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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十二章 過去からの贈り物

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第六百四十一話 状況把握

 おそらくあそこが溶岩の間だ。

 マグマが溢れてきたりはしてないんだな。

 微妙に下りになってる気がするから全部戻っていくのかもしれない。


「ゴ! (おい! 戦ってるぞ!)」


「えっ!?」


「ゴ! (先に行く!)」


「ちょっと待って!」


 俺の声も虚しく、ゲンさんは本当に先に行ってしまった……。


「……溶岩の間で戦闘中のようです」


「「「「えっ!?」」」」


「気を引き締めてください。一度あの手前でとまりましょう」


 みんなの緊張感が高まる。

 ここまでは運よく誰一人欠けることなく来れているが、ここから先はわからない。


 というか俺が先頭になってしまった……。

 今魔物が湧いてきたら確実に死ぬな。


 ……とか考えてる間に溶岩の間はもう目の前だ。

 思ったより広そうだな。


 戦ってる姿はまだ見えはしないものの、戦闘の音はハッキリと聞こえてくる。


「とまりましょうか」


 みんなは素直に指示に従ってくれる。

 別に衛兵が先に見てきてくれてもいいんだぞ?


 ……誰も俺より前に出ようとしない。

 指示に忠実なだけか?

 それともまさか俺のことを強いとか思ってたりするんじゃないだろうな?


「大丈夫だよ。私が守ってあげるから」


 お?

 シファーさんが横に来てくれた。

 なかなか根性あるじゃないか。

 それに俺が不安なことも弱いこともちゃんとわかってくれてる。


「行こう」


 あ、ちょっと待てって……まだ心の準備が……。


 っておい、俺の手を引っ張るな。

 俺のペースで行かせてくれよ……。


 そしてシファーさんに左手を握られ、引っ張られるようにして溶岩の間に突入することになった。


「「「「!?」」」」


 まず目に飛び込んできたのは前方左、ゲンさんと大きな魔物が戦ってる光景だ。

 あの魔物、ゲンさんより大きくないか?


 ゲンさんの傍ではアリアさんがいっしょに戦ってるようだ。

 だがミスリルの鎧は割れており、明らかにどこか怪我をしてる動きだ。


 ゲンさんたちより後ろの少し離れた場所で、地面に片膝を付いてしゃがみ込み、戦いを見てるダルマンさん。


 ダルマンさんの脇にはグラシアさん。

 回復魔法をかけているようだ。


 お?

 ゲンさんと魔物の姿で見えなかったが、奥にはヒューゴさん。

 俺たちが来たことにも気付いていることだろう。

 あ、ヒューゴさんの近くにメンデスさんもいるな。


 ……ほかの人はどこにいる?

 隠れて隙を窺ってるのか?


 え?

 なんだか壁や天井がキラキラしてないか?

 ……まさか鉱石?


 ん?

 すぐそこの左の壁、少し不自然だな。

 おそらく土魔法で作ったのだろう。

 魔道士たちはそこに隠れて魔法での攻撃の機会を窺ってるということか?


「あれがマグマスライム?」


 シファーさんが聞いてくる。


「そんなわけないでしょう。あれはおそらくマグマハリネズミじゃないですかね」


「え……大きすぎない?」


「魔物にも個体差がありますから。でもボスの間にいる魔物として相応しい大きさと威圧感ですよね。ハリルの親だったりして」


「キミさ、この状況でよくそんな冗談言えるね……。それに個体差ですませるのも無理があるって……。でもじゃあマグマスライムはあの奥にいるのかな?」


「どうでしょうか。案外マグマスライムと思ってたのが実はマグマハリネズミだったというオチじゃないですか?」


「……みんなはどこかな?」


「たぶんそこの左の壁の中だと。とりあえずまずこの入り口から後方を警戒する部隊、右側から攻撃する部隊に分かれましょう。シファーさんは俺とそこの壁に行きましょうか」


「わかった。…………え?」


 ん?


