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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第四章 武器と防具と錬金術
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第六十四話 鍛冶師勧誘

 ゲルマンさんはアイリスさんをダンジョンに連れてけと言った。


「……アイリスさんにウチお抱えの鍛冶師になってもらうということですか?」


「あぁそういうことだ」


 確かにダンジョンに鍛冶師がいればかなり助かる。

 町とは違ってダンジョン専属なら冒険者たちの待ち時間も大幅に減らせるだろうし、初心者でも気兼ねなく利用することができるだろう。

 初心者にとって職人ばかりがいる鍛冶屋ってのは入りにくいしな。

 それにまだまだ武器の状態を把握できてなくて状態の悪いまま使い続けてたりするからな。

 そういう意味でもダンジョン専属の鍛冶師に相談できる環境があるのは大きい。


 一日に百四十人程度来場客があるとして、その中で修理が必要になるのはどのくらいだろうか。

 全員なんてことはあり得ないと思うが、状態確認してほしい人が半分いたとして、一人当たり三分、七十人で二百十分。

 さらに修理が必要なら二十分追加ってところかな?


 ……無理じゃね?

 どのくらい時間がかかるかなんて推測にすぎないけど、受付もしなきゃいけないんだし、一人だけでは無理なのでは?

 でもそんなに頻繁に利用するなんてこともないか。


 って俺が考えていても仕方ない。

 そもそも鍛冶師を雇うことが決定したわけでもない。


「ウチとしては大変ありがたいお話なんですが、アイリスさんはどうなんでしょうか?」


「あいつは行くって言うと思うぞ?」


「そうなんですか? でもお弟子さんはたくさんいらっしゃるのになぜアイリスさんを? お孫さんですし心配にならないですか?」


「さっきも言ったがアイリスは他のどの弟子よりも筋がいい。この環境で育ってきたんだから当たり前かもしれないがな。だがあいつにはもっと上を目指してほしくてな。現場でしかわからないこともたくさんあるだろうし」


「なるほど。だけど今ウチには一日約百四十人の冒険者が訪れてるんですがお一人だけで大丈夫なもんですかね?」


「なっ!? 百四十人だと? ……まぁアイリスならなんとかなると思う」


 ……最後目を逸らしましたよね?

 やっぱり無理なんじゃないの?

 それに修理ばかりだとアイリスさんも嫌になるんじゃ?

 鍛冶師なら新しい武器を打ちたいだろうしな。

 鉱石が採れるんだったら環境としては悪くないんだろうけど。


 それとは別にもう一つ不安要素がある。


「もちろん全ての人が鍛冶屋を利用するわけではないとは思いますが、中にはアイリスさん目当てで利用する人も出てくるかと……」


「そんな輩がいたら出禁にしてしまえ! アイリスには指一本触れさせるなよ!? 受付はロイスがやれ!」


 そんな無茶なことを……。

 お客と話さないことには鍛冶屋として成り立たないでしょうが。

 おじさんはなにも言わずに聞いてるのに、なんでゲルマンさんのほうがこんなに怒ってるんだ?

 それに俺に武器のことがわかるわけなんてないし。


 でも誰かアシスタントをつけないといけないことには変わりないな。

 そう思って隣のカトレアを見る。

 だが俺の視線に気付いてるはずなのに一向にこちらを見ようとはしない……。


 ララとユウナには食堂の手伝いもしてもらわないといけないし。

 一番手が空いてるのは文句なしで俺なんだがのんびりしたいし。

 やっぱりウチ、人手が足りてないよね?

 食堂と鍛冶屋でそれぞれ一人ずつ従業員募集してみるか。

 それともあいつらを試してみるか。


「受付は少し考えますが、それよりアイリスさんに確認してもらえませんかね? というかおじさんはそれでいいんですか?」


「うん、私は全然構わないよ。遠い町に行くならまだしもすぐ近くだからね。それに色んな経験をすることはいいことだからね。あの子がいいって言うのならなにも言わないよ」


「まずはアイリスに聞かんことにはな。アイリス! ちょっと来い!」


 アイリスさんは作業の手をとめ、こちらへ来る。


「座れ。少し話がある」


「ん。なに? あ、ちょっと待って」


 アイリスさんは席に座ると、テーブルの上にあったコップにお茶を注いで飲みはじめた。

 鍜治場は暑いだろうから喉も乾くのであろう。

 それにしてはあまり汗を掻いてるような感じはしない。

 他の職人さんたちは離れていてもわかるほど汗が凄いのに。

 アイリスさんが一息つくのを待ってからゲルマンさんは話しはじめた。


「アイリス、お前ロイスのところに行かないか?」


「ん? ロイスのところ? ……お嫁にってこと?」


「「「「!?」」」」


 俺もカトレアもゲルマンさんもおじさんも予想してなかった言葉が出たことに驚く。

 ……あの言い回しだと確かにそう聞こえなくもないな。


「違う違う! ロイス君のところのダンジョンに専属の鍛冶師として働きに行ってみないかってこと! そうだよね父さん!?」


「あぁそうだ! 少し言葉が足りなかったな!」


 おじさんとゲルマンさんが慌てて説明し直す。

 そこまで否定するように言わなくてもいいのに。

 ……なぜだか今度はカトレアが俺のほうをじっと見ている気がするから決して横は振り向かない。


「ん、そっか。住み込みってこと?」


「「「「!?」」」」


 これまた住み込みなんて発想はなかった!

 だってここから徒歩一時間、メタリン馬車で十分だよ?

