦しんでるっぽい!」


「ゴ!? (なんだと!?)」


「だから早くそいつを倒してウチに帰るぞ! 俺が槍で攻撃するから、そのまま敵をその場で食いとめてくれ! できれば後ろにも横にも行かせるな! 一撃で決める!」


「……ゴ! (任せろ!)」


 敵は俺の言葉をわかってないよな?

 これだけ特殊な個体だと普通に話せるんじゃないかとも思ってしまう。

 でも敵は完全に我を忘れてるって感じにも見える。

 目も血走ってるようだし。

 魔族の女性に痛めつけられた腹いせをまるで俺たちにぶつけているかのようだ。

 というか俺たちも仲間だと思われてて当然か。



 そして俺もようやく攻撃を始める。


 ……おお!?

 軽快な足さばきで俺の攻撃をかわした!

 そんな大きな体でよくそこまで動けるな。


 体にはかなりの怪我も負ってるのに。

 ゲンさんにやられた傷だろうか?

 それとも魔族の女にか?


 まぁそんなことはどうでもいい。

 俺は前足二本を狙って左右の手に持つ剣から魔法を地道に放ち続けるだけだ。

 既に一撃ではなくなってることについてはみんな疑問に思ってるかもしれないけど。


 敵は人間なんかに負けないと思ってるのか、後ろに逃げる気配は全くない。

 攻撃をかわすためにバックステップこそするが、すぐにゲンさんに襲いかかってくる。

 まるでゲンさんを倒せば勝ちかのように、ゲンさんだけにターゲットを絞っているようだ。

 そのくせ前方や横から容赦なく飛んでくる魔法に対しての警戒も怠らず、常にステップを踏んでいる。

 だがさすがに全部避け切るのは不可能なようで、そこそこ魔法は当たっているようだ。


 というかマグマハリネズミなのに本当に火魔法を使ってこないな。

 背中の針がただの針になってるじゃないか。

 ってそれだけでも十分に脅威だけどな。

 ダルマンさんがいなければ俺たちが来る前に全滅してたかもしれない。


 ……ん?


「あれ? そういえば大盾は?」


「破壊された。だからミスリルの盾を両手に装備して耐えてたんだ。その盾もいくつか壊れた……高価な物なのに悪いな……」


 全滅一歩手前だったんじゃないか……。


「そんなことよりちゃんと前見て攻撃してくれよ……。ゲンさんに当たったらどうするんだ? ……ちゃんと敵に当たってるけどさ」


 さすがにもう敵の行動パターンも読めてきたし。

 まぁこれだけみんなから足を集中的に狙われてたら避けれるはずもないけどな。

 動きも確実にさっきより鈍くなってきてる。


 ……でもハリルのときみたいにはなりたくない。


「マグマハリネズミさん!」


 一応声をかけてみることにした。


「あなたにこれ以上戦う意思がないのであればこちらも攻撃をやめますよ!?」


「バリッ!」


 こわっ……。


 ゲンさんに体当たりする力がより一層強くなった気がする……。

 挑発されたとでも思ったのだろうか。

 とても話が通じる相手ではなさそうだ。


 だがこれで心おきなくこちらの最大の攻撃を放つことができる。


「管理人さん」


 ん?

 グラシアさんが俺の真後ろに来た。

 そして杖を渡してくる。


 この戦いもいよいよ終盤だな。

 って俺はまだ参戦したばかりだけど。


 ここでみんなの士気を上げておくか。


「みなさん! このあと俺が最大級の魔法を放ちます! そこが勝負の分かれ目と思ってください! ですのであと少し! 最後まで気合いを入れて足を狙ってくださいね!」


 ……誰も返事はしてくれない。

 ほとんどの人が魔法を放つことに集中してるからだろう。


 あ、でも右にいる前衛部隊はちゃんと俺を見て頷いてくれている。

 魔法の邪魔をしないように声を出さないだけか。


 それにしても、サウスモナでダイフクに怪我をさせられたあの衛兵さん。

 まさかあれからこんなところまでの付き合いになるとはな。

 今でこそあの人は衛兵だが、モーリタ村の戦士として胸を張っていいと思う。

 って戦士が嫌で衛兵になったのかもしれないのか。

 パラディン隊に入ってくれないかあとで声かけてみようかな。



 さぁ、そろそろ決着をつけようか。

 これでダメなら撤退することになる。

 これ以上ボネを放っておくわけにはいかないし。


 最後に後ろを確認しておくか。


 ……大丈夫そうだな。


「ダルマンさん、敵が左側に行った場合に備えておいてもらえますか。もし敵がそちらに行くようなことがあれば、右腕が折れようとも今の位置まで勢いよく押し返してください。それと大剣を出せる準備も」