 シファーさんは後ろにいる衛兵たちを見て動きがとまったようだ。

 俺も後ろを見てみる。


「……みなさん? どうされました?」


「「「「……」」」」


 ……なるほど。


 あの魔物がこわくて動けないってところか。

 それにしても見事に固まってるな……。

 人間は恐怖を感じるとこうなるのか。


「これより先に進めそうにない方はここで後方の警戒をお願いします。それも立派な仕事です。動ける方は前に出てきてください」


 するとラシッドパーティとナミ三人衆、水道屋が五人、衛兵が三人前に出てきた。


 ……え?

 これだけ?


 水道屋と衛兵合わせて五十人もいるのに、たったこれだけか。

 やはり冒険者は違うな。


「みなさんは右側から遠距離攻撃での援護をお願いします。もし敵が狙いを変えて向かってきたら少しでいいので前衛のみなさんで耐えてください。敵がゲンさんに背中を見せるようならもうこっちの勝ちのようなものですから」


 前衛はドーハさん、ナスリンさん、ナミ三人衆、衛兵たちか。

 後衛はラシッドさん、アーミアさん、水道屋。


 ……ん?

 ラシダさんの妹もいるじゃないか。

 って今はラシッドさんの妹と言ったほうがいいか。

 兄妹で呼吸を合わせてしっかり攻撃してくれよ。


「俺とシファーさんは状況を聞いてきます。あの魔物以外にも敵がいるかもしれませんので絶対に油断しないでください」


 そして三手に分かれた。

 そのうちの一手は戦意喪失しかけの人たちだが。

 まぁ後方に魔法をぶっ放すくらいはできるだろう。


 というかシファーさんは全然動じてないよな。

 戦闘の素質あったりするんじゃないか?


 俺とシファーさんは怪しげな壁に近付いてみる。


 ……あれ?

 魔物に向かって正面に入り口か攻撃用の穴があると思ってたんだけど、ただの壁だな。

 元々ある普通の壁なんだろうか。


 右にいる魔物を警戒しつつ、壁際を歩く。


 でもやっぱりここの壁だけ出っ張ってるよな?


「あっ」


「え?」


 魔物から見えない奥側の死角に入り口があった。

 そしてティアリスさんとぶつかりそうになった。


「ロイス君!? シファーさんも!?」


「どういう状況ですか? ほかのみんなもここにいるんですか?」


 中に入ってみる。

 明るくはないがそこまで暗いってわけでもないな。


 ……横になってる人が多数か。

 ソロモンさんとデルフィさんはその人たちの手当てをしているようだ。


「メネア!?」


 倒れてる人の中にメネアを見つけたようで、シファーさんはすぐに駆け寄っていった。


 ……生きてるよな?


「誰も死んでませんか?」


「……」


「え?」


 ティアリスさんは答えない。

 ということは、そういうことだろう。


 デルフィさんはガボンさんを治療中のようだ。

 ソロモンさんが誰を治療してるのかはソロモンさんの体が邪魔して見えない。

 ほかに横になってるのは……バビバ婆さんとリヴァーナさん、それとメネアか。


 外にいたのはアリアさん、ダルマンさん、グラシアさん、ヒューゴさん、メンデスさん。


 じゃあ今ソロモンさんが診てるのは……ミオか。

 つまりこの五人の中の誰かが亡くなってるってことだよな。


「ボネとメタリンはどこにいますか?」


「……ボネちゃんはリヴァーナの隣に寝かせてる」


「魔力使いすぎで倒れました?」


「うん。この入り口にも壁にも封印魔法かかってるし、この避難場所を土魔法で作ってる間は最前線に立ってあの魔物を封印魔法で食いとめててもらってたから」


 でもその封印魔法も破壊されたってことだよな……。

 あの魔物、かなりヤバいのは間違いない。


「メタリンは外ですか?」


「……」


 え?