 他の従業員たちはみんな毎日町から通ってるしね。

 ゲルマンさんやおじさんもそれをわかってるからここから通うことを想定していたのであろう。


「ウチの馬車を使えばここからダンジョンまで十分もあれば着きます」


「ん、そうなの? 早いね」


「ここから通えるぞ。どうだ? 行ってみるか?」


「ん、行く」


 えっ!?

 あっさり決めすぎじゃない?

 条件面の話とかなにもしてないんですけど?

 修理ばかりになる可能性もあるんですけど?

 野蛮な冒険者の男に言い寄られるようなこともあるかもしれないんですけど?


「ロイス、今日はもう帰るの?」


「……え? あ、はい、そのつもりですけど」


「ん、なら私もついてくね。帰りはまた送ってもらえる?」


「え……はい、それはもちろんです。従業員たちの送迎もありますから」


「ん、すぐ用意するから待ってて」


 そう言うとアイリスさんは鍜治場に戻っていった。

 ……展開早すぎない?

 本当に今から来るの?

 いくらなんでも行動力ありすぎ。


「いつもこんな感じなんですか?」


「まぁそうだな。普段あまり表情に出さないからわかりづらいが」


「小さいころからずっとこの生活だから鍜治場にいることが当たり前になっててね。町からすら出たことないからね。きっと新鮮なんだと思うよ。凄く楽しそうな顔してる」


 そういえば笑った顔を見たことないかも。

 あまり長く話す機会や世間話をする機会がなかったこともあるが、いつも淡々とした表情で話している印象だ。

 それがさっきはうっすら微笑んでいるようにも見えた。


 アイリスさんを待つ間にお金の話をしておくか。


「アイリスさんの立ち位置はどうしましょうか? 鍛冶屋からの出張としますか? もちろん売り上げは全額そちらへいっても構いません」


「できればロイス君のところの従業員として雇ってもらってもいいかな?」


「ウチは構いませんがそれでいいんですか? でもその場合売り上げを全額そちらへというわけにはいきませんが」


「あぁ違うんだよ。売り上げは1Gもいらないんだ」

「?」


 それだったらウチが鍛冶師を雇えることになるだけで鍛冶屋にとってのメリットなどなに一つないのでは?

 ……でもウチの従業員たちと同じか?

 みんなは食堂の従業員として働きながら、夜にはそれぞれの店の品の買取まで行っている。

 アイリスさんの場合は……やはり少し違うか。


 修理するだけで手元にはなにも残らない。

 ウチの鉱石を使って新しい武器を作ることもできるが、修理を最優先してほしいからそれも可能かどうかわからない。

 修理不可能な武器の買取も考えられるが、そこまで頻繁に行われることもないだろう。

 となると、鍛冶屋側はアイリスさんの給料を支払わなくてもいいが、その代わり修理代金を得ることができなくなってしまう。

 それとも初級冒険者相手の修理だと数が多いだけでそんなに儲からないのか?

 いや、利益が出ないんならそもそも修理なんてしないか。

 やはりデメリットしかないんじゃないのか?


「……でもそれでは単純に店の売り上げが減ることにしかならないのでは?」


「その通りだよ。でも今は作業が多すぎるくらいだからそれはいいんだ」


「ではどうして? でもまぁそのほうがウチとしてもわかりやすくていいですけど。失礼ですがこちらでのアイリスさんの給料はどれくらいなのでしょうか?」


「それがなぁ……」


「う~ん、あの子小遣い程度しか受け取らないんだよね。新入りよりも少ないんだよ……」


 ……カトレアタイプか。

 実家の稼業ということも大きいのかもしれないが。

 ウチで働くからにはそういうわけにはいかない。

 でもアイリスさんは頑固そうだな。


「それなら俺に任せてもらってもいいですか? アイリスさんにも気兼ねなく受け取ってもらえるようにしますから」


「お言葉に甘えて任せてもいいかい? もっと多く受け取れって強く言うのもなんだか違う気がしてね」


「えぇ大丈夫です。ウチではダンジョン専属のプロの鍛冶師として働いてもらいますから。それに見合った報酬を納得して受け取ってもらいますよ」


 もちろん全部ララの仕事だけどね。


 今までタダで剣を修理してもらってた恩もあるから、なにかしらで返していきたいと思っている。

 なによりゲルマンさんは爺ちゃんの親友だった人だ。


「ん、お待たせ」


「早かったですね。荷物は……けっこうありますね」


「ん。一式持っていこうかと思って。鍜治場はある?」


「まだないんです。でもすぐに作れると思いますから設計を手伝ってもらえますか?」


「ん、わかった」


 鍛冶場を作るとなると結構な作業になるよな。

 修理メインだから砥石とハンマーがあれば大丈夫程度にしか考えてなかったが、焼き入れが必要となると炉を用意したりしないといけないもんな。

 火や水のことも考えて設計しないといけないのか。


 ……あそこに作るか。



「キュキュ! (きれいな人なのです!)」


「ん、可愛いね」


「キュ! (わっ!)」


 荷物を積み込んだアイリスさんはメタリンを見つけるとすぐに寄っていって、なんと抱き抱えた。

 一応魔物なんだけどこわくないのかな?


「今日からよろしくね」


「キュキュ! (こちらこそよろしくお願いしますです!)」


「ん。じゃあ行ってくるね」


「おう。ララにもよろしくな」


 馬車はダンジョンへ向けて高速で走り出した。


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