「……わかった」


 ダルマンさんはゲンさんの左後方、少し離れた場所に待機する。


「ゲンさん! 合わせるから右後ろに飛べ!」


「ゴ! (おう!)」


 俺は杖の照準をマグマハリネズミに合わせ、そのときを待つ。


 そしてゲンさんが敵と思いきりぶつかり合う。

 僅かにゲンさんの力が勝り、敵をほんの少し押し返した。


「今だ!」


 俺が持つ杖の先から水魔法が放たれた。


 ゲンさんは既に右斜め後方にジャンプしている。


 そして杖から放たれた水魔法奥義『槍雨』。

 大粒で槍のように先が尖った無数の水が敵に向かっていく。


 敵は俺の魔法をその場で対処することにしたようだ。

 この魔法はさっきからデルフィさんが使ってるものと同じだから、これくらいならかわせるし、なんなら受けても大丈夫だろうと考えたのかもしれない。


 だがそのときだった。


「バリッ!?」


 マグマハリネズミの頭上から大量の水が落ちてきた。


 もちろんただの水ではなく、その全てが槍雨だ。

 その槍雨は俺の杖から放たれた槍雨よりも早くマグマハリネズミに到達していた。


 槍雨は次々とマグマハリネズミに上から襲いかかる。


「バリーーーー!」


 マグマハリネズミの背中にある針の先端が赤く光り出した。

 火魔法で水魔法を防ごうとしているようだ。


 だが槍雨の勢いに押されて足が徐々に地面にめり込んでいってる。

 次第に背中の赤い光も薄くなっていき、完全に消えた。


 そしてついには足場が崩壊した。


 これまでの激しい戦闘や、足ばかりを狙った魔法、それも水魔法中心だったせいで地面が緩くなっていたこともあるだろう。

 だがそれ以上に槍雨による上からの圧力が凄いのかもしれない。


 俺の位置からマグマハリネズミの姿が見えなくなってもいまだやむことはない槍雨。


 みんながそれを呆然とした表情で見ている。


 そしてようやく雨がやんだ。


 と思った次の瞬間だった。


 なんと、空中に大きな槍が一つ出現した。

 もちろん水だ。


「これが最後!」


 シファーさんはそう叫び、大きな槍を地面に勢いよく突き刺した。

 衝撃で地面の穴が広がり、ダルマンさんとゲンさんは慌てて後ろに逃げる。


 穴が広がったおかげでマグマハリネズミの姿が少し見えるようになった。

 周りには水が溜まっているようだ。

 だがその水は見る見るうちになくなっていく。

 水はけが良いのか、地面下からのマグマの熱で蒸発してるのかはわからない。


 一方、マグマハリネズミはピクリとも動かない。

 死んだのか?


 あたりが静寂に包まれる。


「ゴ! (なにしてる! とどめをさせ!)」


 ゲンさんの声に全員がビクッとする。


「ダルマンさん! とどめを!」


「任せろ!」


 ダルマンさんは盾を置いて大剣を装備し、マグマハリネズミに上から飛びかかった。


 そしてこの場にいる全員が目撃することになった。


 マグマハリネズミの頭に大剣が深々と突き刺さっている姿を。



 さすがにこれでは生きてはいまい。

 数百年にもおよぶ戦いが今ようやく終わったんだ。


 そう思ったらなんだか安心したのか気が抜けたのか、足の力が入らなくなって思わず座り込んでしまった。

 ほかのみんなも同様のようだ。

 ダルマンさんはまた噴火が発生することをおそれているのか、慌てて穴から這い上がってくる。


 ふぅ~。

 あとはウチに帰るだけだな。


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