「……死んだんですか?」


「……たぶん」


「たぶん? たぶんってなんですか?」


「……確認が……できて……なくて…………うぅ」


「あ、いや、泣かないでください……。落ち着いて。なにがあったかを話してもらえますか? 簡単にでいいので」


 そしてここに来てからの出来事を話してもらった。


 女がいたこと。

 マグマが凍らされていたこと。

 マグマスライムと思われる魔物が氷漬けにされていたこと。

 不意打ちで攻撃されたこと。

 黒い玉から魔物がたくさん出てきたこと。

 霧の中での戦闘になったこと。

 ミオとメタリンが鳥たちを倒すも、ミオは氷漬けにされたこと。

 メタリンは意識不明のまま穴に落とされたこと。

 女が去っていった直後、地震と噴火が発生したこと。

 そしてミオとメタリンがその勢いよく噴き上がるマグマに巻き込まれたこと。

 それを見たリヴァーナさんがショックで倒れたこと。

 そのあとすぐにあの魔物がマグマの中から姿を現したこと。

 バビバ婆さんがその魔物を見ただけで気絶したこと。

 メネアやガボンさんがその魔物との戦闘で負傷したこと。

 そしてゲンさんが現れ、今に至ると。


 つまりミオとメタリンが……。


「ん? なら今ソロモンさんが診てるのは……」


 ソロモンさんの傍に行ってみる。




 ……ミオだよな?


「生きてるんですか?」


「……」


 ソロモンさんはなにも答えることなく、ミオの体を両手でゆっくりとさすっている。

 ……いや、手は触れていないようだ。


「なにしてるんですか?」


 ティアリスさんに聞くことにした。


「火魔法で温めてもらってるの。少しだけなら手からも魔法出せるみたい」


「あ、なるほど。温風みたいなものですね。で、生きてるんですよね?」


「うん。心臓は動いてる」


「良かった。どうやって助かったんですか?」


「地震の揺れで立っていられなくてみんな地面にしゃがみ込んだの。そのあとすぐに噴火があったんだけど、しばらくして気付いたら、私たちの後ろにミオちゃんがいる大きな氷の塊があった。でもなぜそこにあったのか誰もわからないの。噴火の衝撃で飛んできたのかもしれないけど、それを目にした人はいないし。もしかしたらあの女の人がなにかしたのかも」


「地震の前、ボネはなにしてました?」


「リヴァーナとアリアさんがミオちゃんを助けるために崖の下に飛び降りようとしたから、ボネちゃんが咄嗟に封印魔法の壁を張ってとめてくれたの。たぶん噴火が起きることに気付いてたんだと思う」


「ボネはそれまでに魔法使ってました?」


「一度も使ってないと思う。あの女の人に見つからないようにそれまでずっと私のフードの中に隠れてたから」


「なるほど。じゃあボネですね」


「え? なにが?」


「ミオを助けたのがです」


「え? どうやって? 封印魔法で氷を囲ってたってこと? 結構距離あったよ? 噴火で封印魔法が破壊された衝撃で飛んできたってこと?」


「いえ、違います。ボネは念力が使えますから」


「「「念力?」」」


 ん?

 ソロモンさんもそれには反応するんだな。

 それとシファーさんの声もしたぞ。

 デルフィさんは無言だがこっちを見てる。

 あ、ガボンさんも横になってるだけで起きてはいるのか。


「サイコキネシスとも言うそうです」


「「サイコキネシス!?」」


 どうやらティアリスさん、ソロモンさん、デルフィさんの三人は聞いたことがあるようだな。

 シファーさんやガボンさんにはそこまでの知識はないようだ。


「おそらくリヴァーナさんたちをとめたあとに、氷の塊を運ぶために念力を使ったんでしょう。すぐに地震があったということですから、みなさんは見えてなかったんだと思います。もしくはみなさんに念力のことがバレないようにするために端のほうから移動させたのかもしれませんけど」


「「「……」」」


 あ、それなら言わないほうが良かったかも。

 ボネの苦労が水の泡だな。


「でも今までは人間ほどの大きさの物なんて重すぎるせいか動かせたことなかったはずなんです。よほど必死だったんでしょう。その時点で魔力もかなり消費してたかと」


「あ、そういえば噴火のあとすぐにエーテル飲んでた……。ボネちゃん……ありがとう」


 魔物が迫ってきてからも封印魔法でみんなを守ってたらしいしな。

 こわがらずによく頑張ったじゃないか。

 帰ったら思う存分甘えさせてやろう。


 今はとりあえず特製ポーションを飲ませておくか。



 ボネはリヴァーナさんの腕の横に寝ていた。

 ボネをそっと抱え上げ、少し移動する。


 ……ん?


「ボネ?」


 なにか様子がおかしい。


「ボネ? ボネ?」


 体を揺すってむりやり起こそうとしてみる。


 だが反応はない。

 魔力切れで倒れたあとはこれくらいじゃ起きないのが普通なのかもしれない。


 だが今はなにか違う。


「ねぇ、そっとしてあげたほうがいいんじゃない?」


「いえ……これはただの魔力切れといった症状だけじゃないかもしれません」


「え? どういうこと? 心臓は動いてるし、息もしてるでしょ?」


「どこか表情が苦しそうに見えます。それにいつもの寝ているときよりも息が荒いです。俺にしかわからないかもしれませんが」


 とりあえず特製ポーションを少量飲ませてみることにした。


 ……喉に入ってはいるようだ。

 そんなすぐに効果は出ないだろうが。


 スピカポーション、いや、ドラシーポーションも少し飲ませてみるか。

 ……これもすぐに効果は期待できないかもしれない。


 体内中の魔力が完全に枯渇して死ぬときはもっとあっさり死ぬとも聞いた。

 だからこれはおそらくウェルダンのときと同じ症状だ。


「ティアリスさん、この中を浄化してもらっていいですか?」


「え? わかった」


 ティアリスさんはそれ以上なにも聞かずに浄化魔法を使ってくれた。


 ウェルダンが倒れたときのことを思い出せ。

 確かユウシャ村近くの魔工ダンジョンから村に帰ってきてすぐ倒れたって言ってたっけ。

 魔瘴が濃かったし、戦闘で無理したうえに馬車まで引いてたからってことだったよな。

 シルバも体調に異変を感じてたし。


 でもあのときは俺がユウシャ村に着いたらウェルダンは急に回復し始めたって言ってた。

 シルバも大樹のダンジョン近くまで帰ってきたらだいぶマシになったって言ってた。


 となると俺が近くにいても苦しそうなボネは別の症状か?

 魔瘴にやられたのと、魔力切れの二つの症状が合わさってるからか?

 まだ子猫だから想像以上に魔瘴の刺激が強かったのだろうか。


 ……もしかして悪い魔物になろうとしてるとかじゃないよな?


「ボネの解毒と回復もお願いします」


「うん」


 一応やれることはなんでもやっておこう。

 でも特製ポーションやドラシーポーションでも治らないとなると、正直ここではもうこれ以上打つ手がなにもない。


 ……みんなは心配した目で俺を見てきてる。


 メタリンとボネの魔物コンビだけが死んだとなったら後味悪いよな。

 特にミオが知ったらめちゃくちゃ気にしそうだ。

 ボネが助けたことは内緒にしておこう。

 人間は誰も死んでないんだからボネもメタリンもきっと喜んでくれる……わけないよな。


 死んだらもう声を聞くことはできない。

 ビスだって人間を守るために死んだとはいえ、無念だったはずだ。

 今のボネはあのときのビスよりもだいぶ幼い。

 ここで死なせたらビスに怒られそうだ。


 それにメタリンだってまだ死んだとは限らない。

 ミオが生きてたのなら、メタリンだってそのときはまだ生きてた可能性がある。

 たかがマグマ程度でメタリンは死んだりしないし。


 ……ふぅ~。


 さっさとウチに帰るか。


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